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四度目は嫌な死属性魔術師  作者: デンスケ
第十二章 魔王の大陸編
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二百八十二話 肉踊る戦い

 火蓋が切られたが、実際に刃を交える前にクワトロ号の船首に現れたヴァンダルーによる、ゴーン達への降伏勧告が行われた。


『今、降伏し投降するのなら命と魂の保証はしましょう、アルダとの決着が着くまで封印するか、こちら側で力を振るってもらう事になりますが、その後は神としての立場も認めます。

 この勧告を受け入れない――』


 マジックアイテムで拡声したヴァンダルーの勧告は、シリウス達の勇壮な角笛や陣太鼓の音色と、ゴーン達の一斉攻撃によって遮られた。

 音色に込められた力によって威力を強化された岩や雷撃、圧縮された水の刃は、全てヴァンダルーが新たな死属性魔術、【停撃の結界】と【吸魔の結界】を凝縮して弾にした【結界弾】を大量に撃ち出したため防げたが、既に話し合いを行える空気ではない。


『どうする? 神様達と約束した降伏勧告、まだ途中だったようだけれど。まだ続けるのか?』

 クワトロ号の前に出て船を庇うレギオンのエレシュキガルの問いに、ヴァンダルーは首を横に振った。

「いえ、元々期待していませんでしたから、もう良いです。では、行きましょう」


「おうっ! 万が一にも話し合いで片がついたらどうしようかと思ったぞ!」

「同感ですな!」

 ヴァンダルーの言葉に同意したのはレギオンではなく、その上に乗っている二人だった。ゴドウィンとゾッドはレギオンから飛び出すと、そのまま亜神達に正面から突っ込んで行く。


 一匹の蟻がどんな巧みな技を持っていても、一頭の象に勝つ事は出来ない。

 では、一人の人間が百メートルを超える巨大生物と殴り合う事は可能だろうか? 若しくは、神と肉弾戦をする事はどうだろうか?


 その答えが魔王の大陸の沿岸上空で繰り広げられていた。

「ぐあっはっはっはっは! 何だ、そんなもんか!?」

『ぬうう!? こやつ、本当に魔人族か!? 驚異的な打たれ強さだ!』

 『魔人王』ゴドウィンは、自分の身体よりも大きなブラテオの拳や蹴りを、全て正面から受け止めていた。


 雷を纏ったブラテオの拳や蹴りは、当たれば城塞どころか大地を穿つ威力があるのだが、全く堪えた様子がない。

「十万年前の話を聞いたが、実際には大した事ないな! ゼルクスの親父どころか、婆ちゃんの拳骨より柔い!」

 『神の拳を受けた者』と言う二つ名を持つゴドウィンは、実際に神域で彼の王にあるまじき行いを正す為、国と一族の守護神であるゼルクスに拳骨を落され、その一撃を受け止めて耐えた。


 それにゼルクスは呆れ、『こいつを王と認めた魔人族と民にも責任がある』として、多少の不良行為は見逃すようになったと言う。……ただ、結局ゼルクスは幾度か彼に拳骨を振り下ろす事になるのだが。

 そんな伝説を持つ彼だが、実際にブラテオの拳や蹴りが柔い訳ではない。【限界超越】や【魔鎧王術】の武技、付与魔術にマジックアイテム。そして【御使い降臨】まで使って受け止めているのである。


『貴様! 言わせておけば! 数千年しか生きていない青二才が!』

 激高したブラテオが、大ぶりな一撃をゴドウィンに向かって放とうとする。これまでよりも一層威力が高まった敵の一撃を前に、彼はニヤリと笑みを浮かべた。


 一方、ゾッドはゴーンと戦っていた。


『ぬおおおおおっ!』

「ふんぬうううううっ!」


 岩の巨人ゴーンが雄叫びと共に放った拳と、身体ごと突っ込んでいったゾッドの全身が衝突する。ゴーンの拳は自作したらしい金剛石の籠手に覆われていたが、ゾッドは鎧すら身に着けていない。光沢のあるボディースーツのみだ。


