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四度目は嫌な死属性魔術師  作者: デンスケ
第十二章 魔王の大陸編
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閑話44 それぞれの神

 【ペルセウス】と【韋駄天】が正式にヴァンダルーの仲間になった。

 既に彼等はヴァンダルーに導かれていたので、その瞬間をロドコルテは見ていないし、気がついてすらいなかった。だが、もし知ったとしても大した事ではないと割り切っただろう。


 サルアとジークが前世の記憶と人格、そして力を取り戻す前にヴィダル魔帝国へ移住してしまった段階で、ヴァンダルーに導かれてしまうだろうと予想したからだ。ロドコルテにとって、二人は既に戦力ではなかったのだ。


 ロドコルテが今現在頭を悩ませているのは、サルアとジークではなくカナコ・ツチヤについてだった。

『まさか……よりによって、何故彼女が導士に覚醒するのだ!? 『オリジン』ではその素質の片鱗も見せていなかったはずだろうに!』

 カナコが導士ジョブに就いたのを、ロドコルテは彼女を見る人間の目を通して気がついた。『弦の神』ヒルシェムが『法命神』アルダにもたらした報告も、その事を裏付けている。


『導士と言えば、ラムダでは勇者の条件……就いた者は例外なく時代に足跡を残し、名を刻むと言われているジョブのはずだ。それを、何故彼女如きが!?』

『いや、流石に言い過ぎじゃないか? 俺も驚いたけど』

 頭を抱え懊悩しているロドコルテに向かって、御使いとなった転生者の一人、亜乱がそう言うが、彼にその声は届いていないようだ。


『しかし、あのカナコがねぇ。女は化けるって言うけど、こういう意味で化けるとは思わなかった』

 亜乱は前世でも『地球』でも、カナコとそれ程親しい訳ではなかった。前世では彼女のパートナーのムラカミに殺されたので、敵同士に近いと言えるかもしれない。


 しかし、それを抜きに考えても【導士】ジョブに就けるような素質、英雄を連想させるような求心力は彼女にはなかったように思える。

 【ブレイバーズ】を裏切った後も、リーダーはムラカミで彼女がリーダーシップを取った事はなかったはずだ。


『確かにそうね。まさか芸能活動で導士になるなんて。導士って、あの世界に無かった思想を持ちこんで広めれば誰でもなれるようなものなの?』

 『オリジン』でのカナコを思い出してしみじみと言う亜乱に、彼と同時に御使いとなった転生者、泉が訊ねた。だが、それに答えたのは亜乱ではなく、二人の後に御使いに加わった【オラクル】の円藤硬弥だった。


『なれるだろうね。だけど、思想や文化を持ちこんで広められる時点で、『誰でも』とは言えないと思うよ。実際、アサギやマオは導士になっていない』

『いや、あいつ等がアイドルになるとは思えないんだが』

『そういう事が言いたいんじゃない。私達はあの世界に存在しない『地球』や『オリジン』の思想や文化を知っているけれど、それを広める事が出来るかは別の問題だという事だ』


 異世界からの転生者達は、当然異世界の知識と価値観を持っている。しかし、それを転生した先で広められるかは別の問題だ。


 まず、その技術と思想、価値観についてある程度以上の知識が必要だ。広めるとは、ただ「こんな考え方もある」と大声で叫び、人々の耳に強引に入れる事ではない。

 人々にその思想、文化を理解してもらい、支持されて初めて「広めた」と言えるのだから。


 次に、人々に広めるための実績や活動、知名度、名声やカリスマ性等が必要だ。何処の馬の骨とも知れない者が口にする主義主張が、支持されるはずはない。

 カナコだって、ヴィダル魔帝国や魔大陸、モークシーの町でコンサートを行って初めて導士になる事が出来たのだから。


『つまり、彼女が導士になれたのは半分ぐらいヴァンダルーのお蔭という事ね』

 泉の言う通り、カナコが導士になれたのはヴァンダルーの援助があったからだった。

 ヴィダル魔帝国ではコンサート会場にクノッヘンを、照明などの機材代わりに自らの分身である使い魔王を、それ以外にも様々なものを貸し与え、衣装である変身装具も作っている。


