第四十八話・患者からの電話
某総合病院薬局の監査台にある電話が鳴りました。受話器を取ると、交換手から優しい声で「患者の丸丸さんからお電話です」と……。
電話を受ける薬剤師は、調剤ミスのクレームかと身構えつつ、できるだけ明るい声で「こんにちは、薬剤師の罰罰ですが、丸丸さん、いかがなさいましたか」 という。
丸丸さんはドスの効いた声で「今日の薬、あんたら間違ってへんか~数が足らんし、種類も違うがな」 と怒っている。私はパソコンを見ながら丸丸さんの情報を確認する。確かに本日の受診者のようだ。待て。同姓同名もいる。本人確認。
「丸丸さん、念のために生年月日を教えてください。それと本日の受診科も」
本人確認ができたら、次に薬の処方せんの内容を確認する。
そこで患者の薬が本当に間違っていたか、患者の勘違いかは……大体半分ぐらいです。
① 調剤ミスが判明した場合は、とにかく平謝りです。電話の会話のやりとりで、薬局に散らばっていた薬剤師たちが受話器を持っている私のまわりに集まる。そして、誰だ~と調剤済みの処方せんやパソコンを見て監査印を確認する。ちなみに私が勤務していたところは、調剤者よりも、監査者もしくは交付者の方が責任が重いとされていました。同僚の一人が叫びます。
「うわ、丸丸さんの薬を監査したの、あたしだ、ごめん!!」
電話応対で、正しい薬を送付するか、交換かを相談し、交換の場合はご自宅に上司と伺う。総合病院では遠方から来ている人もいますので、もしそれだったら大変です。でもどんなに遠かろうがそれをするのは監査者の役目。電話応対した私も上司に即時報告する。上司は処方医に即時報告する。大勢の薬剤師がいるところは、それなりに緊急時の対応がそうやって決まっています。
② 患者の勘違いで済んだ場合も結構多い。それは電話対応だけですむ。古い薬を手に持って間違えられたという。興奮している人はとにかく落ち着くよう、なだめてから、薬の袋に必ず印字してある調剤日を確認してもらう。案外、そこで気がついて、「今日貰った薬じゃない。今日貰った薬はどこ?」 と聞かれたり。電話で透視して「その薬はあなたの足元にあります」 と言えたら薬剤師でなくて超能力者です。
イチャモンもありました。薬のヒートを輪ゴムで止めますが、患者独特のマイルールで逆鱗に触れた。薬剤師を罵る患者に困っていたら、当人のご家族が途中で本人から無理に電話をもぎとったらしく、「すみませんっ」 と一言だけ叫んで切られたことがありました。今ごろ修羅場だろうな、と思いつつそれも電話のワキにある記録簿に書いておきます。
いつだれが電話をしてだれが応対して内容と結果を書くことは後日に役立つことが非常に多かった。面倒でも忘備録と記録簿は馬鹿にしてはいけません。
③ 番外編。薬局から患者に電話することも多いです。最近はコロナ禍のせいで、0410対応といって、診察も服薬指導も電話で済ませるやり方もあります。読み方は「ゼロ ヨン イチ ゼロ」 です。これを、なぜ「0410」 というのか。
それは、令和二年四月十日から開始されたから。
正式名は、「新型コロナウイルス感染症の拡大に際しての電話や情報通信機器を用いた診療等の時限的・特例的な取扱いについて」 です。
厚生労働省や薬剤師会は新業務やこれから拡散しようとする名称の付け方は凝り過ぎか、単純すぎて投げやりに見える名づけのどちらかです。0410、もうちょっとなんとかならなかったのか。暗号的すぎる。外部にもわかるよう、コロナ感染予防緊急対応とか。まあ、オンライン服薬指導の道が開けたのは、良かったのかもと考えています。
話を戻します。
「0410」 対応で患者が薬を取りに来ない場合は、薬局から患者に電話する。それ以外なら薬局の薬管理簿や在庫チェックから調剤ミスがわかっておわびと健康チェック、交換願いの電話をする。
調剤ミスは同じ名前の同じ効果のある薬だが粉と錠剤を間違えた。もしくは、同じ効果だが違うジェネリック会社のものを出してもらったとかが多い。医師によってはジェネリックの会社指定をつける人もいますので、そういうときが間違えやすい。
一度でもそういうことがあれば、薬の置き場所や監査場所に注意喚起のカードを目立つように張り付けて、二度と同じミスをしないようにします。




