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四度目は嫌な死属性魔術師  作者: デンスケ
第十三章 選王領&オリジン編
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閑話56 混沌に陥る戦場

大変遅くなってすみません。


拙作に新しいレビューを頂きました! ありがとうございます!

 ヴァンダルーの魂がオリジン世界に降臨した。彼自身はその事を「周りに人の目もないから、大した問題にはならないだろう」と思い込んでいた。

 実際、本拠地の内側では大した問題にはならなかった。


「なんだ!? この背筋が寒くなるような、気味の悪い気配は!」

「なんだ!? この誰かに見守られているような、どこか胸が温かくなるような気配は……?」

「「ん!?」」

 【ブレイバーズ】のメンバーは六道の本拠地の内部にいたので、その姿を直接見ることはなかった。しかし、ヴァンダルーから発せられている桁違いの魔力を察知し、異変が起きたことを悟った。


 悟った結果どう感じたのかは、デリックとジョゼフのようにヴァンダルーに導かれ加護を受けているか否かで異なったが。

「とにかく進むぞ! 六道達を止めなくてはならないことに違いはない!」

 しかし、雨宮達がしなくてはならないことは変わっていない。そのため、彼らはすぐに行動を再開することができた。


 一方、これから雨宮達を迎撃しようとしていた六道達は、異形の出現によって盛大に出鼻を挫かれていた。

「なんだ、あれは!?」

 モニターに映る異形の姿は六道にとって、神に至ったと思いあがった事で生まれていた余裕が消し飛ぶほどの衝撃だった。


「センサーに反応なし! あれは物質でも生物でもありません! 実体化した……実体化した何かです!」

「何が実体化したんだ!? 魔力か、霊か? それとも精霊か!? 魔術で作り出されたものなのか!?」

「魔力センサーが壊れたので正確な数値は不明ですが……あの異形は死属性の魔力を発しています」


 新たに現れた異形の正体がわからず狼狽える守屋達だが、六道は彼らの報告から見当をつけることに成功した。

「私の死属性魔術を抑え込む、死属性魔術……それは奴以外にはありえない。あの異形は『アンデッド』! 天宮博人だ!」


「なっ!? 奴は死んだはずでは!?」

「そうだ。だが、奴は死んだ後アンデッド化していた。死体になった肉体を破壊されて消滅したと我々は思い込んでいたが……何らかの形で残っていたのかもしれない。

 もしくは、死後の世界から舞い戻ったか」


「そんな……あの醜い化け物が私達と同じ人間だったなんて……しかし、何故このタイミングで現れ、我々の邪魔を? 奴に北欧連邦や中華共和国はもちろん、この世界の人間を守る理由はないはず!」

 六道の推測が正しいと守屋は理解していた。何の脈絡もなく正体不明の死属性の魔力を持った化け物が現れたと考えるよりは、ずっと納得しやすいからだ。


 だが、天宮博人ヴァンダルーの行動が分からなかった。自身の仇である自分達に復讐するためではなく、六道から世界を守るために現れたとしか思えないが、それをする動機が分からなかった。

「奴が助けた『第八の導き』も……まさかっ、あの雨宮冥についている化け物! あれも天宮博人!?」

「その通りだ、守屋。雨宮の娘についていた……そう、憑いていた化け物の正体は天宮博人だ。そして、彼を雨宮冥が無意識に死属性魔術を使い操っているのだろう。死者の霊を召喚する降霊術の類で。