 その質量の差は誰が見ても明らかだ。見物人がいれば次の瞬間、ゾッドが血肉を撒き散らし破裂するように絶命するのを確信しただろう。

『ぐおおおおお!?』

「ぬおおおおおおお!?」


 だが、そうはならなかった。ゴーンは右拳に走った電撃に驚愕の声をあげ、ゾッドは拳の衝撃を受けて元の方向へと弾き飛ばされた。しかし、血は一滴も出していない。空中に留まり、不敵に口元を歪めている。


『むうぅっ、十万年前より電撃の強さが増しているだと!? それに、その姿は……そうか、貴様もしたのだな、『変身』を!』

 その様子を見たゴーンは、自分の知る彼……十万年前の戦いで、無数の攻撃を受けて尚倒れなかった原種吸血鬼ゾルコドリオを上回っていると気がついた。そして、彼の姿からヴァンダルーの配下の一部が持っていた装備を思い出して叫んだ。


「その通り。私もつい先日、この変身装具をヴァンダルー殿から頂いたのです」

 ゾッドの身を包むスーツは、ヴァンダルーが彼の為に造り上げた変身装具である。その使い心地は、素晴らしいの一言であった。


 『大地と匠の母神』ボティンにすら防具は不要と言わせた、ゾッドの強靭過ぎる肉体。その堅牢な筋肉とそれに耐える最硬の骨格にとって、オリハルコン製の防具すら動きを阻害する拘束具でしかない。

 それは彼が原種吸血鬼、そして深淵原種吸血鬼となり、更に筋力が強化され、高い再生能力までも獲得してからは、ますますその傾向が高まった。


 そんな彼に有用だったのが、肌にフィットする……つまり筋肉の動きを一切阻害しない伸縮性にとんだ、液体金属の鎧。ヴァンダルーの変身装具だった。


 防御力を高め、攻撃魔術を防ぎ、更にゾッドが筋肉を振動させて起こす電撃が無駄に拡散するのを防いでくれる。【防具未装備時防御力増大:極大】スキルの効果が喪われるので、結局防御力自体は落ちるのだが、その分攻撃力や敏捷性、何より【筋術】の威力が向上している。


 ゾッドにとって最高の鎧であり、武器だ。装具の対価として、【筋術】の教授をヴァンダルーに求められたが、それは彼にとって負担でもなんでもなかった。


『ぐぬうっ! ヴァンダルーはグドゥラニスに強さは及ばんが、それ以外は遥かに超えた厄介な魔王だと言うのは、誠のようだ!』

 そう呻くゴーンの右拳、金剛石の籠手の下には酷い火傷を負っている。ゾッドが真なる巨人と同じ亜神である原種吸血鬼だったとしても、恐ろしい威力だ。


 十万年前のゾッドも、電撃を放ったが……ゴーンにとっては防御力と耐久力以外は脅威ではなかったというのに。


『ゴーン殿、装備頼みの痴れ者如き、私が始末してやりましょう!』

 そのゴーンの横を、『海鳥の獣王』ヴァルファズがそう叫びながら飛び出していく。


『ま、待て、ヴァルファズ!』

 巨大なウミネコに似た鳥の姿を持つヴァルファズは、ヴィダ派についた『鳥の獣王』ラファズの子の一人だ。魔王軍との戦いで邪悪な神と融合して生きながらえた父ラファズを、偉大なる父祖である『獣神』ガンパプリオの仇と一つになってまで生き恥を晒した面汚しであると訴え、本来新たに獣王の座に就くはずだった兄弟姉妹共々排斥した中の一柱である。


(誰が待つものか!)

