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四度目は嫌な死属性魔術師  作者: デンスケ
第五章 怪物の遠征編
123/515

百五話 送らぬ人

 旧サウロン公爵領の街道を四台の馬車が進んでいた。先頭と最後尾の馬車には傭兵が乗り込み、御者も傭兵が務めている。更に、周りを馬に騎乗した傭兵が囲い、守りを固めている。

 そして真ん中の二台の馬車には、『商品』が乗せられていた。


「全く、良い世の中になったものです」

 この一団の長であるパデシ・ボクタリンは物々しい雰囲気に構わず、陽気な笑顔を浮かべていた。

「噂では、近々この領の名前も正式に改められるとか。いやいや、目出度い。これでアミッド帝国の統治は盤石ですね」


 そんな事を言うパデシに、傭兵団の団長が話しかける。

「そんな事を言って良いんですかい、旦那? 旦那は生粋の選王国人でしょうに」

 母国の、それも故郷が敵国に占領され支配されている現状と未来に対して、そんなに嬉しそうにして良いのか? そう聞かれてもパデシの笑顔は曇らない。


「当然でしょう。何処の国に生まれたかは関係ありません。私は商人、利益を得る機会を与えてくれる存在を愛す人種です。そしてオルバウム選王国よりアミッド帝国の方が、私の商売に利益をくれる。

 見てくださいよ、後ろの商品を。ここが選王国だった頃は考えられない量と質ですよ」


 自慢気にパデシが手で指す二台目と三台目の馬車には、それぞれ十数人もの人が乗せられていた。

 奴隷である。

 高価な奴隷の首輪は嵌められていないが、その代わり手足に頑丈な枷が嵌められている。


 パデシ・ボクタリンは奴隷商人だった。だがオルバウム選王国でも奴隷制は認められている。それなのに何故アミッド帝国占領下の方が利益を出せるというのか。

 それは奴隷達の種族に理由があった。馬車に乗せられている奴隷は、獣人種や巨人種、ダークエルフとのハーフエルフ、中には竜人種も一人居る。全てヴィダの新種族か、その血が色濃く表れている者ばかりだ。


 アミッド帝国では人間の、人種とエルフ、ドワーフの奴隷の取り扱いは厳しく決められている。だが、差別対象のヴィダの新種族やその血を色濃く引いている者の奴隷は、実質無制限だ。

 パデシはそれに目を付け、旧サウロン領内のヴィダの新種族を駆り集める様にして奴隷にして売り捌いているのだ。


「確かに綺麗所に、何処でも働けそうな逞しいのが揃ってますな」

 馬車には傭兵団の長も思わず涎が出そうな美女や、きつい肉体労働もこなせそうな逞しい男、今から仕事を仕込むのに丁度良い年齢の少年が揃っている。

 荒事以外の商売には門外漢の傭兵達だが、これを売り捌けば大きな利益を得られる事ぐらいは分かった。


「しかし、皇帝は五十年の間奴隷に関する法はそのままにするって、代官様が発表したはずでは?」

 傭兵達が言う様に、アミッド帝国皇帝マシュクザールは占領したサウロン領に帝国の差別制度を布いていなかった。

 これはサウロン領の国民に対する猶予であると同時に、罠でもあった。


 サウロン領の人種やドワーフにエルフ達が、いきなり隣人や同僚、恋人や配偶者、そして我が子が差別対象にされると聞いたら、当然帝国に反発する。大規模な反抗運動の切掛けに成るかもしれないし、選王国へ脱出しようと企てる者は数え切れなくなるだろう。


 しかし五十年はそのままだと聞いたら、まず反発するよりも安堵する者が出る。特に人数の多い人種にとって五十年という時間は、大人なら自分の子や孫の世代に交代している可能性の高い遠い未来だ。


 寿命の長いドワーフやエルフにとっても、五十年あれば帝国の制度も変わるかもしれないし、その前にオルバウム選王国がサウロン領を取り返しているかもしれないと考える。

 だから、お上に逆らうような危険な事はせず、とりあえず様子を見た方が良いのではないだろうか?