 それに最初から大きなコンサートを開けたのは、彼女の力ではなくヴァンダルーとダルシアの力があってこそだ。

 ヴァンダルーが協力していなければ、カナコのアイドル活動はずっと小規模だっただろう。


『ああ、短期間で導士にまでなれたのは、ヴァンダルーが協力したからだろう。でも、協力がなくても彼女は何れ導士にまで至っていたと思うよ。

 彼女の行動力には、目を見張るものがある』


 ヴァンダルーが協力していなくても、カナコならいつか導士に至っていたと言う硬弥に、亜乱と泉は『確かに』と頷いた。

『行動力はある。ヴァンダルーがどんなに協力していても、カナコ自身が動き出さなかったら今の状況は生まれなかっただろうな』


『ヴァンダルーだけならアイドル……芸能活動に手を出す事はなかったでしょうからね』

 『オリジン』でアイドルだったため、アイドルや芸能界の知識を持つカナコが率先して動いたからこそ、『ラムダ』世界にアイドル文化が広まり、彼女は導士に至った。


 硬弥が評したように、カナコの行動力は優れていた。『ラムダ』に転生した直後、それまで仲間だったはずのムラカミを裏切り、ダグとメリッサを引きこんで逃亡。そしてヴァンダルーに寝返った。

 普通なら出来ない行動力と、何よりも太い神経と度胸を持っている。


 前世では敵同士になってしまった硬弥達としては苦笑いが浮かぶが……カナコのそうした長所は、彼女が自由に行動できる状況で初めて発揮される類のものだったのだろう。

 【ブレイバーズ】では、発揮する場が限られていた。


『しかし、カナコの導きには輪廻転生システムを移動させるほどの力は無いんだろ? なのに、ロドコルテが頭を抱えているのは何でだ?』

『亜乱、普通は導きに自分の魂が属している輪廻転生システムを移動させる力は無いから。カナコの導きに力が無いんじゃなくて、ヴァンダルーが異常なのよ』


 カナコの芸道に、人々をヴィダ式輪廻転生システムへ導く力は無かった。しかし、泉が言う通りそれが普通の導士だ。

 だからカナコがステージに立つ度に、大量の人間がロドコルテの輪廻転生システムからヴィダ式のシステムに乗り換え、エラー音の多重奏がロドコルテの神域に響くのは避けられていた。


 だが、今は幾つものエラー音が鳴り響いていた。

『カナコに導かれた人は、ヴァンダルーにも導かれ易くなっているようだ。ヴァンダルーが舞台の上で少し話しただけで、これだから』

『なるほど。もし『ラムダ』にCDやテレビ、ネットがあったら、一気に人類全体が導かれていただろうな』


 『ラムダ』世界の人類は、『オリジン』や『地球』と違って共通の文化が浸透しやすい。何故なら、言語が統一されているからだ。

 地方によっては方言ぐらいあるが、微々たる違いだ。もしカナコが全国ツアーをしたら、『オリジン』や『地球』とは違い言葉の壁に邪魔されず世界中で音楽を聞かせる事が出来る。


 そうしてカナコに導かれた人々は、ヴァンダルーに容易く導かれてしまう。カナコの音楽が、ヴィダの聖歌だと偽っているせいもあるが。

『それもあるでしょうけど、ヴァンダルーに重要人物を三人……いいえ、二人導かれたのが痛いみたいよ』

 泉はそう言ったが、それは正確ではなかった。


 『弦の神』ヒルシェムの英雄候補、エディリア。『陽炎の神』ルビカンテの英雄候補、カルロス。この二人がヴァンダルーに導かれていた。

 二人はロドコルテの加護まで受けていたと言うのに……。


『やっぱり、名前だけ教えて形だけ祈らせて加護を与えても、大した抑止力にはならなかったって事だよな』

 エディリアとカルロスは【ロドコルテの加護】を持っていたが、本質的にはロドコルテの信者ではない。守るべき教義も何も課されていないので、二人にとってロドコルテは正体不明の何かでしかないのだ。

