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四度目は嫌な死属性魔術師  作者: デンスケ
第八章 ザッカートの試練攻略編
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百五十七話 鬼人国と心の友

 キドウマルを含めた『六角戦鬼衆』との戦いは激しいものだった。彼等は人間社会が鬼人族に持つ、「魔術が苦手で頭の中身まで筋肉が詰まっている、魔人族の下位種族」という認識が間違いだと、十分に教えてくれた。


 二の角キドウマルは、『大金棒』二つ名の由来だろう大金棒と毛皮の服と見た目こそ人間社会が持つイメージ通りだった。しかし彼は卓越した【棍術】の使い手で、ただの力自慢では無かった。


 三の角、キドウマルとは逆にでっぷりと太った黒い肌の肥満体にまわしを締めた、『千手』のガスケ。彼は平手とタックルを主体にした、優れた【格闘術】の使い手だった。

 四の角、細身の青い肌の女鬼人、『星影』のシャガラは【光属性魔術】で身を隠しながら襲い掛かって来る、恐ろしい【クノイチ】だった。


 五の角、『愚連隊長』ザンジョウはテイムし鍛え上げたオーガー五匹を自らの手足の如く指揮して戦う、名指揮官。そして六の角、『不倒』のドワンは武者鎧を思わせる全身甲冑に身を包んだ恐ろしい盾職だった。


「敵わぬまでも、せめて一太刀!」

 気迫の籠ったハルバードの一撃が、ヴァンダルーに迫る。しかし彼はそのハルバードの使い手の顔に向かって、舌を一閃!


「ぐぶっ!?」

 舌の平打ちを受けた使い手は身体のバランスを崩して転倒し、結局ハルバードがヴァンダルーに届く事は無かった。


「ば、馬鹿な……本当に舌で攻撃するなんて……」

 驚愕と衝撃は大きかったようだが、ダメージ自体は小さかったらしい。すぐに起き上がろうとするが、身体が思うように動かない事に気がついて愕然とする。


「舌の麻痺毒が効いたか、脳が揺れたせいでしょう。少し経てば立てるようになりますよ、オニワカさん」

 ヴァンダルーは『六角戦鬼衆』の頭であり、現鬼人国王テンマの第一子であるオニワカにそう告げた。


「やはりオニワカ様では若すぎたか……」

「しかし一人? いや、まあ一人で『六角戦鬼衆』の五人と戦い、疲れ一つ見せぬとは凄まじい」

「ああ、まさかマラソンマッチを『六角戦鬼衆』に仕掛けるとは……恐れ入った」

 ざわざわと勝負を見守っていた鬼人達が囁く。


「そこまで! 勝負はヴァンダルー殿の勝ちだ! 我等鬼人はヴァンダルー殿を皇帝にして、試練に挑む選ばれし勇士とここに認める! 良いな、皆の者!?」

 御前試合が行われる宮殿前の広間に、王であるテンマの声が響き渡った。

 キドウマルから始まった一連の戦いは、皇帝と認められるための試練だったのである。


 集まった者達の「応!」という答えと歓声が響く中、サム達はほっと胸を撫で下ろしていた。

『いや良かったですな、坊ちゃんが誰も殺さずに勝てて』

『殺さないだけでなく、誰にも重い怪我をさせずに終わったので一安心ですね』

『殺し合いや稽古とは、また違った難しさがありますからね』


 サムやサリア、リタが心配していたのは、ヴァンダルーが鬼人達相手に死んでしまう事や、怪我をする事では無い。彼が鬼人達を殺すか重傷を負わせてしまう事を、そして何かの間違いで彼が負けてしまう事を心配していたのだ。