 そう思うには十分な猶予だ。


 そうする事で、サウロン領の人々が一つに纏まらない様にしようという政策なのである。


 ただ罠の意図があるとは言え、法は法。犯せば当然厳しい罰を受ける。

「ですからこうして人気の無い道を選んで、皆さんを雇って護衛して頂いて、アミッド帝国の領内に密輸しているのではないですか。

 帝国には見ず知らずの、可愛そうなヴィダの種族の奴隷の為に捜査に乗り出すような憲兵の方は居ませんからね」


「ははは、違いない。この商品はあっし等がちゃんと送り届けますぜ、旦那。ですから……」

「分かっていますよ、働きに応じて報酬は弾みます」

「いえいえ、そうじゃなくてですね――」


 奴隷商人と傭兵の黒い談笑に水を差すように、左右の森から口元を布で隠した武装した男女が現れ、馬車の前方と後方を塞いだ。

 そして他の者と同じように口元を覆面で隠している、女性の騎士が鋭い眼光でパデシを睨みつけて宣言した。


「我々は『サウロン解放戦線』であるっ! 侵略者すら利用して我が国の国民を売る売国奴パデシ! 命は無いと思え!」


 よく見れば顔立ちに幼さが残る、まだ十代後半だろう少女とも言える年頃の騎士だが、その声に含まれた迫力に未熟さは見られない。


「さ、『サウロン解放戦線』だっ!」

「よ、傭兵団の皆さん、早速出番ですっ、頼みましたよ!」

 パデシは顔を青くしつつも、取り乱さずにそう傭兵団の団長に叫ぶ。団長はニヤリと口元を歪めると、得物のハルバードを構えた。

「ええ、死刑執行はお任せくだせぇ」


 は? 何を言っているのです?

 そうパデシは言ったつもりだったが、代わりに口から出たのは自分の血だった。

「かっ……ごぶっ」

 白目を剥いたパデシの死体から得物を引き抜くと、団長は女騎士に一礼する。


「終わりやしたぜ、お嬢」

 他の傭兵達も、パデシが雇っていた従業員を縛り上げると団長に倣って頭を下げる。

「良し、では奴隷にされた人々を枷から解き放て」


「へい、お任せくだせぇ」

 何と、パデシに雇われていたはずの傭兵団はレジスタンス率いる女騎士と通じていたのだ。

 傭兵達は突然の事にまだ困惑している奴隷達から枷を外し、レジスタンスは持ってきた外套を女性や子供に羽織らせていく。


 何処かほっとした雰囲気の傭兵団団長に、女騎士は話しかけた。

「しかし良いのか、デビス。下衆とは言え雇い主を裏切ったら、傭兵としては生きていけないぞ」

 団長……デビスは苦笑いを浮かべた。

「へへ、構いやせんや。元々傭兵団なんざ、戦場で死に損なったから仕方なくやっていただけの腰掛けでさぁ。廃業は望むところですぜ」


 そしてデビスはサウロン公爵軍だった頃の敬礼をして、言った。

「あっしらは元々負け犬。死ぬ前にサウロン領の兵に戻れるなら、それもお嬢の旗の下で戦えるってんなら、幾らでも泥を被りますぜ」

「掲げるのは私の旗ではなく、サウロン公爵家の旗だ。私は騎士叙勲も受けていない、ただの騎士爵家の長女に過ぎないぞ」


 今は亡き父の元部下が寄せてくれる期待を女騎士、イリス・ベアハルトは嬉しく思いつつも釘を刺すのを忘れなかった。

 レジスタンスは彼女が率いる『サウロン解放戦線』以外にも複数組織されていて、サウロン公爵の庶子とその弟が率いる『新生サウロン公爵軍』も存在する。レジスタンス同士の仲間割れに発展しかねないような言動は、周りに仲間しか居なくても控えるべきだ。


