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カリビアン・ロンド(Round dance) 4

 ベルンハルトが<グラーフ・ツェッペリン>の艦長に就任したのは、昨年2月のことだ。辞令を受け取ったのは、キール軍港ではなく、ベルリンの総統官邸だった。


 当時、亡きヒトラーの指名によりカール・デーニッツが第2代総統に就任していた。デーニッツは海軍総司令官を務めていたが、後任をハンス・フォン・フリーデブルクへ譲っていた。


 案内された執務室は、ヒトラーが使用していた部屋とは別室だった。デーニッツなりの敬意と礼の現れとベルンハルトは解釈した。生前において必ずしも両者の意見は一致しなかったが、ヒトラーはデーニッツを信任し、デーニッツは忠誠を貫いていた。


 室内は簡素な調度品で構成されていた。中央の大テーブルには、世界地図と海図が広げられ、いくつかのピンが刺さっていた。ベルンハルトが部屋に入ったとき、デーニッツは大テーブルの前に佇み、海軍の制服を身に着けていた。


 デーニッツは静かに目を上げると、ベルンハルトは国防軍式の敬礼を行った。


「わざわざ、すまない」


 答礼したデーニッツは、応接セットの椅子をすすめた。向き合うようにして座ると、他愛のない世間話からデーニッツは始めた。彼はベルンハルトの近況について尋ねてきた。


「君自身、空軍に残ろうとは思わなかったのかね」


 すでにベルンハルトは空軍(ルフトヴァッフェ)での訓練課程を終え、操縦士の資格を得ていた。空軍では中尉待遇として、籍を置いている。


 真意を測りかねながら、ベルンハルトは答えた。


「いえ、私は海軍軍人を自任しています。出て行けと命じられたら話は別ですが──」


 デーニッツは僅かに首を振った。


「すまない。詮索するつもりはないのだ。実は、君にしか扱えない子を預かっている。その養育係を引き受けてほしいのだ」


 そこで初めて、ベルンハルトは空母<グラーフ・ツェッペリン>の完成を知った。



 ベルンハルトがカリブ海の島嶼群を愛おしく眺めれていると、連絡士官の一人が艦橋へ上ってきた。


 明らかに参った顔つきだった。


「どうかしたかね」


 ベルンハルトは凡そ内容の予測をつけつつ、尋ねた。


お客様(・・・)がご機嫌な斜めかな?」


 口元に微笑をたたえると、その士官は申し訳なさそうに肯定した。


「昨晩の時化がだいぶこたえたようです。医務室で『航空機で現地へ送れ』と喚き散らしています。もちろん突っぱねましたが、今度は艦長へ直訴すると言い出す始末です」


 失笑に包まれる艦橋内で、ベルンハルトは連絡士官を労った。


「わかった。リッベントロップ外相にお伝えしてくれ。『閣下、空の旅をお望みならば叶えましょう。ただし、本艦は魔獣の航空優勢下を航行中です。護衛戦闘機はつけますが、もれなくワイバーンの篤い歓待を受けるでしょう。それでもよろしければご手配いたします』とね。それでも言いたいことがあるようなら、私が赴くよ」


了解(ヤー)。そのようにお伝えします」


 連絡士官は意地の悪い笑みを浮かべると、艦橋から去った。


 傍らの航空参謀が同様の表情で口を開く。


「よろしいのですか。あと半日で目的地に着くとお伝えすれば、外相閣下も幾分か気が休まるでしょう」


「おっと、私としたことが失念していた」


 ベルンハルトは諧謔を込め、方眉を上げた。


「わざとではないさ。実際のところ、半日で着く保証はないからな。先ほどもレーダーに怪しい影が映ったばかりだろう」


 航空参謀は確かにと肯いた。<グラーフ・ツェッペリン>が航行しているカリブ海は、オーランドBMに近い。メキシコ湾ほど危なくはないが、鼻歌交じりに遊覧飛行ができるわけではなかった。


 別の士官が首をかしげた。


「しかし初任務が要人輸送(・・)とは、<オイローパ>あたりのほうが適任ではなかったのでしょうか」


 愚痴ではなく、純粋な疑問を覚えているようだ。


 <オイローパ>は客船を改造した護衛空母だった。空母と言っても、航空機の運用能力はなかった。実質的な輸送艦に近い。


 彼の言うことにも一理あった。元が客船だっただけに、<オイローパ>は居住環境は決して悪くはなかった。賓客を迎える応接室もあったはずだ。


「政治だよ。今回の任務は総統官邸の意向も含まれている」


「納得しました」


 艦橋内に独特ともいえる沈黙が訪れた。


 この艦を預かった当時、総統官邸にはデーニッツがいた。しかし、今は違う。総統官邸には誰もいなかった。代わりに親衛隊の国家保安本部(RSHA)が官邸機能を引き継いでいる。


 確かにベルンハルトは変わり者だったが、浮世離れはしていなかった。社会適合能力がなければ、艦長など務まらない。


 彼の艦は船酔いに弱い外相と官僚、そして将校を十数名積んでいた。そのほかに武装した兵士も一個中隊ほど同乗している。表向きは国防軍人の肩書を有しているが、ベルンハルトは信じていなかった。彼らを艦に迎えた時、誰もが一様に右手を斜めに掲げて答礼してきたのだから。

 

◇========◇

次回1月3日(日)に投稿予定


今年の投稿はこれで最後になります。

皆さん、良いお年を。

よろしければ、ご感想や評価をいただけますと幸いです。

(本当に励みになります)

弐進座


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― 新着の感想 ―
[一言] ドイツの空母ってあまり写真とか見かけないですね。 「グラーフ・ツェッペリン」って名前はガンダムで覚えました。 それではお身体に気をつけて。 また来年も宜しくお願い致します。
感想一覧
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