 何故ならキドウマル達『六角戦鬼衆』の五人は確かに強いが、この試練では全員が『光速剣』のリッケルトよりやや劣る程度の力しか発揮しなかったからだ。

 だから本気の殺し合いになっても……殺し合いなら確実にヴァンダルーが勝利する。


「殺し合いならまず負けませんけど、殺し合い以外だと意外と負けますものね、ヴァン様」

『ええ、ボードゲームじゃないから多分大丈夫だと思っていたけど、少し心配だったのよね』

「ボードゲームやギャンブル等、直接生死のかかっていない勝負では旦那様の勝率は高くありませんから」

 タレアや【可視化】の魔術がかけられたままのダルシア、ベルモンドが言うように、ヴァンダルーの強さは殺し合いにやや特化している。最近編み出した【死砲】や【炎獄死】等がそれを表している。


 しかしこれは『習わし』、荒っぽいが試練だ。そのため、向かって来た『六角戦鬼衆』は戦意に満ちていたが、ヴァンダルーに対する殺意は持ち合わせていなかった。

 彼等が説明した訳ではないが、実際に戦ってみると腕試しの域から出ないよう、暗黙の了解が存在した。


 武具は黒曜鉄製だが本物。本気で戦う。しかし、武技は使用不可。魔術は使用可だが、建造物を大きく壊すような事は禁止。倒れた相手を攻撃してはならず、相手がそのまま立ち上がれないようなら、それで勝負は終わり。

 『六角戦鬼衆』の五人やオニワカは常にその暗黙の了解の中で勝負を挑んできた。


 ヴァンダルーも、大した疑問も持たずその暗黙の了解に従った。いや、更に厳しいルールを自分に課していたようだった。

 武技を使わないのは勿論、【危険感知:死】や【飛行】、【幽体離脱】以外の魔術を使わず、【魔王の欠片】も使わず、戦ったのである。


「……何故魔術や、【魔王の欠片】を使わなかった。舌を伸ばすのと同様に、使うと聞いている」

 倒れたままのオニワカにそう問われて、ヴァンダルーは「使わない方が良いと思ったので」と答えた。

「下手すると町が壊れますし、魔術での手加減は苦手なんです」

 ヴァンダルーの魔力は膨大である。そのため、彼の感覚で「ほんのちょっと」しか魔力が込められていない【魔力弾】が直撃すると、並の魔物は肉片になる。


 レビア王女達を使う【死霊魔術】や、【死弾】なんて使ったらどうなるか、考えるまでも無い。

 毒や病気を作る手もあるが、この試練にはそぐわない気がしたので止めておいた。尤も、グール等生まれつき毒を持つ種族も境界山脈内には居るので、スキルでの毒は使ったけれど。


「欠片を使わなかったのは、皆さん本物の武器を使っていましたが全て黒曜鉄製だったでしょう。それに合わせました」

 ヴァンダルーが使う【魔王の欠片】は彼が手加減したとしても、最低でもミスリルやアダマンタイトでなければ打ち合いにならない。


 『六角戦鬼衆』やオニワカも本来なら黒曜鉄よりも上質で強力な武具を使っているのだろうが、町中でそれを振り回す訳にも行かなかったのだろう。ミスリル製のマジックアイテムは下手な攻撃魔術よりも強力な魔力を宿しているし、アダマンタイトの業物は石を豆腐のように切断するからだ。


 だからヴァンダルーもそれに合わせたのだ。

 そこまで合わせてよく勝てたなと思うかもしれないが、彼はキドウマル達に対して【幽体離脱】後に霊体を分裂させ、【実体化】スキルで創った分身と連携する方法で戦って勝ったのだ。