「それに、私の家の身分は解放戦線に参加している者の中で最も低いのだぞ。私なぞ持ち上げられる神輿だ、神輿」

 実際、イリスの家はオルバウム選王国の貴族制度で世襲可能な貴族の内では最低の騎士爵家。そしてサウロン解放戦線のメンバーは全て彼女より上の爵位の家出身の者達だ。


「イリスお嬢がまた何か言っているぞ。準男爵家五男の俺に対する嫌味かな?」

「さあな、もしかしたら伯爵家の妾腹に生まれた私に気を遣っているのかもしれんぞ」

「いえいえ、きっと政略結婚に使うために侯爵家の養女になった元孤児の私に遠慮しているのよ」

 ただ、全員出身はそうであっても、実際は普通なら家も継げず大した役職にも就けない、他の貴族家の養子に成るか入り婿や嫁に成らない限り、平民に堕ちるしかない立場だった者達だが。


 先の戦争で貴族の当主や、家督を継ぐ可能性がある長男次男の多くは討ち死にするか、他の公爵領に脱出している。今のサウロン領に残っている貴族は帝国に恭順しているか、領民を安心させるために名前だけ残された傀儡だ。


 そして必死に脱出させるほど選王国にとって重要ではなく、しかし一応貴族家の血を引いているため帝国にとって無視できないという微妙な立場の者達が、イリスの元に集まっているのだ。


「なぁに、これからは三代前から兵士のあっしが加わるんで問題ありやせんよ」

「それは心強いな。

 よしっ、そろそろ出発するぞ!」

 倍の人数に増えたレジスタンスと、奴隷から民に戻った者達が歓声を上げ、奪った馬車で移動して行く。残されたのは奴隷商人が流した血痕だけだった。




 澄んだ朝の清々しい空気に、何処か禍々しい一団を率いる少年の声が響く。

「ここをキャンプ地とする」

 このヴァンダルーの宣言を地球のサバイバー達が聞いたら、呆れるかもしれない。「こんなキャンプがあるか」と。


「起きろ」

 まず地面が次々にゴーレム化し、山の斜面が適度な面積の広場に形を変えていく。岩盤や岩をストーンゴーレム化し、広場を支える柱にするのも忘れない。


 そして出来た広場に、ガラカラガラカラと音を立てて骨が組み上がっていく。

『おぉぉぉぉぉん』

 ボーンフォートのクノッヘンが、骨を建材に城壁や生活するための建物に変化していく。屋根は瓦葺ではなく、ステゴサウルス等の骨板、亀の甲羅等々で創られた骨葺屋根だ。


 建物の中は空っぽではなく、骨製のテーブルや椅子、ベッドが配置されている。シーツやマットも、サムに乗せて運んだ物をリタとサリアが早速運び込んでベッドメイキングを開始。

 ヴァンダルーは【ゴーレム錬成】スキルで井戸を手早く掘って、緊急移動用の極小ダンジョンも【迷宮建築】スキルで建てておく。


 最後にノシノシとイモータルエントのアイゼン達がクノッヘンの周りを歩き回り、周りから骨屋敷を見られない様に隠す。


「ご苦労さまです、旦那様」

 そして一時間も経たずに終了。ベルモンドが淹れてくれたお茶で、皆で一息入れる。

 たったこれだけの時間と労力で、何も無かった場所に堅牢な砦と同等の防衛力を持ち、居住性も抜群で、しかも井戸やイモータルエントから食料も得られて、逃げるための緊急避難口まで備えている拠点が完成した。


「災害指定を受けるはずですね」

『おおぉん?』

 拠点の核であるクノッヘン(分身のスケルトン)を見ながら、しみじみとヴァンダルーは言った。


 何の注意も払っていないだろう場所に、突然アンデッドが無数にいる砦が出現するのだ。それでは事前の警戒も防衛戦略も台無しである。

 特にクノッヘンは【高速飛行】スキルを持っているため、機動力が他のボーンフォートとは比べ物にならない。


 やろうと思えば深夜に城壁を越えて侵入し、朝までに町を襲撃しながら砦を組み上げる事も可能だろう。

 防衛側から見ると、正に悪夢だ。


「こうなると同じような手を帝国や選王国、原種吸血鬼が使って来る事も考えて、タロスヘイムの防衛戦略を練り直さなければ」

「ヴァン、怖くないよ~。落ち着いて~」

『ヴァンダルー、安心して、怖がらなくて良いのよ』

『ほ~ら、ご覧ください主よ、何時もより多めに回しております』


 発作的に危機感を覚えてあり得ない想定を始めるヴァンダルーを、パウヴィナやダルシアが宥めにかかる。骨人なんて気を逸らそうとしているのか、自分の頭蓋骨や肋骨を外してジャグリングをして見せる。