 そのため、二人は精神的な抵抗もせずカナコとヴァンダルーに導かれてしまった。


 ちなみに、ロドコルテは既に二人から【ロドコルテの加護】を回収している。


『【ロドコルテの加護】には、ヴァンダルーに導かれるのを妨げる効果は全く無い事は同意する。でも、それより『真なる』ランドルフが半ば導かれているのが、アルダ勢力にとっては大打撃だと思う。

 元々味方だと思っていなかったようだが、敵に回るとは考えていなかったようだし』


 硬弥の言う通り、『法命神』アルダは、ランドルフを味方だとは最初から考えていなかった。だが、敵だとも考えていなかった。

 ハインツ達『五色の刃』に課した試練のダンジョンでは、シュナイダー達『暴虐の嵐』同様にランドルフのコピーを創りだして戦わせる予定だったが、それは彼が何れ敵になると本気で考えていた訳ではない。


 ただハインツ達を鍛えるのに、超えるべき壁として丁度良い存在だったので、コピーと戦わせようとしただけだ。

 しかし、そのランドルフが半ばだが導かれている。これは大問題だった。

 オルバウム選王国では、未だにランドルフの名声は高く、貴族とのパイプもランドルフ本人は煩わしく思っているだろうが、太い。彼がヴァンダルーの味方になれば、ハインツは戦力以上に名声や政治でも不利になってしまう。


『今のところはまだ半ばだが、今後はどうなることか』

『完全に導かれる前に、ヴァンダルー達の名声がそのランドルフを超えるかもしれないわね』

『ああ、それはありえそうだよな』

 硬弥の説明に泉がそう言ってケチをつけ、亜乱が頷く。


 ボティンやペリアを守る神々の防衛隊の事は、彼等の話題に上がらない。何故なら、防衛隊が守る場所に人間が存在しないため、情報が入って来ないからだ。

 尤も、ステージの上で楽器を演奏するヴァンダルーの様子を見れば、旗色が悪いのは防衛隊の方だと分かる。……余裕がなければそんな事は出来ないだろうから。




《【楽器演奏】、【能力値強化:被信仰】、【能力値強化:ヴィダル魔帝国】スキルのレベルが上がりました!》




 ヴァンダルーが演奏者に加わったステージは大成功だった。

 普段のステージにヴァンダルーが加わり、トークの合間に境界山脈内部や魔大陸に伝わるヴィダの逸話を少しアレンジして話し、ルドルフが汎用変身装具で変身して見せる等、普段の舞台と比べると少し変わっていたからかもしれない。


 少なくとも、カナコが忙しかったためにガルトランドの氷雪系巨人種とアンドロスコーピオンの国で開いた、ヴァンダルーと使い魔王のみのステージのような事にはならなかった。

 拙い演奏技術を補うため、使い魔王の数が増やされ多種多様な異形がステージの上で蠢……踊り、ヴァンダルーが歌とは言えない何かを披露する。


 念仏のように一定の高さの声で延々と発せられる、愛と平和を訴える歌詞。それを聞いた観客達は歓声をあげながら立ち上がり、ヴァンダルーを称えた。

 そうして正気を失った観客達によって、氷雪系巨人種の国では壁に巨大なヴァンダルーの壁画が刻まれ、アンドロスコーピオンの国で広大な地上絵が描かれた。


 それぞれの長が約束したように、確かに像は作っていないが……ヴァンダルーがそれを見た当時は途方に暮れた。

 そうした事がモークシーの町で起こらないように、ヴァンダルーは演奏しかしなかったのである。


 常識的な範囲で成功したステージだったが、やはりルドルフはその日の内に旅立ってしまった。吟遊詩人の彼が他の町でカナコが教えた技法で曲を奏でれば、それだけ彼女の音楽が広まるので狙い通りではあるのだが。

