二百五十話 歴史の中に埋もれる名もあれば、現れる名もあり
ダンジョンは基本的に一度発生したら、出入り口は固定され移動する事はない。だが、幾つかの例外がある。
その例外の一つが、神の管理するダンジョンだ。正確には、ダンジョンの出入り口が移動している訳ではない。ダンジョンを管理している神が「挑戦の資格あり」と認めた者しか出入り口に辿りつけない仕掛けや、逆に認めた者の方をダンジョンの入り口へ運ぶ【転移門】を設置しているのである。
『雷雲の神』フィトゥンが管理していたフィトゥンの『試練の迷宮』も、本来はその類だった。
「尤も、今は管理していたフィトゥンが消滅しており管理者不在であるため、挑戦者の選別が行われないまま、放置されているようですが」
グファドガーンの解説を聞きながら、ヴァンダルー達はそのフィトゥンの『試練の迷宮』を進んでいた。
「『ザッカートの試練』のように迷宮そのものが移動している訳ではないとしたら、何故このダンジョンはここに現れてそのままなのでしょう? 俺の【迷宮創造】のように出入り口を移動させたとも考え難いのですが」
ヴァンダルーの【迷宮創造】スキルは、ダンジョンの出入り口を移動させる事が可能だった。ただ、その移動速度は人が歩くのと同じ程度。魔境とは言え日々冒険者が狩りを行なっているので、ダンジョンの出入り口を連れて歩いていたら目につくはずだ。
「恐らく、空間属性魔術でここに出入り口を【転移】させ、そのまま固定したのでしょう。対象が神の管理するダンジョンであり、管理者である神の同意と後押し、そして術者が魔術の達人ならば可能かと思われます」
グファドガーンの推測通り、ダンジョンの管理者であるフィトゥンは配下である英霊の空間属性魔術師に命令し、ダンジョンの出入り口をここに固定した。
何故なら、作戦に必要だった魔物の群れがダンジョンから出るまで時間がかかるため、短い時間空間を繋ぐだけでは不十分だったからである。
魔物の群れがダンジョンから出るまでの数十分、空間を繋げ続けるか、空間を固定してしまうかだったら後者の方が魔力の消費が少なくて済むのだ。
その後、まさか自分が消滅してダンジョンがモークシーの町の近くに固定されたままになるとは思わなかっただろう。いや、もしかしたらその可能性も考えたかもしれないが、フィトゥンの性格上、そうなる事も考えたが自分が滅んだ後の事はどうでもいいと、考慮しなかっただけかもしれない。
「なるほどー。ところで、神が直接管理しているダンジョンって、ヴィダル魔帝国の大湿地帯にもありますよね? あのフィディルグって神様が創ったダンジョン。あれは普通のダンジョンみたいですけど」
「大沼沢地にある『リザードマンの巣』か。詳しい事はフィディルグに訊ねなければ分からないが、挑戦者の選別を行っていなかったのではないだろうか?」
カナコの質問に、グファドガーンはフィディルグが大沼沢地に創ったダンジョンの事を思い浮かべて答える。
管理する神がいても、その神が「来る者は全て拒まない」と挑戦者の選別をしなければ普通のダンジョンと同じだ。
「それに、フィディルグはルヴェズフォルに封印されていたから、ダンジョンの管理をできていなかったはずよね。後、そのルヴェズフォルの『鱗王の巣』もあるけれど、あれもヴァンダルー達が攻略した時には境界山脈から逃げ出した後で、いなかったはずだし」
ダルシアが当時の事を思い出して、そう推測する。尤も、彼女の推測は微妙に外れていた。フィディルグやルヴェズフォルは、攻略者を選別するような機能をダンジョンに持たせていなかったからだ。
彼らは自身の聖域と信者である魔物を創るための場所としてダンジョンを必要としたため、そうした機能を付ける意味が無かったのである。……フィディルグの場合は、D級の難易度で攻略者を選別するような意味が無かったという理由も大きいが。
