二百八十四話 襲撃の合間に育つ者達
ジョブチェンジを終え、【芸導士】ジョブに就いたカナコは鼻歌を歌いながらダンジョンから、ヴァンダルー宅の地下室へと出た。そしてそのまま、レッスン場として使っている倉庫へと向かった。
「いやー、身体が軽いですね。足が勝手にステップを踏んじゃいますよ」
神々によって召喚された伝説の勇者達が全員就いていた事から、後世では勇者の条件とされる【導士】系ジョブ。そのジョブに就けば、貴族どころか王族でも蔑に出来ない影響力を持つとされる。そのジョブに就いた自覚は、カナコにはあまりない。
【導士】になる事自体が、偉業でもあるのだが、カナコにとって重要なのはスキル補正とその効果だ。能力値の成長はこれからだから分からないが、【芸導士】のスキル補正によって【舞踏】や【歌唱】スキルが早速上がった。これから導きの効果で、レッスンしている現地採用メンバーにも効果が表れるかもしれないのだから、楽しみで仕方がない。
「短期間で身に付くレッスンが実現するのは良い事ですからね。前とは違って、地道な下積み時代を何年も続ける余裕はないですし」
前とは、『地球』や『オリジン』の事を指している。カナコが今生きている『ラムダ』では、人間社会では一般的に十五歳で成人として扱われる。そして、二十五歳になっても独身だと、年増扱いだ。
カナコのようにダークエルフ(実際はカオスエルフだが)のような長命種ならそうでもないが、人種だと芸能活動できる期間は短いのだ。
それに、CDやDVDがまだ存在しないし、写真集等の出版物も一般的ではない。アイドル本人が稼ぐには、ステージに立つしかないのだ。
「迂闊に握手券とか売ると、勘違いする人が続出しそうですしね。水着グラビアや抱き枕は、わいせつ物扱いでしょうし。……いや、水着グラビアぐらいなら平気かも」
この世界にはビキニアーマー等、露出の高い鎧が流通している。その殆どはマジックアイテムであり、露出部分も一定以上の防御力があるか、防御の薄さを補う効果がある。そして、その形状は名前の通りビキニタイプの水着そのもので、違うのは素材と厚さぐらいだ。
それを着て歩いても衛兵に捕まらないという事は、水着グラビアぐらいなら問題ないのではないか? そう考えたカナコだったが、それ以外にも問題がある事を思い出した。
「……現在の技術力を考えると、あたしが望むクオリティを出す為にはヴァンに作ってもらうしかないので、わいせつ物扱いされなくても、流石に頼めませんね」
カナコとしては水着姿のグラビアや、ステージ衣装姿の抱き枕を恥ずかしいものだとは思っていない。だが、それを撮影し、印刷するのが使い魔王……ヴァンダルーと意識の繋がった分身だと思うと抵抗感を覚えずにはいられなかった。
前世ではデビューした先輩が、新人の頃出したイメージDVDを番組で紹介されるのを恥ずかしがっていたが、カナコもデビューして三年経つ頃にはその気持ちを理解していた。……まさか、現世でも味わう事になるとは思わなかったが。
「そう言えば、ヴァンって何度か戻ってるんですよね。いえ、それどころか分身がいるはず……」
カナコはふと、ヴァンダルーが『地球』や『オリジン』に魂だけで戻った事がある事や、魂の欠片から創った分身であるバンダーが『オリジン』に存在している事を思い出し、顔を顰めた。
もう十数年以上前の事だし、当時の彼女はトップアイドルという程ではなかったので、偶然テレビに当時の映像が流れるという事もそうないだろう。しかし、『オリジン』には『地球』と仕組みは微妙に異なるがパソコンがあり、ネット環境が整備されていた。当然、動画投稿サイトも十年以上前から存在する。
ヴァンダルーが当時のカナコの映像を調べようと思えば、調べられてしまうのだ。
「でもまあ、今更箝口令を敷くのは無理ですしね」
