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第二十二話・学校薬剤師の話


 過去小学校の集団検診、集団接種、集団歯科検診などで白衣を着た医師、歯科医師に会ったことがあるでしょう。彼らは校医もしくは学校歯科医といいます。専門ではなく、近くの病院の勤務医や開業医にお願いをして、来ていただいているのが多いと思います。

 医師と歯科医師だけではなく、実は薬剤師もいます。学校薬剤師といいます。もちろん、校医と同じく、いつもいるわけではない。しかし大学を除くどの学校にも学校薬剤師は存在しています。

 仕事内容は調剤や服薬指導ではなく、校内外の環境や、保健室などの医薬品管理、酒やたばこの危険性を教える講師などです。何もなければ、気楽そうな仕事ですが、プールの水質検査や各教室の明度や騒音状況も検査する。マンモス校は一つずつ同じような間取りの教室を巡回しないといけない。結構大変です。教育委員会から薬剤師会を経由して、依頼が来ます。本職の仕事外でわずかな謝礼金もいただけるものの、気分はほぼボランティアです。業務外と捉えているところでは、年ごとに回り持ちで学校薬剤師をされています。もちろん進んで数十年の長きに渡りやってこられた人もいます。そういう人は年を取ってから感謝状や表彰をされていますね。


 学校薬剤師の存在は日本独特らしいですが、これにもきっかけとなった事件があります。

 戦前の昭和時代の小学校の講師が、風邪をひいた児童に風邪薬だと思って水銀を与えて死なせました。ときに昭和五年、北海道での事件。塩化水銀は白い粉末で、水に溶けやすく殺菌用として当時はどこの学校の保健室に置いてあったようです。そういった哀しい事件が起きぬように学校薬剤師を入れるようになりました。だから保健室や理科室に置いてある薬物のチェックには必ず薬剤師が介入しているはずです。

 その他にも、先に書きましたが教育環境のチェックです。教室の空気、換気、騒音やシックハウスなどの有無、照明、給食施設や水、プールの水質、保健室や理科室の薬品チェック。それを学校ごとに日を決めてチェックに行く。一つの学校に一日かかることもあります。一人で一つというわけではないので、本職の業務がヒマなときと、立ち合う教師の都合をすり合わせてやっていく。白衣を着ていくと小学校の低学年の人懐こい子どもたちが「なにやっているの」 と聞いてくるときも。それだとかわいいですし、薬剤師に親しみを持つきっかけになるが、チェックに立ち会う教頭あたりが面倒そうな態度だったりするとがっかりします。また水泳部の子から、プールの水質検査なのにウザそうに「まだ?」 と聞かれたり。

 プールの検査のやり方を聞きましたが、それぞれの場所を決めて検体のプール水を取り出す。プールの真中から取り出す時もある。泳いで取ると検査になりません。器具を使って取ります。塩素や細菌が出ないかチェックする大事な検査を面倒がったり急がせるものではない。

 生徒さんは照明に道具を当てて照度を検査する学校薬剤師を見かけても邪魔にせず、「こんにちは」 ぐらいは言ってほしいです。校内に外部の人間がなにをしにきたかを見るのも一つの社会勉強です。邪魔にしないでほしい。


 学校の給食で食中毒が出ると大変なことになります。水や排水までチェックしています。それでも事件が起きるときは起きる。ある学校では生徒に下痢や嘔吐が続き、食中毒を疑い保健所の介入で検査が入った。しかし、食中毒ではない。原因不明だが、体調不良が続くのでなんとかならぬかと頼まれ、改めて薬剤師が念入りに検査しました。でも、やっぱり何もでない。

 指導としては、基本に立ち返り、給食の際の共有物をなくして、家庭から煮沸消毒したはし、沸騰させたお茶を毎日持たせるようにしたら、体調不良がなくなった。箸か食器に何かがあったとは思うが、結局原因不明のままです。そういう新聞のニュースにならぬことも地味な学校薬剤師の仕事です。

 しかし保護者会、PTAと接触があったとしても、忙しいのは校医で、学校薬剤師の出番はない。ほぼ絡みなし。保護者にとって教師の態度やいじめには敏感なのは当たり前です。それもそうですが、根本的に生徒の教育環境には誰も注意を払わない。それでも地道に誠実に学校薬剤師はひっそりと検査を続けます。なにかあったら、助言します。そうそう、古い校舎で明度が落ち照明を変えろと助言しても上は予算をくれない。生徒の目にも悪いのにと気をもんでいたら、見かねた教師の有志が休日返上でかべを明るいペンキで塗りなおしたら明度が確実に上がった。地味な仕事なれども教師にもこういう善意の人々がいます。学校薬剤師も同じく目立たないけれど子供たちのために仕事をしています。








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