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第三十五話・なんであの先生は私にあんなこと言うのですか……無自覚な医師からのセクハラ話


 どのような科でもいろいろな患者さんが来ます。ある時、とてもかわいらしい十代の女の子が入院しました。ところが彼女は外来の時からのなじみのはずの主治医を拒否した。看護師や私に向かって「あいつ大嫌い」 という。「あいつが治療するなら帰りたい」 と泣く。理由を聞いても言わない。まあ複数の専門医がいるところだったので、変えることはできたのですが、一応チーム医療なので元の主治医もひっそりとカンファレンスには参加はしました。

 嫌がられた元主治医も「なんでや」 というし、……さあ、何があったかと思いますか。泌尿器科と思春期の可愛い子がカギです。主治医は四十代です。彼女から見たら医師でもりっぱなおじさんです。今回の話は薬剤師は活躍しないです。


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 看護師がさりげない聞き取りをした際に、「あいつに言わないで」 と前置きをしたうえで彼女は打ち明けました。主治医は入院時の一回目の診察の時に、二人きりになったときに

 ↓ ↓ ↓

 ぼくに会いたかったでしょ、一緒にがんばろう


 ……と言ったそうです。


 好意的に意訳すると「主治医のぼくに早く会って早く治りたいでしょ、ぼくもがんばるからキミもがんばろう」 という励ましだと思う。

 思うがそれはダメだ。

 泌尿器科で入院する若くて可愛い子は珍しい。ゆえに手術できるうれしさ? のあまりに、普段は出さない本音と隠していたうぬぼれが出たのだと思います。患者にしたら気持ち悪さしか感じない。セクハラです。当人はそういうことを言う人でないと思われているから、看護師も「まさか」 と思いました。

 でも、思い込みの激しい患者でないこともわかる。本人からの口止めもあったので、彼は看護師から静かな総スカンを食らいました。

 しかし、他の医師からまわりまわって聞かされた本人は「言ってない」 と皆に自ら弁明はした。しかしながらカーテンを閉め切ったところで看護師が席をはずしたときにいわれたと患者本人が涙ぐみながら主張している。誰が信じるかそんなもん。

 この話は病棟内だけの話で公にはなりませんでした。私はたまたま関係者なので、わかったのですが、思春期の女性としては年配のおっさんに脚を広げて診せないと治療できないのは仕方がない。わかってはいるけれど、大変な屈辱でもあります。冗談でも「ぼくに会いたかった?」 と、軽口を叩くものではないと思います。

 医療従事者にとっては日常でも、患者にとっては一生に何度もない入院、多分あの患者は一生思い返すだろうと思う。医師もそういう面では本当に気遣うべき。そうでないと今までの真面目な勤務態度と看護師たちからの好感が、患者に放った一言で吹っ飛んで粉々になります。





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