 そうした経緯で『海鳥の獣王』となっただけに、ヴァルファズを含めたアルダ派の鳥系の獣王は、神々の間で武勇や羽の美しさよりも狡猾な陰謀家という点で評価されている。

 それがヴァルファズには不満だった。


 十万年前は、確かに狡猾に立ち回った。それは、武勇では本来獣王の座に就くはずだった兄や姉に勝てなかったからだ。

 しかし、十万年経った今は違う。長い年月をかけて経験を積み、鍛えて来たのだ。武勇で勝負したとしても決して負けはしない。だというのに、周りからの評価が変わらないのは、武功をあげる機会が無いからだ。


 だからこそ、彼はボティンの護衛部隊に加わった。そして、ヴァンダルーが乗っているかもしれないクワトロ号よりも、危険が少ないゾッドを狙う。

『死ねェ! 全身をバラバラにしてやる!』

 鋭い嘴と鉤爪がゾッドを襲った。


 それはゾッドに命中し、彼を更に上空へと跳ね飛ばした。だが、それだけである。

『やった……なにっ!?』

「その意気や良し……いえ、意気だけは良し、でしょうかな」

 ヴァルファズの攻撃は確かに当たった。しかし、ゾッドの装具に守られた肉体には、ただの打撲程度のダメージしか与えられなかったのだ。それも、【超速再生】によって一秒もかからず癒えた。


「そして私を自分の上に跳ねあげるとは、愚かな。 【神鳴り】!」

 マルメ公爵領のアルダ神殿でも放った【筋術】の武技が、炸裂する。【リベンジ:アルダ勢力との戦い】スキルに加え、変身装具によって拡散が防がれ収束した【神鳴り】は、本物の落雷を遥かに上回る威力でヴァルファズを貫き、断末魔めいた絶叫を轟かせた。


『ぐあああああっ!?』

 同時に、ブラテオが拳を抱えて悲鳴をあげた。見れば、右手の大木よりも太く鉄よりも遥かに頑丈なはずの指が親指を除く四本全て折れ曲がっている。


「はっはっはぁ! 引っかかったな! 貴様等巨人は図体がデカすぎて、死角が多すぎるのだ! 自覚の足りない間抜けめ!」

 それはゴドウィンのカウンターによるものだった。拳によってブラテオの視界から、自身が隠れた瞬間に拳を作っている指を攻撃したのだ。


『いかん! 下がれ、ブラテオ! 貴様はこの前の傷が癒えきっていまい! ナバンガー、ブラテオと代われ! 儂はヴァルファズを助ける、残りの者は援護しろ!』

 『鉄の巨人』ナバンガーがブラテオを、そしてゴーンが全身から白煙をあげるヴァルファズを助けようと突出し、他の巨人や獣王が援護する。だが、クワトロ号の砲撃が彼等を押し止める。


「行くぞ、ゾッドに続けぇ!」

 正確には、撃ちだされた砲弾とその上に飛び乗ったシュナイダー達によって止められる。

『な、何だと!?』

『馬鹿な! 爆発する弾に乗って来るだとぉ!?』

 驚愕し、目を剥くゴーン達。砲弾に関する知識をほとんど持たない彼等にとって、シュナイダー達の行動は自殺行為にしか見えなかった。


『同感です』

 そして、砲弾型使い魔王の製作者であり、宿らせた分身の本体であるヴァンダルーも驚いていた。

『なんて無茶な事を。どうやって船に戻るつもりなんですか?』

 砲弾型使い魔王は、当然だが敵への片道切符だ。逃げ回る敵を追尾する事は出来るが、クワトロ号に戻る事は出来ない。


「善処してくれ!」

『……はぁ。分かりました』

「よし、代わりに冒険者の先輩として巨大な魔物と戦う時の心得を、俺達がレクチャーしてやる!」


 締まらない会話を交わしつつも、砲弾型使い魔王はゴーン達を追尾し、爆発する。以前の偽クワトロ号の自爆を連想したのだろう。ゴーン達は回避やシュナイダー達への警戒よりも、撒き散らされる破片を防ぐために防御を固める事を選んだ。あの偽クワトロ号の爆発は、それほど彼らを苦しめていたようだ。


