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なめこ太郎/666文字奇譚  作者: 閉伊卓司
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忘れられた発明


「これかい、俺に見せたいものって?」

 オカルト蒐集家であるKの書斎にあったのはアンティークの電話機だった。本体横にハンドルの付いたいわゆる磁石式というやつで、おそらく電話機が発明されて間もないころのものだろう。ただ少し奇異なのは、ボディのうえに大きなガラス球が取り付けてあることだ。それは占い師が使う水晶球のように妖しい輝きを放ち、よく見ると内に電極のようなものが仕込まれていた。

「めずらしいな、白熱電球が付いてるなんて」

「それは真空管さ、霊波を増幅するためのね」

「霊波だって?」

 やはりただの電話機ではないようだ。コーヒーをいれたマグカップを俺に手渡しながらKが言った。

「君はあの発明王エジソンが、晩年どんな研究をしていたか知ってるかい」

「さあ?」

「霊界との通信機さ」

「じゃあ……これが」

「そう、死者と交信ができる電話機というわけ」

「まさか本気にしているわけじゃないだろうね」

「じつはもう実験済みでね」

 Kは意味深な笑みを浮かべて言った。

「三年前に自殺した妻と話すことができたよ」

「……」

「君、ぼくの妻と浮気してたんだってね。しかも強引に関係を迫ったっていうじゃないか」

 とっさにイスから立ち上がろうとしたが、体が痺れて動けなかった。

「ううっ、きさまコーヒーになにを入れた」

「ストリキニーネを少々」

「ちょ、ちょっろまっれくれ……」

 必死に弁明しようとするが、うまくろれつが回らない。そんな俺を見てKはせせら笑った。

「ふふ、申し開きなら後でゆっくり聞いてやるよ」

 そして死人と会話できるというその電話機をポンと叩いてみせた。

「こいつを通してね」




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