閑話52 群なす脅威達
パラシュートによって無事地面に着地する事が出来たジョゼフ達は、合流した後今後どうするべきか話し合った。
護送任務を受けた南米の国の政府や、合衆国政府……そして【ブレイバーズ】の本部に連絡を取るのは躊躇われる。何故なら、合衆国政府の戦闘機に襲われた直後だからだ。
過激な思想を持ったパイロットの暴走……などではない。それならあの戦闘機が何処から離陸したのかは不明だが、輸送機に「危険なパイロットが操縦する戦闘機が向かっている」と警告する時間ぐらいはあったはずだ。
それに、この護送任務は極秘で進められていた。その情報が洩れていた以上、尋常な事態ではない。
「なるほど……お前達の言う事はだいたい分かった。情報を漏らしたのは作戦部の六道の近くにいる人間かもしれない。だから本部に連絡するのは、状況が分かるまで避けたい。そうだな?」
「ああ、そういう事だ。救助を頼んで、今度は爆撃機が来たら堪ったものじゃないからな」
【ケイローン】のデリックがそう言って頷くと、【ザントマン】の陽堂は説得成功の満足感に笑みを浮かべた。
「ただ、俺達は六道の近くにいる人間じゃなく、六道が怪しいと言ったんだが」
陽堂達ヴァンダルーに導かれ、加護を受けた三人の転生者は、そうではないデリックと輸送機のパイロットが勝手な行動をしないように説得する事から始めた。そうした理由は、陽堂が言った通りだ。
彼等が六道側の人間だとは思わなかった。特に乗り合わせたデリックは、あの状況でもパイロットと陽堂達の生存を優先した指示を出している。
「たしかに六道本人が情報を漏らした、もしくはこの一件を仕組んだ本人である疑いは捨てきれない。論理的に考えればそうなるのは理解できる。しかし、六道だけを殊更疑う理由はないだろう」
ただ、デリックは六道側についていないだけだ。雨宮と同じように六道を頼れる仲間として信頼している。
実は戦闘機のパイロットが同じ転生者である【スレイプニール】の西鏡義彦だった事を知れば、デリックも六道が関与している事を信じただろう。だが、西鏡が戦闘機のパイロットだった事は撃退したジョゼフも知らない。しかも、本人は今頃海か地面に墜落しているので証拠が何もない。
もしくは、これから向かうはずだった空港に護送任務で護送するはずの「犯罪組織の幹部」がいなければ、そもそも最初から存在していなければ、この任務を自分達に割り振った六道が怪しいという説得材料になったかもしれない。
しかし、極秘任務であるため「犯罪組織の幹部」の名前と顔もジョゼフ達は知らない。それに、連絡する事が出来ない以上存在するか否かを確認する事も出来ない。
「まあ、そう思うよな。証拠は何もないし」
「しかも、私達の話じゃねぇ。薬の飲み過ぎか、薬を飲むのを忘れたのかって思われても仕方ない」
精神的に病んで任務から遠ざかっていた陽堂や七森達と、失われたメンバーの分も精力的に働き【ブレイバーズ】のサブリーダー的な立場にまでなり皆を纏めてきた六道。
六道が裏で何をしていたのか知らないデリックが、どちらを信じるのかは明らかだ。
「おいおい、俺もそこまでは言うつもりはないぞ。お前達が能力を成長させられたのは、お前達自身の努力によるものだろう。そんな事が出来るお前達を信用できないとは、俺は思わない。
だが、六道が黒とは断定できないというだけだ」
どちらを信じるのかは明らかだが、だからといってデリックは陽堂達の言葉を軽く受け取る気はなかった。彼等なりの根拠や推測があって、六道を疑っているのだと考えている。だから、彼らの主張通り連絡を取ろうとはしない。
「だが、これからどうする? どことも連絡しないままとはいかんぞ。俺達を探す捜索隊もその内来るだろうし」