『ぬぅっ! 奴らは!?』

『何処だ!? それに破片も仕込まれていないだと!?』

 衝撃と爆炎に耐えたナバンガーや龍が、見失ったシュナイダー達の姿を探して、煙を薙ぎ払うように腕や尻尾を振るう。


「まずは攪乱! フゥ~!」

 その煙が薄くなると同時に、エルフではなく邪神本来の姿に戻ったリサーナが窄めた唇から濃い桃色の吐息を放つ。その吐息は霧となり、彼女から吐き出されたとは思えない程広範囲に、亜神達をすっぽり覆い隠すように広がる。


『かはっ!? これは……毒酒! 『堕酔の邪神』ヂュリザーナピペか!?』

『ぬぅ! エルフではないだろうとアルダもおっしゃっていたが、まさか貴様だったとは!』

 常人が浴びれば二度と目覚めない毒酒の霧に巻かれ、亜神達は咄嗟に目を閉じてしまった。


「【大氷巨槍】! そして、絶対に正面から戦わねェ!」

「【雷光飛天蹴り】! 狙うのは関節の側面か裏の弱点!」

 そこに霧の中に潜んでいたドルトンが魔術で創りだした氷山の如き巨大な氷の槍が『大海龍神』マドローザの腹を突き、シュナイダーがナバンガーの膝の側面に蹴りを叩きこむ。


 蛇に似た胴体を二つ折りにして氷の槍に突き上げられたマドローザが濁った悲鳴をあげ、膝を破壊されたナバンガーが顔を歪める。


「そして、敵が体勢を立て直す前に離脱!」

 最後に空中を歩く事が出来るマジックアイテムを装備していたメルディンが、ドルトンとシュナイダーを回収する。リサーナの毒酒の霧を散らすと位置がばれるため、飛行を可能とする魔術が使えないので、回収の為に待機していたのだ。


『はいはい、ヴァンダルーに変わって善処しに来たわよ』

『さあ、帰還するぞ、勇士達よ!』

 そして彼女達をレギオンが迎えに現れた。


『おのれぃ! あの年寄り気取りの人間風情が!』

『ま、待ちなさいっ、その肉塊に迂闊に手を出してはなりません!』

 巨大なレギオンに膝を砕かれた恨みをぶつけようと、ナバンガーが自前の槍を投擲しようとするが、マドローザがそれを止めた。


 レギオンには、かつて『邪砕十五剣』の一人だった『光速剣』のリッケルトを倒したカウンター、相手から受けたダメージをそのまま返す呪いのような力がある事を、亜神達は知っていたからだ。

『くっ!』

 亜神達の身体は巨大で、それに似合った怪力と強靭さを持つ。だが、その分小回りが利かない。


 『五色の刃』のハインツは、『アルダの試練のダンジョン』でレギオンのコピー相手にカウンターへの対抗策を実行していた。それは大技を繰り出した後、カウンターされるよりも早く小さな傷をレギオンにつけるというものだった。


 最後に受けるダメージは、小さな傷と同程度という事になる。


 だが、ナバンガーの巨体ではそれにならう事は出来なかった。呻いてヴァルファズの救助に戻る。

 だがクワトロ号が再び砲撃を始め、更にヴァンダルーが【虚砲】や【死砲】を撃ち始めた事で、容易に近づく事が出来なくなってしまった。


『拳を片方潰したぐらいで、いい気になるな!』

 ブラテオが電撃をゴドウィンに放つが、ヴァルファズを蹴って踏み台にしたゾッドがその間に入る。

「【帯電】! ゴドウィン殿!」

「おうっ! 合わせるぞ!」

 身を挺してゴドウィンを庇ったかに見えたゾッドだが、ブラテオの電撃は彼の身体を焼かず、まるで吸収されたかのようにその筋肉の中に消えた。


 次の瞬間、大気を振るわせるほどの力強さで発電したゾッドと、呪文を唱えたゴドウィンが同時に叫んだ。

「【業神鳴り】!!」

「【獄炎魔獣推参】!!」

 ゾッドがブラテオの電撃を吸収し、更に自身の筋肉で発電した電撃を返し、それにゴドウィンが魔術で生み出した悪魔めいた姿の炎の獣が、なんとナバンガーに向かって突き進む。


