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四度目は嫌な死属性魔術師  作者: デンスケ
第十二章 魔王の大陸編
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二百八十一話 像を建てなかったり建てたり

ガルトランドの広さを魔王の大陸の三分の二から三分の一に、邪砕十五剣のレオナルドを、一剣から四剣に変更しました。ご迷惑をおかけします。

 ガルトランドのダンジョンは、本来はE級やD級、攻略難易度の低いダンジョンばかりだった。

 それはダンジョンを創った『臓腑の邪神』ポヴァズ達が、意図的に難易度を低く抑えて創ったからだ。何故なら、高難易度のダンジョンを創って、それが万が一にも暴走したら、ガルトランドはそれが原因で滅びかねないからだ。


 ガルトランドの広さは魔王の大陸の約三分の一。だが、その半分程は地底塩水湖である。そのためダンジョンの暴走で魔物が陸地に溢れたら、住人達の逃げ場が無くなってしまう。

 それに、地の底に作ったので他からの魔素の流入は少なく、ダンジョンに魔素を集めて消費する必要性もない。


 だからいざと言う時の避難場所兼訓練場としてE級ダンジョンを、そして様々な資源や食糧を得るためにD級ダンジョンを創った。

 そして、天井や壁から極稀に現れる強い魔物を倒せる戦士を育てるために、C級ダンジョンを一つだけ作った。


 これだけあれば足りるはずだったのだが、後にゾーザセイバと巨人種が加わり、資源の必要性が増したのでダンジョンを増やした。

 そしてナインロードの施策によって、世界中の魔素が魔王の大陸に集められて汚染が激しくなり、その影響はガルトランドにまで届き、ダンジョンの等級が全て一段上がってしまった。


「先祖達の記録によると、当時は大混乱だったようです」

 カッカッカと蹄で音を立てながら、褐色の肌に馬の下半身、そしてサソリの尻尾を持つ美女が背中に乗せたヴァンダルーに語って聞かせる。


「そうでしょうね。生活に必要な資源をダンジョンから取らなければならないのですから、堪ったものではないでしょう」

 野犬と同程度の魔物が少数出る事に気を付けさえすれば安全だった仕事場に、突然ヒグマと同程度に強い魔物が無数に出現するようになった。そう想像すれば当時の人達の混乱も推測できる。


「一度上がったダンジョンの難易度を下げる事は、神々にも難しい。しかし、それでも私達の先祖たちは雄々しく戦い、環境に慣れていったのです。

 今では神々も我々の働きと強さを認め、B級ダンジョンになった『五神の城塞』で技を磨く事を奨励しています。

 それがここなのです」


「なるほど。解説ありがとうございます」

 ヴァンダルー達は、ガルトランドにトンネルを掘る過程で現れる魔物を、しっかり退治できる実力があると示す為、この『五神の城塞』を攻略中だった。


 彼を背中に乗せている半人半馬でサソリの尾を持つ美女は、見届け人として同行しているグラシュティグの長であるザルザリットだ。

 彼女は本来山羊の下半身を持つグラシュティグの先祖返りで、その先祖がアンドロスコーピオンと結ばれた時の特徴も身体に現れており、そのため馬の下半身に蠍の尻尾を持って生まれた。


 そのためか、ステータスに表示される種族はグラシュティグではなく、パピルサグであった。

「お役に立てたのなら光栄です」

 ザルザリットはそう言って会話を締めくくると、一緒にいる他の長二人が代わりに口を開いた。


「では、我々氷雪系巨人種の歴史も解説致そう。それは、悲しみに満ちた歴史――」

「いいえ、ここは我々アンドロスコーピオン族の歴史でしょう。糸を吐けなくなった、我々の悲劇の物語を――」

「何を言っておる! お前さん達アンドロスコーピオンは糸が吐けなくなって騒いだのはほんの数年で、すぐ順応したと歴史書に書いてあったぞ!」

「何を言っているのです、そんな訳があるはずありません! あなた達こそ、地上にいた時から氷の大地で暮らしていたと歴史書にあるじゃありませんか!」


 氷雪系巨人種の長のゾルクと、アンドロスコーピオンの長のフェルトニアは、ヴァンダルーをおいて言い争いを始めた。

 ゾルクは白く長い髪や髭、体毛を生やしているため雪男のようだが、よく見れば顔も体も体毛とサイズ以外は人間と同じだ。服の上に鎧を着こんでいるため、遠目に見てもスノージャイアント等の魔物と間違える事はないだろう。