「まあ、輸送機の反応が消えたのは合衆国もここの国も気がついているだろうし、そうだろうな。とりあえず、信頼できる相手……ウルリカに連絡が取れればいいんだが」
「雨宮じゃないのか? たしかに俺達の任務について知っている人物であるのは、彼も六道と同じだが」
デリックが雨宮も容疑者の一人として数えているが、それは違うという事を説明できない陽堂は黙っている事にした。
「どうだ、繋がるか?」
代わりに、輸送機から持ち出した無線機でウルリカに連絡が取れないか試していたパイロット達に声をかける。
「……無理ですね。どうやら、落下の衝撃でどこか壊れてしまったようです」
最新式の魔術と科学の結晶である無線機は、ノイズを出すだけの箱と化していた。それを聞いたジョゼフが、溜め息を吐きながら言った。
ちなみに、デリック達の携帯は使えない。電波を探知される恐れがあるからだ。
「デリック、それにあんた達もこれから私がする事を見て見ぬふりをしてくれるか?」
そう言いながら彼が懐から取り出したのは、デリックが見た事もないデザインの携帯電話だった。
「なんだ、その携帯。それに見て見ぬふりって……その携帯の事か?」
「そうだ。この携帯で、信頼できる人物と連絡を取る事が出来る。電波を探知される恐れもない。だが、これは秘密の装備だ。輸送機が落されそうなときにも、最後まで使うまいと決めていた。
だから、見て見ぬふりをして欲しい。……最悪の場合、見て見ぬふりをしなくても構わない状況に世界がなっているかもしれないが、念のためだ」
「ジョゼフっ、まさかあれを使うつもりなのか!?」
「たしかに、使い時であるけれど……私達の内二人がデリック達を引きつけて、その間に使うって手もあっただろうに……」
ジョゼフの説明に、驚き息を飲む陽堂と七森。それにデリックは、ただ事ではない事を悟った。
「分かった。あんた達も、了解してくれ」
「勿論です」
「命の恩人を信じます」
デリック達からの了解を得たジョゼフは、懐から取り出した、普段使いとは別の携帯を握ると短く言った。
「変身!」
すると、携帯が液体状に変化して彼の腕を這いあがって全身に広がり、ボディスーツに変化する。
「が、ガッデム! 何だ、それは!? 最新のパワードスーツか!?」
魔術が存在する『オリジン』では、軍用のパワードスーツが実用化されている。ただ鎧のように見るからに重厚なものではなく、軍服の下に着るインナーのような物だが。
軽量で柔軟、それでいて少量の魔力消費で防弾チョッキ並の防御力とある程度の耐熱性、そして身体能力を引き上げる効果のあるマジックアイテムだ。
その性能は、今は亡き【バロール】のジョニーとその部下達、そして【スレイプニール】の西鏡も着ていたといえば想像できるだろう。
しかし、携帯出来るタイプの物はデリックが知る限り存在しない。
「しかし何だ、そのデザインは? まるで子供向けの特撮番組だ」
「ああ、参考にしたらしいよ」
派手なマントに飾りのついたヘルメット姿になったジョゼフは、苦笑いを浮かべて答えた。バンダーから与えられたこの変身装具の性能は、この世界で流通している並の軍用パワードスーツの性能を大きく越えている。
それを知っていても今まで使わなかったのはこのデザイン……派手で目立つからだった。勿論、この世界ではオーバーテクノロジーである事が最も大きな理由だが。
「だが、性能はたしかだ。通信機能もある……こちらジョゼフ、今話せますか?」
そしてジョゼフはデリックの前でバンダーと通信を始めた。
「っ!? そんな事になっていたのか……」
そして雨宮邸や成美達が襲撃された事を、初めて知った。自分達だけが秘密裏に始末されかけたのだろうと考えていたジョゼフは、六道がなりふり構わず大胆な手に出ている事を知って事態が深刻である事に改めて気がついた。
