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百鬼夜行(Wild Hunt) 23

 <大隅>はガレー船団に対して、斜め後ろから突っ込んだ。真横よりも多くの船を巻き込み、また逆襲で衝角攻撃を受けないための措置だった。


 鋼鉄の艦首が敵船の船腹を引き裂き、ぎりぎりと木材の軋む音が悲鳴のごとく波間から木霊していった。


 あまりにも不協和音が過ぎて、外へ出ていたものは耳を塞いだ。


 衝撃は聴覚だけではなく、視覚的にも表現された。まるで雷光のようなまばゆい光が艦首の直下から放たれ、何名かが一時的な失明に陥った。


 <大隅>の艦首は、合計で4隻のガレー船を巻き込み、それらを全て海の底へ帰してしまった。戦果としては上々だった。


 しかしながら、全ての問題を解決できたわけではなかった。


「畜生めがっ……」


 嘉内は静かに毒づいた。前方を青白い光の山が通り過ぎていくのが、艦橋から見えた。衝突時の閃光から視力を回復させるまで時間がかかったため、戦果確認が遅れたのだ。


 光の正体はわからなかったが、<大隅>の艦首(あぎと)が3隻のガレー船が逃したは確かだ。


「取り舵急げ!」


 しくじったと嘉内は思った。同時に、これが限界であろうと感づきつあった。そもそも20ノット近くで航行する船に体当たりできたこと自体が、奇跡のようなものなのだ。しかも相手は<大隅>からすれば、小舟のような大きさでしかなかった。


「飛行甲板にいる本郷中佐へ繋いでくれ」


 残り3隻は本郷の戦車で仕留めてもらうしかなかった。


『少し離れてください。近すぎます』


 申し訳なそうに本郷は答えた。飛行甲板の高さでは本郷のマウスは十分な俯角がとれなかったため、離れて撃つ必要があった。


 加えて肝心の弾薬が、まだ届いていない。それを届けるべく奔走していた中村中尉は、格納庫で脳震盪を起こしていた。<大隅>が衝角攻撃をした際に転倒し、したたかに頭を撃っていたからだった。もちろん、そんなことは本郷と嘉内も知らない。


 重要なのは目前を過ぎ去る3隻の怪異ガレーを止める手立てがないことだった。


 飛行甲板では、ついに戸張が業を煮やして再びシロを飛び立たせようと必死に叱咤していた。


「おいシロ! お前何やってんだ!?」


 シロは首を嫌々と左右に振りながら後退していた。その口先からは甲高い鳴き声が盛大に漏れている。直感的に戸張は理解した。こいつ啼いてやがる。巨体に引きずられながらも必死に戸張は甲板で踏ん張った。


「おまっ、さっきまで威勢はどこ行きやがった!? 早くしねえと──ああっ!?」


 振り向いて怪異船団見た瞬間、思わず戸張は手を放してしまった。


 船団は先ほどと同じく青白い光を放っていた。戸張が注目したのは海面下だった。巨大な目玉のような青白い光点が船団直下に広がり、睨みつけていたのだ。


「あんなもん、どこから──」


 身震いを覚えた戸張の前で、海面下の光点は怪異船団とともに離れていく。まるで船団を導いているかのようだった。


 艦橋にいる嘉内からは目玉のような光点は見えなかった。ただ青白い光の塊とともに、遠ざかる怪異船団がそこにある。


 怪異船団は、さらに増速して輸送船団を追撃しようとしていた。今や残存数は3隻に過ぎない。当初30隻出現したうち90パーセントを戦闘不能にしていた。明らかに<大隅>は求められている以上の戦果を上げている。空母もどきで、あまつさえ水上戦を行ったのだ。


 控えめに見ても<大隅>は十分すぎるほどの義務を果たしただろう。


 つまりは、よくやった。


 誰からも肯定はされないだろうと嘉内は思った。


 誰よりも嘉内自身が承知していない。


 艦橋の電話が鳴ったのは、そのときだった。同時に電探からも報告が上がった。


『反射波あり、6時方向。反応極めて大なり』


 電話を取った八木と目が合う。八木は一言だけ告げた。


「<宵月>です」


 遥か空の向こうから砲の音が響いてきた。


 すぐに対水上電探から、三つの光点が消えた。


【魔導駆逐艦<宵月>】


 <宵月>は高度300メートルから、釣る瓶打ちに十二センチ砲を叩き込んだ。全力砲撃は5分間にわたって行われ、敵集団は完全に沈黙した。


『ギドー、終わったぞ』


 儀堂の目には粉微塵になって、消えていく三隻の船骸が見えていた。ネシスの視界を共有してもらっているのだ。


「上出来だ。ところで、あれはなんだ?」


 木っ端の浮かぶ海域から青白く輝く大きな光点があった。俯瞰してみると目玉というよりは、むしろ円形に広がる脈に見えた。


 怪異船団の消失とともに、円形の光脈は輝きを失い、溶けるように海へ消えていった。


『あれか、あれこそが怪異の首魁よ』


 小さな舌打ちが耳当てから漏れた。珍しいことにネシスは苛立ちを露わにしていた。


「月鬼か?」


『いいや、違う。あれに比べれば、妾の同胞(はらから)など可愛いものじゃ。まったく、あの怪物め。しばらく姿を見なくなったと思えば、こちらの世界に渡っておったのかや……ああ、今宵は厄に好かれたものよ』


「わけのわからんことを言ってないで、説明しろ」


『そう急くな。妾とて気が滅入る。あれは説くよりも見るが早いのよ。まずは海に浮かぶぼろ屑どもの始末が先であろう?』


 もったいぶるネシスに、儀堂の方こそ舌打ちしたくなったが部下の手前ぐっとこらえた。それに気に食わないが、未だに怪異艦隊と<ヴァリアント>は交戦中だ。そちらの始末が先だろう。


「わかった。北に向かってくれ」


『下の奴らに挨拶はせんのかや?』


「今はいい」


 言い切ると儀堂は視界の共有を切らせた。艦橋内の光景が網膜に映し出される。興津やローン、将兵たちが、固唾を飲んで見守っていた。


「手短に伝える。これから敵集団を殲滅する。いいな?」


「イエス・サー」


「了解」


 儀堂は舷窓の近くへ寄った。視線の先では橙色の火炎がうっすらと舞い上がっていた。<ヴァリアント>の主砲弾に撃ち抜かれた、<セント・イシュトバーン>だった。


「少しいいか?」


 ローン大尉へ手招きする。


「なんでしょう?」


 足下を指して、儀堂は尋ねた。


「ボロ船を始末したとき、妙なものが見えた」


 儀堂は自身が目にした光景について話した。海面下で青白く光る巨大な脈の模様だ。


「地中海で似たような事例を聞いたことは?」


 答えるまで少し間があった。


「私が知る限りはありません」


 表情を消してローンは答えた。


◇========◇

毎週月曜と木曜(不定期)投稿予定

ここまでご拝読有り難うございます。

弐進座


◇追伸◇

書籍化したく考えております。

実現のために応援いただけますと幸いです。

(弐進座と作品の寿命が延びます)

最新情報は弐進座のtwitter(@BinaryTheater)にてご確認ください。

よろしくお願いいたします。

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