キーホルダー
朝帰りなんていつものことなのに、玄関を開けたら母が怖い顔で待ち構えていた。
そして開口一番。
「あんた人様のもの盗んだでしょ」
「はあ? 意味わかんないし」
「五十嵐さんて人から電話があったの。大切なものだから返してくださいって」
身に覚えのないことだったので延々母とやり合ったが、途中でふと思い出した。
昨夜はカラオケで遊んだあと、心霊スポットへ行こうという話になった。郊外にある一軒家で、心中事件があったらしい。その家の門扉にたしか「五十嵐」と名前が彫られていたような気がする。
でもあそこは空家のはずだ。
そっとポケットへ手を入れた。指先に硬いものが触れる。子供部屋を探検していて見つけたキーホルダーだ。べつに欲しかったわけじゃない。ただ昨夜は酔いも手伝って少し調子に乗っていたのだ。みなに見せびらかすようにして、私はそのキーホルダーをポケットへ入れてしまった。
弟が大声で呼んだ。
「おうい姉貴、電話だぞ。五十嵐さんて人から」
母に背中を押され、私はしぶしぶ居間にある固定電話へ向かった。きっと友達のだれかが悪ふざけしているに違いない。受話器をとるなり不機嫌な声で言った。
「ちょっと、変なイタズラやめなさいよ」
予想に反して電話口から聞こえてきたのは幼い子供の声だった。
「あのね、そのキーホルダーはね、ぼくの供養のためにともだちが置いていったものなの」
私はついオロオロしてしまった。
「そう、ごめん、そのうち返しに」
「だからね、それを盗んだひとは、けっして許さないことにしてるんだ」
子供の声がオクターブ低くなる。
「今夜ぜったいうばい返しにいくから……」




