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25.彼らの物語 2


「ギヨタン先生、もう一本、回復薬と増幅剤を」

「ダメですよ、増幅剤切れで魔法を使うのだって危ないのに、さらに薬を使うだなんて」


 ギヨタン先生も水魔法を使い続け疲労困憊だ。


「そんなこといってられないじゃないですか! ルネ様が、ルネ様がこの下にいるんです! 僕はルネ様がいなかったら……! ルネ様が僕にチャンスをくれたんです!」

「そんなことはわかってる!!」


 いつもふざけた調子のギヨタン先生が、真剣な顔で一喝した。


 周囲が驚きのあまり硬直する。


「私だってね、ルネ様にはご恩があるんです。誤解されてばかりだった私を理解してくれた。あの方がアドバイスをくれなければ、いまだに多くの人が拘回虫症に苦しめられていたでしょう」


 ギヨタン先生はそう言うと、テオ先生に笑いかけた。


「でも、そんなルネ様だから、君が増幅剤を飲んで死んでしまったら悲しむと思いませんか?」

「……!! でも、でも! ルネ様が帰ってこないなら、生きてる意味がないじゃないですか! 先生だってそうでしょう!?」


 いつも控えめなテオ先生が、ギヨタン先生に噛みついた。

 ギヨタン先生は、大きくため息をつく。


「いいですか? 冷静に。増幅剤を使ったところで、今の状態であればあと一回最大魔力を使ったらおしまいです。だから、みんなで協力をしましょう。ほら、テオくん、指示を出して」

「ギヨタン先生が協力だなんて……」


 ギヨタン先生が言い、周囲がザワついた。


 テオ先生は大きく息をすってから、周囲を見回した。


「騎士の人たちは、岩の亀裂に剣を差し込んでください。ギヨタン先生は、僕が合図をしたら、亀裂に高圧の水を流し込んでください」

「わかりました!!」


 騎士達が岩の亀裂に剣を差し込み待機する。

 オレも同じように、剣を差し込んだ。


 ギヨタン先生は真面目な顔をして、回復薬を一本テオ先生に手渡した。


 テオ先生は少し不満そうな顔をして、回復薬を飲む。

 ギヨタン先生はそれに苦笑いをしながら、自身も回復薬を飲み、さらに魔力増強剤を飲んだ。


「ギヨタン先生っ!!」


 オレは思わず声を上げる。

 危険な薬だと、自分自身で説明していた。


「はい、残りはテオくんにあげます。私と間接キッスになっちゃいますけどね~」


 ギヨタン先生はいつもの軽い調子でそう言うと、魔力増幅剤をテオ先生に投げた。


 テオ先生はそれを受け取ると、躊躇なく一気に飲む。


「それが、最後ですよ。もう修道院に在庫もありません」


 ギヨタン先生が言うと、テオ先生はゆっくりと頷いた。

 

 テオ先生の周囲に緑のモヤが立ち上る。

 ギヨタン先生の背中にも青いオーラが揺らめいて見えた。

 騎士達は真剣な眼差しで、剣の刺さった亀裂を睨んでいる。


 ザワザワと空気が揺れる。


「この一回に、集中します」


 テオ先生が言うと、みんなが頷いた。


「土の精霊グノームよ、我に力を。この岩を粉砕し、魔法陣を無効化せよ」

「水の精霊ニンフよ、我に力を。この岩を切り裂け」


 テオ先生とギヨタン先生が詠唱する。


 緑色のモヤが、岩の亀裂に入り込み押し広げる。

 そこへ高圧の水が入り込み、岩を削っていく。

 オレや騎士達も、岩の亀裂に剣を差し込み力の限り、押し広げる。


 みんなの力を合わせて、岩を壊そうとする。


「もう少しだ! 頑張れ! 頑張れ!!」


 ピシリと大きな亀裂が入った。

 その瞬間、テオ先生とギヨタン先生の魔力がつき、ふたりはその場に倒れ込んだ。

 しかし、岩が割れるまでには今一歩足りないようだ。


「くそ!! あと少しなのに!!」


 オレはがむしゃらに、岩の亀裂を剣で突いた。

 刃が岩に当たるたびに、甲高い音がして、火花が散る。

 

「あと少し! もう少しなのに!!」


 オレは諦めきれずに亀裂を突き続ける。

 火花が散り、剣が熱を帯びてきた。


 騎士達もオレに続いて、剣を岩の亀裂に差し込み、岩を削る。


「どうしてオレはこんなに無力なんだ!!」


 オレは悔しくてしかたがない。


「テオ先生もギヨタン先生も頑張ってくれた。リアムだってルネだって命をかけてるのに!」


 力の限り剣をふるうと、岩にぶつかった剣が弾き飛ばされた。

 クルクルと宙を舞い、あざ笑うように魔法陣の端に突き刺さる。


「っ! あの中は、ライネケ様の髪が消えたところ……!」


 ヒュッと息を飲む。


「諦めるしかないな」


 ライネケ様がボソリと言って、オレは頭を振った。


「諦めない!! 剣は無事なんだ。きっと取れる!」


 オレは剣に手を伸ばす。


「バル様、危ない!!」


 騎士達が声を上げる。


 バチンと見えないバリアに手が弾かれて、ビリビリと痺れた。

 手が焼けている。


 オレだって、王家の血筋だ。光の精霊と契約できる力は持ってるはずだ!!


「ルネを助けるんだ! 諦めないんだ!! 過去の魔法陣なんかに負けるもんか!!」


 オレはもう一度手を伸ばした。

 バシンとさらに大きな音が響く。オレは怯まずに、そのバリアに手を突っ込む。

 バチバチと火花が散る中を無理矢理に突き破り、剣に手を伸ばす。


 剣は煌々と光っている。


 オレが剣を握った瞬間、ライネケ様がオレの頭に手を置いた。


「よくやった。これだけ開ければ、我が輩が力を貸してやれる。やれ、この魔法陣に向かって星を描け」


 オレは気合いを入れると、剣を引き抜き、魔法陣に向かって星形を描く。


「光りよ、切り裂け」


 金色の軌道が星を描く。

 描いた星が、魔法陣にぶつかり砕ける。

 

 同時に、岩が割れ、ポッカリと穴が空いた。

 その穴に、砕けた魔法陣が輝きながら、ハラハラと落ちていく。


「やった! 開いた!!」


 ワッと歓声が上がる。

 

「おーい! 誰かいるかー!」


 オレは穴に向かって呼びかけた。


「バルー!! ここよ! お兄様も私も無事よ!!」


 ルネの声が返ってきて、一斉に拍手が起こる。


 ライネケ様はそれを見て、満足げに微笑んだ。


「良かった!! すぐ行くぞ!! 待ってろ!!」


 オレはそう叫び、入り口から大きく手を振る。

 すると、ルネ達も手をふりかえした。


(……光り)


 なぜか、頭の中に知らない声が響いてきた。


 オレはハッとして、握っていた剣を見る。

 剣はもう、刃が欠けたただの剣になっていた。


「ライネケ様……あれって、光の魔法?」


 ライネケ様は小さく笑う。


「お前が壊したバリアの残滓を、魔力としてお前に与えただけだ。光であって、光ではない」

「そっか……」


 俺は少しガッカリとする。


「だが、お前は光の魔力をコントロールできたんだ。ガッカリすることではない」

「! うん!」

「さぁ、迎えに行こう、我々の友を」


 テオ先生は最後の力を振り絞って、壁に簡単な階段を作っている。

 オレはその階段を先頭を切って駆け下りていった。




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