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海獣(cetus) 14


 放送を切ると、儀堂は艦橋にいる興津とローンへ簡潔に状況を告げた。


 真っ先に反応したのは、副長の興津だった。


「砲の換気も切ったほうが良いです」


 <宵月>の十二センチ連装砲には、強力な排煙装置がある。臨戦態勢を解かない限り、作動しているはずだった。


 儀堂から許可をもらうと、すぐに興津は砲術長と連絡をとりはじめた。そのほかにも外気を遮断するため、あらゆる通気口を塞ぐ手立てが行われる。


 ローンがヴィクトリーサインを出した。


「ギドー司令、二つほどよろしいですか」


「かまわない」


「ありがとうございます。まず、この艦にガスマスクは配備されていますか。次に、もし配備されているのならば、それを私に……外に出たいのです」


 突拍子もない提案に儀堂は正気を疑った。


「貴さ……いや、貴官は何を言っている?」


 非難の口調で儀堂は答えた。ローンは当然とばかりに肯くと、自身が手にしたものを見せた。最新式のカメラだった。レンズにひびが入っている。


「これです。全く幸いなことに壊れていませんでした。今なら魔獣の腹の中を写真に収めることが出来る。貴重な資料ですよ」


「駄目に決まっているだろう」


 呆れたながら否定する。戦場カメラマンか特派員でもなればよかったのにとすら思った。さすがのローンも、儀堂の言うことには引き下がった。


「了解。不躾なお願いでした。どうか、ご寛恕ください。罪滅ぼしではありませんが、あなたのマスクを持ってきましょう」


「俺のか? ガスマスクごときで、魔獣の瘴気とやらを防げるとは思えんが──」


「もしものためですよ。仮に我々に何かあっても、あなたとネシス嬢が無事ならば<宵月>は帰還できる。気休めでも無いよりは良いでしょう」


 興津も肯いた。


「確かに、司令の身に何かあったら元も子もありませんから」


「そうだろう。副長、さあ私にガスマスクの保管場所を教えてくれ」


 もっともらしい理由を掲げ、ローンはガスマスクを取ってくるや、すぐに儀堂の手に握らせた。


「これを離さないでいてください」


「……わかった」


「副長、君もだ」


 ローンは興津の分まで持ってきていた。しかし興津は怪訝そうに断ると、ローンに返した。


「これは連絡武官のあなたが持っているべきだ。貴国の海軍に門目が立たないだろう」


 興津の表情は頑なだった。ローンは懸命にも、無駄な議論はしなかった。あっさりと引き下がり、マスクを自分のものにした。


「なるほど、一理あるね。それでは有り難くいただいておこう」


 納得のいかない顔の興津を残し、儀堂は次の命令を下した。


「ネシス、BMを解け」


 途端に<宵月>周辺の視界が鮮明になった。艦橋からも外の様子が見て取れる。密閉され、陽の光から隔絶された空間だったが、状況は把握できた。体表同様に、禍津竜の体内も青白く輝いていたからだった。


 儀堂はネシスの視界を共有していたため、胃の中を十分に観察できた。


──広すぎる。俺は夢でも見ているのか。


 <宵月>の直下に地底湖があった。それ以外に、何とも形容しがたい景色だった。敢えて表すなら、一面が|青白い(うろ)というべきだろう。


 禍津竜の内部は儀堂の想像を超えた空間が広がっている。BMなど比にならないほどの大きさで、果てがどこまであるかわからなかった。


「ネシス、これも魔導の類か?」


『はて、何が言いたい』


「広すぎるだろうが」


 物理的にありえない現象だった。たしかに禍津竜は巨大だが、いくらなんでも広すぎる。身体の大半が胃袋だったとしても、説明がつかない広さだった。


『わからぬのう。なにせ、ほれ、竜に呑まれたのは初めてよ。誰ぞに手ほどいてもらいたいくらいじゃ』


 急に沸き上がった頭痛を儀堂は堪えた。畜生。もう、どうにでもなれ。


「減らず口が叩けるようなら、具合は良くなったようだな」


『なんじゃ、案じておるのかや。幾分かは持ち直したぞ』


 ネシスはからかう余裕を取り戻していた。


「ああそうかい。そいつは重畳」


 ぶっきらぼうに言い放ち、儀堂は思案した。依然として八方塞がりに変わりなかった。味方の救援も望めない状況で、少しばかり延命されたに過ぎない。


 猶予(ロスタイム)があるうちに片を付けなければ、ろくでもないことになるだろう。下手をしたら、<宵月>もろとも禍津竜のクソになる未来だ。


「ネシス、<宵月>を旋回させろ。まずは周辺を探索する。なにか脱出の手がかりがあるかもしれん」


『よかろう。陰気な物見遊山と洒落こむかや』


「気を抜くなよ」


 <宵月>は這うような速度で動き出した。とにかく距離感がつかめない空間だった。天井まで見渡す限りが青白いせいで、高度がわからない。足元には得体のしれない液体の湖があって、水平線は遥か彼方にあった。


 儀堂は<宵月>の高度を下げさせると、水深を測るために散布爆雷を投射した。水深が浅ければすぐに信管が作動し、爆発するはずだ。しかし投射からしばらくたってもは一向に水柱は立たなかった。


 やむを得ず、高度を上げたときだった。


 真上の対空指揮所から叫び声が上がった


「11時方向! 大規模な編隊を認む!」


◇========◇

twitter(@BinaryTheater)で各話の挿絵を公開中。

毎週月曜に投稿。

ここまでご拝読有り難うございます。

弐進座


◇追伸◇

書籍化したく考えております。

実現のために応援いただけますと幸いです。

(弐進座と作品の寿命が延びます)

最新情報は弐進座のtwitter(@BinaryTheater)にてご確認ください。

よろしくお願いいたします。

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