これは何も考えず合衆国や【ブレイバーズ】本部に連絡していたら、本当に爆撃機が飛んで来たかもしれない。
「それで……えっ? 食べたい物? あー、て、適当にお願いし……それが一番困る? そんな事を言われても……」
そして暫く話した後、通信を終えてデリック達に告げた。
「迎えに来てくれるそうだ。……飯もついでに買ってきてくれるらしい」
「おっ、そいつは助かるな」
通信した相手を、ジョゼフの個人的な知り合いの地元政府か何かの人間だと思っているデリックはそう言って頷いた。しかし、陽堂と七森は「どうやって!?」と思わず聞き返した。
【スレイプニール】の西鏡が操縦する戦闘機がレーダーから消え、本人と連絡もつかないという報告を受けた六道は手を額に当てて呻いた。
「全てを把握し、何もかも掌の上だと思い込んでいたが……あまりにも想定外過ぎる。この化け物は何なんだ? 最近のイマジナリーフレンドは銃弾や攻撃魔術の雨を浴びても平気で、バンを掴んで高速で長距離を飛行し、私の作戦を潰して回るのか?」
現れた化け物が雨宮冥の絵に描かれていたバンダーである事に、六道は気がついた。
気がついたが、だからといってバンダーの正体にはまだ思い至っていなかった。バンダーが冥に死属性魔術を教えている事を知っていれば、バンダーと『アンデッド』が同一人物である事に気がついただろうが……。
現状彼がバンダーについて分かっているのは、化け物である事とフットワークが軽い事だけだ。
「目標は、各国の防空網を我が物顔で飛び回っています。スクランブルを受けて発進した戦闘機の通信も無視して……いや、単に通信を受ける事が出来ないだけかもしれませんが。
少なくとも、レーダーに映る存在ではあるようです」
「それはバンを吊り下げているからかもしれないぞ。バンダー自体は、魔力センサー以外には反応がありません。なので生命体ではなく、魔力で構成された精霊の類だと推測されます。それを裏付けるように、回収した【バロール】の死体の検死では本人以外の痕跡は発見されませんでした。ただ、それにしては【バロール】が魔力を奪わなかったのが疑問ですが」
「映像から分析したところ……現存する重火器ではバンダーを傷つけるのはほぼ不可能です。雨宮冥が乗っているバンも、どうやったのかは不明ですが同様の装甲によって守られています。
あと、動画投稿サイトでは次々に動画がアップされています。スーパーの次は、ファーストフード店でドライブスルーを利用したようです。
支払いには【バロール】のカードを使用したようです」
次々にもたらされる報告に耳を通しても、有効な対策を思いつく材料にはならない。分かるのは、バンダーに対抗するにはチート能力を使うか、死属性魔術しかないだろうという事だけだ。
いや、相手がバンダーと冥だけなら六道達はこの危機に対処できたかもしれない。六道達転生者は、幸運に守られているのだから。
だが、バンダー達には【エコー】のウルリカという転生者の仲間がいる。そして、今は【エンジェル】の雨宮成美も加わり、【ドルイド】のジョゼフ達も合流する予定だ。
それだけで六道達を守るはずの幸運は無効になってしまう。何故なら転生者同士の衝突では、その数の違いに関わらず幸運が打ち消し合ってしまうからだ。
それは、それを利用してウルリカやジョゼフ、成美達を始末しようとした六道もよく知っている。幸運が打ち消された後生き残るのは、準備を整えて仕掛けた方だ。そして六道達のした準備をバンダーやその影響を受けたジョゼフ達が凌駕したため、【バロール】や【スレイプニール】はあっさり返り討ちに遭ったのだ。