しかし、カナコの周囲には前世の彼女を知っている者が複数存在する。メリッサにダグ、そしてレギオンである。彼女達のふとした発言がきっかけになり、ヴァンダルーが当時のカナコに興味を持つ可能性は常にある。
なので、箝口令以外の方法で自衛するべきだろう。……自分以外のメンバーにも黒歴史を作る方向で。
「メリッサとレギオンはデビューしましたから大丈夫ですけど、問題はダグですよねー」
「俺がどうしたって?」
噂をすれば何とやらと言うべきか、カナコの独り言を聞いたダグが話しかけてきた。色々と考えている内に、カナコは倉庫の前まで来ていたのだった。
「いえ、別に。男性アイドルを流行らせるにはどうすれば良いかと考えていただけです」
「十分どうかしているぜ。ジョブチェンジに行ったと思ったら、ぶつぶつ呟きながら帰って来たから、話しかけてみたら……ん? お前、何って言うか、変わったか?」
「変わったって、なんです? ジョブ以外変わっていませんよ」
自分を凝視するダグの視線に戸惑ってカナコは、小首を傾げた。ジョブチェンジしたばかりで能力値は上がっていないし、【歌唱】等のスキルのレベルが上がったが、それが行動に現れているとも考え難い。
そう思ったカナコだったが、ダグには彼女が明確に変わったように感じられたようだ。
「いや、明らかに変わった。なんて言うか……オーラっぽいものが出ている気がする。芸能人オーラとか呼ばれていた感じなのが、前世より出てるぜ」
「芸能人オーラがですか? デビューしたのは去年なのに、何で今頃……もしかして、これが導き?」
「導き!? もしかして、お前……導士になったのか」
驚いて目を丸くしたダグが、後半は何とか声を抑えて尋ねる。カナコが導士になったのを知っているのは、まだジョブチェンジする前に相談したヴァンダルー達ぐらいだった。
「じゃあ、そのせいか。どんな導士なんだ?」
「【芸導士】です。芸で導くみたいですね」
「そりゃあまた、偶像には相応しい導士だな」
そうダグが自分を落ち着かせるために軽口を叩くのを聞きながら、カナコは彼が感じているらしいオーラについて少し考えたが……ニヤッと口の端を釣り上げた。
「ダグ、あたしの導きを感じたって事は……結構好きなんですね、アイドル」
「っ!? いや、別に会場警備の仕事だから見ているんであって……!」
導士になった事を教えた時より動揺しているダグを残して、カナコは倉庫に入った。中ではザディリスやバスディア、エレオノーラにベルモンドが、そしてルドルフ達現地採用のメンバーが思い思いに練習や休憩、楽器の調整をしていた。
「おはようございまーす! 皆さん、お疲れ様です!」
前世からの癖と言うか拘りで、芸能活動中は昼でも夜でも挨拶は「おはよう」だ。
「「「おはようございます!」」」
現地採用のメンバーは、カナコの謎の拘りに最初は戸惑っていたが、最近は慣れて来たようだ。ザディリスとバスディアはそんな彼女達に苦笑いを浮かべている。
ここまでなら、ジョブチェンジする前と何も変わらない。
「っ!?」
ガタンと、ギターの調整をしていた現地メンバーの一人、青い髪のエルフの吟遊詩人が音を立てて椅子から立ち上がり、カナコを凝視した。
「ど、どうしました?」
何か変わるかなと期待していたカナコだったが、ルドルフの眼光が今までにない程鋭かったため思わず声が上ずってしまう。
「……いや、なんでもな……ありません。すこし、雰囲気が変わったように思えたので」
一方、ルドルフと名乗っているS級冒険者、『真なる』ランドルフはカナコや周囲の視線に気がついて我に返ると、そう言って誤魔化しながら、椅子に座り直した。
全く誤魔化せていないし、特にバスディアとエレオノーラが鋭い視線を向けて来ているのが分かるが、彼の意識は自分の失態よりもカナコの変化について考える事に割かれていた。
(彼女の雰囲気が、明らかに変わっている。変装している誰かと入れ替わった? いや、本人である事に違いはない。それに俺が覚えているのは、違和感じゃない。これは、昂揚感か?)