 対してフェルトニアはチョコレートのような艶のある肌をした黒髪の美女で、金の装飾品で身を飾っている。そして下半身が体高の低いサソリのものなので、視線の高さはアラクネよりも人種に近い。

 なお、アンドロスコーピオンには小型種や大型種はおらず、一種のみのようだ。


「貴様らアンドロスコーピオンはガルトランドの砂漠に見事に適応し、砂漠ではケンタウロスより早いと謳われているではないか! それにオアシスの水を使った農業で成功している! 砂を砂岩にする魔術を使って、見事砂漠に黄金の都市を作りあげた! 羨ましい限りだなぁ!」


「貴方達氷雪系巨人種はガルトランドの寒冷地帯に適応し、凍土と氷の王国を築いているではありませんか! 確かに農業には向きませんが、ヒュージトナカイやスノーベアを家畜化し、巨大な魔物を倒して肉や毛皮を取り、氷の都市で豊かに暮らしているではありませんか! ああ、羨ましい!」


「なにをぉっ! 貴様等アンドロスコーピオンは下半身のハサミと尻尾の毒針を武器にし、上半身で魔術を唱える魔術戦士が多く、精強ではないか!」

「貴方達氷雪系巨人種も、身体能力に優れている上に、水属性の魔術が得意な魔術師が多く、その勇猛さは砂漠にまで届いていますよ!」


「……これは口喧嘩なのでしょうか? まあ、それぞれの種族の評判を聞けるのは面白いのですが」

 ザルザリットは苦笑いを浮かべながら、しかし「二人の言っている事、それ自体は本当です」と保証した。

 ゾルクとフェルトニアはどうやら自分達が苦労している事をアピールし、ヴァンダルーに自分達が暮らす都市、若しくは集落に来てもらうのが狙いらしい。だが、そのまま言い争いを始めたため、お互いを褒め合う妙な口喧嘩になってしまったようだ。


 ちなみに、口喧嘩に参加していないザルザリットが長を務めるグラシュティグの集落はガルトランドの壁沿いに存在する。山羊の下半身を持つ彼女達は、壁を器用に移動して鉱石資源を採掘し、壁から染み出て来る地下水を利用して段々畑や棚田で農業を営んでいるらしい。


 そして戦士としては身軽な軽戦士や弓使いが多く、精霊魔術の使い手も少なくない。氷雪系巨人種やアンドロスコーピオンに負けない、強豪種族のようだ。

 ……実際、もし仮に人間がガルトランドに攻め込んできたとしても、余程戦力を投入出来なければ人間は敗退するだろう。


 何せ戦場になる場所が場所である。氷雪系巨人種は極寒の雪山で、アンドロスコーピオンは砂漠。そしてグラシュティグに至っては人間では歩く事もままならない切り立った壁だ。まともに戦う事も出来ないだろう。

 塩水湖の畔に在る町は例外だが、住人がそれぞれの集落に逃げてしまえば良いだけの事だ。

 偶然だろうが、ガルトランドは戦闘系勇者や亜神のような規格外の存在以外に対しては、戦略的に優れているようだ。


「「ヴァンダルー殿に先に来てもらうのは、うちだ(です)!」」

「ザルザリットさん、二人とも何故これ程俺に来てもらいたいのか、知っていますか?」

 口喧嘩を止めない二人を見て、ヴァンダルーはそうザルザリットに訊ねた。彼は、この誘致合戦がエスカレートしない内に止めたかったのだ。


 何故なら、二人が「ヴァンダルーの像を建てる」と言い出すかもしれないからだ。既に人魚の集落と、地下塩水湖の畔の町に像が立てられる事になっているのに、これ以上増えては堪らない。

 しかし、尋ねられたザルザリットにも心当たりはないようだった。


「特には思い当たりません。不治の病にかかった者がいるとは聞いていませんし、困窮しているということはないはずです。

 ドーラネーザのように【魔王の欠片】に寄生されている者も、居ないはずです」


 人魚族の長であるドーラネーザが、一族と同盟を結んでいたデディリア達魔人族を連れ、バーンガイア大陸からガルトランドまで逃げるため、仕方なく封印を解き自らに寄生させた【魔王の粘液腺】。それをヴァンダルーが彼女を死なせずに摘出した事は、ガルトランド中に知れ渡りつつある。


