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なめこ太郎/666文字奇譚  作者: 閉伊卓司
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女の顔

 最近よくこんな夢を見る。むかしの女が登場する夢だ。

 シチュエーションは一定していない。それは街中のカフェであったり、会社の応接室であったり、自宅の居間であったりする。そこで僕はテーブルを挟んで女と向かい合っている。

 女はえんえんなにかを喋りつづける。僕はそれをなんとなく聞き流している。関心は違うところにある。だからじっと見ているのだ。

 ――女の顔を。

 しゃべる内容に合わせ女はめまぐるしく表情を変えた。ただし顔の筋肉は使わない。つねに表情はマネキンのように顔に張り付いたままなのだ。

 女の両わきには黒子が立っている。よく人形浄瑠璃などで裏方をつとめる、あれ。

 彼らは女のセリフに合わせ素早く手を動かす。

 まず左の黒子が両手でうどん粉を練るようにして顔面を平らにならす。すると右の黒子がすかさず竹ベラで表情を刻み込んでゆく。

 微笑んだ顔。

 悲しそうな顔。

 怒気をはらんだ顔。

 じつに見事に女の感情を反映させ、顔を作り替えてゆく。

 僕はそれを唖然と眺めている。

 自力では変えられない表情、目まぐるしく動く黒子の手、やがてのっぺらぼうの彼女が訊くのだ。

「ねえ、あなたどう思う?」

 沈黙がおとずれる。返答いかんでどんな表情を刻んでやろうかと黒子が身構える。

 僕は固唾を飲む。

 女がじっと答えを待っている。

 やがて観念したように僕のこわばった口が開く。

「それは……」

 いつもそこで夢から覚める。

 僕がなんと返答したのか、それに対して女がどんな表情を刻んだかは覚えていない。知ってしまうとなにか怖いことが起きるような気がしてならない。

 その女はもう亡くなっているに違いないのだから。



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