 フッ、自分にとどめを刺した夫婦の娘の操り人形とは、滑稽だな」


 そう笑うことで衝撃から立ち直った六道は、改めて自身についてくることを選んだ者たちに向き直った。

「では、お前たちに今の私ができる全ての付与魔術を施そう。そして、私とともに我々の前に立ち塞がる雨宮親子を始末するのだ!」




 そうして六道の本拠地内での影響は、雨宮達の行動が数秒、六道達の迎撃の準備が数分遅れただけにとどまった。

 だが、『オリジン』で監禁生活を約二十年、そして『ラムダ』に転生して十年以上過ぎており、科学文明に触れた記憶が遠いヴァンダルーは忘れていた。人工衛星の存在を。


 『オリジン』にも人工衛星が存在し、それによって各先進国は地表に現れた異形の姿を捉えていた。


「あ、悪魔だっ! 悪魔が現れた!」

「聖書にある審判の日……それは今日だったのか!」

「待ってください! あれがそんなオカルティズムな存在とは限りません! 外宇宙から飛来した生命体かもしれません!」


 欧州連合を形成する各国は、降臨し実体化したヴァンダルーの魂を見て大パニックに陥っていた。

「あのモンスターの正体なんてどうでもいい! 問題は奴が何をするか、そして我々に何ができるかだ!」

 大パニックに陥った欧州連合では、そう訴えて同僚を我に返らせようとする者もいた。しかし、既に連合の代表だけではなく連合の中でも先進的な国家の大統領達も行方をくらませており、国家機能がマヒしていた。さらに、ヴァンダルーの魂が姿を現したのが自国の領土から遠く離れた、二大大国の国境線上であることもあって、具体的な行動に出ることはなかった。


 だが、とんでもない暴挙に出た国もある。

「あれは神だ! 我々が夢で見た神の御姿そのものだ!」

 クーデターによって合衆国の大統領となったセルゲイは、モニターに映るヴァンダルーの魂を見て歓喜の叫びをあげた。彼は夢で、冥と遊ぶヴァンダルーの巨大な魂を見ていたのだ。


