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なめこ太郎/666文字奇譚  作者: 閉伊卓司
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キーホルダー

 朝帰りなんていつものことなのに、玄関を開けたら母が怖い顔で待ち構えていた。

 そして開口一番。

「あんた人様のもの盗んだでしょ」

「はあ? 意味わかんないし」

「五十嵐さんて人から電話があったの。大切なものだから返してくださいって」

 身に覚えのないことだったので延々母とやり合ったが、途中でふと思い出した。

 昨夜はカラオケで遊んだあと、心霊スポットへ行こうという話になった。郊外にある一軒家で、心中事件があったらしい。その家の門扉にたしか「五十嵐」と名前が彫られていたような気がする。

 でもあそこは空家のはずだ。

 そっとポケットへ手を入れた。指先に硬いものが触れる。子供部屋を探検していて見つけたキーホルダーだ。べつに欲しかったわけじゃない。ただ昨夜は酔いも手伝って少し調子に乗っていたのだ。みなに見せびらかすようにして、私はそのキーホルダーをポケットへ入れてしまった。

 弟が大声で呼んだ。

「おうい姉貴、電話だぞ。五十嵐さんて人から」

 母に背中を押され、私はしぶしぶ居間にある固定電話へ向かった。きっと友達のだれかが悪ふざけしているに違いない。受話器をとるなり不機嫌な声で言った。

「ちょっと、変なイタズラやめなさいよ」

 予想に反して電話口から聞こえてきたのは幼い子供の声だった。

「あのね、そのキーホルダーはね、ぼくの供養のためにともだちが置いていったものなの」

 私はついオロオロしてしまった。

「そう、ごめん、そのうち返しに」

「だからね、それを盗んだひとは、けっして許さないことにしてるんだ」

 子供の声がオクターブ低くなる。

「今夜ぜったいうばい返しにいくから……」



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