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28.魔鉱石


 今日、私はドラゴンの巣にやってきている。

 ライネケ様とリアム、バル、そしてギヨタンと一緒だ。


 リアムと私が入った洞窟の入り口は、以前の封印をしたまま閉じられている。

 ドラゴンの巣には、バル達が開けてくれた穴から入るのだ。


「でも、不思議だよな。封印を解いたときにいた人にだけ、実際の姿が見えるなんてさ」


 一緒に来たバルがしみじみと呟く。


「きっとライネケ様のおかげだね」


 リアムは私の小指に小指を絡ませ、サラッと嘘をついた。


 私は小指の感触にドキドキして、胸が苦しくなる。

 嬉しくて、幸せで、ふわふわした気分になって、勝手に口角が上がってしまう。

 私はピトッとリアムに寄り添い、さりげなく尻尾で触れた。


 そして、唇だけで『ゆびきりげんまん』と言う。


 リアムが驚いたように私を見て、幸せそうにニッコリ微笑んだ。


「ふたりともご機嫌ですね」


 ギヨタン先生に指摘され、私はドキリとした。


「無事に帰ってこられたことを噛みしめていました」


 リアムは穏やかにそう言って、天井を見上げる。


 穏やかな日差しが差し込んでくる。

 小鳥の歌声も聞こえる。


 ドラゴンの上には日差しが差し込み、温かそうに目を細めている。


「まったくですね~」


 ギヨタンも機嫌良く答え、ドラゴンに歩み寄った。


「はーい! ドラゴンちゃん、今日はカルシウムのお薬を持ってきましたよ~」


 ギヨタンが軽いノリで声をかけると、ドラゴンは不快そうな顔をする。

 貝殻で作ったカルシウムの錠剤を、無理矢理ドラゴンの口に詰め込む。


(まったく、コイツはどうにかならないのか!)


 ドラゴンは人に聞こえない声で、ぼやいた。

 ライネケ様は笑いつつ、ジャンシアヌの酒を勧めた。


「まぁ、これで薬を流せ」

「お酒ばっかりじゃ、ダメですよー。魚とキノコを食べましょうね」


 そう言って、持ってきたキノコと魚をドラゴンに差し出す。

 

「あと、豆です。葛の葉様が大好きな大豆!」


(肉が食いたい。人間の肉でも良い)


 ドラゴンが呟いて、ギヨタンを見て舌なめずりをした。

 ギヨタンはドラゴンを診て、テヘと笑う。


「あ、もしかして、食べたくなっちゃいました? 私、美味しそうですもんね」


 ギヨタンが言うと、ドラゴンはゲッソリした顔でそっぽを向いた。


(喰う気もなくなる)


 それを聞き、私とライネケ様は笑った。


「ねぇ、なんて言ってるんだ?」


 バルが尋ねる。バルとリアムは、ドラゴンの体をデッキブラシで擦り、血流を良くしているのだ。


「ギヨタンのことが好きらしいぞ」


 ライネケ様が言い、ギヨタンは喜ぶ。


「そうなんですか! 私も好きですよ! ドラゴン!」

(ライネケ、嘘をいうな! やめろ、懐くな! お前なんか嫌いだ!!)


 ドラゴンは怒りながらも攻撃したりはしない。


 私はその光景を、ほのぼのしながら眺めていた。


 治療が一段落つき、帰り支度をしていると、私はドラゴンに呼び止められた。


(おい、ルネ。これをやる)


 そう言って、ドラゴンが腹の下から、透明の中に金色の光の筋が入った石を差し出した。


「っこれは」

(光魔法の属性を持つ魔鉱石だ)

「すごい。でも、なんでここに?」


 魔鉱石の鉱脈があることは知っているが、ここの魔鉱石は水魔法の属性だったはずだ。


(理由はわからないが、ごくまれに現れるのだ。お前にやろう。お前の物だ。ルナールの物じゃない、わかるか?)


 ドラゴンに言われて私は頷いた。


(ここに鉱石があると人間に知られたら、きっと私を倒して鉱脈を奪おうとするだろう)


 私は小さく頷いた。

 

(だから、お前にやるのだ)

「なぜ、私に?」

(助けてくれた礼だ)

「でも、助けたのは私だけじゃない……」

(だが、人間には言葉も伝わらないしな、まだ信用できん。お前は使い方を誤らないと信じているぞ)


 私は無言で頷いた。

 みんなには聞こえないように、小さく礼を言い頭を下げた。


「ライネケ様、預かっていただけませんか?」


 ライネケ様は意外そうな顔をして、私を見た。


(ああ、それが良いかもしれんな)

 

 ドラゴンが言うと、ライネケ様は小さく笑う。


「そう言うならそうしよう」


 私はドラゴンからもらった魔鉱石をライネケ様に預けた。


「おーい! ルネ、いくぞ!」


 バルが私を呼んだ。


「はーい!」


 私は手を振り答える。

 そして、ドラゴンに頭を下げた。


「ありがとうございます! また来ます!」

(ああ、待っている)


 ドラゴンは目を細めて、小さく尻尾を振った。




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