 そのためキドウマル達は一対一の戦いの筈が多対一の戦いを強いられ、オーガテイマーの『愚連隊長』ザンジョウのみ、多対多の戦いになったのである。

 如何にキドウマル達が優れた戦士だったとしても、体力に限界はある。対して、ヴァンダルーの分身には際限が無い。


 戦いは、やはり数である。


「後、色々な相手と戦って経験を積むのは俺の為にもなります。お蔭で、良い経験を積めました。

 手を貸しましょう」

 そう言ってオニワカに手を伸ばすヴァンダルー。しかし、オニワカは差し出された手を悔しげに見つめると、手を取ろうとはせず、そっぽを向いた。


「オニワカ様っ、だから申したでしょう。とても勝てる相手では無いと」

 そこに現れたのが、ブギータス軍との戦いで一人代表として派遣された『六角戦鬼衆』一の角、ガンカクだ。彼はオニワカを助け起こし、手を差し出した姿勢のままのヴァンダルーに「いや、すまん」と小さく頭を下げた。


「貴殿の強さはテンマ様や皆に説明したのだが、俺の弁が立たんせいでオニワカ様を説得しきれなんだ。それに『お前も直には見ていないではないか』と言われると、返す言葉が無くてな」

「……どう言う事です?」

 何事も無かったように姿勢を戻したヴァンダルーが尋ねると、ガンカクでは無くテンマ王が問いに答えた。


「各国では神々が王を選ぶのがこの地の習わしだが、神は我々よりも深く物を見る。故に、我々の理解が及ばない選択をされる事が往々にあるのだ。

 そのため、新たに王となる者に不満がある際は一度だけ挑戦する事が出来ると言う決まりがある。その決まりをオニワカが皇帝にも採用するべきだと言い出してこの騒ぎとなったのだ」


 どうやら、ガンカクは不満が無かったので……明らかに負けると分かっていたので、一人だけ立ち塞がらなかったらしい。

 いや、もしかしたら『六角戦鬼衆』の他の面々も本当はヴァンダルーが皇帝になる事に不満という程の不満は無かったのかもしれない。


「むぅ、すまん。ガンカクが言う事があまりに信じ難かったので……いや、あの話の十分の一でも真実ならと思ったのだが」

 最初に戦って負けたので、動けるようになったキドウマルがそう頭を掻きながら釈明する。

 彼の言葉に、レビア王女達は『無理も無い』と頷いた。


「儂はガンカクの話は兎も角、ブダリオンと何よりゴドウィン殿が認める鬼ならば認めるつもりだったのだが……我が子が無礼を働いたな。若気の至りと思って、許してやってくれ」