「……戦闘機に乗った【スレイプニール】なら空中で撃ち落とす事も……いや、死んだ者を当てにしても意味はないか」
「……これは推測ですが、このバンダーが雨宮冥によって創りだされた存在、もしくは彼女に憑いている悪霊や守護霊等に類する存在であるなら、雨宮冥を直接狙えば対抗できるのではないでしょうか?」
六道が雨宮冥を貴重なサンプルとして重要視しているのを知ったうえで、そう提案する部下に彼は怒りや苛立ちを見せる事はなかった。しかし、その提案を受け入れる事もなかった。
「たしかにその可能性はある。だが、それは化け物も分かっているようだ。【バロール】を殺す時は【エコー】等と共に毛皮の内側に、アフリカでは自身と同じ強度の装甲のバンの中に入れて守っている。
雨宮冥を直接狙うのも難しいだろう」
そして、受け入れない理由も論理的なものだったので部下達も納得して引き下がった。だが続いて六道が口にした言葉に彼等は驚く事になる。
「アフリカで撤退した部下と限定的死属性魔術師を戻し、奴らの反撃に備えるしかないな」
「っ! 奴らがここに来るのですか!?」
六道の言葉に守屋達に戦慄が走る。彼等の本拠地の存在はトップシークレット。協力者達の中でも大統領や諜報機関の長等、特に高い地位を持つ者以外は知らされていない。
それは普段は六道から距離を置いていた【バロール】のジョニーや【スレイプニール】の西鏡も同様で、彼等が知っているのは六道からの指令を受ける端末に表示されるアドレスだけだ。
しかし、そうした六道達の情報保持には大きな穴があった。
「来るだろう。【ブラックマリア】が我々の想定しなかった方法で【メタモル】に戻り、実験体と共に雨宮に合流したのだから。
彼女は、ここで改造や実験を受けたのだからね」
【メタモル】の獅方院真理だ。限定的死属性魔術使いにした実験体はまだ機密は守られていたが、彼女を完全に支配していると六道達は思い込んでいたため、彼女から情報が渡る可能性を誰も考えていなかった。そのため彼女の前でこの本拠地の場所や、内部構造について話題にしていた可能性がある。
「しかし、【メタモル】がそれを記憶しているかは不明です! それに、【メタモル】と化け物が繋がっているとは限らない!」
「いや、最悪の事態を想定するべきだ。あの化け物が、この後子供達とピクニックをして帰るとは思えない。
六道さん、予定通り協力者達を本拠地に集めましょう。異常事態が起きているのは奴等も気がついている筈ですが、まだ深刻な事態だとは気がついていないはずです。
……今更掌を返されちゃ堪らない」
【シャーマン】の守屋幸助の進言に、六道は頷いて答えた。
「ああ、そのつもりだ。それに、奥の手の準備も進めよう。想定外の脅威が出現した以上、当初の安全策は捨てなければならないだろう」
アフリカ某国のスーパーで惣菜やお菓子を買い込み、ハンバーガーやフライドチキン、ピザ等をドライブスルーで購入したバンダー一行は、海を越えて南米大陸に飛来した。
途中寄って来た戦闘機に威嚇されても、スピードと圧倒的な機動力で撒き、ジョゼフ達が待っているポイントに着陸。
デリックとパイロット二名はその姿を見て、驚愕と恐怖のあまり硬直したが、ジョゼフ達の説得で大人しくなった。
「……ジーザス。まさか六道が本当に裏切り者で、村上達を背後で操り、【バロール】や【シャーマン】も与しているとは……信じられない。成美の娘が死属性魔術を使える事にも驚いたが、それがどうでもよくなるほどの衝撃だ」
「デリック、私も同じ気持ちだけど……真実なの。冥の魔術の事はどうでもよくならないけど」
そしてデリックと成美は、ウルリカから明かされた真実に驚愕し打ちひしがれていた。ジョゼフ達の主張にも半信半疑だったデリックも、さすがに否定できなかった。