『坊ちゃん、流石にボーンフォートと似た魔物を帝国や選王国が戦線に投入して来る事は……まあ、無いと断言はしかねますが』

 九割九分無い。アンデッドや蟲の魔物をテイムできるのがヴァンダルーだけである以上、ボーンフォートと同系列の魔物を操れる者は存在しないのだから。


 超大型の植物型魔物や特殊なゴーレムを使うなら、理論上は同じ事が出来るかもしれないが……机上の空論の域を出ない。

 もしこの机上の空論が現実になったとしても、超大型植物型魔物の歩みは陸上の貝より遅いだろうし、現在の錬金術で動く砦型ゴーレムを作ると製作費だけで国が十回は破産する。


『じゃあ、原種吸血鬼の方はどうです?』

「私はビルカインさ……ビルカインやグーバモンの保有戦力までは知りませんが、ボーンフォートはまず所有していないかと」

『え、そうなんですか? クノッヘンさんはとても便利だと思いますけど』


 レビア王女が意外そうに聞き返す。ボーンフォートは歴史上数体しか確認されていない希少なアンデッドだが、ビルカインやグーバモンは神代の時代から現代まで生きている連中だ。アンデッドをテイムできる彼等なら、目を付けてもおかしくない。

 そう思ったのだが、ベルモンドは「王女、旦那様を基準に考えてはいけません」と答えた。


「彼らはアンデッドをテイム出来ますが、それは死体を材料に自分の手で創り出したアンデッドを支配できるだけです。既に存在し活動しているアンデッドはテイムできません。

 なので、彼らがもしボーンフォートを欲するなら一から作らなければならないのですが、この数の骨を集めるのは文字通り骨でしょうね」


 しかも、材料を集めた後儀式をしてアンデッド化させるので、それに必要な時間もかなりかかるようだ。


「普通にランク1のリビングボーンからコツコツ成長させるような事はしないのですか?」

「あまりしなかったと思います。戦力としてなら、従属種吸血鬼を増やせば事足りますし……それに旦那様、殆どのアンデッドはクノッヘン殿や骨人殿の様に頭が良くないのですよ」

 つまり、苦労して育てても「戦え」や「待機」等単純な指示を幾つか実行できる程度にしかならない。


「そもそも、彼らは別に国や大規模な傭兵団を運営している訳ではありません。犯罪組織の同類です。

 正面から軍隊と戦う事は元々想定していないのですよ」

 邪神派の原種吸血鬼達は、社会の裏に根を張る方法で今まで生き延びてきた。そのため、戦争の様な大規模な戦いを自分達が行う事をあまり想定していないらしい。


 そもそも原種吸血鬼や上位の貴種吸血鬼は、単体で一国の軍を蹴散らせる戦闘能力を持つ。守るべき非戦闘員を抱えていない彼らは、自分一人か数人で暴れるか逃げるだけで十分なのだ。


