表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

278/471

カリビアン・ロンド(Round dance) 19

「なぜ?」


 アルフレッドは英語で尋ねた。狐につままれたような顔だ。


「他に何かお望みですか」


 英国人の表情は消えていた。


「掛け金の問題じゃないんだ。それに、君らは俺たちが本当に欲するものを用意できないだろう」


 六反田はグラスを置くと、近くの姿見を見ながら居ずまいただした。


「どういう意味でしょうか」


「合衆国は反応爆弾の量産に入ろうとしている」


「それがどうかしましたか」


「俺なら数を揃えて一気にケリをつけるね。そのほうが安上がりだ」


「そうかもしれません。しかしリスクもある。シカゴBMは反応爆弾の直撃後に巨大な魔獣、月獣に変身しました。同様の事態は他のBMでも起こりうる。その場合、彼らは高い代償を背負うでしょう」


「その通り。だからこそ、我々の価値が出てくる。この意味、わかるかね」


 アルフレッドは数秒後に口を開いた。


「あなた方が切り札(ジョーカー)になると?」


 六反田は鷹揚にうなずくと、グラスにスコッチを注いだ。


「そう。仮に月獣が再び現れたとしても、<宵月>とあそこの嬢ちゃんたちがいれば押さえられる。だからこそ、合衆国は日本との関係を無下にできない。貴国も承知しているだろうが、すでに魔導機関の技術は合衆国に渡している。いずれは実用化するだろうが、それはまだ先だ。だいたい、連中は肝心なものを揃えることができない」


「肝心なもの──」


 呟いた後で、アルフレッドは思い至ったらしい。


「月鬼……」


その通り(イグザクトリー)


 琥珀色のグラスが掲げられ、喉元をピートをまとった酒精が通り過ぎていく。六反田は卓上の葉巻を取り、先端をかみちぎった。口にくわえたまま、火をつける。紫煙を味わう。ああ、至福だ。


「ああそうそう、ひとつ聞かせてもらおうか。君ら、バルカン半島にいかほどの兵力をつぎ込むつもりだ?」


「それは──」


 アルフレッドは言い淀んだ。知らないわけではない。しかし答えたら、この日本人は恐らく全てを悟るだろう。


「まあ、貴国の状況から考えて2万、多くて3万ほど抽出できれば良いほうかな。我が国と同様、英国の主戦線は、あくまでも北米だ。カナダを見捨てるわけにもいくまい。そうだろう?」


 返事はなかった。六反田は姿見に映った自分の顔を見た。だいぶ酒が回ってきている。やはりストレートはよく効く。トワイスアップにしておけばよかったか。


「もちろん、2、3万程度じゃあバルカンを平定できない。ましてや東欧にいるBMと魔獣を始末するなど不可能だ。君はバルカン半島に楔を打ちこむと言ったが、それは正しくないな。はっきりと言うべきだよ。ドイツ軍を誘引、時間稼ぎするための撒き餌だとね。俺は食うのは好きだが、食われるのはごめんだ。ついでに負け戦はもっと嫌いだ」


 アルフレッドはチェイサーに手を伸ばした。一口だけ飲む。自分でも意味の分からない行動だった。この日本人、軽々と接触すべきではなかった。大脳辺縁系を最大限に稼働させ、彼は対抗材料を捻りだした。


「ドイツがBMに反応弾頭を使用した場合、東欧は危機的状況に陥ります。誰も止められくなくなる。あの国は、きっと他国に対しても使用をためらいません。仮に東京へV2反応弾頭が飛来しても、迎撃不可能だ。魔弾の射手を倒すなら今しかない」


「果たして彼らは狼谷のザミエルごとく7発も作れるのかね。仮にそうだとしても、俺たちが欧州へ向かう理由にはならないねえ。北米が先だよ。それに確証はないが、俺は連中がまとまった数を用意できるのは先だと思っている。あの合衆国ですら、量産に手を焼いているのだからな」


 異議はなかった。六反田はグラスを空にすると、葉巻を灰皿に押し付けた。


「そろそろ、おいとましようか」



 客人が去った後、スィートルームの隠し扉が開いた。中から出てきたのは、アルフレッドの上官だった。彼は別室で商談の顛末を見届けていた。


 アルフレッドは立ち上がると、ただちに敬礼した。


「申し訳ありません」


「大尉、君は外交官ではない」


 メンジーズ少将は言った。


「私が君に求めたのはメッセンジャーとしての役割だ。その意味では、十全に義務を果たしている」


 応接セットのソファーに腰を下ろした。目前には客人が残したグラスもある。


「それに君はホストとしても、期待以上の働きをしてくれたようだね」


 シングルモルトのスコッチが一瓶空けられている。あの日本人、ディオニソスの化身ではなかろうか。


 無言で佇む部下に目を向けた。恥じ入っているようだ。よろしい。彼は貴重な経験を得た。この世には侮らざるべき相手がいると思い知っただろう。


「安心したまえ。まだ幕は下りていない。彼は再びここに来る」


 アルフレッドは不可思議な顔で、上官を見た。


「なぜ、言い切れるのですか」


「彼は、ずっと私にサインを送っていたのだ。姿見の向こうにいる私に対してね」


 応接セットの近くにはマジックミラーとなった姿見があった。ときおり六反田は、そちらの向けて話したかけていた。


「さて、開幕の前座はここまでとしよう」



 翌日、クィーン・エリザベスに昨日と同じ客人が訪れた。


◇========◇

次回2月24日(水)に投稿予定


【重要】

近々タイトルの一部を変更しようかと考えています。

「レッドサンブラックムーン」は残しますが、副題の「大日本帝国~」部分の変更を検討中です。

3月までに結論を出そうと考えています。


ここまでご拝読、有り難うございます。

よろしければ、ご感想や評価をいただけますと幸いです。

(本当に励みになります)

弐進座


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
「TEAPOTノベル」でも応援よろしくお願いいたします。

もし気に入っていただけましたら Twitter_logo_blue.png?nrkioytwitterへシェアいただけますと嬉しいです!

お気に入りや評価、感想等もよろしくお願い致します!

ツギクルバナー cont_access.php?citi_cont_id=681221552&s 小説家になろう 勝手にランキング
― 新着の感想 ―
[一言] 英国人相手に提案した内容の裏まで読んで拒否するのは痛快ですね。六反田少将は英国から更にむしり取るつもりでしょうけど何を狙っているのか気になりますね。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