第四十三話・有名人の利用
患者と同じ病気の有名人の例を出して説明すると、患者によっては服薬や食事療法の指示を守ってくれやすい。今回はその話です。
たとえば某有名人の急逝の原因はあなたと同じ病気ですという。すると、その人を知っている患者は身を乗り出して真剣に話を聞く。医師は、おもむろに有名人と同じ症例の画像のうち一番重症なのをとりだす。それからその患者本人の病像もとりだす。それらをシャウカステン上で並べる。シャウカステンはレントゲンフィルムをかけ、後ろから光をあてて読影するための機器です。今は全部パソコンですませるので、パソコンの画面で説明する医師も多いです。
ともあれ、こう説明する。
「これは、あの人と同じ病気で亡くなられた人のマルマルの臓器の画像です。ほら、ここ見て。ここのところ。これ血栓ね。結構大きい。二センチはあるね。これが脳まで飛ぶと脳ヘルニア起こして即死します。そうならないために手術しましょう」 もしくは「血栓をつまらせぬために薬は忘れずに飲みましょう」 という。亡くなられた有名人と説明用に病像を使われた患者には申し訳ないですが、医療従事者はこの世で生きている人のために働いています。
有名人税という言葉がありますが、現在も生死にかかわらず有名人の病気が、その患者向けアイコンのようになっていることはある。
薬局でも患者さんから「だれそれさんと同じ病気だけど、あの人は良くなったよね。あの人の薬と同じかどうかわかりますか」 と聞かれたことがあります。いや、有名人の処方内容はわからないし、仮に知っていても言いません。だけど、生還された有名人のように助かりたい、同じ薬を飲めばよくなる、もしくは同じ医師にかかりたいという気持ちはわかる。
そういったわけで、健康食品会社は宣伝に、有名人を起用する。有名人に「私も飲んでます」 と言わせる。あの有名人がすすめるからと客になってくれるのを見越している。
それと同じです。医師の説明で、そういう有名人のオーラというか、イメージ効果を見越してその有名人が生きていようが死んでいようが利用するのはあります。