「なるほどねぇ。じゃあ、英雄が誰も知らなかったダンジョンを偶然見つけて、そこを攻略してアーティファクトや神様の加護を得る伝説がありますけど、それに出て来るダンジョンは、その類なんですかね?」
『思い返せば、そうした伝説の類が結構ありますな。ヴェルド殿も、そうしたダンジョンでヴィダの訓示を受け、愛剣を手に入れたとか』
「ヴェルド先生のその伝説に関しては、先生の子孫が作った創作みたいよ。先生は、武具に愛着は持たない主義だって言っていたし」
「アルダ達を奉じていた英雄の伝説は、私はあまり知らない。だが神が一度に管理できるダンジョンは、一つか二つ、無理をしても三つまでだろう。単に様子を見るだけなら幾らでも『管理』できるが、挑戦者の選別や試練の内容の操作等を行うのなら、それが限界のはず。
故に、多くの場合後世の創作と思われる」
神々も世界の維持管理をしながら、無制限にダンジョンを管理できるわけではない。そもそも、管理するダンジョンの数が多ければ良い、と言う物でもないのだ。
挑戦する英雄が、常に何十人もいる訳でもないのだ。
サイモンとサムの疑問に、ダルシアとグファドガーンが答える。それを聞きながら、ナターニャは尋ねた。
「それは良いけど……ここ、神様が管理していたダンジョンには思えないんだけど。さっきから全然敵が出てこないし」
そう、ヴァンダルー達はダンジョンに潜ってから未だに一匹も魔物に遭遇していなかった。
既に地下五階なのだが、【迷宮創造】スキルで階層の構造を把握したヴァンダルーが進行方向を指示し、無人の草原や荒野、砂漠を進むだけの順調過ぎる道程が続いている。
とても神が試練として課すダンジョンとは思えない平穏さである。
「魔物の暴走の直後ですからね。内部にいた魔物は、あの時に殆どが地上に出たのでしょう」
「結構多かったものね。レギオンの皆が地下室のダンジョンに魔物を送って、それを倒してユリアーナちゃん達やカシムさん達も大活躍だったみたいだし」
その平穏さの理由は、ヴァンダルーとダルシアが言ったように、フィトゥンが起こしたダンジョンの暴走の結果である。
今サムの馬車を引いている馬のうち一頭、ホーフの前の主人は場所を勘違いしていたが、暴走が起きた直後はその場所の魔物が激減する事は正しかった。
「でも、それでももう少し敵が出て来ても良いんじゃないかなって思うけど。ダンジョンって魔境より魔物が多いはずだろ?」
「それはその通りですがナターニャ、B級以上のダンジョンはC級以下のダンジョンと比べると魔物の数自体が少ないのです」
「え、そうなの?」
きょとんとするナターニャに、ヴァンダルーは頷いて説明した。難易度の高いダンジョン程、魔物は少なく、また新たに供給されるまでの時間も長めになる傾向にある。
これはダンジョンが新たに魔物を発生させるのに相応の時間と魔力を必要とし、魔物が自然繁殖するのに必要な時間が長くなるからだ。
ダンジョンは魔物の成長を早め繁殖を活発にするが、それでも限度はある。ゴブリン等低ランクで元から繁殖力の強い魔物なら、幾ら倒されても補充する事が出来る。
だがサンダードラゴンやマウンテンジャイアントのように繁殖にかかる時間が人間よりもずっと長い魔物は、そう簡単には増やせない。
それに、高ランクの魔物がゴブリンのように際限なくうじゃうじゃ出て来たら、ダンジョンの難易度が跳ね上がる事になる。高ランクの魔物を倒せる冒険者の数は少ないので、対応しきれない。魔物の間引きが適正に行われず、ダンジョンの暴走が頻発する事になっていただろう。
「まあ、ランク1の魔物が一匹だけしか出ないF級ダンジョンは除きますが、一階層にでる魔物の数で言えばE級ダンジョンが最も多いです」
「へー、そうなんだ。オレ、D級ダンジョンの一階層目しか行った事が無かったから、知らなかったよ」