そう戸惑うランドルフだったが、彼がカナコに覚えている何かに気がついたのは、ダグと彼だけではない。
「じゃあ、早速通しで一度踊ってみましょう」
気を取り直したカナコが、ダンスの指導を始める。現地採用の内、歌とダンス担当のメンバーに、「背筋を伸ばして!」「そう、その調子です!」と声をかけていく。
そのレッスンについて、行っているカナコ自身はこれまでと同じ感覚だった。しかし、彼女以外のメンバーにはこれまでとは大きく変わって感じられた。
カナコの指示にどう応えれば良いのか、これまでよりも理解できるのだ。教えられた事が、すぐに血肉となって身についていく感覚が、成長している充実感が感じられた。
倉庫の入り口で見ているだけのダグでさえ、思わず聞き込んでいた。
「カナコさん、最後のステップのところがどうしても上手くできないんです。どうしたらいいですか?」
「次、歌もみてください!」
「わ、私も歌とダンスのレッスンに参加して良いですか!?」
充実感はレッスンへの熱意を増し、昨日までよりも熱心にカナコにアドバイスや指導を求める。それだけではなく、楽器の演奏を主に習っていた冒険者のエディリアが、歌とダンスも教わりたいと希望してきた。
意識の片隅に何か引っかかりを覚えるが、それに気を払う事なくカナコに近づいて行く。
「カナコ、儂も良いかの? その曲はもう合格を貰っているが、ただ見ているだけでは身体が鈍るからの」
それだけではなく、なんと練習していた曲は既に習い終えているザディリスまで、そう言って参加しに来た。
「珍しいですね。どう言う竜巻の吹き回しですか?」
「言いたい事は分かるが、人の意欲を削ぐような茶々を入れるでない」
むっとした様子のザディリスだが、彼女は普段からレッスンに乗り気ではない。正確に評するなら、練習は熱心に取り組む。ステージの上で観客の前で披露するのに、十分な水準に達したとカナコが判断した後、彼女自身が納得するまで、油断なく繰り返し続ける。
しかし、その後はその水準を維持するのに必要なレッスンしかしないのが常だった。
「いや、何か失敗したらステージの上で恥をかくのは儂じゃからな。それに、儂は坊やの従魔じゃから、坊やの評判にも関わるじゃろうし。
まあ、そう言う事じゃ」
だから、そう照れた様子で言い訳しながら練習に加わったザディリスの肩に手を置いて、カナコは言った。
「ようやく正直になりましたね。じゃあ、ザディリスちゃんも入れて、もう一回通しでやりましょう。ルドルフさん、今回は伴奏もお願いします!」
「ちゃんっ!? それに正直とはどう言う意味じゃ!?」
反射的に言い返したザディリスを無視して、レッスンが再開される。
順調にアイドルとして戻れない段階へ落ちていく母を見送ったバスディアは、伴奏の為ギターを弾くルドルフを見つめていた。
(先程の眼光と、一瞬だが発した気迫。あれは只者ではなかった。私だけではなく、エレオノーラにベルモンドまでルドルフを警戒しているのなら確実だ。やはり、吟遊詩人ではない)
そう思うバスディアだが、ベルモンドが手元の糸で弦楽器を演奏する真似をしているのを見て、少し力が抜けた。
どうやら、ベルモンドはルドルフが只者ではないと見抜いたのではなく、彼が弾くギターに興味があるだけのようだ。
「……ベルモンドには、人物眼以外を期待しないと」
「そうだったな」
エレオノーラとそう呟き合って、とりあえず今日は体が疼くのを抑えて、彼女と二人でルドルフについて注意する事にしたバスディアだった。
ヴァンダルーが【冥王魔術師】にジョブチェンジした翌日、ヴァンダルーはこの日から『休日』を取る事にしていた。
休日と言っても、身体を休め遊興に時間を費やす訳ではない。ただ、仕事と評するには微妙な事に時間を費やすので、『休日』という事にしたのだ。
『■■■■■―!』
濁った咆哮を轟かせながら、異形なオーガーが風を操り空気の矢を撒き散らす。
このオーガーは魔術を使うオーガーメイジなのだろうか? いや、違う。オーガーの四肢や腹、胸から黒い筒状の何かが何本も生えていて、その筒が空気の矢を放っているのだ。
『チッ! 前の個体より厄介な技を身につけたわね!』
「目で見るな、空気の流れ、感じろ!」
「でも、今回は生け捕りじゃなくて良いんでしょう!? なら楽勝よ!」
