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四度目は嫌な死属性魔術師  作者: デンスケ
第十四章 冒険者学校編
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三百二十八話 腰巾着の友情と、優等生との契約

「でなければ、俺はお前達を始末するために先生と戦う事になります」

「でなければ、俺はお前達を守るために生徒と戦う羽目になる」


 ゾーナを抱き上げたヴァンダルーと、背後のダンドリップに挟まれたアレックスは、自分がドラゴンの尾を踏んだ事に気が付いた。

 何故なら、ヴァンダルーとダンドリップの二人共が自分達を戦力に数えていないからだ。


 殺気は感じないのに見ているだけで寒気がするヴァンダルーと、強烈な殺気を放っているダンドリップに挟まれ、アレックスもトワも一歩も……眼球すら動かす事ができなくなっていた。

 下手に動けば、冗談でも何でもなく本当に殺される。それは分かる。だが、やはりアレックスにはヴァンダルーは勿論、背後のダンドリップ(ランドルフ)の実力も見当がつかなかった。


 試しても、ステータスを見ることはできないだろう。そう察しながらも、同じ実践調理の実習を受ける事になった偶然を活かし、作戦を練ってまでヴァンダルーに【大鑑定の魔眼】を使用したのは、明らかにアレックスのミスだった。


 何故そんな事をしたのかと言えば、アレックスは生まれ持った【大鑑定の魔眼】というユニークスキルに依存していたからだ。もっとも、それを恥じるべきか否かは意見が分かれるかもしれない。


 二足歩行するために、生まれ持った二本の脚に頼り切る事を情けなく感じる者はいないだろう。

 【大鑑定の魔眼】も、アレックスにとっては脚同様に自分の体に備わったものだ。それに、今まで彼が【大鑑定の魔眼】でステータスを見ている事を見抜いた者はいなかった。


 相手が自分より明らかに強い場合でも、人間よりも鋭い五感を持つ魔物だったとしても、そして結果的にステータスがモザイクだらけで読み取れない程圧倒的な差があったとしても、ステータスが見られていると見破られたことはなかった。


 【大鑑定の魔眼】を発動するには、相手を集中して見なければならないので、相手に気づかれないように工夫していたが。それも睨みつけていると誤解される事で、トラブルを避けるためだ。

 それに、アレックス自身も十代前半という若さ……幼さで、既にC級冒険者に匹敵する実力を身につけている。冒険者ギルドの冒険者の過半数、D級以下の冒険者に対して互角以上の力を持っているのだ。


 故に【大鑑定の魔眼】を他者に使う事に対して、危機感を覚えないようになっていた。


 それが災いしたのだと気が付く余裕は、今のアレックスには無い。彼とトワは、グファドガーンが既に魔術を解いており、身体的な拘束が解かれている事にも気が付いていないのだ。

 二人が動けないのも、まだ立っていられるのも極度の緊張状態だからに他ならない。


 その二人の背後に立っているランドルフは、苦々しい思いをしていた。

(まさか、この歳になってガキに命を握られるとはな。頼むから、馬鹿な事はしてくれるなよ)

 ガキ……アレックスとトワに、視線を向けずに彼は祈った。


 言うまでもないが、彼にとってヴァンダルーはガキではない。……ほんの少し前まではそうだが、今は違う。『真なる』ランドルフに死を覚悟させる程の、何かである。


(……殺気を感じない。だが、仕掛ければ確実に死ぬ。まるで高い山の崖から地面を見下ろしているような、そんな気分だ)

 山も崖も地面も、ただの物質だ。殺意なんて持ちようがない。だが、見ているだけで死神の大鎌で首筋を撫でられているような感覚を覚える。


(しかも、相手はヴァンダルーだけじゃない)

 優れた精霊魔術師であるランドルフは、精霊の声を聴くことができる。それは意思疎通ができるというより、ベテランの猟師が山や森の様子から気候の変動や災害の兆候を察知するのに近い。


 その精霊達がいつになく騒いでいるのに気がついたランドルフは、非常事態だと直感的に悟って騒ぎの元凶の元へ駆けつけようとした。だが、その途中で高度な空間魔術によるものと思われる結界に阻まれた。隠していた実力を発揮して、その結界は強引に破ってきたが……ヴァンダルーは空間属性魔術が使えないはずである事を、ランドルフは知っていた。