「さすがダンジョンに慣れてますねー」
「ええ、初めて知ったわ」
「……カナコ達も知らなかったんですか?」
ヴァンダルー達と出会う前まで、平均よりやや上程度の素質のD級冒険者だったナターニャに続いて、初めて知ったような顔で頷いているカナコ達に、逆にヴァンダルーは驚いた。
「カナコ達もダンジョンには結構潜っていると思いましたけど」
「残念ながらC級以下のダンジョンか、お前とグファドガーンが作った地下室のダンジョンにしか潜ってない。亡命前は、ムラカミやアサギを避けるためにも入らなかったんだ。
もし俺達がダンジョンに潜っている間に、ロドコルテ経由で俺達の居場所を調べた奴らが出入り口で張り込んだら、袋のネズミだからな」
ヴァンダルーの質問に、ダグがそう説明した。
ダンジョンに潜った方が効率良く稼げるし、経験値も手に入る。しかし、出入り口が一つしかないので、前世ではアサギ達を裏切り、現世ではムラカミとロドコルテを裏切ったカナコ達は、ダンジョンに潜らなかったそうだ。
「敵がいないと言っても、中ボスやダンジョンボスは既に出現しているはず。ダンジョンの管理者が消滅したとはいえ、ダンジョンの内装は生きている。機能は停止していないはずだ」
「確かに、ダンジョンの中とは思えない爽やかな風に、青い空、そして太陽ですからねぇ」
サイモンがダンジョンの内装の一部である、本物そっくりな太陽を見上げて言う。屋内とは思えないこの光景が、ダンジョンが機能している証拠なのだ。
「まあ、のんびり行きましょう。あまり速く戻っても不自然でしょうから。俺はこの間にアーティファクト作りも進められますし」
そう言いながら進むヴァンダルーだったが、次の六階層目、砦を思わせる階層に無数のアンデッドが、それ以降もアンデッド、そして蟲と植物型の魔物が次々に現れ、のんびりとはいかなくなってしまった。
アンデッドは【死属性魅了】が変化した【誘引】によってヴァンダルーに魅了され【導き】の影響下にされるし、蟲型の魔物の多くも同様だ。しかし、植物型の魔物は魅了されない個体の方が多い。
「うおおおおっ! この樹の魔物、面倒臭ええええ!」
「どんな感覚器官がどこにどれだけあるのか分からないと、【ヴィーナス】は使い辛いんですよねぇ!」
「魔大陸の火炎樹が動き出したら、この魔物になるのかしら」
「ファングとマロルの攻撃が、絶対効かないタイプの魔物!? 師匠っ! ちょっと助けてくれやせんかねぇ!?」
「ギャインッ、ギャイン!」
そのためダグ達は、次々に襲い掛かってくるB級ダンジョンに出現する高ランクの植物型の魔物に、文句や悲鳴、弱音を吐きながら対応する事になった。
ちなみに、今戦っているのはランク7のバーニングトレントである。枝に葉の代わりに炎を茂らせている。……勿論【炎耐性】スキルを高いレベルで所有している。
「俺は、皆の実力を信じています。ここはダンジョンなので、変身は勿論、【混沌】も【御使い降魔】も使っていいので頑張ってください」
そしてそんな魔物との戦いを繰り広げるダグ達から救援要請を、ヴァンダルーはそう言って断るのだった。
「フィトゥンは、魔物の群れを用意する時にヴァンダルーの導き対策として、アンデッド以外にも蟲型や植物型の魔物が混じらないようにしていたみたいね。それで結果的に残されたダンジョンが、それらの魔物だらけになってしまったのね」
『何処からか坊ちゃんがアンデッド以外にも、植物や蟲の魔物を装備している等の情報が洩れたのでしょうな。蟲はまだしも、植物型の魔物は全て導けるわけでないのですが』
ダルシアが推測した通り、フィトゥンは魔物の群れがヴァンダルーに寝返らないように、それらの魔物を避けた。そして結果的に、導かれない植物型の魔物のみが襲ってくる状況を作り出していた。