異形のオーガーに対するのは吸血鬼ゾンビのアイラ、ブラックゴブリンニンジャのブラガ、そしてモークシーの町の歓楽街に君臨する『飢狼』のマイケルこと、『接吻』のマイルズだ。
『見るな? 感じろ? 簡単に言ってくれるわね。私、ゾンビなのだけれど』
腐敗が止まっているため一見するとそう見えないアイラだが、彼女はゾンビだ。そのため、生者とは感覚が異なる。
「そう言いつつも、全部回避しているじゃないの」
マイルズが自分と同じく風の矢を回避しているアイラにそう言う。
『当たり前よ。幾ら見えなくても、狙いが雑過ぎるし、こう五月蠅くてはね』
異形のオーガーは風の矢を放つ度に、甲高い笛のような音を響かせていた。黒い筒が空気を吸い、それを圧縮して風の矢として射出する際に音が出てしまうらしい。
ブラガとマイルズは風を読んで、そしてアイラはその音を頼りに不可視の風の矢を避けている。
『■■■■■■!! ぃぃぃぃいいいいいい!』
空気の矢を幾ら放っても意味がないと気がついたのか、異形のオーガーは間合いを詰めて来るブラガ達に向かって自分から襲い掛かった。
黒い筒から風を噴出し、それで推進力を得たオーガーの動きは正に疾風。板金鎧で武装した騎士も一瞬で引き裂く怪力にスピードが加わっては、普通なら無敵だろう。
しかし、この異形のオーガーの相手は疾風より早く動ける者ばかりだった。
「まず、首刎ねる! 【刃閃】」
真正面から突っ込んだブラガが、オーガーの首を片刃の剣、ニンジャ刀で【短剣術】の【武技】を発動し、切断する。
『っ!? だいいぃぃぃぃ!』
首を失った異形のオーガーは、切断面から血を撒き散らしながらも止まらない。それどころか、全身から骨や肉が歪む鈍い音を発しながらボコボコと醜く変異させながら、マイルズとアイラに向かって両腕をそれぞれ向けた。
『本体ィィィィィィ!』
そして、黒い筒からそんな叫び声にも似た音をさせたかと思うと、左右の腕から空気の渦を放つ。腕から生えた黒い筒の角度を調整し、横向きの風の渦を作りだしたのだ。
平行に放たれる二本の風の渦に巻き込まれれば、吹き飛ばされてボロ雑巾のようになってしまうだろう。
『変身! 【俊水即応】! そして内臓を破壊する!』
その渦を、変身装具と【変鎖鎧術】を発動させたアイラが紙一重で回避し、その速さと怪力に任せて剣を胴体に叩きつける。
『■■■!? 宿主の維持が不可能、りだつ、りぃぃぃだああああ』
腹を大きく薙がれ背骨を両断された異形のオーガー……オーガーだった存在は、大きく変貌した。体中にあった黒い筒がより長く太くなり、肉と皮膚を割く。オーガーの体内に寄生していた【魔王の欠片】が分離しようとしている。
「そして、フィニッシュ!」
だが、マイルズが掌に乗る程度の大きさの箱を取り出して、【魔王の欠片】の懐に飛び込んだ。
『あああああ!? 本体イィィィィィ!』
【魔王の欠片】は抵抗しようとしたが、宿主を失った欠片自体には大した力はない。悲鳴をあげながら箱の中に吸い込まれていった。
そして箱と同じくオリハルコン製の鎖が巻き付き、封印が完了する。
「ふぅ……ボス、封印できたわよ」
マイルズが振り返ると、オーガーより大きいアルマジロに似た謎の生命体が、ヒレ状の前足で拍手をしていた。
『皆、良く出来ました。じゃあ、十五分休憩を挟んでもう一回やりましょうか』
謎の生命体は、ヴァンダルーの分身にして使い魔、使い魔王だ。
「次も【魔王の気門】か? それとももう一つの【魔王の蹴爪】か?」
『同じ欠片に慣れるのは良くないので、【魔王の蹴爪】でいきましょう。宿主は秘密ですけど』
先日、シュナイダー達『暴虐の嵐』は、マルメ公爵領から【魔王の欠片】を二つ……封印された物と、装具に加工された物を奪い、ヴァンダルーに渡した。
しかし、既にヴァンダルーは欠片を数十個取り込んでおり、急いで【気門】や【蹴爪】を吸収しなくても問題ない。
そのため、彼は欠片をすぐに吸収せずに、訓練に使う事にした。
これからヴァンダルーから離れた場所で任務に就く場合、彼がすぐに駆けつけられない状況で、宿主を乗っ取って暴走した【魔王の欠片】と遭遇するかもしれない。そんな時、封印の経験があれば欠片を回収する事が出来るだろうと。
訓練に使うのはヴァンダルーがモークシーの地下に創ったダンジョンの、このために新しく増やした階層だ。他の階層に上がるには仕掛けがあり、謎かけを解かなければ階段へ続く扉が開かない。本能のみで動く【魔王の欠片】は、絶対に地上へ出る事は出来ない。