「おお、なんと神々しいお姿か……」

「あれは夢ではなかった。そう、夢ではなかったのだ!」

 そしてセルゲイが連れていた彼の支持者……彼と同じ隠れ『第八の導き』信者達も、歓喜の涙を浮かべる。


「な、なんだあれは……!?」

「か、神よ……!」

 それ以外の普通の人々は、ヴァンダルーの異形の魂を見て絶句し、思わず自身が信じる神に祈りを捧げていた。気の弱い者は無言で失神している。


「は、はははははっ! 目標から死属性の魔力を感知! その数値は、数値はぁ! 計測不能! 我が国の技術力では、九十九億以上の魔力を数値化出来ません!」

「大きさは……高さ三百メートル、直径は一キロメートル!? あっ、あはははははははははぁ!」

 ヴァンダルーの魂の魔力をある程度、そして大きさを正確に計測してしまったオペレーターたちが、気がふれたように笑いだした。


「魔力九十九億以上……に、人間がどうこうできる存在じゃない!」

 セルゲイによって捜査機関の長官に任命された男は、この異形の化け物に世界は滅ぼされてしまうに違いないと思い、涙を浮かべた。


「……諸君、記者会見の準備だ。国民に発表する」

 だがセルゲイの言葉で、オペレーターと捜査機関の長官は現実に引き戻された。

「私が大統領に就任したことを、そして神が降臨された事を! この御姿を知らしめるのだ!」


 ヴァンダルーは夢でセルゲイ達に会ったとき、あまり目立ちたくない事をよく言い含めるべきだったようだ。




 そして国として、もしくは人として常識的な判断を下してしまった国もある。行政府を破壊され国家の中枢を担う者達の多くが安否不明となった、中華共和国と北欧連邦だ。

 二国は国としての機能はマヒしていた。しかし、地方政府は機能しており、彼らは国境に突然現れた化け物に対して、偵察機とその護衛に戦闘機を数機緊急発進させた。


 ヴァンダルーの異形の姿はどう見ても友好的な姿に見えない。しかも彼の下には彼らにとって国家機密である、六道の研究所があるのだ。

 その基地にいるはずの代表者からの連絡が途絶し、首都で大規模な爆発が起きた直後だ。何が起きたのか調べようとするのは、当然の事だ。


「死属性の魔力は観測できましたが、数値は計測不能!」

「首都で起きた爆発現場から計測された死属性の魔力とは、波長が合いません。強さも桁違いです。それに……徐々に巨大化している!?」


「どういうことだ!?」

「この化け物は徐々にですが、巨大化しています! 毎秒直径一メートル程ですが、成長し続けています!」

 偵察機の乗員は巨大化や成長と評したが、そうではない。ヴァンダルーは六道が放っている生命力を奪う魔術を抑え込み続けるために、内側から押されているだけだ。


 本来なら、ヴァンダルーと六道の死属性魔術の力量には雲泥の差がある。六道はたしかに、洗練された制御力の持ち主で、その緻密さはヴァンダルーを上回っている。しかし、それ以外の全てがヴァンダルーの足元にも及ばない。

 六道が「莫大な量」だと誇っている魔力も、今のヴァンダルーからすれば【死砲】一発分にも満たない少量でしかない。


 もしこれが『ラムダ』世界なら、ヴァンダルーは六道が放った死の衝撃波を一瞬で蹴散らしてしまっただろう。

 しかし、ここは『ラムダ』とは物理法則が違う『オリジン』世界で、ヴァンダルーは魂を【具現化】させただけの不安定な状態だ。バンダーにとっての冥のように、核となる本体も存在しない。

 そのため、六道の魔術を抑え込むのにも苦労していた。


(なるほど。神が地上に干渉するのはエネルギーを使うと聞いていましたが、これよりもつらい状態だとしたら、軽々しくはできないはずですね。

 ああ、俺はまだ人間でよかった)


 そんなことを考えながら、雨宮達が早く六道を倒してくれないかと内心で急かす。

 だが、そんな事情を知らない中華共和国と北欧連邦の軍関係者は、誤った判断を下してしまった。

『あの化け物は、裏切り者の六道が作り出した存在に違いない! 奴が諸悪の元凶だ! 攻撃せよ!』

 正体の分からない、醜いものは攻撃する。短絡的だが人としては無理のない判断だ。しかし……この場合は、自分たちにとっての盾を敵と見誤るという、致命的なものだった。


 偵察機の護衛任務を解かれた戦闘機が、ヴァンダルーの魂に向かってミサイルを発射する。

『おや?』

 自分の周辺でジェット機が飛んでいるのは気が付いていたが、まさか攻撃を受けると思わなかったヴァンダルーは、驚きとともに【停撃の結界】を張り、ミサイルのエネルギーを吸い取って不発にする。


 【停撃の結界】の使用そのものは、この世界で『アンデッド』だった時にも使っているので支障はない。

『おおぉ?』

 しかし、結界を張ったために抑えきれていなかった死の衝撃波に内側から押され、ドーム状に広がった魂の一部が歪に膨らんでしまう。


「目標が変形しました!」

「反撃するつもりか!? 再度攻撃の許可を求む!」

 そして、それを戦闘機側は敵対的な反応だと解釈して、ミサイル攻撃を繰り返そうとする。


『ふーむ……面倒な』

 ヴァンダルーにとって、彼らが放つミサイルは受けたところで本来なら脅威ではない。肉体がある状態なら、直撃しても火傷で済む。『轟雷の巨人』ブラテオの拳の直撃よりも、はるかに軟な攻撃だ。


 しかし、今の【具現化】した魂がドーム状に広がっただけの状態で受けるのはよろしくない。直撃したら、衝撃で穴が開いてしまい、内側に閉じ込めた死の衝撃波が外に漏れてしまう。

 つまりこのミサイル攻撃をしている者達や彼らを送り込んだ国自身にとって、この攻撃は脅威なのだ。


『どうしましょうか?』

 二度目のミサイル攻撃を同じように結界で防ぎ、その結果再び形を歪めながら、ヴァンダルーは考えた。

 戦闘機というのが厄介だ。距離が離れていて、高速で素早く飛び回っている。それに対して彼はこの場を動くことができない。


 バンダーが自由だったら墜としてきてもらうのだが、バンダーはバンダーで忙しい。被害者全員に配れるほど汎用変身装具は用意していない。安全地帯に連れて行かないといけないのだが、その安全地帯が六道の本拠地内には存在しない。