 だが、ガルトランドにはドーラネーザが来るまで【魔王の欠片】自体が存在しなかった。

 ポヴァズ達元魔王軍の四神は、【欠片】の元となった魔王グドゥラニスが破れた直後に逃げ散っている。倒された後ベルウッド達に肉片ごとに封印された欠片を入手する時間は無かった。

 その後起きたヴィダとアルダの戦いでも、ポヴァズ達は戦い自体に関与していなかったので、ヴィダ派が守っていた【欠片】を奪う機会も無かった。


 尤も、もし手に入れていたとしてもポヴァズ達はガルトランドを創る前に【欠片】を放り捨てていただろう。

 グドゥラニスの復活を望んでいる訳ではなく、『悦命の邪神』ヒヒリュシュカカや『解放の悪神』ラヴォヴィファードのように独自の勢力を築き、この世界の神々全体と敵対し続けるつもりもない。


 ポヴァズ達はヴィダ派に迎えられるのを待ち、それまでヴィダの新種族を密かに匿いながら守護し続ける事を選んだ。そうである以上、【欠片】は武器としても使えないただの危険物でしかない。

 それは後に合流したゾーザセイバと巨人種達にとっても同じだった。

 そのためガルトランドには、【魔王の粘液腺】しか【欠片】は存在しない。


 他にザルザリットが思いつく事と言えば、地上にいるアルダ勢力の亜神達だが、それも今すぐどうにかしなければならない程切迫した事態には陥っていないはずだ。彼等がガルトランドの存在に気がつき、今日明日にでも攻め込むと言う訳ではないのだし。

 それに、ヴァンダルーを態々自分の所に連れ込む意味がない。


 そうザルザリットが悩んでいると、ゾルクとフェルトニア自らヴァンダルーを誘致したい理由を口にした。

「「次のコンサートの会場は譲らん(りません)!」」

 どうやら、誘致してヴァンダルー自身に何かしてもらいたい訳ではなく、自分達の集落でコンサートを開いてほしかったようだ。


「想定していたより、カナコ達は観客の心を掴んでいるようですね」

 そう言うヴァンダルーだが、ゾルクとフェルトニアは重度のアイドルファンになった訳ではない。コンサートに付随する導きを、できるだけ速く自分達の一族にもたらそうとしているのである。


 身体能力が上昇し、レベルが上がり易くなり、スキルの取得補正も手に入る。しかも、ヴァンダルーの導きは対象が広く、戦士や魔術師だけではなく一般人にも有効だ。

 身体能力が上がり、スキルが取得しやすくなれば非戦闘員の仕事の効率が上がり、生活が豊かになる事に繋がる。職人見習いが通常の何倍も速く腕を磨いて一人前になるのだから、その経済的な効果は計り知れないのだ。


「しかし、それは俺よりカナコに言うべきではないでしょうか?」

「そうですよーっ! 何でわたしを居ないもの扱いするんですか!? 【連続射ち】!」

 そう言いながらカナコは、タイラントマッドマン達に向かって何本もの矢を射かけた。


 B級ダンジョン『五神の城塞』を攻略中のヴァンダルー達だったが、実際に魔物と戦っているのは会話に参加していないカナコ達だった。


「そもそも、何でヴァンは戦わないんですか!?」

「そう言えば、ボークスやジーナも居ないな。まあ、俺は初めて見る魔物と戦えて楽しいからいいんだけど」

「じゃあ、マッドマン系はキミに全部任せていい?」

「そう、ありがとう、ダグ」


 泥のような肌と、牙が並んだ丸い口だけの頭部を持つ人型の魔物マッドマン。その中でも、五万年前まで最も強いとされていたタイラントマッドマンである。その強さはランク5で、B級ダンジョンに出現する魔物としては規格外に弱い。そして既にB級冒険者以上の力を持つカナコ達にとっては、大した敵ではない。しかし、常に粘度の高い体液を肌から分泌しており、その体液がヘドロと同じ悪臭を放っているのだ。


「いや、それは流石に……くそ、さっさと倒すか。【ヘカトンケイル】!」

「同じヌルヌルでも、ヴァン君の方はいい匂いなのにね。ブレス行くよー」

「分かった。返り血は私が防ぐわ」


 体液で汚れたくないカナコ達は遠距離攻撃主体で戦っていた。

 五メートル程の巨体で迫ってくるタイラントマッドマンを、メリッサの【アイギス】で作った絶対防御のバリアで押し留める。

 その間にカナコの弓、ダグの念動力で操っているヴァンダルーから以前貰った彼の腕、そしてプリベルの触腕の先端に付いたドラゴンの頭部が吐き出す氷のブレスによって、ダメージを与えて倒していく。