(ヴァンダルーが空間属性魔術を使えるのを隠していたと考えるより、腕利きの空間属性魔術師がどこかに隠れていると考えるべきだな。数秒であれほど強力な結界を張る事ができる化け物並みの術者が、すぐ近くに。

 勝ち目は無いな。それどころか、俺が時間を稼いでアレックス達をその間に逃がすのも不可能だ。空間属性魔術師に止められる。強いて言えば、奴が抱きかかえているゾーナが弱点なんだろうが――)


 生徒であるゾーナを狙えば、ランドルフが戦う意味そのものが無くなる。

 ランドルフがここにいるのは、メオリリスに学校の講師として雇われているからアレックスとトワを守る義務があるからだ。なのに、同じ生徒のゾーナを狙ってヴァンダルーの隙を突こうなんて、本末転倒だ。


 しかも、やったところで勝ち目が増えるとは思えない。ただの悪足掻きだ。とてもやる気にはならなかった。


 一方ヴァンダルーは、ランドルフと対峙した事で冷静さを取り戻しつつあった。ランドルフの殺気を正面から受け止めながら、アレックス達を殺さずに、穏便に済む方法は無いかと考えている。


(幼い頃はあれば便利だと思っていた、【鑑定の魔眼】の上位スキルらしい【大鑑定の魔眼】を持っているとは驚きでしたが……ステータスを見られたのは不味かった)

 アレックスが何か魔眼系のユニークスキルを、それも攻撃的なものではなく対象の才能や素質といったものを可視化するスキルを持っているのではないかとは、前々から考えていた。


 それだけなら、パウヴィナを魔眼で見た事も含めてアレックスを殺さなくてはならないかもしれないとは、ヴァンダルーも考えなかった。

 競争相手の情報を得ようとするのは当然だ。有効なスキルを持っているのなら、使うだろう。


 それが国同士の諜報活動によるものなら、殺し合いを含んだ暗闘に繋がる。しかし、ヴァンダルーとアレックスが争っているのは、学校の成績である。

 それで殺し合うつもりは、ヴァンダルー達にはなかった。


 しかし、ステータスを全て見られたかもしれないとなれば話は別だ。『大魔王』等の二つ名やジョブ、物騒な名称のスキルの存在を知られ、その情報を何らかの組織に流されたら大スキャンダルに発展しかねない。

 そうなると、ヴァンダルー達だけではなくアルクレム公爵に迷惑がかかる。それは避けなければならない。


 しかし、今の学園生活も楽しいので、できれば今の環境を失うのは避けたい。そのうえ、先生ダンドリップまで駆けつけてきてしまった。ただ者ではないと思っていたが、グファドガーンの結界を一瞬で突破してくるとは想定以上だ。何故S級冒険者になっていないのか不思議なくらいだ。


 全力で戦えば、勝てない相手ではなさそうに思える。グファドガーンや、【体内世界】にいるレギオンの力を借りれば、確実に勝てるだろう。

 しかし、その過程で発生する攻撃の余波や轟音によって、他の生徒が巻き込まれる可能性が高い。


(ああ言ったものの、こいつらのせいでダンドリップ先生と戦うのは割に合わない)

 そう考えているヴァンダルーの腕の中にいるゾーナはひたすら混乱していた。ヴァンダルーを誘惑していたら、突然お姫様抱っこされたと思ったら、恐ろしい速さで走り出し、気がついたら今の状況である。


(い、息が……っ! 死んじゃうぅ!)

 状況を理解するどころか、ランドルフの殺気を浴びて息をすることもできない。ゾーナの視界はぼやけ、次第に気が遠くなっていく。


(あれぇ? お花畑に川が見える? うわぁっ、大勢のヴァンダルーが川から上がってきて通せんぼし始めた!?)