 そして、今施設の外にも無くなった。今、戦闘機からミサイル攻撃を受けている状況では、いつ流れ弾が被害者達に当たるか分からない。


 ……いっそ、死の衝撃波を戦闘機とそれを派遣してきただろう国に向かって解放するか? 敵になりうるものが死に絶えれば、ひとまず安全だろう。そんな考えが頭を過ぎる。

『これほど素早く戦闘機を派遣して、攻撃を仕掛けてくるとしたら北欧連邦か中華共和国。それらの方向に対してだけ穴をあけて衝撃波を逃がせば、被害は限られる。そして、被害者達を避難させる安全地帯を確保でき、俺の負担も減る』


 そう考えると、悪くない考えのような気がしてきた。

 こうして『オリジン』の人々を守っているのは、ヴァンダルーの勝手だ。請われたからでも何でもない。だから、その自分に攻撃してくることについて、特に何も思わないし感じない。

 ただ、そんな者達を守り続ける気が失せるだけで。


 そもそも、ヴァンダルーをミサイル攻撃するということは、彼の内側にある六道の本拠地を攻撃するのと同じ事。それは施設の中にいる冥達の安否に対して一切考慮していないということだ。

 つまり、ヴァンダルーにとってこの戦闘機とそれを派遣した国家は敵である。何も知らない一般国民は、まだともかくとしても。


『よし、六道より先に滅っしましょう』

 戦闘機のいる上空にだけ衝撃波が発せられるように、調整して穴を開けようとする。

『待ってくれ~!』

 そのヴァンダルーに対して、彼の内側から制止の声をかける者達がいた。


『どちら様ですか?』

『我々は六道に殺された各国の大統領です! 偉大なる存在よ!』

 それは、六道によって殺された者達の霊であった。彼らはヴァンダルーを止めるために駆けつけてきたのである。


『奴は自身の魔術で生物を殺せば殺すほどエネルギーを吸収し、魔力を蓄えていきます!』

『なので、奴の魔術を利用して人間を大量に殺すのはよくありません!』

『だから、大勢の人間を殺したいのであれば我々をお使いください!』


 前合衆国大統領の霊達の頭の中には、無辜の人々を守ろうとか、そうした考えは全くなかった。彼らに残っているのは、冥とヴァンダルーの役に立つためならどんなことでもするという狂気のみである。