【アバロン】の六道聖は、雨宮寛人が【ブレイバーズ】を結成した時から彼を支えた、今は亡き円藤硬弥や三波浅黄同様に主導的なメンバーの一人だった。
当時は目立つメンバーではなかったが、『第八の導き』との戦いを通じて雨宮の右腕的な人物になっていった。今では【ブレイバーズ】の作戦を仕切り、国連や各国の政治家、捜査機関や諜報機関との連携、メディアへの対応等彼の働きは多岐に渡る。
彼が【ブレイバーズ】を裏切っていたとなると、致命的だ。誰も疑わず彼が出した任務に従って、雨宮達は分散し殺されるところだった。
そして、世間的にも致命的である。
「【ブレイバーズ】も終わりか。今回の不祥事は……不祥事の枠に入らない大犯罪は、隠しようがない」
『まあ、それを言うなら【ブレイバーズ】以外も終わりだと思いますけどね。主犯が六道だとしても、協力して軍を動かしている訳ですから』
落ち込むデリックに、バンのスピーカーから響いたバンダーの声が慰めのつもりなのかそんな事を告げる。
「……もし六道達を鎮圧出来たとしても、だからこそ事態の収拾のために六道を、そして【ブレイバーズ】の怠慢と過失を責めてくるだろう。自分達に世論の追及が少しでも向かないよう、生贄にするために。
実際、主犯だしな」
六道の協力者は、各国の政財界やマスメディアの大物に及んでいる。逆に言えば、彼等が我が身を守るため結託して情報操作に動けば、デリックや成美達にはどうしようもないという事になってしまう。
『その場合は、少なくとも合衆国の人に関しては俺がお仕置きしましょう』
雨宮邸を襲撃するために人員と軍用ゴーレムを出し、ジョゼフ達を撃ち落とすために戦闘機を出撃させた合衆国の六道の協力者。彼らの進退はここに窮まったのだった。
情報操作や政治工作で我が身を守る事が出来てしまった場合、バンダーによる「お仕置き」が待っている。
「めって、するの?」
『ええ、めー君のお家を滅茶苦茶にし、ジョゼフおじさん達に怖い事をしようとした悪い人たちに、滅ってします』
魂まで滅ぼすつもりは無いが、肉体的には滅するので嘘ではない。
「めーも、バンダーと一緒にめってする!」
『うーん、めー君にはまだ早いかもしれません。それに多分夜遅くにする事になるので、朝ご飯に起きられませんよ?』
「う~、じゃあ、我慢する」
『偉いですね、めー君』
お菓子を食べていた冥が「お仕置き」に反応して口を挟むと、バンダーはデリックとの会話を止めて彼女の相手に集中する。そして、納得して引き下がった彼女の頭を車内に突然生えた触手が撫でる。
「……頭がどうにかなりそうだ。お前等、よく平気だな」
きゃっきゃと喜んでいる冥から目を逸らしたデリックが、ウルリカやジョゼフ達を眺めた。ちなみに、一緒に乗っているパイロット二名は、自分達が所属する組織のお偉いさんがどんな目に遭うのか想像してしまい、震え上がっている。
「平気だなと言われても……まあ、平気だからな。いや、六道が裏切り者だと知った時は俺達もショックを受けたが」
「バンダーに関する事なら、バンダーだからな。彼の口調について気になるなら、あれは冥ちゃんに合わせたものだ。小さな子の前で殺すだのなんだの口にするのは憚られるだろう?」
「それとデリック、ちょっと前まであんたも平気な顔で飯を食ってたじゃないか」
話を振られたジョゼフ達にとって、バンダーの外見と言動は既に慣れたものだ。さすがにスーパーやファーストフード店で食料を堂々と調達するとは思わなかったので驚いたが、それぐらいである。
「おじさん、思ったより皆の事叩かれてないよ。っていうか……バンダーの事ばっかりだ」