 生命力旺盛で【物理耐性】や【水・土属性耐性】スキルを持つタイラントマッドマンも、その猛攻には耐えられず、一匹、また一匹と数を減らしていく。


「いや、カナコさん達に声をかけなかったのは、戦闘中に話しかけては邪魔だろうと思っただけで、決して無視していた訳ではなくてですね……」

「ええ、勇者の残した言葉に、将を射るにはまず馬からという言葉がありますし、カナコさん達を招くためにはヴァンダルー殿をまず誘う事かと思いまして」


 どうやら、ヴァンダルーは馬であるらしい。

「ひひーん」

「似せる気のない声真似するな! 見たくなるだろ!?」

「でも、結構的を射ていますね。ヴァンがコンサートを開く場所を決めたら、そうなるでしょうし」


 コンサートを開くには、ヴァンダルーの意思決定が必要だ。先日のガルトランドで初めて行われたコンサートでは呼ばれなかったが、移動会場のクノッヘンに、照明や伴奏を行う使い魔王の運用にはヴァンダルーの協力がかかせない。それに、衣装でもある変身装具は彼の手によるものだ。


 勿論会場に使える舞台か、舞台を準備する時間と資材、そして演奏者の手配が出来ればカナコだけでも開けるが……氷雪系巨人種が暮らす寒冷地帯や、アンドロスコーピオンが暮らす砂漠にステージがあるかは微妙だ。

 そして、カナコはあまり長くモークシーの町を開けられないので、時間は限られている。


 そこまで事情を察した訳でないが、ゾルクとフェルトニアは「やはり」と頷いて、ザルザリットの背に乗るヴァンダルーを再度見つめる。

「やはりそうなのか。では、我が故郷に立派な像を――」

「ええ、我々アンドロスコーピオンが暮らす砂漠に大きな像を――」

「あの、それは誘い文句にはなりませんよ」


「「像を建てないので、よろしくお願いする(します)」」

「カナコ、スケジュール空いていませんか? 詰まっているようなら、俺一人でも歌って踊ります」

 ユラク町長から自分の像が建てられると知った時のヴァンダルーの反応を聞いていた二人は、像を建てない事を誘い文句として利用していた。


「ヴァン君が一瞬で陥落した!? しかも歌って踊る事も辞さないの!?」

「……逆に見てみたいわね、そのステージ。歌っていうよりも朗読になりそうだし、使い魔王だらけでコンサートなのかホラーショーなのか分からない有様になりそうだけど」

 驚きながらも、タイラントマッドマンを倒していくプリベル達。ダグが【魔王の鉤爪】や【外骨格】に覆われたヴァンダルーの腕で、最後の一匹のトドメを刺して戦闘は終了した。


「それで、肝心の何で俺達だけ戦っているのかって質問の答え、まだだったよな?」

 若干荒い口調でそう尋ねる彼に、スケジュール調整を始めようとしているヴァンダルーの代わりに、ザルザリットが答えた。


「それは、あなた達にトンネル工事中に出現するだろう魔物に対処するだけの力があるかどうか確認するためです。

 工事はヴァンダルー殿が居ない間も続くそうなので、彼以外の者の実力も念のために知っておきたいと思いまして。

 ちなみに、ボークス殿達が居ないのは、彼等はランク10以上だと聞いたので、証明するまでもないと考えたからです」


 ガルトランドの壁や天井の岩からは、ワーム系や蟻型、モグラ型の魔物が、濡れた土からはマッドマンのような正体不明の魔物が出現する。そして土や岩自体がゴーレムと化し、遥か昔の化石がアンデッド化する。

 それらのランクは低く、日常的に現れるのはランク1や2。日頃から鍛えているヴィダの新種族達にとっては、簡単に倒せる雑魚でしかない。


 しかし極稀にランク5のタイラントマッドマンの群れや、巨大な大食い芋虫であるグラトニーワームが出現し、数百年から千年に一度、ランク7以上の魔物が現れる。

 この『五神の城塞』は、ガルトランドに出現する高ランクの魔物と戦うためのダンジョンなのだ。現在はC級からB級へ難易度が上昇し、ランク7以上の魔物が出るようになったが、それでもトンネル工事の際に出現する魔物と戦う予行練習には丁度良い。


