第三十話・糖尿病患者は言うことを聞かない人が多い・前編
題名の糖尿病の話からしないと、私の言いたいことが伝わらないと思いますので、すみませんが基本的な話から始めます。従って医療従事者は飛ばして読んでください。それと今回の話は子供や若い人がなるⅠ型糖尿病や、ごく一部の妊婦さんがなる一時的な糖尿病の人は関係ありません。
私が言っているのはいわゆる生活習慣病の人々 ⇒ ⇒ Ⅱ型糖尿病の人々の一部の話です。
紀元前の時代から糖尿病は存在していました。正確には今から三千五百年前からわかっていました。言い換えると紀元前千五百年です。古代エジプト時代です。その時からすでに記録が残っているのが凄い。患者の尿にアリがたかることで病気を判別されたとか、貴族かつ美食家がなるとか……古代エジプト人はいろいろな意味で凄いです。糖尿病がすでに一種の贅沢病であることがわかっていた。
ちなみに日本の歴史上で公認されている初めての糖尿病患者は藤原道長です。これは御堂関白日記といって平安時代に書かれたもの。世界最古の直筆日記とされ、ユネスコ記憶遺産に登録されています。もちろん国宝でもあります。道長は六十二才で死んだとされていますが、日記には糖尿病としか考えられぬ症状が書かれています。私は日記にある古語は読めないので、研究者様の考察より抜粋します。
① 喉が乾くため、大量に水を飲む
② 体力が弱って痩せてきた
③ 背中の腫物が治らない
④ 目が見えない
糖尿病は膵臓からインシュリンがうまく出されないために発症します。
インシュリンは膵臓ホルモンの一種です。食事によって血液中のブドウ糖などが増えると、膵臓からこのインシュリンがだされブドウ糖は筋肉などの各組織に送り込まれます。しかしインシュリンが少なくなるか、出なくなると、ブドウ糖の行き場がなくなる。つまり血液中の糖分が多い状態が続く。
これには基準値というものがあり、その範囲内だと健康、それを超えると糖尿病と判定されます。その状態が続くと、それこそいろいろな合併症をおこします。
もちろん平安時代の当時はインシュリンの概念はない。判別に使うヘモグロビン検査値の概念なし。それどころか血液検査自体ない。藤原道長は国で一番権力を持った大臣だったので、美食が過ぎたのでしょう。目が見えない……晩年は合併症を起こして相当に苦しんだだろう。
さあ、私は今から平安時代の超有名人な権力者、藤原道長の病気を解説します。現在ならド庶民の私が道長の個人情報を晒してもクレームはつくまい。以下は上記の番号に準じます。
① インシュリンが出されないと、ブドウ糖が血液中にとどまり全身に行き渡りません。血中におけるブドウ糖濃度が濃くなると尿中に糖が出はじめ、多尿になります。結果脱水症状をおこすためにのどが渇きます。
② 食事を取ってもインシュリンが出されないと、血中にブドウ糖が流れるままです。つまりエネルギーとして使えません。自動的な応急措置として、体内の脂肪や筋肉のタンパク質をエネルギー源として使用します。結果、いくら食べても痩せてきます。危ないです。
③ 背中の腫物に限らず、糖尿病患者が怪我をすると傷の治りが遅くなります。血液中の糖が多いのは血糖値が高いこと。血管がぼろぼろになり、血流が悪くなる。血流障害と神経障害と免疫機能低下がセットになって、でてきます。単なる切り傷でもすぐに治らず、化膿しやすい。よって背中に腫物ができたら、そのまま治らない。道長はこれですね。
④ 怖いのがコレ。糖尿病は眼球内の毛細血管内にも影響を起こします。人によっては急に見えなくなる人も。そこまでいかずとも、黄斑に浮腫(水ぶくれ)が起こりやすく、浮腫になると神経の感度が低下します。 物を見ようとすると中心の部分がかすんで見えない、物がゆがんで見える、小さく見えるなどの症状が現れて、そのために視力が低下します。これを糖尿病黄斑浮腫といいます。
黄斑とは眼球内の場所の名前です。眼をカメラに例えると、レンズに相当するのが角膜・水晶体、フィルムもしくはCCD(撮像素子)に相当するのが網膜。網膜には視細胞といって光を感じる細胞があり、これらは網膜中心部に密集している。この場所を「黄斑」と 呼びます。それが血糖値の高さゆえにこれらもダメージを受けるわけです。成人後に盲目になる人で一番多い理由がこれです。
盲目までいくには、まず糖尿病網膜症になります。虹彩部分に新生血管という、正常では存在しない血管が出ます。合併トラブル開始です。
このため、糖尿病になると定期的に眼科に通院して眼底検査をしてもらうのです。
あとは腎臓にきたら、機能低下による腎透析が必要になりますし、脳にきたら脳梗塞になります。また認知症になりやすいです。だから糖尿病になったら、それ以上症状がすすまないようにするため、血糖降下剤を使います。このリスクを念頭において、治療をすれば決して怖い病気ではありません。
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日本初の糖尿病公認患者の藤原道長みたいになりたくなければ、普段からの血糖コントロールをしっかりすればよい。それだけです。それを知っているのと知らないのとでは、予後といって病気のその後が違います。だから糖尿病と診断されると教育入院を提案されることが多い。
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しかし、それらを知ったうえで……医師や薬剤師、栄養士のいうことを聞かない人がいます。血糖値が高くても、血流に影響が明らかにでても、暴飲暴食をやめない。自覚症状がないから危機感を持たない。今回のテーマがこれです。
いいですか。医師や看護師、薬剤師や栄養士も入院中でない限り、よい年をしたオトナの外来患者に一から十まで介入しません。生活習慣病ですよと説明と予防のために注意はしますが、あとは自己責任です。
診察時にヘモグロビン値が高くても「あ~」 と思うだけです。こちらの忠告を聞いてないなと。そして薬を増やす。
一生懸命、食事制限と薬物療法と運動療法をやっている人はわかりますよ……次の後編では本題の「糖尿病患者は言うことを聞かない人が多い」 に続きます。