『なるほど。たしかに、六道に力をつけさせるのは馬鹿みたいですね。でも、あなたたちを使うとしても……ああ、ちょうどいいのがありましたね。

 でも、墜とすのはとりあえず戦闘機だけにしましょうか』


 そう言いながら、一万ほどの魔力を不発弾となったミサイルに注ぎ、大統領達の魂を込める。


『お任せください、神よ!』

 悪霊の宿ったカースミサイルと化した大統領達は、戦闘機に向かって突進した。

「なんだ、ロックされている!? 北欧連邦の戦闘機がこちらを狙っているのか!?」


「ロックされた!? まさか中華共和国の……いや、違う! 我々が撃ったミサイルだ! ミサイルが返ってくる!?」

 まさかミサイルがアンデッド化して返ってくるとは思わなかった戦闘機のパイロット達は慌てて回避行動をとりながら、デコイをばら撒き逃げようとする。


『逃げても無駄だぁ!』

『そんなものに惑わされるものか!』

 だが、ミサイルに宿った霊達はパイロットの生命反応を感知し、回避行動やデコイに惑わされることなく追い続け、見事命中。戦闘機ごと爆発した。


 ヴァンダルーが戦闘機と偵察機の見分けがつかず、逆に大統領達は見分けがついたため、両国が派遣した偵察機は残った。

「本国へ連絡! 敵は我々が放ったミサイルを何らかの方法で利用して反撃しています! さらなる攻撃は中止! 攻撃は中止!」

 だが、そう報告しながら慌てて退避した。


『あとは、博に手伝ってもらって安全地帯を作りましょう。そうすれば、もう一人の俺も博も自由に動ける』




 上空でそんな事が起きているとは気が付かないまま、六道と雨宮はそれぞれの仲間を引き連れてついに対峙した。

「ずいぶんと変わったな、六道」

「それは見た目のことかな? それとも、私が君達を裏切ったことか?」

 顔つきは以前と同じだが、背が伸び、蒼白の肌に体毛が一本もない今の六道は非生物的な雰囲気を纒っていた。

 精巧に作られた人形ですと言われたら、信じてしまうかもしれない。そんな様子だ。


「もちろん、見た目と魔力の事だ。裏切っていたことに関しては……ずっと前からなんだろう? だが、いつからだ? あの研究所での一件からか、それとも【ブレイバーズ】を結成する前から裏切るつもりだったのか?」

「君を利用しようとしたという意味では、結成前からだ。君や浅黄、円藤を上手く使って組織を牛耳るつもりだった。だが、本当の意味で裏切ることを決めたのは君が言う通り、『アンデッド』……天宮博人と死属性魔術の存在を知った時からだ」


「そうか……僕は、自分で思っていたよりもリーダーには向いていなかったらしい」

「そう卑下されると悲しいな。それは、私の手腕が優れていたということなのだからね。

 どうかな? 君さえよければ再び私の掌の上で踊ってみないか?」


 六道の突然の提案に、デリックや成美が驚いた顔をする。彼が雨宮を今更勧誘しようとするとは思わなかったようだ。


「状況が変わってね。この施設の外に、悪霊と化した天宮博人が現れた。彼は忌々しいことに、今の私以上の魔力の持ち主だ。

 ……おそらく、君の娘に操られているか、それとも君の娘を操っているのだろう。このままにしておくと、この世界は天宮博人によって生命体の存在しない、死の世界になってしまうだろう。死属性を否定していた君としても、彼は歓迎できないはずだ」


 生命体の存在しない死の世界を作ろうとしたのは自分であることを黙ったまま、六道はそう提案すると雨宮に尋ねた。

「どうかな。君がリーダーという象徴で、私が実務を担当する裏方。元の鞘に納まるというのは?」

 それに対して、雨宮は自嘲的に笑った。


「どうやら、僕は君にとってとんでもない馬鹿者だったらしい。六道、さすがにその誘いには乗るつもりはないよ。

 それに、天宮博人が死の世界を作るだって? 歴史に残りかねないほど、的外れな意見だよ。それは」

「……どうやら、今度は天宮博人に利用されることを選んだようだな。君は生粋の愚か者のようだ。

 仕方がない。どちらも私が殺すことにしよう!」


 そう六道が叫ぶと同時に、彼の全身から禍々しい魔力が放出される。その一億に近い人間を超えた魔力の多さに成美とデリックはたじろぎかける。

「あはっははははははは! その程度の魔力で、あの方を殺す!?」

「あなたは、研究者よりもコメディアンに向いていますよ!」

 だが、それに恐れることなく哄笑をあげ、攻撃を仕掛けたユキジョロウとボコールの言葉で思い出した。


「……たしかに、彼ほどではないわね」

「まあ、どちらが化け物かと言われたら、バンダーだな」

「当人に聞こえるところで言うなよ、結構気にするタイプだから」

 ジョゼフが植物の種を芽吹かせ、陽堂が回復役の七森の護衛に回る。それに一拍遅れてデリックも護衛に回り、成美が【エンジェル】でリアルタイムでの連携を図る。


「貴様の能力については、もう知り尽くしている!」

 【シャーマン】の守屋は、そんな雨宮達に向かって、能力で作り出した人工精霊を放った。業火の下半身を持つ筋骨隆々とした巨人をジョゼフに。氷の鎧を纏った冷気の巨人をユキジョロウに。そして雨宮達も初めて見る大鎌を構えた骸骨を、七森に向かって解放する。