それに、ブラガ達が魔王の欠片に寄生されたとしても、【粘液腺】を摘出した時のように手術すればいいので問題はない。……監督役の使い魔王を配置して、いざと言う時は【欠片】を妨害できるように備えているので、そんな事態は起こらないだろうが。
ちなみに、【欠片】を寄生させている宿主はヴァンダルーが創ったダンジョンで精製される、魂を持たない魔物である。魂の無い肉人形であるため、【欠片】に寄生されると即座に肉体を乗っ取られ、暴走する。
『ヴァンダルー様~!』
訓練を受けていた最後の一人、アイラは次の訓練の事を気にせずに、使い魔王の柔らかい毛に包まれた腹に抱きついていた。
『アイラ、休憩中といっても危険物が近くにあるのですが』
『ヴィダの寝所にあった空の封印具、十万年前のヴィダ謹製の封印が綻びるなんて事、そうはないわ。そんな事より、久しぶりのヴァンダルー様、本体はお忙しいなら、分身でも堪能しないと!』
訓練の途中は酷薄な微笑を浮かべていた彼女だったが、今は口元をだらしなく緩めている。もし彼女に尻尾があったら、勢いよく左右に振られていただろう。
『仕方ありませんね』
使い魔王はそんなアイラを腹で包むようにして丸くなった。そして、背中に配置している目と口を開く。
『十五分から三十分に休憩を延長する事にしましょう』
「三十分で大丈夫? あの様子じゃ暫く使い物になりそうにないわよ」
「多分、その内カナコの所から、エレオノーラがやって来る。それまで待つ」
その後、カナコからヴァンダルーが帰って来ていると知ったエレオノーラが本当にやって来て、訓練に加わった。その後の休憩で、彼女も結局アルマジロ型使い魔王の中に入ったのだが。
一方その頃、【魔王の欠片】の封印訓練を行っている上の階層でも、訓練が行われていた。
「なー、ヴァン。俺、【格闘術】より剣の方がいい! 俺にはお前みたいに鉤爪が生えないんだぞ」
『マッシュ、素手でも戦えるようにしておいた方が良いですよ』
孤児院のガキ大将であり、ヴァンダルーの友人であるマッシュを始め、子供達が【格闘術】の訓練に勤しんでいた。
『【格闘術】はリーチが短く、最初は威力も弱い。しかし、全ての武術系スキルの根幹にある身体能力を伸ばすのに効果的なのです』
【格闘術】の武器は、己の肉体だ。その為、鍛錬は身体能力の向上に効果的だし、他の武術系スキルを習得するのにも都合が良いとヴァンダルーは考えていた。
「ちぇ。分かったよ、でも【格闘術】スキルが身に付いたら、他の武器の使い方も教えてくれよ」
『勿論です。もう練習用の武器は準備してあります』
そう舌打ちしたマッシュに、ヴァンダルーは練習用に造った武器を指し示した。衛兵や騎士が訓練で使う刃を潰した武器ではなく、刃や穂先、打撃部分に当たる部分をタロスヘイム産のゴムで作って木製の芯にくっつけて作った安全性の高い物だ。
【格闘術】の後は、それらの武器を使って本人の希望と適性に合わせて訓練を重ねていく予定だ。
その後はヴァンダルー達と模擬戦をし、マッシュ達が武技を使えるようになったら、希望者はテイムしている魔物と一緒に初心者用のダンジョンに連れて行く予定だ。
冒険者になるなら、D級への昇格試験の前に山賊狩りに連れて行こう。実験動物として収容してから長時間経って気力や体力が萎え、アンデッドや素材にリサイクルする前の山賊や悪人を使うと、マッシュ達が同情してしまうかもしれない。
やはり、悪人に大切なのは鮮度だ。
「……ヴァン、お前、凄く物騒な事を考えてるだろ」
『マッシュ、俺の考えている事を見ただけで察するなんて、流石は友人ですね。俺も誇らしいです』
「否定しないの!? 訓練が進むと俺達何をさせられるんだ!?」
『大丈夫です、マッシュ。物騒な事をされるのはあなた達ではありません』
そう説明するヴァンダルーの具現化した霊体。肉体を伴う彼の本体とレギオンは、そこからやや離れた場所で訓練を受けていた。
「いいですかな? 【筋術】とはただ筋肉をパンプアップすれば良いというものではありません。なので、元に戻ってもらえますか?」
ゾッドは、筋肉繊維の触手を無数に生やしたヴァンダルーに冷静に頼み込んだ。孤児院の子供達と訓練する場所を分けてよかったと、心から考えながら。
「難しいですね」
「今まで誰も、シュナイダーですら習得できませんでしたからな。ですが、まずは練習あるのみです!