「なるほど、そう言う事か。じゃあ、五階までヴァンダルーだけで戦っていたのに、途中から変わったのは、蟲に懐かれ過ぎて、攻略にならないからじゃなかったのか」

 このダンジョンに出現する蟲系の魔物は、現れる端から次々にヴァンダルーにテイムされていった。


 坂道を登っていたら、壁から巨大ダンゴムシ、ガルトボールが出現して轢かれ、かと思ったら蟻型の魔物であるガルトアントから口移しで蜜を献上され、ガルトワームには巻きつかれ、ガルトスパイダーからは強制的に巣に招かれたりした。なお、全てガルトランドでしか確認されていない魔物で、バーンガイア大陸で確認されている似た魔物よりランクが1高い。


 ……彼等が出現した時、【危険感知:死】に全く反応しなかったので、もしかしたら蟲達はヴァンダルーの前に現れる前から勝手にテイムされていて、飼い主にじゃれ付く犬のように飛び出して来ただけかもしれない。

 それはそれで恐ろしい話だが、今は全員ヴァンダルーの影の中である。


「まあ、それもありますけどね。力はもう十分証明できたでしょうし、そろそろ交代しますか?」

「いや、切りが悪いから次の中ボスまでは俺達がやろう。最近身体が鈍っていたし」

 ヴァンダルーの提案をダグは断るが、彼だけではなくメリッサやプリベルも同意見のようだ。


「コンサートよりは楽だからいいわ」

「まだちょっと物足りないしね。それとヴァン君! 四本足も悪くないと思うけど、ボクは八本なんだからね!」

 ピシッとザルザリットに釘を刺すプリベル。彼女の言葉を聞いて、ザルザリット達三人はヴァンダルーに驚いたような顔を向けた。


 外の世界では脚の形や長さではなく、数の多さが魅力に繋がるのか!? そんな思いが込められている。


「はいはい、分かっていますよ」

 ヴァンダルーが否定しない!? 彼女の言葉は真実だったのか!? そんな驚愕を三人は共有していた。

「さっきの言葉、絶対誤解されてると思いますよ。まあ、面白そうだから解かなくてもいいですけど」

 カナコはそう言って、ダグ達の後に続いた。


 その後、彼女達は後悔する事になる。

 何故ならこの後、タイラントマッドマンを超える真のマッドマン系最強種、ランク8のアブソリュートキングマッドマンが、恐ろしい量の粘液を纏ってダンジョンの中ボスとして出現したからである。




 『五神の城塞』で実力を示したヴァンダルー達は、トンネル工事を開始した。

 トンネルの大きさは、出現した魔物と戦う事も考えて、ボークス達巨人種が三人並んでも不自由なく戦える広さと高さにした。二車線道路も楽々敷ける規模のトンネルになりそうだが、魔物と戦いになって無茶をして崩落したら事なので、広さには余裕を持つ事になった。


 だが、工事だけをしている訳にもいかないので、ヴァンダルーは体制を整えるとアルクレムに戻り、影武者を務めたキュールやダルシア達と合流した。

 そして現在ただの荒野と化している『荒野の聖地』跡地に再建する、ボルガドン神殿に関する会議をタッカード・アルクレムと行った。


 神殿の外観は以前のものからあまり変わらないようにし、しかし内装と装飾、神像を大きく変える事は既に決まっている。ゴルディ達擬態人間の巣窟だった居住区は勿論だが、一般の信者が祈りに来ていた通常の神殿部分もである。

 以前の神殿では、ボルガドンはアルダ勢力の神として祭られていた。ボルガドンの神像の他にも、大神であるボティンや他のアルダ勢力の土属性の神、そして神々の長であるアルダや、英雄神ベルウッドの像やレリーフが祭られていた。


 それを全く逆に、ヴィダ派の神としてボルガドンを祭る神殿に変えるのである。

 ボティンを祭るまでは同じだが、ヴィダ派に付いた土属性の神と、アルダではなくヴィダの像と更にリクレントとズルワーンのレリーフを建立する。

 そして、ベルウッドではなくボティンが選んだ勇者であるヒルウィロウの像を建てるのだ。


 これまで、『堕ちた勇者』とされてきたザッカートだけではなく、生産系勇者達は神殿で大々的に祭られる事はなかった。精々、それぞれの勇者を選んだ大神の神殿で、十万年前の神話を記したレリーフや絵画が飾られているぐらいだ。