植物型の魔物の多くは痛覚が無く、生物的な本能も希薄で、脳や心臓、脊髄等の急所に当たる部位が無い。そのため、頭部を潰せば大体倒せるアンデッドよりも厄介な場合がある。
「ゾンビより植物の方が不死身なんて、理不尽としか思えねぇ!」
しかも、バーニングトレントはランク3のエントとは比べ物にならない程硬く、近づくだけで炎の熱にさらされる。そのため、ダグは【ヘカトンケイル】でハジメ・フィトゥンとの戦いの後貰ったヴァンダルーの腕を操り、一行の中で唯一優勢に戦いを進めていた。しかし、武器にしている腕の攻撃範囲が小さい為倒すまでに時間がかかっていた。
一方、格闘士のナターニャや剣士のサイモンとの相性はかなり悪く、苦戦を強いられていた。
「やれやれ、【飛剣】じゃきりがねぇ。先に魔力が尽きそうだ」
サイモン達は義肢を霊体で操り、【遠隔操作】が可能だ。それを活かして遠距離からバーニングトレントを攻撃する。しかしナターニャの鉤爪や回転する拳はともかく、サイモンの剣では大きなダメージを与える事は出来ない。
「【ロケットパンチ】! サイモン、その剣じゃなくて、義手で殴った方が効くと思う! その剣はただの鉄製だろ!?」
「あ、いわれてみれば確かに」
しかし、両拳を飛ばして戦っているナターニャからの助言を受けて、サイモンは剣では無く義手の手刀で戦い始める。すると途端、バーニングトレントへの幹に深く食い込み、効果的にダメージが入るようになった。
死鉄製の義肢は、鉄製の剣よりも高い威力の武器になり得るのだ。
「【格闘術】を覚えるか、もっと良い剣を買えるよう稼ぐかしねぇと、ダメだなこりゃ」
剣を使わない方が強いという事に、剣士の端くれとして微妙な顔つきになるサイモン。
その横ではマロルとファングが、他のバーニングトレントに対して効かない炎のブレスや火炎の体毛を諦め、二頭で協力して肉弾戦を挑んだ。
「ヂュウ!」
「ギィ!」
ファングが【闇のオーラ】でバーニングトレントを惑わし、出来た隙を突いてマロルが尻尾を鞭として使い、バーニングトレントの幹に叩き付け樹皮を弾けさせる。
「ガァ!」
「ギィィィィィィ!」
そしてよろめいたバーニングトレントに強烈なタックルをくらわせ、一気に押し倒す。
「キィー!」
「ヂュガアアア!」
ウルミとスルガは更に簡単だ。スルガが前衛でバーニングトレントを足止めしている間に、ウルミの冷気がバーニングトレントの炎を凍てつかせる。
「確かに、ここなら人目もありませんもんね。変身! からの~!」
変身したカナコが掲げた腕が、ミヂミヂと鈍い音を立てながら鱗に覆われ鉤爪が生えた異形の腕に変形する。
「【鉄裂】! 必殺アイドルクロー!」
カオスエルフになって獲得した【怪力】スキルも効果を発揮した鉤爪の一撃は、バーニングトレントの幹を砕いた。
「アイドルじゃなくて、ドラゴンって感じよね。って、言うか水属性魔術は使わないの?」
一方、メリッサは背中から透き通ったトンボに似た形状の羽を生やして、それを振動させて作った衝撃波でバーニングトレントを滅多打ちにしていた。
カナコは腕を戻しながら、幹を細かく削るような戦法をとるメリッサに答えた。
「湯気で何も見えなくなりそうですからね。メリッサだって魔術を使ってないじゃないですか」
「空間属性の攻撃魔術は、魔力の消費が大きいのよ」
そうメリッサが言い終わると同時に、最後のバーニングトレントが倒れた。
その後もフィトゥンの策の影響とヴァンダルーの導きによって、敵がほぼ植物型の魔物しかいないダンジョンの攻略は順調に進んだ。
それは戦闘だけでは無く、衣食住に関しても同様だ。サムの荷台は見た目よりずっと大きく、更に【快適維持】スキルの効果で、幌の中は冷暖房が完備されているのと同じ状態にある。
更に、「戦闘には加わっていないので」とヴァンダルーは、【鮮度維持】で新鮮な状態の食材を使った料理が食事の度に振る舞われる。