「じゃあ、邪神や悪神は?」

「邪神や悪神、ですか……流石にそれは私の知識も及びませんので」

 このヴァンダルーの質問には、ベルモンドも答える事は出来なかった。

 しかし、これからグーバモン達に加護を与えた『悦命の邪神』ヒヒリュシュカカを初めとした邪神悪神とヴァンダルー達は敵対する事に成る。


 そうである以上、それらの対策も必要だ。

「まあ、対策といっても今はゴリ押しぐらいしか思いつかないので、頭を捻りながら備えましょう」


「申し訳ありません、説得しきれませんでした」

『そんな事無いわ、ベルモンドさん。あなたは良くやったわ!』

『ぢゅう、謝る事はありません。主も、平常に戻ったようですし』

『おおぉん』


 そんな様子でベルモンドを労う皆に、ヴァンダルーは「やはり怯え過ぎかな?」と思ったが、無理をしない程度に備えるのは良い事だと考え直した。


 こうしたヴァンダルーの被害妄想に等しい危機感の繰り返しによって、タロスヘイムの防衛力はこれまで高められてきたのである。




「じゃあ、とりあえず行ってきますね。皆、山賊や帝国の兵士が来て、やり過ごせない時は処理しておいてください。邪神派の吸血鬼が来た時も任せます。

 でも、レジスタンスの人達には手を出しちゃダメですよ。死にそうだったら助けてあげてください」


 そう言い残してヴァンダルー達はキャンプ地から出発した。

 まずはスキュラとの接触が目標だが、とりあえず情報収集の為に近くの霊を掻き集めなければならない。そのために、ちょっと辺りを一回り散歩するのだ。


「まあ、望み薄ですけど」

 自然の山野には無数の生命が存在し、無数の霊が発生したり消えたりと忙しない。それらの霊はゴーレムを作るのにとても便利だ。しかし、情報源としては有用とは言い難い。


 植物の霊は周囲の様子に鈍感で、蟲の霊もあまり期待できない。動物なら縄張りの内部がある程度解る程度。鳥は目が良く活動範囲が広いので最も期待できる。

 しかしそれら野生の動植物の霊は生前の記憶を早々に失い、九割九分まで一年も持たず輪廻の環に還ってしまう事が多い。


 そうなると頼りになるのは人間等の知的生物か魔物の霊だ。だが、ここはただの人里離れた自然の山だ。戦場跡でもないので、そうそう人の霊は居ないだろう。

 なら探すべきは魔物の霊なのだが……。


「ゴブリンでも居ないかなー」

『いざ探すと意外に居ませんね、ゴブリン』

「居ないねぇ」

 ヴァンダルーとレビア王女、そしてパウヴィナは情報源に出来そうな魔物を探して山道を進むが、思ったよりもここは平和な山らしい。何処にでも居る魔物の代名詞、ゴブリンの影も形も無い。


 ……身長二メートル越えの巨人種ゴーストと巨大幼女を恐れて、いち早く逃げ出しただけかもしれないが。

「ただの紅葉狩りなら比較的成功なのですけどね」

 この辺りは木々の間に適度な間隔があり、日光が木漏れ日に成って中々綺麗だ。肝心の紅葉が無く、紅葉が乏しいが悪くない風景だ。


「モミジ狩りって、何を狩るの? モミジって魔物?」

 パウヴィナが紅葉狩りと初めて聞いた子供にありがちな勘違いをしているので、ヴァンダルーが訂正しようとするが、その前にレビアが『鹿の魔物ですよ』と答えた。

『異世界では、鹿の肉をモミジ肉と呼ぶと石板に記されていましたから。間違いではありませんよね?』


「はい、鹿です」

 まあ、世界が異なるのだし紅葉狩りの意味が違っても別に問題は無いだろう。

 そんな時、パウヴィナがクンクンと周囲の臭いを嗅いだ。


「あ、こっちから水の匂いがするよ」

 ノーブルオークハーフの鋭い嗅覚を発揮したパウヴィナが、集まってくる有象無象の霊よりもいい働きをしてくれた。


『水辺に行けば、手掛かりになりますね』

 スキュラはリザードマン同様に、水辺を必要とする種族だ。勿論全ての水辺にスキュラが居る訳ではないが、手掛かりにはなる。


『では私は御傍で待機していますね』

「お願いします。パウヴィナ、匂いはどっちからしますか?」

「うん、あっちだよっ」

 念のために姿を消すレビア王女。ヴァンダルーは水の匂いを辿るパウヴィナに着いて行った。


 暫くすると、小さな池に着いた。

「スキュラさん居ないね」

 残念そうなパウヴィナの言う通り、直径十メートル程の小さな沼にはスキュラの姿は無い。


「ですけど、スキュラだった人は居ますよ」

 しかしヴァンダルーの目にはスキュラの霊の姿が映っていた。


『ない……無いよ……無いよぅ……』

 酷く暗い顔で両手と下半身の触腕を使って何かを探しているようだ。ヴァンダルーの【魔道誘引】スキルに気が付かない程集中して探しているらしい。所謂地縛霊だ。

 これまで彼が出会った霊の中で、最も幽霊らしい霊である。


「何かお探しですか?」

 しかし、ヴァンダルーが声をかけるとスキュラの霊は顔を上げ、ハッとしてヴァンダルーを見つめながら表情を緩ませた。表情に浮かんでいた陰惨な影が、見事に外れている。


『大事な、指輪を。貰ったばかりなのに……アタシったら、無くしちゃって……』

 これなら姿をパウヴィナに見せても大丈夫だろうと、【可視化】の魔術をかけたスキュラの霊によると、彼女はオルビアという名のこの池の近くに集落を構える部族のスキュラだったらしい。