 ……ランドルフの変装は、結局最後までばれる事はなかったのだった。




 アルダ勢力では『弦の神』ヒルシェムが、隔離される事になった。

 ヴァンダルーに導かれたカルロスから加護を取り上げた『陽炎の神』ルビカンテと違い、エディリアに加護を与え続けたために下された処置だったが、これは罰ではなかった。


 エディリアは自身の信者として間違った事は何一つしてないと。そんな彼女から、一度与えた加護を取り上げる理由はない。そう訴えたヒルシェムの意思はアルダに認められたが、アルダ勢力の神々の情報をエディリアに神託の形で渡されてはたまらないので、他の神々から隔離されたのだ。


 ただ、エディリアがヴァンダルーの仲間としてアルダ勢力の神々の信者や、神々及びその眷属と戦うような事になった場合、改めて加護を引き上げる事を迫られる事になるだろう。




 ヴァンダルーから手紙の返事が届いた。

 そう聞いたセレンは期待に胸を膨らませて、手紙の封を切り、読み始めたが……すぐに首を傾げる事になる。書いてある内容が、すごく難しかったのである。


「……読めない漢字がいっぱいあって、何て書いてあるのか分からない」

「どれどれ……これは難しいね。大人の書いた手紙でも、ここまで難しくはないだろうに」

 セレンから手紙を受け取ったピエトロ・ファゾン高司祭は、文面を見て苦笑いを浮かべた。


 ファゾン公爵の甥であるため高度な教育を受け、ヴィダ神殿の高司祭を務める彼でも、すぐには意味が分からないぐらい手紙の文面は難解だった。

 現代では使われていない言い回しが幾つかあり、まるで古文書を読んでいるかのようだった。


 だが、幸い彼にとっては辞書を開いて解読作業をするほど難解ではなかった。文面を読み解いたピエトロは、呆れたように息を吐いた。

「何が書いてあったの?」

「それがね、セレン……ヴァンダルー君は、忙しいから君には会えないそうだよ」

「そうなんだ……」


 残念そうに肩を落とすセレンの頭を撫でると、ピエトロは「さ、そろそろお勉強の時間だよ」と彼女に退室を促す。


 セレンが部屋から出ると、ピエトロは溜息を吐いてもう一度手紙の文面に視線を落とした。

 セレンには「忙しいから会えない」と書いてあると言ったが、実際にはもっと踏み込んだ内容が書いてあった。

「自分はヴィダ原理主義……今時珍しいが、アルダ融和派を受け入れない主義なので、会う事は出来ない。周囲の大人にもそう伝えてください、か。

 私達に読ませるために、故意にセレンが読めないような文面にしたのか? それとも、ただセレンに手紙を読ませたくなかったのか……後者ならかなり大人気ないな」


 ヴァンダルーの意図はともかく、その意思はアルダ融和派に好意的なヴィダ神殿の宗派を纏めるピエトロとしては、歓迎出来ないものだった。

 しかも、ヴァンダルー達が滞在しているアルクレム公爵領では、ヴィダの新種族について大改革が行われると言う情報が、間者からもたらされている。


「ハインツ、早く君が戻って来ないと、ファゾン公爵家として動かなければならなくなるぞ」

 ピエトロは虚空に向けてそう呟いた。




 彼等は鍛錬を、そして実戦を繰り返してきた。その経験は冒険者となって間もない彼らの糧となり、実力は以前よりも数段以上高いものとなった。

 その彼らは、今日新たな試練に望むはずだった。


 偶然……実力の伴わない幸運によってD級へと昇格したが、次の昇級試験こそ自分達の実力が試される。そして、その試験ですら、ただの通過点に過ぎない。

