第十七話・語らぬ患者
私は見知らぬ人と話すのは苦手です。若い時は美容室に行くのがすごく苦手でした。今なら話しかけられて聞き取れないと、ごめんね、耳が悪いからね、無視しているように見えても違うからね。悪気はないよ、本でも読んでるからほっておいてね、細かいところも聞かないでいいよ、まかせるから、と、言えます。
が、若い時は内向的過ぎて他人に話しかけたり冗談も言えませんでした。だから来局される患者さんで緊張しており語らぬ人がいると、昔の私がいる、と、思います。緊急時を除き、あえて突っ込まず、そのままにしておきます。私はそういう薬剤師です。一律、根から葉まで聞き取るタイプではありません。
逆に誰に対してもフレンドリーな薬剤師は、矢継ぎ早に質問をして患者をすごく怒らせたりもありました。一部の患者から人気も出ますがクレームもついてしまう薬剤師のパターンです。怒っている患者の言い分は以下の通り。
「言いたいことは医師に私は全部言いました。薬剤師に言って、処方の何が変わるというのですか。さっさと薬を渡しなさい」
これまた正論です……うーん、でも医師に言えぬことで質問を受けることだってあるのですので存在意義はないよりあると思う。
これを言った患者さんはあっさり系の私に対しても、窓口で薬を見るなりひったくって袋に入れてさっさと帰ろうとなさる。コレ絶対になんらかの理由があるはずで、一度じっくり聞いてみたいが取りつくしまもないので、そのままです。
あと、きまった曜日に来る患者さんで最初は無口だったが、だんだんと打ち解けてくれるようになった人からは貴重な話が伺えます。病名を告げられた心理や家族の変化、その人だけしか感じ取れぬ心境をよくぞ話してくれたと頭が下がる思いもします。こちらも薬の話に限りますがアドバイスはできますので、質問には誠意をもって返答させていただいています。
精神科系ならば、新しい薬剤師や看護師を見ると動悸がしますという患者さんがいます。何をやるにも動悸、息切れ、顔が赤くなる人で、薬でのコントロールで経過観察中。うまくいっても眠気が強く出たりもあるが、時間を見計らってやっていくうちに頓服だけでいけるようになったこともあります。
何を聞いてもむすっと無表情でいる人もいますが、答えがなくても質問自体が喜ばれていると感じるケースもあります。だから返事がないからといって、適当にごにょごにょいって薬を渡すことはよろしくない。逆につっこみすぎもダメ。病棟薬剤師時代では意識がないとわかっていても、あいさつをするようにしていました。家族だけを相手にしないこと。どうせわからないだろうと決めつけないことです。
医療系の仕事は総じてこちらから話しかけることは多いです。その度合いが相手の病状によっては、結構難しいので、四角四面な人よりは、ちゃらんぽらんな人の方がやりやすいかもです。あと子供時代は内向的だったほうが患者の痛みもわかるのではないかな。もちろん患者との相性も同じくあると思います。




