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第二十三話・病院実習指導


 今回は私が常勤で日当直もこなしていた現役バリバリ時代での話です。実習生指導について私は副担で、総まとめの主担は先輩がしていました。彼らはいわばお客さんなので仕事内容に選択権はなく、決められた大学側のカリキュラムに沿い、かつ、こちらの勤務形態に併せて動いてもらいます。そうはいっても受け入れ側が時間的にも人員的にも忙しくて構えない時もあり、スケジュール通りにならぬこともあります。その時は課題を与えて指定範囲内で動いていただきました。

 薬学実習生はみな素直で向学心と希望にあふれた人ばかりでした。まぶしかったです。親や親戚が医療従事者というのは鉄板で、私のようなサラリーマンの家の子は珍しい部類です。実習に関して問題児はなく、無断欠席ぐらいでした。体調が悪かったのが本当ならば気の毒ですが、規則に従い大学にも欠席回数や実習時の態度を報告させてもらいます。

 できる子だと、手のあいたときに何かさせてほしいと頼んできます。助かるときも多々ありました。私が実習生の時は二か所に行き、最初のところは市民病院で何でも教えてくれた。次が単位を取るための長期実習で大学付属病院。決まったときはすごくうれしかったが、カリキュラムは形だけ。明らかに邪魔にされた。四人グループで行ったが四人ともほったらかしにされているという感覚だった。おまけにセクハラまであった。市民病院には今でも感謝しています。担当者だった人はのちに薬局長になられていました。

 そういう経験があったので、私が担当時は覚えて欲しいことはなんでも教えました。コキ使ったほうが喜ばれると思ったからです。クレームがついたのは一人だけでした。製剤実習時でしたが滅菌液が重たいし、やけどしそうになったという。立ちっぱなしの仕事でしんどいとか……薬剤師の仕事は安全で清潔な仕事ばかりではないです。点滴ボトルや栄養剤の運搬だってあります。身体が弱いのだったら、その時に言ってくださいな……学生さんなので何を言っても問題にはなりませんので、ごめんねと言って調剤と病棟にまわってもらいました。だからその子には製剤滅菌は教えてない。いざ社会に出てそういう配慮をしてもらえるところに就職できたらいいですが。

 実習は短くて二週間、長くて三カ月ぐらい。場合によっては半年。毎日ですので、仕事の段取りなど決まりきった仕事の他、薬剤師としての仕事に対する姿勢そのものを見られるわけです。私たちもこの学生さんたちが独り立ちしたらどんな薬剤師になるかと見ます。みなさん優秀で実習過程をそつなくこなし、無事単位をもらって巣立って行かれました。


 先輩によっては積極的すぎる学生を出しゃばりだと嫌う人もいます。一度先輩が指示を越えて動いた子を叱っているところに出くわしました。学生さんにとっては、これも社会勉強です。学生を叱れる人は叱っていましたがそれは珍しい方に入る。私も叱らないタイプでした。しかし、これはいけないと思って強く叱ったことがあります。この話を書いてみます。

 とある学生が「失敗しました」 と訴えてきました。散薬の計量をしたときに、少量の場合は乳鉢と乳棒で混ぜて分包するのですが、混ぜる段階で手元が狂ってこぼしたようです。かわいい子で小首をかしげ「手でそっと取って戻してもいいですか」 と聞く。私は驚いて「だめです」 といいました。なぜそんな発想ができるのか。その子、別の日でもこぼしたが、素知らぬ顔でそのまま続けようとしました。事前面接で、好きで薬剤師を目指したわけではないとわかっていたので、私は制して彼女に言いました。

「あなたが患者であったら、それを知ったらどう思いますか。それを想像して動いてみてください」

 彼女はちょっと考えてから答えました。

「あの~、最初からします」

 私はやり直しをさせました。医薬品のロスがでましたが、なあなあにしてしまうと、彼女に今後かかわる患者たちが迷惑します。開業医の娘さんで、いずれは親元で働くと聞いたのでなおさら。良い薬剤師になっていたらいいなあと思っています。

 男女別なくどの子もかわいかったです。そしてしっかりしていました。今は皆さん立派な一人前になっていると思います。





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