 彼らの友が必要とするのは、B級冒険者が持ちえない強大な力。彼らの神が期待するのは、彼等がその領域に達する事だ。


 だからこそ、B級への昇格試験は必ず合格しなければならない。

 これまでの昇格試験の内容に関する情報を収集し、山賊団を退治して人が殺せるか否か覚悟を試すのか? それともランクの高い魔物をダンジョンで一定数狩ればいいのか? それとも貴族の護衛をさせる事で、これから関わる事も多くなるだろう上流階級と円滑なコミュニケーションを取れるかどうか確かめるだけでいいのか?

 様々な想定を重ね、準備してきた。


 しかし、現実は彼等に予想しなかった試練を与えた。

「えー、本日行われる予定だった君達『ハート戦士団』のB級冒険者昇格試験は、中止となりました」

 ギルド支部長ベラードの言葉に、冒険者パーティー……各々の装備に必ずハートマークを刻んでいる事から名づけられた『ハート戦士団』の一人、アーサーは愕然となった。


「そんな、馬鹿な。いったい……何故中止なのですか、ベラード支部長?」

 だが、すぐに驚きから立ち直ると、まず何よりも理由を知らなければならないと、強い意志を込めて一歩踏み出す。ただ、決して脅迫と取られないように静かに、落ち着いた口調を心掛けていた。


「儂等もこの日の為に準備してきた。それをいきなり中止と言われても、簡単には納得できん。訳があるなら、聞かせて貰わんとなぁ」

 パーティーの魔術師でアーサー達の幼馴染、ドワーフのボルゾフォイもフレンドリーな笑顔を浮かべて尋ねる。


「兄さん、ボルゾフォイ、試験が中止でも別に構わないじゃない。それならそれで、幾らでもやれる事はあるでしょう?」

 しかし、アーサーの妹のカリニアは二人を宥めようと、そう提案する。それを聞いてアーサーとボルゾフォイは、支部長のベラードが押し黙ったまま後さずっている事に気がついた。


「……たしかに、その通りだ」

「フハハハ! まったくじゃ!」

 無意識に威圧してしまったようだが、謝るのも気まずい。そう思ったアーサーは踏み出した足を元の位置に戻し、ボルゾフォイは朗らかに笑って誤魔化そうとする。


 そしてベラードは、アーサー達三人ではなく、『ハート戦士団』のリーダー、ミリアムに視線を向けた。

「……それで、翻訳してくれないか?」


「はい! アーサーさん達は試験が中止になった事に裏があると勘ぐっている訳ではなくて、言葉通り突然試験が中止になって動揺しているだけです!

 カリニアさんの言葉にも裏は無くて、アーサーさんとボルゾフォイさんが支部長さんを困らせないよう止めようとしただけだと思います!」


 キビキビと翻訳する弓使い兼盗賊の少女、ミリアムによるアーサー達の翻訳を聞いて、ベラードは胸を撫で下ろした。……試験が中止になった事に何か裏があるのではないかと勘繰られているのではないか、そしてカリニアが非合法な手段を用いて何かするつもりではないかと思っていたからである。


 本来なら、ベラードは冒険者になってまだ一年も満たない若造共に威圧される程軟な男ではない。

 しかし、生来強面のアーサーに、美女だが目つきが悪いカリニア、そして痩身で髪が薄く怪しげなボルゾフォイの三人は別だった。

 モークシーの町に来た時点で等級に合わない実力の持ち主である事は、察していた。しかし、その高い実力を短い時間で更に高め、それに合わせて眼力や存在感まで強めているのだ。