 一方、テンマ王はそう言って謝罪した。ブダリオンは兎も角、ゴドウィンもこの鬼人国では人望に厚いようだ。


「父上っ! 俺はこのような奴が皇帝の座に就くのは認められません!」

 だが、オニワカはまだ納得していないらしい。ガンカクに支えられながら、整った顔立ちに不満を露わにして叫ぶ。

 そうしていると元々赤鬼であるのに更に顔が赤くなったように見えた。


「オニワカ! 貴様という奴は一度の挑戦を負けておいて何を言うか! 何を持って認めぬとほざくか!?」

 我が子の訴えに怒り出すテンマ王。牙を剥き出しに顔で怒鳴り出す彼に、ヴァンダルーが反射的に防御姿勢を取る。

 しかしオニワカは即座に言い返した。


「こんな筋肉も無い奴を皇帝とは、認められませぬ!」

 テンマを真っ直ぐ睨み返したオニワカが、ビシッとヴァンダルーを指差して宣言する。その指の先で、ヴァンダルーは声も無く崩れ落ちていた。


「ええいっ! 貴様は昔からいつもそれだ! 筋肉筋肉と、昔から儂では無くガンカクやキドウマルにばかり懐きおって!」

 そう怒鳴る、鍛えられているが引き締まった細身の身体のテンマ王。

「俺はゴドウィン殿の筋肉も昔から好きです!」

「うむ、ゴドウィン殿なら良い!」


 そう親子が叫び合っている間、ダルシア達は慌ててヴァンダルーを起こしていた。

『オニワカさん、お願いだから図星を突かないで! ヴァンダルーが一番気にしているの!』

『おお、糸が切れた操り人形のように崩れ落ちた坊ちゃんが、ダルシア様の言葉で蠢いている』

『父さんっ、それは痙攣しているだけだから!』


『坊主、元気出せ、お前の歳でムキムキだったら不自然だろうが』

『そうです、主よ。人間、骨が肝心ですぞ』

『くおおおん』


「なんて言うか、テンマ様とオニワカ様がすまん」

「オニワカ様、昔からマッチョに憧れていて、な。今回の試練にまだ若いオニワカ様が加わったのも、それが原因で……」


 ヴァンダルーがそう慰められ、キドウマルや他の鬼人達から謝られている間も、親子の喧嘩は続いていた。


「そもそも、筋力だけで物事が解決する時代では無いのだ! 魔術や奇怪な技、そして『魔王の欠片』を制御し自在に操る他にない力こそが必要なのだ!

 現に、先の戦いで我等鬼人国はガンカク一人を送り出すだけで手一杯だったではないか!」


 この鬼人国は西側の境界山脈の岩壁に存在する。それは古くからアルダの信者達が山脈を越えて来た時に押しとどめる役目と、周囲に存在する五つのB級ダンジョンや空中の魔境である魔空から襲い掛かってくる魔物から他の国を守る役目を背負っているからだ。


 故に鬼人国の鬼人達は、武と強さを尊ぶ。元からの気性や、守護神が『戦士の神』ガレスである事も影響しているが、その力で役目を全うする事を誇りとしてきたのだ。

 元々鬼人族は肉体的な力に優れた、戦士の種族だ。魔術的な素質を持つ者もいるが、全体からみると少ない。

 故に鬼人国ではまず戦士を鍛え、その上で魔術的な素質を持つ者を選抜して魔術師としても鍛える。そんな方針を取って来た。


 そして起きたのが先の戦いだ。『解放の悪神』ラヴォヴィファードは強靭な鬼人国を抑えるために、周囲のダンジョンに生息する魔物の闘争本能や殺傷欲、食欲を解放して、強引に大暴走を引き起こした。全て同時に。

 三つ程度までならダンジョンから魔物が溢れても対応できるだけの戦力を常に有していた鬼人国だが、全て同時に溢れられては手が足りない。


 テンマ王や『六角戦鬼衆』、オニワカや他の戦士達も勇猛果敢に戦ったが、国を守るのでやっとの状況が続いた。……境界山脈外の、普通の人間の国なら為す術も無く滅亡し、国民全員が魔物の餌になっていてもおかしくない。そんな危機的状況で、国を守り通しただけでも十分歴史に残る大偉業に値する。

 しかしテンマ王は、諸悪の根源であるラヴォヴィファードとその祭司であるブギータス討伐の戦いに、戦士を一人しか派遣できなかった事を悔しく思っていた。


 そして自分達が動けない間に悪神を討ち取ったのが、次代皇帝と認めていたブダリオンでも、尊敬するゴドウィンでも無く、正体不明のダンピールであるという。

 当然大きくショックを受けたが、テンマ王はそれを疑心や怒りでは無く、これまでの自国の方針を顧みる機会に変えた。


「オニワカよ、未だ幼名であるお前にもわかるであろう。これからは魔術と知の時代となる。我が国はこれからより魔術師の数を揃え、質を上げねばならぬ。それこそが、この地を守るお役目に適う事となろう。