家から持ち出した携帯端末でネットを見ていた博が、そう言いながら画面を見せる。そこでは、バンダーを撮影した動画や画像が幾つも投稿され、その正体を考察するスレッドが幾つも並んでいた。
『謎のモンスターをクルーザーから撮影!』、『高級住宅街に人の脳を啜るエイリアン現る!』、『遂に第八の導き復活か!?』、『モンスター、アフリカでフライドチキンやピザを山ほど購入!』、『エイリアンの名前はジョニー・ヤマオカ』等々だ。
「大騒ぎだな……まさか、お前さんはこれを狙って!?」
『いえ。ただ俺が姿を消すとバンを改造するのに使った俺の一部も消えてしまうので、姿を消せないだけですが』
「……そうか」
『あなた達をフォローする気持ちが、全くない訳ではありません。ジョゼフやウルリカは仲間ですし、めー君と博と無関係ではないので』
バンダーにとって、六道のせいで【ブレイバーズ】がバッシングを受ける事自体は自業自得にしか思えない。だが、それでジョゼフやウルリカが叩かれるのは理屈抜きで腹立たしい。冥や博の生活に影響が出るなら尚更だ。
そして【ブレイバーズ】だけが悪者にされ、六道に協力した共犯者たちがのうのうと生き延びるなんて許せる事ではない。
『特にめー君のお母さん、あなたはこの一件が済むまでは非常事態なので良しとしますが、終わったら家庭に仕事の苦労をあまり持ちこまないようにお願いします。
それを約束してくれるなら…………力を貸しましょう』
大好きな両親が悲惨な状況に置かれているのに、子供だけが幸福を謳歌するのは難しいだろう。
そう考えるバンダーにとって、雨宮夫妻の幸福は「義務」だ。少なくとも、子供相手に隠せない程の悲惨さや不幸ではない状況になければならない。
だから、そのためなら雨宮夫妻に関わり力を貸す事も厭わない。
「言われなくても、博と冥を守るためなら何でもするわ。私は、二人の母親だもの」
冥が死属性魔術を使える事を知った成美だったが、彼女はその事自体を問題視しなかった。元々彼女は死属性自体が悪だと考えているのではない。
問題は新たな死属性魔術師をこの世界の人々がどうしようとするかだが……それを踏まえて子供達を守るためなら何でもすると彼女は覚悟を決めたのだ。
「寛人もきっとそう考えてくれる。もしそうでなかったとしても、私が絶対に説得するわ」
『それを聞いて安心しました』
最悪の場合は脳改造も視野に入れていたので、バンダーは心から安堵した。そして、ゴトリと成美とデリックの前に棒状の金属を落す。
『それはジョゼフに渡したパワードスーツの試作品です。デザイン性は皆無ですし、身体能力の上昇率や魔術媒体としての性能は数段下がりますが、現行のパワードスーツとは比べ物にならないはずです。
貸し出すので、使ってください』
「デザイン性が皆無だと!? それはありがたい!」
「あ、ありがとう」
パワードスーツ……粗製変身装具を受け取った成美は、バンダーの正体に思いを巡らせた。死属性魔術を冥に教えているという事は…バンダーはもしかして彼なのではないかと。
その頃、雨宮達は【メタモル】の獅方院真理達と共に廃墟から移動していた。
雨宮達にとっても六道が自分達を裏切り、あろうことか非人道的な死属性魔術研究を行っていた事は信じ難かった。しかし、六道に拉致され洗脳を受けていた真理の言葉は説得力があり否定できるものではなかった。
彼女は実際に六道に変身し、自分が影武者として何をしたのか事細かに説明してみせた。その言葉を証言とするなら、十分な証拠能力がある。物的な証拠としては【アレス】の杉浦が目の前で彼女を殺そうとしたのが、何よりの証拠だ。
それに、テロリストがいるとされた建物の中には、この場に居ないはずの【倶生神】のダーや、【アルテミス】のキャサリンの死体が残っている。