「……これはまずい」

 ゾーナが臨死体験をしている事に気がついたヴァンダルーは、彼女が発している濃厚な死の気配を霧散させた。


「先生、殺気を抑えてください。彼女が苦しそうなので」

「それは分かるが、この状況でか?」

 明らかにゾーナよりも苦しそうなアレックスとトワをガン無視して言うヴァンダルーに、ランドルフは思わず言い返した。


「殺気を抑えてくれれば、二人の命だけは保証します」

「……いいだろう」

 ランドルフも言葉通り、構えを解いて殺気を抑えた。


「ひゅぅっ」

「かはっ!」

「……あれぇ? 他のヴァンダルーは?」


 緊張から解放されたトワが息を吐きながら倒れ込み、アレックスは何とか持ち堪えた。ゾーナは臨死体験からは戻ってきたが、これから状況を把握するところである。


「アレックス、トワ。ゾーナはともかく、お前達は気を抜くな。お前達は、まだ命しか保証されてない」

 そしてランドルフは殺気を抑えただけで、状況を楽観視はしていなかった。実際、ヴァンダルーは最悪の場合はアレックスとトワに【精神侵食】で洗脳を施して……廃人にして口を封じるつもりでいる。


 アレックス達はそこまでは想像できなかったが、ランドルフの言葉に込められた緊張を感じ取って、気を引き締める。

「では、質問です。伏兵……お前達にパーティーメンバー以外の仲間はいますか?」

 それを待っていたかのように、ヴァンダルーは質問を始めた。


「伏兵? いや、パーティーの仲間だけだ」

「次に、お前はどこかの組織……冒険者ギルド以外の諜報機関や犯罪組織に属しているか、協力関係にありますか?」

「……? いや、冒険者ギルド以外の組織に関わったことはない」

「では、貴族やその家臣、神殿関係者に雇われていますか?」

「いや、雇われていない。俺も、俺の仲間も」


 段々何を疑われているのか察し始めたアレックスとは別に、ヴァンダルーは若干困惑していた。組織にも属さず、依頼されていた訳でもない。なのに、何故自分のステータスを見るような危険な真似をしたのか。それがヴァンダルーには分からなかった。彼は、アレックスが【大鑑定の魔眼】に依存している事を知らないのだ。


 先ほど見たアレックスのステータスには、神の加護や【御使い降臨】スキルは無かった。そうである以上、アルダを支持する神の英雄候補ではないと考えたが、念のために尋ねた。

「神託を受けた事はありますか?」

「しんたくって、神託の事か!? いや、そんな覚えはない」


 加護を持っていなくても神託を受ける事はできる。そう思いついて尋ねたが、やはり違ったようだ。


「では、何故俺のステータスを見ようとしたのですか?」

 その質問にアレックスは「やっぱり、気がついたのか」と納得し、ランドルフはアレックスに、ゾーナはヴァンダルーに思わず視線を向ける。


「ステータスを、見るだと?」

 では、自分の正体も既に知っているのか?と思うと同時にヴァンダルーが性急で物騒極まりない行動をとったのも納得だと、ランドルフは思った。


 圧倒的な力の持ち主の秘密を知ってしまった者が命を狙われるなんて話は、よくある。今回はそれが、過去の犯罪歴や秘密の愛人や隠し子の存在ではなく、ヴァンダルーのステータスだったという事だろう。

 ヴァンダルーのステータスにどんな秘密が隠されているのかまでは知らないが……いや、今のヴァンダルーの反応から考えると、知りたくもない。アレックスが妙な事を口走りそうになったら、顎の骨を蹴り砕いてでも止めよう。


「ステータスを見るって、本当なの?」

「ええ、彼は【大鑑定の魔眼】というユニークスキルを持っています。【鑑定の魔眼】の上位スキルでしょう。

 彼が学校で才能のある仲間を見い出すことができたのも、その魔眼によるものでしょう」

「マジっ!?」


 一方、そのアレックスの秘密はヴァンダルーの口からペラペラと明かされていた。ランドルフも、そういう事かと頷いている。

 トワは、主人の重要な秘密を話すヴァンダルーを思わず睨みつけるが、ヴァンダルーは視線も向けない。

「な、なによっ」

 ただ、ゾーナがビビったので口を開いた。


「俺は手に入れた情報を仲間と共有しているだけです。競争相手にステータスを見る事ができる奴がいたら、仲間に注意喚起をするために教えるのは当然でしょう? それと……自分の立場が分かっていますか?」