 ……それにお前は、どちらかというと魔術師寄りであろうが」


「それは……確かに悪神を討ったのは魔術師です。ですが、筋肉の価値がそれで損なわれた訳ではありません!」

「そうだ、そうだー!」

「ええい、聞き分けのない……ヴァンダルー殿!? 何故そこで貴殿がオニワカに賛同するのだ!?」


『うわっ、坊ちゃんが凄い勢いでオニワカさんに這い寄った!』

「戦いには使わなかった【魔王の節足】で移動しましたのね」


 這いよられたオニワカが思わず「ひっ」と小さく悲鳴を上げて仰け反るが、ヴァンダルーはそれに気がつかないまま目を見開いているテンマ王に向かって諭すように話しかけた。

「筋肉の素晴らしさ、そして有用性は時代で左右される物ではありません。魔術もまた重要ですが、戦いを重んじる以上筋肉を疎かにしてはいけないと考えます」

 ヴァンダルーの言葉には、平坦な口調からも感じ取れるほど筋肉への賛美が込められていた。


 そう、筋肉は素晴らしい。魔術は確かに強力ではあるが、使い手が生物である以上肉体的な体力や筋力を無視する事は出来ない。

 魔物を倒しにダンジョンに潜る場合でも、戦場に赴く場合でも、体力が無くて辿り着けなかったのではどんなに優秀な魔術師でも意味が無い。


 「健全な精神は健全な肉体に宿る」と一度も考えた事の無いヴァンダルーだが、殺し合いには筋力と体力があった方が望ましいとの考えを、疑った事は無い。


「お、お前も筋肉の素晴らしさを理解してくれていたのか?」

「勿論です、同志よ」

 そうヴァンダルーが頷きかけると、オニワカは感動に目を潤ませた。


「くぅっ……俺はお前を外見しか見ず、内面を見ていなかった。そんな俺を同志とまで!」

ぐわしとヴァンダルーの肩を掴む。どうやら、次期鬼人国王有力候補との関係は修復出来たらしい。


「まあ、初対面ですから仕方がくふー」

「許せっ! 心の友よ!」

 そのままオニワカの熱烈な抱擁を受けるヴァンダルー。オニワカはキドウマル達と比べると細い体つきをしている。しかし、人種と比べれば十分逞しい。

 抱擁されているヴァンダルーの肺から、空気が絞り出された。


『それに、魔術を伸ばす方針にしても……俺みたいな戦い方はまず無理です』

 肺に空気が無いので、【幽体離脱】後に【実体化】してそうテンマ王に続けるヴァンダルー。

 筋肉への賛美だけではなく、現実的な考えを忘れてはいなかった。それを告げられたテンマ王も、はっとした様子で「確かに」と呟く。


「その通りだ。幾ら魔術を極めたとしても無数に分身を作り続け、それを全て我が身の如く操る事や、舌を伸ばして打撃に用いる等……ましてや【魔王の欠片】を従わせる事は不可能。

