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百鬼夜行(Wild Hunt) 6

 <大隅>近くにいた2隻の駆逐艦とコルベットの動きは速かった。すぐに増速すると、突如レーダーに現れた15近い反応の正体を明らかにしようとした。もちろん、それだけでは済まなかった。船団全体の針路も変える必要があった。経過としては次の通りだ。


 <大隅>より<ヴァリアント>へ不明目標の出現を報告。


 <ヴァリアント>より船団指揮船へ針路変更の通達。さらに南寄りに変針させた。この時点で、地中海艦隊のウィッペル中将は新たな目標を脅威と認定していた。


 さらにウィッペルは、船団の西方および南方にいる艦艇に迎撃命令を下した。


 ウィッペルからすれば当然の判断だった。退避行動中の船団の針路を塞ぐなど、万死に値する。たとえ同盟国であろうと―そのようなことはまずない―実力で阻止するつもりだった。


 問題は、その実力が全く不足していることだった。


 先に襲来してきた怪異艦隊(ゴーストフリート)への対処で、主力の<ヴァリアント>は出払っている。


 船団の南方には軽巡クラスの艦艇が控えていたが、到着まで時間がかかりそうだった。なにしろ、彼女らは針路変更した船団を回避しなければならない。深夜の海、電探を頼りに50隻以上の大船団を避けるのは、難儀極まりなかった。


 結局のところ、すぐに対応できるのは船団西方にいる艦艇だけだった。より具体的には<大隅>と駆逐艦、コルベットの計3隻だけだった。


 嘉内は艦橋に来ていた。さすがに臨戦態勢中に作業室にいるわけにはいかなかった。すでに幕僚たちが詰めてきている。


「駆逐艦<ジャベリン>より入電です。至急、退避されたしとのこと」


 軍人らしからぬ丁寧な口調で伝えてきたのは、副長の八木大尉だった。実際腰も低く、執事でもやっていそうな風貌だった。かなりの老け顔で実際、五十くらいだったろうか。


 八木は予備士官で招集されたせいで、年の割に階級は嘉内よりも下だった。海兵学校を卒業後、早期に退官し、戦前は商船で航海士をしていた。


「まあ、そうだろうな」


 <大隅>はまともな火力を備えていない。相手が艦であれ、魔獣であれ、近接戦闘では足手まといにしかしならないだろう。


 嘉内は赤色灯に照らされた艦橋内を歩き、海図台の近くに寄った。


「それで、実際のところ転進可能か」


「可能です。しかし、無事に逃げ切れるかと言われれば疑問です」


 直截的に八木は言った。


「何しろ、相手の数が多すぎるうえに近すぎますから。相手が魔獣にしろ、どこかで補足されるでしょう。まあ、ざっと……」


 八木はコンパスと定規を用いて、仮の航路を海図に描いてみせた。彼は副長と航海長を兼任している。人手不足のせいでもあったが、軍令部が外局の月読機関に人を出し渋ったせいでもあった。八木にとっては、とばっちりに等しかったが、あまり気にしている風には見えなかった。


「船団を避けつつ、南西へ退避すれば……うーん、ぎりぎりですな」


 コンパスの先はギリシャ沿海を指していた。ペロポネソス半島の南東、クレタ島から見て北東に当たる。


「妥当な線だな。よし、すぐに変針」


 操舵室へ命じ、退避先へ向けて<大隅>は艦首が向けられた。


「ところで──」


 嘉内はすぅと息を抜くと、声を低くして尋ねた。


「ここにいる連中はどうなると思う?」


 海図の一部を指で囲む。ちょうど、輸送船団がいる海域だった。針路変更が文字通り二転三転したおかげで、今ごろは泡を喰っているだろう。


「彼らも我らも覚悟が必要でしょう」


 八木は説明を省いて、簡潔に答えた。犠牲は避けられそうになかった。


「やれやれ、敵が雑魚であるといいのだが」


 あるいは電探が捉えた影が何かの間違いで合ってくれれば……都合の良い願望だった。<大隅>だけではなく、英国艦艇も捉えているからだ。せめて駆逐艦とコルベット程度で、もてなし可能な相手であることを祈るしかない。


『電探より艦橋へ。<ジャベリン>と<ダンデライオン>が接敵します』


 電探から報告が入る。嘉内は艦内電話を取ると、通信室と作業室の両方に繋いだ。


「こちら艦長、会敵した英国艦艇の通信を傍受しろ。暗号だろうと構わん。何か異常があれば、すぐに艦橋へ報せ」


 接敵から約20分後、さっそく異常があった。作業室から嘉内へ連絡がきた。


『<ジャベリン>の通信を傍受しました。苦戦しています』


「敵の正体は?」


『不明です。砲戦の手ごたえが全くないそうで、仕留めきれていません』


「魔獣ではなく、怪異の類か?」


『可能性大です。ただ気になるのが、向こうから全く仕掛けてこないらしく……いや、待ってください。<ジャベリン>から平文が打たれています。レパントの亡霊、逃げろと』


「はあ?」


 思わず間の抜けた声が漏れた。


「いったい、どういう意味だ?」


『敵は、いえ、敵艦隊(・・・)はガレー船だそうです』


「いや、そんな」


 絶句した嘉内は、誰もが同意する感想を漏らした。


「……嘘だろ?」


 <ジャービス>と<ダンデライオン>の攻撃は一切通用していなかった。相手は廃墟のような木造ガレー船で、徹甲弾の大半が船体を突き抜けていたからだ。途中で榴弾に変えてみたものの、状況は変わらなかった。


 最終的に両艦はガレー船の群れに囲まれ、四方八方から衝角攻撃を食らった。鋼鉄の船腹に古めかしい意匠が施された青銅製の衝角がめり込んでいく。


 全く予期せぬ攻撃を受け、浸水により行動不能に両艦は陥った。


 かくして船団西方の守りが失われた。後に残されたのは自称『輸送船』の<大隅>のみだった。


◇========◇

毎週月曜と木曜(不定期)投稿予定

ここまでご拝読有り難うございます。

弐進座


◇追伸◇

書籍化したく考えております。

実現のために応援いただけますと幸いです。

(弐進座と作品の寿命が延びます)

最新情報は弐進座のtwitter(@BinaryTheater)にてご確認ください。

よろしくお願いいたします。

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