 今のアーサー達は「泣く子も黙る」程度ではなく、「泣く子の悲鳴を聞いて駆けつけた衛兵も黙る」程の迫力を備えているのである。

 彼等のリーダーがミリアムでなければ、ベラードはストレスで胃を痛めていたかもしれない。


「そうか、分かった。だが安心して欲しい。試験が中止になったのは、審査員として参加する貴族の都合がつかないからだ。ギリギリまで探したが、誰も彼も忙しいらしくてな。

 冒険者ギルドとしては、何の裏も思惑も無い」


 D級への昇格は人を殺せるか否かの試験だが、B級への昇格試験で問われるのは上級冒険者になれば接する事が多くなる貴族と良好な関係を維持できるか否か。そして、ギルドの組合員として正しい判断を下せるかを試す試験となる。


 護衛依頼で何日も貴族と接しなければならないのに、依頼の遂行に問題が生じる程険悪になってしまう事や、貴族が非合法な行為をしていても見逃すような事があっては困るからだ。


 そのため、冒険者ギルドは審査員として貴族やその子弟に協力を打診し、将来有望な冒険者と繋がりが欲しい貴族が参加するのが慣習となっている。

「忙しいから、ですか? まだ夏なのに?」

 ただ、勿論貴族にも忙しい時期と時間のある時期がある。ただ、結婚式などの行事や戦争などの非常事態がなければ、春から夏は領地持ちの貴族は比較的自由になる時間が多い時期だ。忙しくなるのは農地の収穫が終わる秋から始まる社交シーズンからになる。


 それを知っていたミリアムが、思わず聞き返す。そしてアーサーには、普段よりも貴族が忙しい理由に心当たりがあった。

「それは、アルクレムで起きた事件のせいでしょうか?」

 アルクレムで起きた悪神復活……実際には、復活したのは悪神フォルザジバルではなく、邪悪神ゼーゾレギンだが情報操作の結果、世間的にはそう解釈されている。


 その事件の後始末のせいで貴族達が忙しいのだろうかと聞いたアーサーに、ベラードは「それもあるだろうが、全ての原因じゃない」と答えた。

「まあ、お貴族様達が忙しいと言っているのだから、そうなんだろうと納得するしかないんだが」

 貴族達の行動には多少の裏があるだろうとベラードは見ている。


 アルクレム公爵が進めている、ヴィダの新種族に関する改革で本当に忙しい、モークシー伯爵のような貴族も少なくない。だが、中にはアルダ神殿との結びつきが強い為、聖母と称えられるダルシアやその息子のダンピールがいるモークシーの町の冒険者ギルドに、協力したくない貴族も多いはずだ。


 しかし冒険者ギルドの支部長としては推測だけで貴族達の動向を軽々しく論じる事は出来ないので、アーサー達には話せない。

「まあ、試験の事はもう少し待ってくれ。協力してくれる貴族が見つからない状態が続くようなら、領主様に頼み込んで紹介してもらおう。君達には、速いところB級に上がって欲しいからな」


 そう言われて、ミリアム達は支部長室から退室した。

「でも、私なんかがB級への昇格試験なんて……まだ信じられません」

 階段を下りて一階へ向かいながら、ミリアムがそう口にする。彼女はアーサー達と初めて会った時、何処にでもいる新米、ただのE級冒険者だった。それから一年も経っていないのに、今やB級への昇格試験を受けられる程のC級冒険者にまでなった。


 冒険者としては、十分勝ち組だ。


「ミリアムさん、もっと自信を持ってください。あなたの成長は私達『ハート戦士団』の中で一番じゃないですか」

「そうじゃ。今の儂らがあるのは、ミリアムのお蔭じゃ」

「ええ、そうよ。あなたは私達のリーダーなんだから」

 それ以上にミリアムが信じられないのが、自分が彼等のリーダーになっている事だった。前の自分に、未来はこうなると話したら、絶対信じないだろうなと彼女は確信している。


「いえ、それはあんなに加護を貰っておいて、成長しなかったら逆に変というか……」

 しかも、ミリアムはアーサー達にそれぞれ加護を与えている神、『雨雲の女神』バシャス、『闇夜の女神』ゼルゼリア、『影の神』ハムル、そしてヴァンダルーから加護を得ている。