そして通常のダンジョン攻略では考えられない事だが、入浴まで可能だ。ヴァンダルーが【ゴーレム創成】や【迷宮創造】で鉱物やダンジョンの内装の一部を操作して浴槽を作り、彼の神霊魔術とダルシアやカナコの水属性魔術で水を出し、お湯にする。
『地球』に例えると、キャンピングカーで旅行をしているようものだ。
『ジョブチェンジ部屋がありますので、気兼ねなく使ってください』
更に、サムの荷台にはジョブチェンジ部屋が設置されているのでジョブチェンジまで可能だ。
ランク7以上の魔物はサイモンとナターニャにとってかなりの強敵であり、バーニングトレントとの戦いのようにダグ達がいなければまず勝てない相手だ。そのため、二人は一度の戦いで大量の経験値を得ていた。
だが大量の経験値を得たのは、二人だけでは無かった。
「ヒヒィィィン!」
「ブルルル!」
惨い有様の魔物に、メーネと魔馬に変化したホーフが蹄を叩き付け続けている。
「蟲の魔物でも、ヴァンダルーに導かれない子もいるのね」
「ライトニングローカストだそうですから、何らかの要因でフィトゥンの影響が大きかったのかもしれませんね。風属性の影響を強く受けているだけなら、ピートもそうですし」
電光のように素早く飛び、放電もするイナゴの魔物はヴァンダルーに導かれる事無く、食欲のままに襲い掛かって来た。
あまりに数が多かったのでヴァンダルーも戦いに参加し……群れの内二匹の羽と脚を切り落として生け捕りにし、メーネとホーフに蹄で蹴らせているのだ。
勿論、経験値を稼ぐためである。
しかし、蟲の息のライトニングローカストに止めを刺す事がなかなかできない。やはり、ランク2のレッサー魔馬の蹄では、ランク7の魔物にダメージを与えるのは至難の業のようだ。
「とりあえず、久しぶりに【殺傷力強化】を」
「じゃあ、私も付与魔術をかけるわね」
だが、ヴァンダルーとダルシアの助力もあり、数分後、二頭はライトニングローカストを倒しランクアップを経験したのだった。
そのようにちょっとした出来事もあるが、順調なのに変わりはない。寧ろ、順調過ぎてダグ等は文句を漏らしたほどだ。
「幾ら中ボスって言っても、あれはないだろ。バーニングトレントやライトニングローカストの方が、まだ歯ごたえがあったぜ」
十階層の中ボスはオーガーハイメイジが一匹。ランク7で、オーガーとしての身体能力と魔術の腕前を併せ持つ強敵だ。しかし、前衛が居ないので呪文を唱える間もなく倒されてしまった。
二十階層の中ボスは、マウンテンジャイアントバーバリアンだった。マウンテンジャイアントからランクアップし、より怪力になった個体なのだが……ハジメ・フィトゥンと戦った時に何匹も巨人と戦っているヴァンダルー達の敵ではなかった。
寧ろ、食傷気味な相手である。そのため、戦闘狂の気があるダグは不満を覚えていた。
「俺には、どっちも命がけの相手なんですけどね」
「あれより強い相手だったら、その日はもう戦えなくなるのを覚悟で【限界突破】して、武技を連発するしかなくなる」
「ウォン!」
ただ、サイモンとナターニャ、そしてファングにとっては強敵である。十階層ではオーガーハイメイジが呪文を唱え終わる前に倒そうと、二十階層ではマウンテンジャイアントバーバリアンの間合いの外から攻撃して牽制する等して、必死に戦っていた。
「確かに、十階層はともかく、二十階層でもう少し中ボスが強いか、中ボス以外の魔物が居たら俺も手を出しましたね」
戦いの間サイモン達の健闘ぶりを見ていたヴァンダルーが、そう評する。どうやら、本当にサイモン達にとってはギリギリの戦いだったようだ。
「恐らく、本来ならダグが望むような難易度の高い戦いが用意されていたのだろう。十階層では前衛を務める魔物、そして二十階層では巨人を援護する為の魔物が配置され、過酷な戦いを挑戦者に課したはずだ。