「そーよ、そーよっ!」


 ジワリと、滲み出るようにヴァンダルーから再び死の気配としか言いようのないものが発せられる。腕の中のゾーナだけは感じないよう気配の出し方を調整するなど、器用なことまでやって。

 途端にトワは青ざめて耳を力無く垂らし、トワの態度に気がついたアレックスも、彼女を止める前に動けなくなってしまう。


「悪いが、大目に見てやってくれ。こいつらにはお前の放つ気配の怖さが、まだピンときていない。俺の殺気の方が印象に残っているんだろう」

「なるほど。では……」

 周囲を見回したヴァンダルーは、適当な岩に目を付けた。荒野から突き出たような岩は、二頭立てから三頭立ての馬車程度の大きさがあり、距離は三十メートルほど離れている。


「【魔力弾】」

 その岩に向き直ったヴァンダルーは、人差し指を岩に向けて【魔力弾】を放った。

「「「「っ!?」」」」

 その瞬間発生した、巨大な黒い球体にアレックスとトワはもちろん、ランドルフも度肝を抜かれた。


 直径一メートルの巨大魔力弾は、そのまま岩に向かって飛んでいき……岩を削り取って大穴を空けた。

 魔術媒体もなく、呪文の詠唱もしなかった、初歩的な魔術の威力ではない。同じ事をするのに、自分だったらどれ程の魔力が必要か、反射的に計算するアレックスに向かってヴァンダルーは告げた。


「次、質問に答える以外の事をしたら、あれと同じ魔術を撃ちます。嘘をついても、答えるのを拒否しても、誤魔化そうとしても、撃ちます。

 理解しましたか?」


「「「はいっ」」」

 実力差を分かりやすく示されたアレックスとトワ、そして何故かゾーナまで揃って返事をする。

「では、何故、俺のステータスを見ようとしたのですか? その目的は?」


「それは……確かめずにはいられなかったからだ。もうパウヴィナさんや君の従魔のステータスは見た……見ようとした。だが、今の俺の実力じゃあ何も見えなかった。

 君のステータスも同じだろうと思ったが、それでも君がエリザベスのパーティーに入っている以上、試さずにはいられなかったんだ」


 アレックスは子供の頃から【大鑑定の魔眼】を使いこなしていた。そのため、ステータスを見る以外で他者の実力を読み取る能力が、いわゆる眼力が全く育っていなかった。

 そして、ステータスを見られるため対象の強さを数字というはっきりした基準で測る事に慣れきってしまった。


 だから、ヴァンダルーの実力を知りたければ【大鑑定の魔眼】を使う以外に無く、また「教官に教えられるぐらいだから教官よりもずっと強いはずだ」という、曖昧な推測では耐えられなかったのである。


「……何も見えなかった? 【大鑑定の魔眼】なのにですか?」

 しかし、ヴァンダルーが注目したのはアレックスの心情ではなく、彼が言った「何も見えなかった」という言葉である。


「ああ、【大鑑定の魔眼】は俺とあまりにも実力に差がある相手のステータスは見る事ができないんだ」

「では、俺のステータスは?」

「モザイクだらけで、何も読み取れなかった。スキルの数や魔力の桁がとんでもないことは、分かったけど」


「……なるほど」

 ヴァンダルーはアレックスに対する警戒をほぼ解いた。どうやら、彼はただの学生で【大鑑定の魔眼】も学校内で成績上位者になるための競争以外でほぼ使っていないようだ。


 そして何より、ヴァンダルー達のステータスは、アレックスとの実力差が開きすぎているため【大鑑定の魔眼】でも見る事ができないという。

 どうやら、アレックス達を殺すことは勿論、脳改造する理由も無くなったようだ。


『嘘はついていないかと』

 ちなみに、アレックスの言葉に嘘が無いかどうか判別しているのは、両目とも節穴のヴァンダルーや、人間の機微に疎いグファドガーンではない。『闘犬』のダロークである。


 生前は戦闘要員であり、チプラスやアイラのような潜入工作の経験は浅く腹芸は苦手とする彼だが、全くできないわけではない。その経験から、人間が嘘をつく時の癖を覚えており、それを活かしてアレックスの言葉の真偽を判別していたのである。