 ミリアムが知る限り、これ程多くの神々から加護を与えられた者は存在しない。それなのに成長しなかったら色々とダメなのではないだろうかと、彼女は思った。


「それに、もっと強くならないといけませんから」

 彼女に加護を与えた皇帝、ヴァンダルーが治める国ではとんでもない事に、戦う事を生業とする者はC級冒険者相当の実力を持つ事が、一人前の条件とされている。冒険者の中でも、ある程度の才能の持ち主か、才能の乏しさを補える努力家しか到達できない、C級冒険者がだ。


 何度か訓練でその国、ヴィダル魔帝国にミリアム達は行っているため、彼女はそれが分かった。実際、あの国にはC級冒険者相当の実力者は珍しくない。


(ラーメン屋のオーナーのブラガさんの本業が顔剥ぎ魔なのは驚いたけれど。それを例外にしても、あの国じゃ、C級冒険者でも普通の人扱いなのよね)

 だからミリアムはもっと強くなりたいと思ったのだ。自分なんかを慕ってくれるアーサー達のリーダーとして、そして自分を評価し期待してくれている神々に応える為に。


「確かに……ヴァンダルー君から戦力として評価されるには、最低でもA級冒険者相当の実力が必要でしょう。素晴らしい目標の高さです。自信を持てとは、私自身に言うべきでした」

 だが、アーサー達はミリアムの言葉を若干誤解して受け取ったようだ。ヴィダル魔帝国でも評価される力が欲しいと言うミリアムの言葉を、何故か「ヴァンダルーから戦力として評価される強さが欲しい」という意味だと解釈してしまった。


 それはアーサー自身が、『共食いと強奪の邪悪神』ゼーゾレギンとの戦いの時、一戦力として戦える程の力が無かったと自己評価しているからこその誤解だった。

「え? アーサーさん、何を言っているんですか?」

 だが、誤解は加速していく。


「なんと、ミリアムは評価されるだけでは足りないと……神々の戦場で戦力として活躍できる強さが目標だというのか。流石、儂等のリーダーじゃ」

 何とボルゾフォイは、ミリアムも目標は骨人やボークス、ゾッドやゴドウィンのような戦力として、ヴァンダルーが最近臨んでいる神々相手の戦場で活躍する事だと思ってしまった。


「神々と戦える程の強さを求めるなんて……ミリー、私はあなたの真友で本当に良かった。私達もあなたに負けないように頑張るわ」

「いやあのっ! 絶対何か誤解していますよね!? 神々と戦えるって、S級じゃないですか!?」

「そうね、S級を超えましょう!」

「ああああ! やっぱり何か勘違いしてるぅ!」


 階段で騒ぐミリアム達『ハート戦士団』の声は、一階にいる冒険者達の耳にも届いていたが……誰も冷やかしに行こうとは思わなかった。


「また『ハート戦士団』が騒いでるぞ」

「あいつ等、真面目なんだけどそう言うところあるよな」

「チッ、サイモンといいナターニャといい、あのヴァンダルーが絡んだ奴らは、変わり者が多いよな」

「ちょっと、止めなさいよ。……すぐ近くにいるんだから」


 舌打ちをした冒険者が仲間に言われて振り返ると、ギルド内に設置された酒場で昼間から酒を飲んで管を巻いている男とその仲間、そしてヴァンダルーの後頭部が見えた。


「……あいつも変わり者の仲間入りだな」

 男はそう言うと、依頼書が張り出されたボードに視線を戻した。

11月6日に次話を投稿する予定です。

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― 新着の感想 ―
まあ、戦闘に向いてなさそうな神まで駆り出したアルダ側がアホやねんw
某魔皇帝「民意には抗えませんでしたorz」
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