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第十四話・監視カメラの話


 今の勤務先には交付窓口に監視カメラが入っています。入れたきっかけの話をします。

 ある日、私がある患者に薬を渡したら数分後に戻って来て、眠剤だけがないと言いました。眠剤は確かに渡しましたが、この場合正直に「確かに渡した」 といいません。水掛け論になるだけです。また患者さまのプライドもあります。でも、そのまま素直に渡すこともしません。患者が怒ってもです。

 まずは局内で確認。調剤者、監査者、交付者それぞれが数は確かに間違ってないはずという。今の時代は調剤の在庫管理が操作一発でやれますので、それも帳尻があっている。

 ついで本人への聞き取りで事実確認。もう一度窓口に戻っていただき、全部の袋を開けて、間違えて別の袋に入っちゃった可能性もあるからね、などと言って再確認。 

 ⇒ ……やっぱりない。

 ⇒ 次にどこで気づいたのかを聞き取りその現場まで行きます。患者は外の道路の信号機のところで不足がわかったという。局長と出向き、周囲を丹念に探します。また患者の同意を得て、ポケットの中までチェックさせてもらいます。この人の場合、非常に協力的でした。一部の眠剤が見つかりましたがさきほど渡した分ではありません。はさみでの切り取り方が違うからです。見分け方ですが、ここで詳細は書きません。患者を絶対に責めません。相手は病人です。責めると話が終わってしまいます。

 患者は不足分をくださいというだけです。この眠剤がなければすごく困ると淡々と訴えるだけ。

 以下は、「ね」 がついてるのが私のセリフ。


「窓口で渡したときはありましたね」

「はい」

(おっ、はっきり言ったな)

「でも外の道路で確認したらなくなったのね」

「はい」

「その間、五分もないけど、どうしてだろうね」

「わかりません」

「でも一部は出てきた。袋からじゃないけどね」

「はい」

 次に信号を渡り、駐車場まで一緒に行きます。

 車の一部の汚され方、今は飲んでいない以前の薬がゴムで束ねたままボードに置かれているのをチェック。これから暑くなるし車内におくのはやめていただくよう注意しながら穏やかに話をすすめていく。しかし患者は「もういいです」 とは絶対に言わない。運転席にいる家族は黙って煙草をふかして本人をなだめもせず、抗議もせずで前を見ている。

 結局、なければ不穏になるだろうことが予測でき、局長と相談したうえで今回限りということで不足分を渡しました。そして交付後にサインをもらうことになりました。

 監視カメラの取りつけ話が以前から出ていたのですが、これがきっかけですぐ入れてもらいました。明らかに渡したのに「もらってない」 と主張する患者さまのためのものです。一定の期間動画保存、必要があれば取り出して画面を拡大してちゃんと渡したかどうかをチェックできます。現在はどこの医療機関でも監視カメラを入れているところは多いです。逆に薬剤師の記憶違いで間違えて渡したときにもチェックできます。私は創作が好きなので患者と思って薬を渡したら双子の妹だった、親だと思って渡したら誘拐犯だった……と寝る前にお話を作っています。

 どんなことを言われても患者が悪いとはいいません。患者の病気がそうさせていると認識して、対応しています。そして早く病状が回復されるようにと願うだけです。




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