 ……本来ならこの役目に相応しいのはチプラス、そして次にキンバリーなのだが、二人はそれぞれエリザベスやマクト達の護衛をするためヴァンダルーから離れていた。

 ならそもそもダロークを護衛に派遣し、チプラスかキンバリーのどちらかを残せばよかったのではないかというと、それは違う。


 ダロークは、ヴァンダルーの関係者やヴィダル魔帝国の民以外の人間を下等生物と見ているため、単独行動をさせるのが不安だったのだ。

『それでヴァンダルー様、この小僧と小娘はどうしますか? 魔眼を採取した後に抵抗できないよう処置を施し、生きたままルチリアーノに渡してアンデッドとの交配実験に使うのが良いのではないかと愚考いたしますが』


『ダローク、それだとダンドリップ先生と殺し合う事になるじゃないですか』


『【転移門】で奴を【体内世界】の一つに追い込み、そこで始末すれば、誰にも気がつかれないかと……そうか、このダンドリップのような有力な教職員を篭絡し、やがては英雄予備校全体を牛耳る計画なのですね!』

『……何故学校を牛耳る必要が?』


 忠実で面白いゴーストなのだが、目を離せないのが玉に瑕である。

 ダロークとそんな念話をしながら、ヴァンダルーは今回の一件を穏便に終わらせることにした。


「あなたが俺のステータスを読み取る事ができなかったのは、理解しました。しかし、今後実力をつけたら俺達のステータスも見られるようになるでしょう。

 それを防ぐためには両目を抉る……いえ、他の仲間も含めて全員殺すのが最も簡単ですが……」


 そう言うと、アレックスとトワの顔から音を立てて血の気が引いた。ランドルフも苦虫を噛みつぶしたような顔をして、いざとなれば間に入ろうと身構える。


「ですが、それをするとダンドリップ先生と殺し合わなきゃなりませんし、結果的に俺の学校生活が終わってしまう可能性が高いので、契約を交わしましょう」

「契約?」


「ええ。まず、【大鑑定の魔眼】を今まで通り、自分の意志と責任において自由に使って構いません。

 ですが、その結果得た情報をお前の仲間……パーティーメンバー以外に伝える事を禁止します。親、兄弟、恋人、依頼人、関係のある貴族や商人等、全てに」


「っ!? それは……」

 驚いたように目を見開くアレックス。ヴァンダルーはふと思い出して、付け加えた。


「今までのように、【大鑑定の魔眼】で見たと言わないで、才能を眠らせている人を勧誘するのは構いません。

 それと、何らかの事情でパーティーから別れる人が出た場合は、別れた後もこの契約を守ってもらう事になります」


「いや、そうじゃなくて……」

「ねぇ、そんな事で良いの? それだと、こいつらは今まで通りなんじゃない?」

 戸惑うアレックスの声を遮って、ゾーナがヴァンダルーにそう尋ねた。彼女の言う通り、アレックス達は今までも【大鑑定の魔眼】で見た情報を仲間以外には漏らさないように徹底していた。


 ステータスの情報なんて、普通は出回らない。己の実力を喧伝するために故意にステータスの一部を明かす者もいるが、それぐらいだ。例外として、ギルドの職員が情報を流した場合だが、そんな事は滅多に……起きたら歴史に残る大事件として記憶されるほど、起きない。


 そんな希少な情報の情報源だとばれたら、アレックス達の内誰かが【大鑑定の魔眼】の持ち主だと悟られてしまう。力のある貴族や犯罪組織が動き出し、アレックスを囲い込むか、その魔眼を抉り取って奪うか、そのどちらも不可能なら他の組織に渡る前に始末しようとするだろう。


 今のアレックス達に、そうした権力者達の魔の手から身を守れる程の力はない。


「そうですね。でもまあ、競争相手の情報収集を行うのは普通の事でしょうし、あまり不利な条件を突きつけると、ダンドリップ先生と揉める事になりますし」

 ヴァンダルーもそれは分かっているが、その上での提案だった。彼としては、アレックスがアルダ勢力の神々やどこかの組織の手の者でない時点で、殺す必要はないと考えていた。