だが、今は管理者不在の上に暴走を起こした直後だ。中ボスの援護を行う魔物の再配置が進んでいないのだろう」
グファドガーンがそう推測を口にする。
彼女の言う通り、フィトゥンの『試練の迷宮』では難易度の高い戦闘が連続で起こり、それを潜り抜けた者のみがフィトゥンから加護や高度なマジックアイテムを得る事が出来た。
しかし、フィトゥンが無理に暴走を引き起こしたため、フィトゥンの『試練の迷宮』の中ボスは通常のB級ダンジョンよりやや劣る程度の難易度に下がっていた。
「それじゃあ、ダンジョンボスも――」
「その向こうの宝物庫も期待できないって事ですか。なんだか微妙にやる気が失せてきましたね~」
「そう言わないで頑張って。ダンジョンボスは、私達も戦うから」
そしてダンジョンボスのランク9、ストームジャイアントとの戦いにはダルシアも参加し……やはり順当に勝利し、予想通りしょぼい宝物庫の中身を持って地上に戻るのだった。
依頼主であるモークシー伯爵と冒険者ギルドには「やはりダンジョンが発生していた」と報告された。これにより、魔物の暴走を未然に防げなかったモークシー伯爵の失点は、限りなく小さくなった。
突然発生したダンジョンが、僅かな時間で暴走を引き起こす。流石にそれを防げと言うのは無理がある。
それでも多少の叱責は受けるだろうが、それは形式的なもので具体的な罰が伴わないものになるだろう。
そしてフィトゥンの『試練の迷宮』だが、アルダ勢力の神々が利用できないようにグファドガーンが手を加え、その後は放置する事になった。これからはモークシー伯爵領のB級ダンジョンとして数多の冒険者が挑む事になるだろう。
ちなみに、名をフィトゥンの『試練の迷宮』から『ガレス古戦場』という名に改名された。
冒険者ギルドにとってフィトゥンの『試練の迷宮』は、突然発生した未攻略ダンジョンだったので、命名権が初攻略者であるヴァンダルー達に委ねられたのだ。
ヴァンダルーの名を付ける事は、本人とグファドガーンが強固に反対した。
「偉大なるヴァンダルーの名を、この程度のダンジョンに付ける事は許されない」
と言うのが彼女の弁である。
では書類上依頼を受けた事になっているカナコやダグ、サイモンにナターニャの名を使うのはどうだろうとヴァンダルーは思ったが、全員辞退した。
「じゃあ、『名も無き英雄達』でどうだ? 今、流行ってんだろ」
『お願いだからやめて、本当に止めて』
レギオン達が本気で頼んだ結果、『名も無き英雄達』案も没となった。
そこで『戦士の神』ガレスの名を使う事にしたのである。『炎と破壊の戦神』ザンタークの従属神であり、ヴィダ派の神であるガレス。彼の名と存在は人間社会には殆ど残っていない。
「ダンジョンの内装には、砦のように戦争を連想させるものがありますし、ヴィダの信者である俺と母さんがそう命名しても不自然は無いでしょう。
バーニングトレントのように、火属性っぽい魔物も出てきますし」
「ダンジョンボスはストームジャイアントだったけど、別に良いわよね」
こうしてフィトゥンの『試練の迷宮』の名は伝説の中にのみ記される事となった。尤も、アルダ勢力としては、必要もないのに、魔王ごと罪も無い人々を万単位で殺そうと企んだ証拠を残されるよりは、ずっと良かっただろうけれど。
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・名前:メーネ&ホーフ
・ランク:4
・種族:シャドウホース
・レベル:98
・パッシブスキル
怪力:2Lv
闇視
精神耐性:3Lv
病毒耐性:1Lv
身体強化:蹄:4Lv
自己強化:導き:2Lv
影同化
・アクティブスキル
高速走行:1Lv
限界突破:4Lv
突撃:2Lv
闇のオーラ:1Lv
・ユニークスキル
ヴ■■■■■の加護
4月17日に、251話を投稿する予定です。