【筋術】の極意とは、全身の筋肉を把握し、コントロールする事です。さあ、やってみてください」
『全身の筋肉を、ねぇ』
『ただ筋肉を鍛える事より、難しそう』
レギオン達がそう評した通り、【筋術】はただマッチョになれば使えると言う訳ではない。全身の筋肉を振動させ発電するにしても、それを敵に向かって撃ちだすには筋肉を精密に制御しなければならない。
苦労しながら全身の筋肉を【魔王の筋肉】に置き換えて制御しようとするヴァンダルーや、肉しかない自身の身体を制御しようとするレギオン。二人に、ゾッドはこう付け加えた。
「ただ、私の【筋術】に全てならう必要はありません。【格闘術】にも、拳打主体のものがあれば、蹴り主体のものもある。あなた達は、あなた達の【筋術】を見つけるべきでしょう」
つまり、筋肉で発電する以外の【筋術】を習得する事を目指すべきだという事らしい。
「ふむ、筋肉……」
『ぼっちゃーん! 家族によるサービスの時間ですよー! あと、セリスさん達を連れてきました!』
考え始めた時、お茶のセットとお茶菓子を載せたワゴンを押すリタとサリア、ダルシアに、孤児院のシスターのセリスとベストラが現れたため、一旦休憩という事になった。
《【剛力】スキルのレベルが上がりました!》
《【指揮】スキルが【将群】スキルに覚醒しました!》
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・名前:カナコ・ツチヤ
・種族:カオスエルフ
・年齢:2歳(外見年齢15歳程)
・二つ名:【転生者】 【魔法少女】 【伝道者】
・ジョブ:芸導士
・レベル:0
・ジョブ履歴:見習い盗賊、魔術師、弓術士、盗賊、土属性魔術師、花火師、魔法少女、マジカルアイドル、マジカルダンサー
・パッシブスキル
闇視
精神汚染:2Lv
直感:7Lv(UP!)
死属性耐性:5Lv
敏捷強化:4Lv(UP!)
気配感知:5Lv
弓装備時攻撃力強化:中(UP!)
高速再生:3Lv(UP!)
怪力:2Lv(UP!)
魔術耐性:3Lv(UP!)
色香:4Lv(UP!)
自己強化:祖:5Lv(UP!)
自己強化:導き:5Lv(UP!)
自己強化:変身:4Lv(UP!)
導き:芸道:1Lv(NEW!)
芸道誘引:1Lv(NEW!)
・アクティブスキル
土属性魔術:9Lv(UP!)
水属性魔術:9Lv(UP!)
生命属性魔術:7Lv
魔術制御:8Lv(UP!)
歌唱:8Lv(UP!)
舞踏:8Lv(UP!)
短剣術:5Lv(UP!)
格闘術:5Lv(UP!)
弓術:6Lv(UP!)
忍び足:5Lv
鍵開け:3Lv
罠:3Lv
投擲術:3Lv
調合:3Lv
砲術:1Lv
花火作成:3Lv
限界突破:3Lv(UP!)
御使い降魔:3Lv(UP!)
・ユニークスキル
ヴィーナス:10Lv
混沌
ディアナの加護
ヴァンダルーの加護
10月13日に285話を投稿する予定です。