「行け、イフリート、ユミール、そして六道さんの魔力から作り出した死属性の精霊、カロンよ!」

「カロンだとっ!? それのどこが船頭だ!?」

 渡し賃を受け取って死者を川の向こうへ渡すだけの存在には思えない凶悪さの骸骨が振るう大鎌を、デリックが魔術を纏った拳で弾く。


「なにぃ!?」

 その瞬間、拳に施していた付与魔術が掻き消えてしまった。

「精霊にも死属性の付与魔術がかけられているんだ。触れられたら魔術は消えると思ったほうが良い。装具は大丈夫なようだが」


「厄介な……原典だけではなく、常識も無視か!」

「くそっ、なんて頑丈なパワードスーツなんだ! カロンの鎌に触れて無傷なんて!」

 付与魔術で身体能力を上げての格闘戦ができないと知ったデリックが唸るが、守屋も彼らが着ているスーツの高性能さに舌打ちをしていた。


 彼の能力で作り出した戦闘用の人工精霊の、それも六道によって殺傷力を強化されている一撃を受けてもスーツもその下の肉体も無傷とは、守屋にとって信じがたい頑丈さだ。

 これはカロンだけで回復役の七森を殺すのは難しそうだ。かといって……。


「炎に植物が弱いっていうのは、思い違いだ」

 上昇した殺傷力によって容易く植物を焼き散らすはずだったイフリートは、ジョゼフが水分を多く含む植物を操っているため、想定より苦戦している。


「僕が戦えないとでも思いましたか!?」

 そしてユキジョロウを狙うユミールに対しては、自身の細胞を活性化させ熱を自力で作り出したボコールが接近戦を挑んでいる。

「その通りっ! 僕は格闘技の素人! だが、この神から賜った装具があれば時間を稼ぐことができるのです!」

 ……ユミールの負けはなさそうだが、勝つまでには時間がかかりそうだ。


「うおおおおおっ!」

「がああああああ!」

 その守屋の横を、技術者たちが獣のような叫び声をあげながら七森を狙って駆けていく。


 彼らは技術者としても、研究者としても、六道から期待されておらず、ただその場に居合わせ六道に忠誠を誓ったために生き延びた者達だ。

 彼らも死属性魔術で強化されている。殺傷力を強化させられ、痛覚を遮断され恐怖心がマヒしているのだ。

 使い捨ての戦力として使うために。


「あんたらも被害者かもしれないが、同情はしないぜ! それどころじゃないからな!」

 だが、所詮は急造の戦力。【タイタン】の岩尾が操る重力によって押しつぶされ、七森に辿り着く前に全員倒れ伏す。


「もう【ブレイバーズ】は終わりだぞ! それでも抵抗するつもりか!?」

「雨宮を見限ったら? こっちにつく方が、ずっと賢明だと思うけど!?」

 魔力を鎧として具現化させることができる【ナイト】の鍋島が、空間属性の不可視の鎧を纏い、物品の大きさを操作する【一寸法師】の矢崎が数十倍に巨大化させた銃弾を放っている。


「終わりなのは【ブレイバーズ】だけじゃすまなそうだが!? それに、後の事は後で考える!」

「あなたたちの方が、追い詰められているようにしか見えないわ!」

 鍋島を陽堂があしらい、直径一メートルほどに巨大化した銃弾をよけた成美がそう切り返す。


「六道、終わりだ! 君は自ら世界の敵になってしまった!」

 雨宮が、【防御力無視】を乗せた魔術を同時にいくつも放つ。

「いや、これから始まるのだ!」

 だが、六道は防ぐことが不可能なはずの雨宮の魔術を、結界で容易く防いでしまった。


「何っ!?」

「君の【防御力無視】はたしかに驚異的だ。だが、防御ではなく攻撃で迎え撃てばその能力は効果を発揮できないことは分かっていただろう?」


 たとえるなら、剣を盾で受け止めて防御するのではなく、自分に振るわれる剣を剣で攻撃して弾くようなものだ。だが、雨宮が放ったのは剣ではなく、高速で飛来する矢や球の形をした魔術である。攻撃を当てるのは、銃弾を銃弾で撃ち落とすのと同じくらい難しい。