 恐らく、アルダや英雄神となった勇者ベルウッドを信仰する勢力が幅を利かせているため、異世界の知識や技術を導入しようとした生産系勇者を信仰する事は避けたのだろう。


 そんな中ヒルウィロウの像を神殿に建立することは、ヴィダ派にとっては大英断であり、アルダ勢力にとっては歴史に残る暴挙だ。神々の反応は地上に生きる人の子には想像するしか出来ないが、同じ人の子の反応は想定できる。

 アルクレム公爵領の人々の多くは驚くだろうし、公爵に反抗的な貴族は政争に利用できる格好の材料として扱うだろう。そしてアルダ信者は穏健な者であっても、良い気分はしまい。聖職者ではない日和見主義の公爵が、アルダ融和派の次はヴィダ派におもねるつもりだと思うに決まっている。


 タッカード・アルクレム公爵個人だったら、絶対にしない判断だ。しかし、ここ最近髪が豊かになり、肌の張りも取り戻し若返ったように見える彼は、ヴァンダルー達の要望を二つ返事で受け入れた。

 何故なら、非公式にだがヴァンダルーが、ひいてはヴィダル魔帝国の後ろ盾が自分にある事を確信し、様々な形の援助が期待できるからだ。


 それに、公爵領の極端に信仰心が強くない普通の人々は、驚いてもすぐ順応するだろうと推測された。ボルガドン神殿は大きく変わったが、それ以外の神殿には表面上何の変化もないし、何かを強制される訳でもない。

 そして本来なら最も強固に反抗しそうなボルガドンの聖職者達は、全員擬態人間だったので死んでいる。


 そのため、会議で問題になったのは二つ。一つは、ヒルウィロウ像のデザインだった。これまで、少なくともここ一万年は誰も像を創っていないので、神や偉人のようなお決まりのイメージが存在しない。

 本人と面識のあるボルガドンやヴィダ達にヴァンダルーがどんな姿だったのか尋ねてもいいが、どんなに本物に近づけても見る者がヒルウィロウの像だと分からなければ意味がない。


 そこで、ベルウッドを主役として残された伝説にある描写に、ボティンが彼に与えた専用の神話級装備を装備させたヒルウィロウの姿の像を作る事となった。

 そしてもう一つの問題は……会議の中休みに昼食としてヴァンダルーが出した灰色の肉のステーキが、『共食いの邪神』ゼーゾレギンの憑代の肉だった事である。


 公爵曰く、「大変美味だったが、出す前に言ってほしかった」との事だった。


 そしてアーサー達を加えたヴァンダルー一行は、予定以上に長く滞在する事になったアルクレムから旅立ち、モークシーの町へ戻るのだった。




 ヴァンダルーを乗せた馬車が街道から外れ、森の中に消えてから数分が経った頃。魔王の大陸の沿岸では『岩の巨人』ゴーンが苦虫を噛み潰したような顔をして空を見つめていた。

『……やはり来たか』

 青い空を飛ぶ、クワトロ号……そしてその横には肉で出来た巨大な球体と、それに乗る魔人族の男。そして……日光をものともしない吸血鬼。


「ゴーン! ブラテオ! マドローザ! ヴァンダルー殿がボティンの魂を喰らうに違いないなどと、勘違いも甚だしい! そのような理由で我らの前に立ちはだかるのなら、かつての戦友と言えど容赦は出来ませぬぞ!」

「儂としては立ちはだかってもらわんと困るがな! ようやく回って来た出番だ! 思う存分暴れさせてもらわんと、割に合わん!」

『人を足場にして言ってくれるよ、まったく』


 既にパンプアップしているゾッドに、境界山脈内部の魔人族の王ゴドウィンが、レギオンに乗って攻めて来たのだ。


『ゾッドめ……狂ったヴィダだけでは飽き足らず、魔王の欠片を集め神の魂すら喰らうヴァンダルーの走狗に成り果てるとは! 容赦できぬのは、儂等の方だ!』

『突出してはなりません、ブラテオ。それよりもまずあの船が本物か、前回のような偽物なのか見極めなければ』


『だが、そのためには仕掛けなければならん。行くぞ、本物だと分かるまでは爆発に警戒するのを忘れるな!』

 こうして三戦目の火蓋は切られたのだった。

10月1日に282話を投稿する予定です。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 族長たちの褒め殺し口撃に、思わずニンマリ!
[良い点] 誤字脱字誤用がとても少なく、安心して読めます。 [気になる点] レビューでも指摘した通り、ヴァンダルーの価値判断のバランスがどんどんおかしくなっています。狂っているという設定なので、許容す…
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