そして真理達の言葉を信じて雨宮達が廃墟から移動したのは、作戦の失敗を知った六道やその協力者が廃墟を爆撃する等して証拠の隠滅や、自分達の抹殺を図る可能性があったからだ。
……実際、雨宮達が離れてしばらくした後、廃墟がある方角から爆音が響き、煙が上がっているのが見えた。
「多分、地元政府だな。人が住んでいないからって、派手にやるもんだぜ」
【タイタン】の岩尾がジープを運転しながらそう吐き捨てる。
「ところで、これから何処に向かうんだ? 六道達の本拠地は何処にある? やっぱり合衆国か? それとも南極や北極?」
「たしか、六道は中華共和国からゴーストタウン化した住宅地を一つ買い上げて、演習場として使用していたが、そこか?」
ジープの運転席と助手席で岩尾と雨宮が後部座席にいる真理に問いかける。
「んっぐむぐむ~んおんうお」
「……すまない、食事中だったな」
真理はキャサリン達が持ちこんでいた携帯食料で、食事をとっていた。
【アレス】に頭部を破壊された時、魂で思考する事が可能な彼女はあらかじめ予備の頭部を作り、すぐに交換する事で難なく生き延びて見せた。
その光景を見た雨宮達は、彼女が限りなく不死に近い存在だと思い込み、その後の彼女の説明を聞いた。【ブレイバーズ】と共同で任務にあたるはずだった特殊部隊の隊員も、彼女が不死身だと思い込んだから大人しく説明を聞き、結果的に彼女の言葉を信じるに至った。
しかし、真理は彼等が思う程不死に近くない。【メタモル】の応用で自分の脳や心臓の予備を作る事は出来るが、それらの材料は彼女自身の血肉なのだ。血や骨、脂肪や筋肉の一部を【メタモル】で変化させて作っているのである。
誰かが新しい頭部を作って交換してくれたわけではない。
【アレス】に首から上を破壊され新しい頭部と交換した真理は、外見は傷一つないように見える。しかし、実際には破壊された頭部の分、体重が軽くなっているのだ。
当然、同じ事を二度三度と繰り返せば予備の臓器を作る余裕のなくなった真理はそのまま死んでしまう。
それを隠して平気な顔をしていたのは、雨宮達が信用できなかったからだ。少なくとも、自分達の言葉を聞いて信じてくれるまでは。
そして、信じてくれた今は信用して弱点を明かし、失った分を取り戻すために食事をとっているのである。
「六道の本拠地は、合衆国でも南極でも北極でもありませんよ。研究所はあったようですが、既に放棄されています」
「中華共和国のゴーストタウンは、万が一疑われた際の擬装だそうです」
後部座席に真理と一緒に座っているユキジョロウとガブリエルが、彼女の代わりに答えた。彼女達は一貫して雨宮達を警戒しており、真理から離れようとしない。離れたら分断されて別々に拉致されるのではないかと疑っているのだ。
そのため、ジープの後部座席はかなり窮屈な事になっている。
「それじゃあ、何処に向かえばいい? 言っておくが、このジープは海を渡る事は出来ないからな」
「ハハハハ、そんな事は知っていますよ」
朗らかに笑いながらボコールが答える。
「今は、奴らに捕捉されないように移動しながら、神と聖女の降臨の時を待っているのです。あなた方も、時が来れば分かるでしょう」
「神と聖女……君達に力を与えたというバンダーと、僕の娘の冥か」
「そう、神と聖女です」
ボコール達は、バンダーと冥についても説明していた。夢の中にバンダーと冥が現れ、自分達を救ってくれたと。雨宮達にとって六道の裏切り程ではないが、驚愕に値する証言だった。しかし、ある意味では納得できる言葉だった。
夢という防ぎようもない接触なら、巧みに正体を隠し続けた六道が裏をかかれても仕方がないと思えたのだ。
「君達が冥を神聖視するのは自由だが、僕は冥の父親である事を辞めるつもりはない。それは理解して欲しい」