 しかも、アレックスはヴァンダルー達のステータスを読み取る事が出来ないから、何の弱みも握れていない。だが、逆にヴァンダルーはアレックスの弱みを掴んでいる。


「ただ、もし情報を漏らしたら、お前が【大鑑定の魔眼】を持っている事を明らかにします」

 その一言で、血の気が戻りかけていたアレックスの顔色が再び悪くなった。


「ついでに、『アレックスはヴァンダルー・ザッカートとその仲間や従魔のステータスを見ており、重大な秘密を知っている』という偽情報も流します」

 更にヴァンダルーがそう続けた事で、アレックスの顔は土気色になった。


「……まあ、良心的な落としどころだろう。眼も無事で、命も助かり、冒険者として活動する分には何の不自由もない」

 そして、ランドルフがそう言いながら自分達の後ろからヴァンダルーの横に移動したのを見て、これ以上はどうしようもないと悟った。


「分かった。その条件を飲む」

 秘密厳守が破られた場合のリスクが数十倍に跳ね上がったが、秘密さえ守れれば今までと同じだと自分に言い聞かせて、アレックスは何とか立ち直ろうとする。


「ロビン達には、俺の口から説明して納得させる。それでいいだろうか?」

「納得しないようなら、言ってください」

「納得させる! 絶対に納得させるから、信じてくれ!」

「……? わかりました」


 ちょっと目の前で【魔力弾】を放って見せるなど、アレックス達と同じことをして実力差を理解させる程度のつもりだったヴァンダルーは、アレックスの必死な様子に首を傾げたが、深くは追及しなかった。


「だが……質問していいか?」

「お前が俺のステータスを見ている事に気がついた事なら、俺が魔眼系のスキルの効果を跳ね返す魔眼を持っているからです。なお、これも契約で守る秘密に加えてもらいます。

 また、契約についてなら様々な事態があり得るでしょうから、相談してくれれば臨機応変に対応する用意があります」


 何故【大鑑定の魔眼】を見破ったのか情報を与える事で、「ある程度話が通じる相手だ」と認識させて、アレックス達が自暴自棄になる事を防止する。契約について相談に応じるのも同様の狙いからだ。

 ……もし将来アレックスから実家の母を人質に取られて、情報を渡すしかなかったなんて事を聞かされたとしたら、契約通りの対応ができなくなる可能性が高い。


「いや、そうじゃなくて……そのゾーナ達はいいのか? 彼女達の方が俺達なんかよりも余程貴族と繋がっているはずだぞ」

「なぁっ!? あ、あんたっ、余計な事を!」


 自分がヴァンダルーの情報を手に入れるよう家から命じられている事を、今の今まで忘れていたゾーナはアレックスの鋭い指摘に動揺し、思わず声を荒げる。

「ひぃっ!?」

 そして、ヴァンダルーの視線が自分に向くと彼の腕の中という逃げ場の無い状況で、引きつった悲鳴をあげた。


「慌てないでください。そういう事情があるだろうとは、前から分かっていたので」

「何でもするからお願い殺さ――え?」

「エリザベス様はこの中央の貴族達と繋がりがありますし、先輩達は中央の貴族家出身ですからね。情報収集を指示されていない方が不自然でしょう」


 エリザベスの発言を誤解したままパーティーに入ったヴァンダルーだが、約一か月もあれば彼女達の背後関係も察する事ができる。……そもそも、マクト達は本名を隠していなかったし。


「気がついていたのなら、なんで……?」

「情報収集を家から命令されていて、本人達にそのつもりがあったとしても、些細な事です。他者に対して下心を全く持たずに接するのは、難しい事ですから」


 人は誰でも下心を持っている。

 一緒に遊んでいて楽しいから、玩具をいっぱい持っているから、格好いいから、頭がいいから、運動ができるから、友達になりたい。そう思う子供は不純で卑しいだろうか?

 美人だから、好みのタイプだから、経済的に恵まれているから、家柄が良いから、その異性に好感や興味を持った。そうしたきっかけで始まった恋愛には、愛は存在しないのか?