 どうやら儂もガンカクの話を聞いて乱心していたようだ。そのような奇怪な業を魔術で身に付けられると考えるとは」


「そ、そうですっ! その通りです父上!」

 分かり合う親子。そして子の腕の中で地味に落ち込むヴァンダルー。

「我々鬼人族は元々魔術には向かない者が多い、ですが肉体的に優れた種族。その特性を伸ばしていく事こそ、今後もお役目を果たす事に繋がるのです、父上」


「その通りだ、オニワカよ。父が間違っていた。しかし、今まで通りではこの前のような事が起きた時、どうすれば良いか……」

 オニワカに頷きつつも、渋面を浮かべるテンマ王。彼も自国の戦士達の力を信じていた。だからこそ、この前の事件で防戦一方だった事のショックが大きかったのだろう。


 そのため「今までの方法ではだめだ!」と考えてしまったのかもしれない。


 オニワカやガンカク、キドウマルもテンマ王の悩みに答えを出す事は出来なかった。ラヴォヴィファードのような存在がそう頻繁に現れる訳が無いのは誰もが理解している。

 しかし鬼人国は今まで約十万年の間役目を果たしてきた。そしてこれからヴィダやザンタークが復権を果たす時まで、何万年でも役目を果たし続けなければならない。


魔人や吸血鬼のように寿命が無いわけでもないが、鬼人も寿命が長い種族だ。それだけに、暫く大丈夫だからと先延ばしにして良い事では無いのだろう。


『あの~、だったら魔術が得意な種族出身の方を招けばいいのでは? 以前のタロスヘイムのように、孤立している訳では無いのですし』

 重い空気が漂う中、レビア王女が手を上げてそう発言した。


「いや、確かに我々鬼人族よりもエルフ等の方が魔術的に優れた素質を持つ者が多いのだが……」

「しかし、我が国には民がおらん」

 鬼人国は防人の国であるため、いざという時守らなければならない民は存在しなかった。国民は全て鬼人族で、いざとなれば誰もが戦う事が出来る体制を取って来た。


 だから今からエルフや人種、ドワーフを魔術師として鍛えようにも難しい。


『そうじゃなくて、他の国から魔人やラミア、ノーブルオークやグールを招いて人材交流すれば良いんじゃないかな~っと思うのですが……嫁入りや婿入りでは無く一年か数か月か、期限を決めて。あと勿論、招く分この国からも戦士の方をそれぞれの国に派遣して見るとか』


 レビア王女がそう言うと、テンマやオニワカ、周囲にいる鬼人達は暫く硬直した後……思わず呟いた。

「「「思いつかなかった……!」」」

 何故レビア王女がすぐ思いついた事を、テンマやオニワカ達が思いつかなかったのか。それは昔からの固定観念の問題だった。


 境界山脈内の各種族は、それぞれが国を治めている。それは神々が安定して信者を確保できるように、各種族が平等に存在し続ける事が出来る様に等々様々な理由がある。そのどれもが、アルダの勢力から境界山脈内を守るのに必要な事だった。


 その中に、各国を治める主導的な種族とその国で交わった場合生まれてくるのは、その主導的な種族の子供となるという神々が定めた仕組みがある。

 例えばノーブルオークのブダリオンと、アラクネのクーネリア姫がノーブルオーク帝国で交われば、産まれてくる子は全てノーブルオークに。ザナルパドナで交われば全てアラクネになる。


 因みに、男女どちらもその国の主導的な種族でない場合は、通常通り両親の種族の子供が半々の割合で生まれてくる。

 ただブダリオンがノーブルオークであるため、クーネリア姫と第三国で子供を作ると生まれてくる子供は全てノーブルオークとして生まれてくる事になる。


 それは兎も角、その仕組みがあるので各国では個人単位の留学や婚姻等以上の規模での移住は避けられてきた。一つの国の主導的な種族が減る事は、その国の戦力が減るのと同じだからだ。

 それに、今までは各国が持つ戦力だけで十分だった。


 だから誰も思いつかなかったのである。このままではダメだと思ったテンマ王が思い至らなかったのは、柔軟さに欠けるかもしれないが、自国の役目は自国で果たすという責任感の強さ故だろう。


 しかし、レビア王女の言うように期限を決めて戦力を各国に派遣し合う方式ならどの国の戦力も減らない。それどころか総合的には上昇する。

 勿論種族の違いから揉め事が増えるだろうし、効果的な運用が出来るまで時間もかかるだろう。しかし、慣れるまで百年はかからないだろう。


「感謝する。その妙案、早速とりかかろう。皆よ、良いな!?」

 テンマ王の決定に、鬼人達は「応!」と拳を振り上げて賛成した。

『お役に立てたようで良かったです』

 笑顔で答え、炎を何時もより明るく輝かせるレビア王女。国が複数のダンジョンに囲まれている状況は、利益も大きいが危険も伴う。旧タロスヘイムの第一王女として、鬼人達の気持ちが分かるのだろう。


 こうしてヴァンダルー一行の諸国歴訪の一国目は始まったのだった。

本日、拙作「四度目は嫌な死属性魔術師」の書籍版が発売いたします。書店で見かけた際は目を止めていただけると幸いです。

ネット小説大賞のホームページでキャラクターラフやカバーイラスト等も公開されていますので、よければご覧ください。


12月19日に158話を投稿する予定です。

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