『なっ!? ぐがああああああ!?』

『兄者!?』

 雷に打たれ、炎の獣に突っ込まれたナバンガーは猛烈な勢いで魔王の大陸に向かって落ちていった。彼の兄弟である『青銅の巨人』ルブーグが追いかけて行ったが、間に合いそうにない。


 一方、ヴァルファズは海面に落ちる寸前に意識を取り戻し、再び空に舞い上がった。そして急いで離脱しようとするが……その彼に海中から襲い掛かった存在がいた。

『おおおおおおおおおん!』

 海の中にばらばらになった状態で隠れていたクノッヘンである。


『ぐああああああ!? や、やめろぉぉ!』

 彼は『海鳥の獣王』だ。だが、水中が得意な訳ではない。特に、重傷を受けた状態で無数の骨に襲われながらでは泳ぐ事も出来ないだろう。


 しかもクノッヘンには、ピートが食べ残した龍の骨や、ヴァンダルーが与えた【魔王の骨】が幾つも混じっている。それらは強靭な羽毛を貫いて、彼の体内に潜り込んだ。

 堪らず悲鳴をあげるヴァルファズの耳に、ヴァンダルーの声が届いた。


『ヴァルファズ、ですね? あなたの父、ラファズから不肖の息子に慈悲をかけてほしいと頼まれています』

『な、何だと!? み、見逃してくれるのか?』

『ええ、勿論。クノッヘン、一思いに縊り殺してください』

『っ!?』


 クノッヘンが骨で出来た身体をヴァルファズの首に巻き付け、それを大きく捻る。ゴキュリと音を立てて、ヴァルファズの首が捻られた。

『ラファズに頼まれた通り、魂は見逃します。グファドガーン、ヴァルファズの死体を回収。その後、帰還を試みてください』


「はい、偉大なるヴァンダルーよ」

 ヴァルファズの頭部の近くに浮いていた使い魔王の声も、背後邪神であるグファドガーンにとっては彼が唯一信仰する存在の言葉だ。決して聞き逃さず、クワトロ号の甲板に現れた。


 ヴァルファズの死体を回収すると同時に、クワトロ号や、まだ戻っていないゾッドやゴドウィン、シュナイダー達を乗せたレギオンの背後の空間が揺らめく。


『させぬ! 今こそ我らの真価を見せる時!』

 だが、それまで加勢したいのを抑えて待機していた『鏡像の神』ラーパン達空間属性の神が、グファドガーンの【転移】を妨害する。空間の揺らめきは緩慢になり、それ以上の変化が起こらなくなった。


『今だ! ヴァンダルーが乗る船を叩け!』

『ヴァルファズ! 仇を取ってやるぞ!』

 ゴーンの号令に従って、亜神達がクワトロ号に乗るヴァンダルーを倒そうと動き出す。撤退を試みたという事は、何らかの要因で戦闘を継続する事が難しくなった証拠だと、ゴーン達は解釈したからだ。


 彼等、防衛隊の主目的はボティンをヴァンダルーから守る事だが、このままヒット&アウェイ戦法を繰り返されたら、ゴーンの策が実を結ぶ前に戦力が削りきられてしまう。

 ここで倒す、それが不可能でもせめて痛手を与えなければ、近日中にまた攻めて来るに違いない。撤退するのなら手を出さないなどと、甘い事を言っている余裕は無いのだ。


「偉大なるヴァンダルーの読み通り、【転移】を止められました」

「そのようですね」

 一方、ヴァンダルー達に動揺は見られなかった。撤退が失敗し、殺到してくる亜神達を前にしても平然としている。


「どれくらいで【転移】できそうですか?」

「このままなら、三分程後になります。ですが、まだ敵の空間属性の神には余力があるかと」

「レギオンがいますからね。レギオン、転移を試みてください」


 クワトロ号の砲弾による弾幕と、ヴァンダルーの目から放つ怪光線や、【結界弾】、【死砲】でゴーン達の攻撃をなんとか止めているが、すぐにでも突破されそうな戦況で、冷静に言葉を交わす二人。声をかけられたレギオンも、彼女達に乗っているシュナイダー達にも、焦った様子はない。


