忘れられた発明
「これかい、俺に見せたいものって?」
オカルト蒐集家であるKの書斎にあったのはアンティークの電話機だった。本体横にハンドルの付いたいわゆる磁石式というやつで、おそらく電話機が発明されて間もないころのものだろう。ただ少し奇異なのは、ボディのうえに大きなガラス球が取り付けてあることだ。それは占い師が使う水晶球のように妖しい輝きを放ち、よく見ると内に電極のようなものが仕込まれていた。
「めずらしいな、白熱電球が付いてるなんて」
「それは真空管さ、霊波を増幅するためのね」
「霊波だって?」
やはりただの電話機ではないようだ。コーヒーをいれたマグカップを俺に手渡しながらKが言った。
「君はあの発明王エジソンが、晩年どんな研究をしていたか知ってるかい」
「さあ?」
「霊界との通信機さ」
「じゃあ……これが」
「そう、死者と交信ができる電話機というわけ」
「まさか本気にしているわけじゃないだろうね」
「じつはもう実験済みでね」
Kは意味深な笑みを浮かべて言った。
「三年前に自殺した妻と話すことができたよ」
「……」
「君、ぼくの妻と浮気してたんだってね。しかも強引に関係を迫ったっていうじゃないか」
とっさにイスから立ち上がろうとしたが、体が痺れて動けなかった。
「ううっ、きさまコーヒーになにを入れた」
「ストリキニーネを少々」
「ちょ、ちょっろまっれくれ……」
必死に弁明しようとするが、うまくろれつが回らない。そんな俺を見てKはせせら笑った。
「ふふ、申し開きなら後でゆっくり聞いてやるよ」
そして死人と会話できるというその電話機をポンと叩いてみせた。
「こいつを通してね」




