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なめこ太郎/666文字奇譚  作者: 閉伊卓司
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ベス


 週末の夜を持てあまし部屋でファッション雑誌をめくっていると、友人から電話がかかってきた。鍋パーティーをやるから来ないかと言う。二つ返事で承諾し、鼻歌まじりに着替えをはじめたら、部屋の中央で寝そべっていた老犬のベスが、ムクッと身を起こした。カーテンの向こうの闇を見透かすようにジッと目を凝らしている。

 わたしは着替えの手を止め、そっと聞き耳を立てた。


 ベスは今年で十三歳になるスパニエルだ。

 小学四年のとき、河川敷に捨てられているのを拾ってきた。ダンボール箱には仔犬が四匹。みな可愛らしい声でキャンキャン鳴いていた。当初わたしはすべて飼うのだと頑張ったが「一匹だけよ」と母に厳命され、ベス以外の三匹を泣く泣く元の場所へ返しに行った。

「だれか優しいひとに拾ってもらってね」

 仔犬たちの顔を見ないようにして急いで土手を駆け上がる。キャンキャン鳴く可愛らしい声が耳から離れなかった。

 どれくらい走ったろう、不意にけたたましいサイレンの音を耳にしてハッとなった。

「――今日はダムの放流日です。危険ですので川には近づかないで下さい」

 大変だあ!

 あわてて駆け戻ったが、もう遅かった。ダンボール箱は、川面に落ちた木の葉のようにクルクル回りながら、やがて水に飲まれ見えなくなった……。


「ごめん、やっぱ行けなくなったよ」

 友人に断りの電話を入れ、ため息をついた。そっとベスのとなりに座り、やわらかな毛並みを撫でてやる。ベスは相変わらず外の闇を見つめたままだ。

 アパートの前の通りからは、キャンキャンと仔犬の戯れる声が聞こえてくる。

 こういう日は、外出してはいけないのだ。



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