 女性だけの種族のスキュラであるオルビアは、ある男と秘密の交際をしていた。相手の男が立場のある人物で、今は関係を明らかに出来ない状況だったらしい。

『でも、婚約の証しに渡したい物があるから、一人でここに来て欲しいと言われて、あたし集落から抜け出して来たの。そして、ここであの人から指輪を……あたし嬉しくて気が遠くなって……それで気が付いたら』


「死んでいたと」

『そーなのよっ! 気が付いたら幽霊になっていて、あの人は居ないし、指輪も無いし……何が何だか分からなくて……』

「かわいそう、死んだ時の事を忘れちゃったんだね」

『気が付いたら自分が死んでいたなんて、辛かったでしょう』


 オルビアの話を、死んだ経験のある三人が「わかるわかる」と頷いて共感を示す。

「じゃあ、指輪を探すのを手伝いましょう」

『良いの!? 何日も探したのに見つからないのよ?』

「はい。とりあえず増えますね」

『増える? うわ増えてる!?』


 【幽体離脱】したヴァンダルーが分身して池の泥の中まで調べる。

『何故死んでしまったのか、心当たりは有りますか?』

 その間にレビア王女とパウヴィナはオルビアが何故死んだのか話を聞いている。【精神侵食】スキルを使う方法もあるが。記憶を無理矢理穿り出した途端発狂や精神崩壊させてしまう可能性があるため、聞いて思い出してもらった方が良いのだ。


『ううん、何も覚えていなくて……』

 幽霊の姿は死んだ時の精神状態に左右される事が多い。ナイフで刺殺された人の霊は、胸にナイフが刺さった姿で現れるので見ただけで死因が解るのだが、オルビアには外傷が無い。


 自分が何故死んだのか覚えていないので、霊体に死因が現れていないのかもしれない。

「きっと、あっという間だったんだね。死ぬ前の事は覚えてない? 何か変な事が在ったとか」

『そう言えば……最近幾つかの集落でスキュラが一人で居る所を何者かに襲われて、酷い姿で殺される事件が起きていて……まさかアタシを殺したのもその犯人!? 大変っ、もしかしたらあの人も危ない目に!?』