『んー、ダメだよ。邪魔されているって言うより、掴まれて動けない感じだよ』

『ジャックの【転移】が邪魔されるなんて……!』

「空間属性魔術には、敵の手足をその場に固定して動きを封じる魔術があるから、それの改良版だろうな。前に一応忠告しただろ」


「でも、グファドガーンの術の妨害と同時だから、一分も経たずに転移出来ると思う。まあ、それより先にあっちが突破してきそうだけど」

 リサーナが言う通り、弾幕や怪光線に耐え、【死砲】を魔術で防ぎ、【結界弾】を巨体によって生み出される莫大な運動エネルギーで振り切って、亜神達が迫ってくる。


「では、偽クワトロ号型使い魔王、突貫。皆は、俺の影に」

 クワトロ号……偽クワトロ号の船尾が、ヴァンダルーの言葉に応じて爆発。その衝撃を推進力にして、亜神達に向かって突貫を敢行する。


『分かったわ。さ、シュナイダーさん、皆、降りてくださいね』

「ゾッドっ! ゴドウィンっ! 置いてくぞ!」

「おおっと、それは勘弁願いたいですな!」

 そして、偽クワトロ号型使い魔王から飛び降りたヴァンダルーの影が光を無視して広がり、そこにシュナイダー達が飛びこんで行く。


 一方、自分達に加速して突っ込んでくるクワトロ号に気がついたゴーンは、叫んだ。

『いかん! あれは偽物だ! 爆発するぞ!』

「ああ、その通りさ。燃えちまいな!」

 空中で変身してヴァンダルーに抱きついたバーバヤガーが、偽クワトロ号に搭載されていた大量の脂を爆発燃焼させたのは、その直後だった。


 閃光と爆音に押されて海面に落ちる前に、ヴァンダルーは【飛行】で減速し、海面のすぐ上で停止した。

「転移出来そうですか?」

「可能です」

「ラーパンって奴が、あたしらの妨害から他の巨人共を守るのに切り替えたからだろうね」


「じゃあ、ゴーン達は手傷を負っていても死んではいないでしょう。……ゴーンやブラテオ、シリウスよりも厄介ですね」

 【転移】の妨害よりも、ゴーン達を守る事を選んだラーパン。ゴーン達が壊滅しては【転移】を妨害しても意味はないと、素早く判断したその手腕は、単純な強さよりも厄介だ。


「でも、ラーパン達がどれくらいの時間【転移】を妨害できるのかは分かりましたから、帰りましょうか。とりあえず、モークシーの地下ダンジョンに」

「……他の町じゃダメかい?」


「仕方ありません、先に魔人国に行ってゴドウィンを返しましょう」

「やった! 愛してるよ、ヴァンダルーっ!」

 モークシーの町に名も無き英雄達の像が建てられて以降の、彼女達の気持ちも分かるし、自分が指揮した作戦の結果でもあるので、ヴァンダルーはレギオン達の希望を優先するようにしていた。


『何だと!? 儂、今日は家に帰りたくない気分なんだが!?』

『お家でお嬢さんが待っていますよ。あと、今この瞬間もあなたの代理として派遣した、俺の分身が働いているのですが』

『うおーん!』

『おおーん』


 しかし、影の中から叫ぶゴドウィンは、甘やかさなかった。彼の嘆きの声に合わせるように声をあげるクノッヘンを回収し、グファドガーンの【転移】によってヴァンダルー達は撤退した。