 だから雨宮は今までその方法で対抗してくる敵と、遭遇したことはほとんどなかった。

「その結界は……そうか、僕の魔術を攻撃し、魔力を奪う結界か」

「そう、これが死属性の力だ」


 雨宮の【防御力無視】にとって、初歩的な死属性魔術である結界は最大の脅威だったのだ。そして、オリジンには【魔王の欠片】やオリハルコンのような結界を無効にする物質は存在しない。


「さあ、今度は私の番だ! 死の炎よ、迸れ!」

 六道が放つ青白い炎の奔流を、雨宮は「くっ」とうめいて回避する。雨宮も魔力は常人と比べものにはならない量を誇るが、今の六道にはとてもかなわない。

 結界を張って足を止めれば、即座に結界ごと叩き潰されてしまうだろう。


 かといって格闘戦に持ち込むのは下策だ。六道は【学習速度上昇】のチートによって、格闘やナイフの腕前は雨宮以上だからだ。しかも、今の六道は死属性魔術を習得するために創りだした特別な肉体を使っている。身体能力は【成長制限無効】によって、人間の限界を超えて成長し続けている。


「ふふっ、君は所詮能力頼りの男だった。それがよく分かるな。さあ、死ぬがいい!」

 六道は雨宮の動きを読んで壁際に追い詰めた。そして、数百万の魔力を込めた魔術で避ける余地のないほどの広範囲を攻撃することで、息の根を止めようと試みる。


 それは口では嘲笑いながらも、六道が雨宮を警戒している事の表れだった。彼とバンダーを同時に相手取ったら、勝てないかもしれないという警戒心のためだ。

「しまった!」

 雨宮は六道の狙いに気が付くが、もう遅い。自力で逃げるには壁が邪魔をしている。


 だが、その壁から現れた援軍が彼の命を救った。


「死ぬがいい、偽りの勇者!」

 六道が放った青白い炎が雨宮を包むかに見えた。その瞬間、壁が砕け散りその向こうからメタリックな光沢を放つ三メートルほどの怪物……変身装具を纏った博が現れた。


『うわああああああああ!』

「っ!? ひ、博か!?」

『父さんをいじめるな、このハゲ! 【魔力弾】!』

 防御力特化型変身装具は、防御力に特化している。そのため、死属性か無属性魔術しか使えなくなる。だから、死属性魔術が使えない博は無属性の【魔力弾】を放った。


「誰かと思ったら博君じゃないか、ずいぶん頑丈な鎧を着ているようだが、防御だけでは――何ぃ!?」

 そして博が着ている変身装具は、防御力特化型にも関わらず魔術を補助する魔術媒体としての性能も高かった。

 通常の変身装具に使われる素材の数百倍分の素材を使った防御力特化型変身装具。その魔術媒体としての性能は、通常の変身装具の数百倍。


 そして、通常の変身装具はこの世界の魔術媒体と比べて倍以上の性能がある。そのため……ヴァンダルーの加護を得ている博の放った【魔力弾】は、数百倍以上の威力を発揮した。

「ば、馬鹿なぁ!?」

 黒い巨大な塊の直撃を受けた六道は、とっさに結界を張ったものの防ぎきることはできず、衝撃に弾き飛ばされて壁に激突した。

申し訳ありませんが、次話は予定より一日遅れた、5月11日に投稿させていただきます。

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