「ハハハハハハ! 当然でしょう。別に我々はあなたが聖女の親である事を否定したい訳でも、あなたから聖女を引き離したい訳でもないのですから!」
「君は随分と楽しそうだが、何故だ?」
「そう見えますか? 不快でしたら申し訳ない。奴らに脳を弄られた副作用で、つい笑ってしまうのです」
「……すまない、悪い事を聞いた」
「いえいえ、お気になさらず。僕もあなたの事を気にしていませんから」
ボコールが常に微笑んでいたので雨宮は、彼は自分達に対して警戒を緩めたのか真理達を代表して会話を交わす役割なのかと思っていたが、そうではなかったようだ。
「あー、この三人は結構デリケートな所があるから、あまり踏み込んだ質問はしない方が良いわよ。まあ、私が食事に夢中だったせいだけど」
「いや、気にしないでくれ。僕が無神経だった。
それより、冥達はどうやってここまで来るつもりなんだ?」
「場所は連絡したから大丈夫。通信機の周波数を調整して、バンダーに連絡したから」
「……彼にはアンテナも生えているのか?」
「電波じゃなくて魔術の通信の方だけどね。夢で聞いたの」
「彼が、何故冥についているのか、知っているか?」
「それは知らない。会話は夢でしかした事ないから」
「そうか……」
冥がバンダーの名前を口にするようになってから一年以上。正体不明の存在が娘と共におり、私生活を見られていたかと思うと雨宮の心労は大きかった。
「ところで、君のその姿は? 随分と若作りなようだけれど」
「【メタモル】で若い時の姿にしただけ。態々老けた顔を作る理由もないでしょう?」
そのため少し現実逃避をして、二十歳前後程の姿になっている真理にそう質問したとしても無理もないだろう。
「私としては、あなたが私達を思ったよりすんなり受け入れた事に驚いたけど。あなたが『死属性は存在してはいけない』みたいな事を何度か言ったのを、六道の影武者をしている時に聞いた覚えがあるから」
「その時も君だったのか……僕の親友は本当に幻だったようだね。
死属性については、今もそう思っているよ。ただ、それは死属性の力を使うための非人道的な人体実験等、悲劇を繰り返したくないからだ。
既に存在する死属性魔術師の君や、ボコール達の存在を認めないとか、そういうつもりで言った訳じゃない」
これ以上の悲劇を繰り返さないために死属性は存在しない方が良いと雨宮寛人は考えている。だが、既に存在する死属性魔術師に対して、存在しない方が良いと主張している訳ではない。
悲劇を繰り返さないために冤罪は存在してはならないと主張したからといっても、冤罪を生み出した警察官や被害者を物理的に抹殺し、情報を隠蔽して冤罪を存在しないようにしようと主張している訳ではないのと同じだ。
「君達も、悲惨な悲劇を繰り返して死属性魔術師を増やしたいとは考えている訳ではない……あれは何だ!?」
雨宮は言葉を途中で切ると、空を指差した。そこには、こちらに高速で近づいてくる黒い翼を広げた何かの姿があった。
次第に見えてきたそれは、青空に目立つ黒い身体をしており、六本の脚で黒塗りのバンを吊り下げていた。航空力学を完全に無視している。
他の【ブレイバーズ】や特殊部隊の隊員たちも気がつき、このまま逃げるか迎撃を試みるべきかで迷った。
「あ、あれはもしかしてバンダー、か?」
「もしかしなくてもバンダーよ! 皆、バンダーやあのバンを撃つんじゃないわよ!」
「おお、神が! 神が降臨された!」
こうして六道に対しての脅威は集結したのだった。
拙作の書籍版5巻が発売しました! 書店で見かけた際には、手にとっていただけたら幸いです。
次話は四月二十三日に投稿する予定です。