《【殺業回復】、【自己強化:殺業】スキルを獲得しました!》

《【魔力常時回復】、【能力値強化:君臨】、【能力値強化:被信仰】、【殺業回復】、【自己強化:殺業】、【同時多発動】スキルのレベルが上がりました!》




 魔人国で嫌がるゴドウィンをイリスと官僚たちに引き渡した後、シュナイダー達をタロスヘイムで影から出した。

「ところで、冒険者として経験豊かなシュナイダーに相談があるのですが、ちょっといいですか?」

「何だ? ガルトランドって所で厄介な魔物でも出たのか? 食べ方が分からないとか」

「マッドマンの上位種が……ではなくて、最近レベルが上がっても能力値が上がらないので、変だなーと」


 ヴァンダルーがシュナイダー達に相談したのは、【滅導士】になってから能力値が上がらない事だった。

 レベルは今まで通り、仲間が手に入れた経験値の一割ほどが手に入るので上がっている。だが、能力値が……魔力でさえ全く上がっていない。


「能力値が上がらない? 力だけとか、知力だけじゃなくて、全部か?」

「全ての能力値が、全く上がっていません」

「全部が全く、か……幾つかだけなら聞いた事があるが、全部上がらないってのは初めて聞いたな」


 能力値の上昇には、個人毎の素質とジョブによる成長率が密接に関係していると言われている。同じ【見習い戦士】ジョブに就いた場合でも、力が最も上がった者もいれば、敏捷の方が上昇した者もいる。中には、力も敏捷も体力も、全てあまり上がらなかった者もいた。

 それぞれパワーファイターに、スピード重視の軽戦士に向いた素質の持ち主で、最後の一人はそもそも肉体的な才能に乏しく、魔術師向きの素質の持ち主だった。


 汎用性の高い見習い系ジョブでもこうなので、能力値の上がり方が極端なジョブの場合、特定の能力値が全く上がらないという事は十分あり得る。脳筋タイプの力自慢が【狂戦士】ジョブに就いてレベルを百まで上げても、知力は1点も上がらなかった、などだ。


「だけど、全ての能力値が上がらないとなると……余程向いてなかったんじゃねぇか?」

「いえ、五つ目の導士ジョブなので向いていない事はないと思います」


「ぽろっと、凄い事を言うな、お前。じゃあ、元々そういうジョブなんじゃねぇか? 成長率が極端に低いとか。

 でなきゃ、お前さんが老いて脳も含めて成長の余地がないかだが……六十代が近づいてきている俺がレベルアップで能力値を上げられるのに、十代に入ったばかりのお前さんが老いているとは思えねぇ。幾ら俺と同じ総白髪だったとしてもだ」


「俺は、生まれつき白髪ですから。まあ、ジョブチェンジして様子を見てみます」

 既に【滅導士】のレベルはカンストしている。今日の戦いで大量の経験値が入ったからである。

「そうか。じゃあ、何かあったらまた相談してくれよ」

 そういってシュナイダーは歩き出した。これから、先日自分達が解放した元奴隷達の様子を見て、その後は家族との時間を暫く過ごすそうだ。


 明後日にはまた奴隷を解放するために、鉱山を襲撃しに出かける予定だからと、グファドガーンに【転移】を頼んでいた。

 ヴァンダルーは「働きすぎでは?」と尋ねたが、「いや、お前さん程じゃねぇよ」とシュナイダーは返した。


 その後、ヴァンダルーは本来の予定通りに、モークシーの地下ダンジョンにグファドガーン達と向かった。アルクレムを発ったばかりなので、モークシーの町に居ると不自然だからだ。

 彼は、先に【転移】で来ていたサムの荷台にあるジョブチェンジ部屋でジョブチェンジをした後、次の攻撃の為の準備をする予定だった。


「ヴァンダルー! カナちゃんが大事な相談があるみたいなの!」

 だが、ダルシアの言葉でその前に優先すべき予定が出来た。

10月5日に283話を投稿する予定です。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] ヴァンダルーは体が未熟だからステータスがこれ以上伸びないのかな 魔王の欠片でマッチョになろうとした試みがこの問題の鍵になりそうだね
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