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第二十話・この薬の飲み始めは吐き気がでる可能性があると説明すると……

 患者さんにとって初めて出された薬を見るとします。薬剤師が手渡す前に飲み方などを説明します。初めての場合は「吐き気がでたり、食欲が落ちる場合があります」 と言われるとします。抗がん剤や老人性アルツハイマー症の進行予防薬、精神科薬が多いです。

 事前に医師からの説明も受けたり、製薬会社があらかじめ作成していたパンフレットを見た人も、繰り返しになっても薬局でもう一度説明しておきます。念を押しておくのは、服薬後に吐き気が出て、この薬はダメだと自己判断で飲まなくなると困るからです。しつこくても、同じことを書きます。

  ⇒ ⇒ ⇒ 服薬前に、ダメージを説明しておくのは患者さんは副作用が出たと勝手に中断されてしまうのを防ぐため。もちろんまったく副作用がゼロな人も多いのですが、誰でも副作用は出る可能性があると判断して誰に対しても言っています。


 で。同職の人から聞いた話。

 ある時、いつものように説明すると患者さまが怒り出しました。医師からは簡単に吐き気や食欲不振が出るとは聞かされていたので、しつこいと感じられたのかと。でも違っていました。


  ⇒ ⇒ ⇒ 今後ずっと長く飲むことを想定して説明されたのが腹がたちました。二週間分しかもらってない。今後もずっとこの薬を飲むとは限らない。薬剤師はそんなこともわからないのか。ひどいです。


 心情を論理的にわかりやすく説明ができる患者さまでした。長期に渡って必要になるかどうか現時点ではわからない。確かにおっしゃるとおりです。でもその患者さまに怒られても薬剤師は言うべきです。怒られるのも給料のうち。

 私も薬の副作用が知りたいとおっしゃられたときに説明したら、全然飲まなくなった経験をしました。教えてくれたのは処方医でした。

「薬剤師から副作用の説明をされて、怖くなったからこの薬はイヤですと言われた。通院して治療にあたる以上は飲んでもらわぬと困る。もうちょっと考えて説明してやれ」 

 医師からの苦情、患者さまからの苦情、双方から言われるのは当たり前ですが、今後の説明はどうすべきか局内で話し合う良い機会になったかと思います。なんでもクレームをつけられたら、そのままにせず今後はどう対応するかを話し合う機会を持つべきです。どこの世界でもそうだと思います。ただ医療に関しては患者の予後(病気がどうなるかの結果)に深くかかわってくるので、副作用を承知のうえで服薬してもらう場合も想定して動かねばなりません。以前に一を聞いて十をする人、十を聞いてやっと一を理解する人がいると書きましたが、それも踏まえて時には家族を対象に理解していただくまで説明を、と思います。

 今回の話は患者は全然悪くないです。安心して飲んでいただくのが役目と思えばこのケースは薬剤師の失敗だったということです。







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