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なめこ太郎/666文字奇譚  作者: 閉伊卓司
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ポリドラ


 娘が小学校の遠足で潮干狩りに行って、大きな巻貝を拾ってきた。

「キレイでしょ」

 自慢げに見せてくるので、

「それを耳に当てると、波の音が聞こえるんだぜ」

 と教えてやった。

「本当だっ」

「な、聞こえるだろ?」

「うん、男のひとの声が聞こえる」

「……え?」

 やがて娘は、貝殻を受話器のように耳へ押し当てたまま「ふうん、そうなんだ」としゃべりだした。さては、またいつもの恋愛ごっこが始まったのかと微笑ましく見守っていたが、

「え、こっちへ来たいの? うん、いいけど」

 とつぜん貝からニュッとヒモのようなものが延びてきて、娘の耳のなかへもぐり込もうとした。

「うわ、なんだ?」

 あわてて彼女の手から貝殻を取りあげた。

「おい……じっとしてろよ」

 あたまを押さえつけ、いまだ耳からウネウネと突き出ているソレを、ゆっくりとつまみ出した。

 体長五センチほど。きれいなオレンジ色をして、釣り餌に使うゴカイみたいに無数の手足がうごめいている。

 さては人類に取り付く新種の寄生虫か。

 よりによって、うちの娘の体内へ侵入しようとしたのか。

 とんでもないやつだ。

 飲みかけのウイスキーへ沈めて処刑してやった。


 後日その死骸を、水産試験場に勤める後輩のもとへ持ち込んだところ。

「わあ、なんですかこれ。形状がポリドラみたいに見えるけど、あれってホタテ貝に付くものだし、だいいちこんなに大きいのは見たこともありません」

 ぜひゆずってください! と頭を下げるのでもちろんそのつもりだと応えると、シャーレに移したそれをまるで宝石でもプレゼントされたみたいにうっとりと見つめている。

 これだから理系女子ってやつは。




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