「だ、大丈夫だよ、周りにその人の霊が居たらヴァンが気付くもんっ」

『そうですよ、きっとあなたの大切な人は無事ですっ』

 そう宥められたオルビアが「そうよね、あの人に限ってそんな事無いよね」と落ち着きを取り戻した頃に、ヴァンダルーの分身が全て肉体に戻った。


「残念ながら、指輪は見つかりませんでした。あなたを殺した奴が盗んだか、死体と同じ場所に在るか、その『あの人』が持っているのではないでしょうか?」

『そう……探してくれてありがとう。これで諦めがついたわ』

 すうっと、オルビアの姿が薄くなる。指輪がここに無い事を知って、未練が薄れ輪廻の環に還ろうとしているのだろう。


「オルビアお姉さん……」

『生まれ変わったら今度こそ幸せになってくださいね』

『うん、ありがとう』

 しんみりと見送るパウヴィナとレビア王女。オルビアは彼女達に笑顔でそう言うと、消えて――


「あ、すみません、スキュラの集落まで案内してくれると助かるんですが」

『そう言えば何処にあるのか話してなかったわね』

 消えずに戻ってきた。


「後、アンデッドになるつもりは有りませんか? 犯人に自分の手で復讐できますよ」

『うーん、アンデッドは別に。復讐もどうでも良いかな、あの人が無事でさえいてくれたら……あ、でもせっかくだからあの人が無事なのを確認したいかも』

 そしてあっさりヴァンダルーに憑りついた。とりあえず、想い人の無事を確かめるまでは憑いて来るつもりらしい。


「嬉しいけど、ビミョー。こうなるんだろうなーって、知ってたけど」

『微妙、ですね。私も、こうなるだろうなと思っていましたけど』

 やはりヴァンダルーに輪廻の環に還るところを引き止められた経験者達は、じと目で見つめるのだった。




 蟲アンデッドに待機している皆への伝言を持たせ、ヴァンダルー達はオルビアの案内で彼女が生活していた集落に向かった。その集落は山間にある沼に在るらしい。

『ええっ、この子『ヴィダの御子』なの!? 凄いじゃんっ、あたし達スキュラ族もずっとヴィダを信仰しているけど、誰もそんな二つ名持ってないよ!』


「ふふん、そうなんだよ。ヴァンは凄いの。

それでオルビアお姉ちゃんが好きなあの人は?」

『名前は言えないの。でもね、とってもカッコイイの♪ 前髪をこう、ふってするとね』

 どうやら彼女の思い人は、美形で前髪が特徴的な人物らしい。


「この分だと、話を聞いていれば思い人を特定できそうですね」

 そう呟くヴァンダルーが、集落との間に在る川に差し掛かった辺りで、絹を裂くような悲鳴が聞こえた。

「もしかしたら誰かが襲われているのかも」

『うわ速い!? でもなんで手も使って走るの!?』

「速いからです。パウヴィナとレビア王女は、後から着いてきてください」


 瞬間的に四足走行に切り替えたヴァンダルーが、二人の返事を聞かずに悲鳴が聞こえた方向に向かう。

『ええっと、多分違うと思うけどそうかもしれないし……あああっ、舌が伸びたっ!?』

 何かオルビアは戸惑っているようだが、【格闘術】の武技【舌刀】で邪魔な枝を切り払いながら、まずは悲鳴の主の元に駆け付けてから考えようと、ヴァンダルーは走ったのだった。


 オルビアを殺した殺人犯に襲われているのだったら、魔術を多用する事になるので【飛行】は節約だ。

 実際、近くの川までなら四足走行とあまり速さは変わらない。




・名前:サリア

・ランク:7

・種族:リビングメイドアーマー

・レベル:49


・パッシブスキル

特殊五感

身体能力強化:6Lv(UP!)

水属性耐性:7Lv(UP!)

物理攻撃耐性:6Lv(UP!)

自己強化:従属:4Lv(NEW!)


・アクティブスキル

家事:4Lv(UP!)

槍斧術:7Lv(UP!)

連携:4Lv(UP!)

弓術:5Lv(UP!)

霊体:7Lv(UP!)

遠隔操作:7Lv(UP!)

鎧術:6Lv(UP!)


・名前:リタ

・ランク:7

・種族:リビングメイドアーマー

レベル:51


・パッシブスキル

特殊五感

身体能力強化:7Lv(UP!)

火属性耐性:7Lv(UP!)

物理攻撃耐性:6Lv(UP!)

自己強化:従属:4Lv(NEW!)


・アクティブスキル

家事:3Lv(UP!)

薙刀術:7Lv(UP!)

連携:5Lv(UP!)

弓術:5Lv(UP!)

投擲術:7Lv(UP!)

霊体:7Lv(UP!)

遠隔操作:7Lv(UP!)

鎧術:7Lv(UP!)




・魔物解説:リビングメイドアーマー


 ヴァンダルーによってフリルやレースを模した形状の冥銅製装甲を追加した事で、サリアとリタがランクアップした存在。

 恐らくランクアップ条件は【家事】スキルを習得している事、誰かのメイドである事、それらしい形状の鎧である事等が考えられる。


 当然【家事】スキルを所有し、誰かのメイドである事を自覚して行動しているランク6のリビングアーマー系のアンデッドがサリアとリタ以外に居るはずがない為、ラムダで初めて発生した魔物である。

 そのため冒険者等が見ると妙な形状のリビングアーマーか、リビングマジックアーマーと高確率で誤認してしまうだろう。


 戦闘能力の高さもそうだが、【家事】スキルにも補正があるため優秀なメイドに成長する可能性がある。

ネット小説大賞に参加しました。宜しければ応援お願いします。


5月17日に106話、18日に107話、21日に108話を投稿する予定です。

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