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獣の海 (Mare bestiarum) 20

 耳あての向こう側で嘆息するのがわかった。


『いつかは、かくなろうと覚悟しておった。それが来たわけよ。おぬしらの世界の勢力が、四散している限りは避けられぬ。そうであろう? おぬしらは片方の手をつなぎながらも、もう片方の手には必ず剣を握っておる』


「ああ、それが我々の世界の常だったからな。なるほど、ようやく来るべくして来た邂逅というわけだな」


 儀堂は一呼吸置くと、戦闘態勢に思考を戻した。


「ところで、相手が誰かわかるか」


 挑むように聞く。耳あての向こうでふっと微笑まれたように感じられた。


『そこまではわからぬ。この手の技は、妾の同胞ならば誰でもできようからな。だが誰にせよ、やることはひとつであろう?』


「まあ、そうだな」


 儀堂は口端を上げ、歯がむき出しにした。


『案ずるな。いかようでも抗いようがある』


「それは誠に重畳。引き続き、敵の位置を探ってくれ」


『承知した』


 意識を艦橋に向けると、新たな顔ぶれが加わっていた。英国海軍のアルフレッド・ローン大尉だった。儀堂の視線にローンは気づくと、艦長席までやってきた。


「もし、お邪魔なら仰ってください。自室へ戻りましょう」


 どこまで本気なのかわからない口調で、ローンは言った。


 原則として、ローンは儀堂の命令に従わなければならない。同時に<宵月>にとって、彼は客人であった。日英両国の連絡役として欠かせないため、無下にも出来ない。


「いいや、構わない。すぐにではないが、あなたには手伝ってもらうかもしれない」


 儀堂は、さして気にもせずにいつもと変わらぬ表情で返した。


「私でお役に立てることならば、なんなりと」


 ローンはまんざらでもない顔つきだった。あるいは待ち望んでいたのかもしれない。戦闘中にもかかわらず、彼の出番はほとんどなかったからだ。


「それはよかった。では、早速だが頼みたい。あなたには戦務参謀として、俺を補佐してほしい」


 ローンは目を丸くすると、興津を一瞬見た。


「興津大尉は、副長としてやらねばならないことがある。難しく考えなくていい。あなたは同盟国の軍人として、客観的に意見を述べてくれればいい。恐らく、これから地中海で戦う上で必要なことだと俺は思っている」


 艦内の根回しは済んでいるようだった。興津や他の兵士たちから不満や反感を感じられなかった。あるいは隠しているだけかもしれないが。


「わかりました。私としても、願ってもない申し出です。お引き受けしましょう」


「有り難い。それでは、君は戦闘指揮所で全般状況を把握してくれ。何かあれば艦内電話で知らせてくれればいい。私に直接つないでも構わない」


 耳当てを儀堂は指さした。


 なるほどとローンは思った。確かに戦闘指揮所は適任だった。あの場所には多少なりとも参謀教育を受けた士官が必要だろう。


「我々は、これから再度仕掛ける。今度は、先ほどと同じ手は使えない。敵もこちらの存在に気付いているだろうし、対策しているはずだ。あなたの目から見て、何かの兆候があれば知らせてほしい」


「了解です。では、失礼」


 ローンは艦橋を後にした。



 魔導機関室でネシスは歌を紡いでいた。室内では演算機の駆動音と機関室のモーター音が伴奏役を務めている。


 ふいに歌声が止まり、小首を|かしげる。


「おぬし、さきほどからじっとこちらを見ておるな」


 魔導機関、銀色の筒(マギアコア)の中からネシスは言った。


「ごめんなさい。気が散りましたか」


 相手は御調少尉だった。恐縮した面持ちで、切れ長の目元を反らした。


「かまわぬ。何か言いたげだが、申してみよ。戯れに答えてやってもよい」


「いえ、それは……」


「はよう申せ。聞かれぬのほうが妾は気になるぞ。生殺しは嫌じゃ」


「……わかりました」


 御調は観念すると、マギアコアの覗き窓へ目を向けた。


「あなたは、同胞と戦えるのですか?」


 唐突な御調の問いに、思わずネシスは「はあ」と漏らした。


「何を今さら、そんなことかや。妾が今まで黒い月をどれだけ落としてきたと思っておる?」


 いかにもがっかりした声だった。


「BMは不可抗力でしょう」


 思わず御調はむっとした気分で言い返していた。


「あなたたち月鬼は、自分の意思でBMになったわけではありません。ラクサリアンによってBMに閉じ込められていたわけですから。でも、今回は違います。人類側の協力を得ているのならば、それは月鬼が自らの意思で戦っていることに──」


「変わらぬ」


 御調を遮り、ネシスは断言した。何を示唆しているのか、わかっていた。


「変わらぬ。何も変わらぬよ。それにな、ギドーにも言っておらぬが、妾にとって初めてではないのじゃ」


「初めてでは……それは、つまり──」


 御調は、その先にある意味を察した。


「妾たちとて、殺しあったことはある。ま、そういうことじゃ」


 押し黙る御調をよそに、ネシスは再び詠唱を始めた。歌声は艦底を通して、深海へ染み渡っていった。


◇========◇

毎週月曜と水曜(不定期)投稿予定

ここまでご拝読有り難うございます。

弐進座


◇追伸◇

書籍化したく考えております。

実現のために応援のほどお願いいたします。

(主に作者と作品の寿命が延びます)

また作者のTwitter(弐進座)のフォローをいただけますと幸いです。


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