 そうは言えないだろう。勿論、下心が全く存在しない友情や愛情は存在しないと主張する訳でも、それをくだらないと貶める訳でもない。

 ただ、そういうものだと認識しているだけだ。


 そして、ヴァンダルーは『自分達に関する事を調べようとした』というきっかけも、よくある下心の中に含めているのである。


「もちろん、下心だけだったら俺も友達とは思わなかったでしょうけれど……アレックス、エリザベス様や先輩達はお前が思うよりずっと良い人です」

 特訓には文句を言わず(特訓中は色々喚いていたが)参加して、学校でも同じ腰巾着として対等に付き合ってくれた。最初は色々危うい言動があったが、付き合う内にそうした事もほとんど無くなった。


 何より、ヴァンダルーが従魔として連れてきているアイゼンたちとの関係も良好である。その証拠に、彼女達はアイゼン達の事を、「従魔」ではなく「従魔の人」と呼ぶのだ。無意識の内に、アイゼン達を人として認識している事の表れだと、ヴァンダルーは解釈している。


「それに、情報収集にしてもあまり熱心だったようには思えなかったので。うちの屋敷に入ろうとしないし、半月ほど前開いたアルクレム公爵家のパーティーにも参加していなかったし」

「え、ああ、うん。まっ、まあね」

 ゾーナはきまり悪そうに頷いた。ヴァンダルー達が暮らす屋敷に入ろうとしなかったのは、最初は怖かったから。そして、そんなに怖くないのではないかと思った頃にはタイミングを逸していたからだ。


 パーティーに出席しようとしなかったのも、ゾーナやマクト達は公爵家のパーティーに出席できるような立場ではなかったからだ。……ヴァンダルーから招待状を貰えたとしても、着ていける程上物のドレスやスーツを彼女達は持っていない。


(でも、あたし……誰かからこんなに評価されたの、初めてかもしれない)

 そうした誤解を差し引いても、ゾーナは思わずときめいていた。


「……分からない。なんでそこまで彼女達に拘るんだ?」

 しかし、説明してもアレックスはなぜヴァンダルーがゾーナやエリザベスに拘るのか、理解できないようだった。


「俺達がダメだったのか? もし俺が、最初に声をかけていたら――」

「いや、お前が最初に声をかけようとしたのはパウヴィナでしょう。しかも、ステータスを見たかどうかした後、何も言わずに立ち去ったじゃないですか」


「うっ!」

 自分の指摘に呻き声をあげたアレックスに、更にヴァンダルーは続けた。

「お前はお前が選んだ仲間と、好きにすればいいじゃないですか。経験を積み、腕を磨いて、冒険者として功績を挙げ続ければいい。

 俺は俺に手を差し伸べてくれた人と、勝手にやります。お前にとやかく言われる事は、何もない」


 これがヴァンダルーの考え方だった。誰か助けてくれと手を伸ばす人がいれば、手を握ろう。逆に手を握りたい人がいれば、握ってもらえるまで手を伸ばし続けよう。

 だが、自分に関わらなくてもやっていける者には、別にそのまま関わらなくていい。


「それでは」

 ヴァンダルーはそう言うと、アレックス達に背を向けて歩き出した。

 アレックスはまだ理解できない様子だったが、自分とヴァンダルーの価値観が異なる事だけは分かったらしい。それ以上声をかけようとはしなかった。


「ここでは何も起きなかったし、俺は何も聞かなかったことにする。だから実習もそのまま続行だ。……残り時間まで九十分を切ったから、遅れるなよ」

 そして、ランドルフはアレックスとトワにそう言うと、ヴァンダルー達の後を追った。


すみません、少々必要な作業が入りましたので、念のために次話の投稿を一日延期して、8月7日にさせていただきます。

最近また投稿時間が遅くなってきたので、念のために(汗


8月8日15時から始まるクローバーラボ株式会社が運営する本格RPG「ゆるドラシル」とサーガフォレストのコラボで、ヴァンダルーがキャラクターとして登場します! よろしければ「ゆるドラシル」で動くヴァンダルーをご覧ください。

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