第二十一話 フォカオン
『アーザ』の冒険者達の背中を見つめながら、フォカオンは思いを巡らせるように顎を摩る。
だが、その視線はただ一人に向けられていた。
コルヴォでも、アスでもなく――ナダだった。アーザ第一部隊の中でひときわ大きな男をフォカオンは睨んでいた。その目線は他の冒険者へ決してずれることはない。
「イリス、彼――ナダの事を詳しく教えてくれるかな? 学園ではどういう立場だったのか、どういう強さを誇るのか、などだ。彼の事はオレも知らないからな――」
「え、どうしてですか?」
イリスは驚いたように言う。
「感じなかったのか? あれは、強いぞ。もしかしたらオレより――」
フォカオンは戦慄した声で言った。
「あんな図体だけの冒険者がか? フォカオン様も見る目が落ちたのじゃないか? フォカオン様、あなたより強い冒険者が名前を知られていない、なんてことはないでしょう!」
フォカオンお隣にいた美麗な男が言う。
「君はもうちょっと見る目を鍛えるといい。その調子じゃあ、より上に昇ることは難しいぞ。そういう者もえてして世の中にはいるものだ。全く、あんな冒険者がどこに隠れていたんだ……」
フォカオンはナダを酷評する仲間を誡めるように注意した。すると美麗な男は首を垂れてそこから何も言わなかった。
ナダを見た瞬間、フォカオンは背筋が凍る思いをしたのを思い出す。どうやら他の冒険者の誰もが気づいていないようだから、自分だけが勘違いしたのだと思うが、フォカオンは冒険者として自分の感覚を大切にしている。これまで的確にモンスターの強さを測り、フォカオンは迷宮内で生き延びたのだ。
似たような強さの冒険者として、英雄ヴァリアの姿がフォカオンの脳裏に受かんだ。
全く情報を知らない。
いや、微かに聞いたような記憶もあるが、覚えていないと言うのはたかが知れている冒険者だとしか思えない筈なのに、ナダを見た印象はそうではないのだ。
そのことがフォカオンには信じられなかった。
フォカオンはミラではトップのパーティーのリーダーだったため、常に強い冒険者を欲していた。その中にはインフェルノやブルガトリオの冒険者も当然ながら含まれている。
特にラルヴァ学園に所属する青い果実の冒険者達には、卒業前から目を付けることもあるほどだ。その一人がコルヴォであるが、残念ながらフォカオンの目論見通りにはいかなかった。
だが、ナダと言う冒険者が話題に上がることはなかった。クランにいる他のスカウト部門の人間さえ、ナダを調べた者はいなかった。
一目見ればフォカオンが認めるほどの冒険者なのに、その名が全く自分の耳にまで入っていないのは“おかしい”と疑念を持つほどだった。
「……私も会ったのは久しぶりです。最後の記憶としては、特例で学園を数年は早く卒業して、四大迷宮に挑戦したとしか――」
そんな風にナダを恐れるフォカオンが、不思議なイリスは恐る恐る口を開いた。
「なるほど。ノヴァ様が特別扱いするほどなのか――」
「確かにナダは強いとは思いますけど……」
イリスは組合から出て行ったナダの背中をずっと見つめていた。
久しぶりに出会う大きな背中、それは確かに以前よりもたくましいように感じていたからだ。
だが、それ以上は何も感じなかった。
「イリス、彼は君と“同じ世代”か?」
フォカオンが知る限り、直近のラルヴァ学園での黄金世代はイリスの時代である。同学年にコルヴォやコロアが存在し、それぞれの冒険者が当時の学園で最強だと位置づけられ、それぞれがリーダーとして覇を争った。
彼らの残した記録はここ数年では破られておらず、冒険者として、彼らを超えるような者は暫く現れないだろう、と巷では言われている。
フォカオンも似たような感想だった。宝玉祭などで表彰されるような冒険者を見たが、確かな実力者が学生にいたとしても、彼ら三人の輝きを明らかに超えるほどの冒険者には出会わなかった。
「いいえ、年下です。アメイシャちゃんと同じ世代です」
「ああ。“あの世代”か――」
フォカオンは思い出したように頷いた。
イリス達には少し劣るが、しっかりとした冒険者が多い、というのがフォカオンの感想だった。
宝玉祭で出会ったオウロ、アメイシャ、ナナカ、クーリ、と粒揃いの世代でもある。その輝きはイリス達三人には劣るが、粒の数は多い、と思えるような世代だった。
「“何人か”は同じクランですから」
「ああ。いずれ目が出るかもしれない子も誘っている――」
入るにしろ、入らないにしろ、とはフォカオンは言わなかった。
去年の宝玉祭で出会った卒業間近の彼らの輝きは、やはり同じく卒業間近の時のイリス達三人達の輝きと比べると劣っていた、とフォカオンとしては感想を述べるしかない。
当時の学園でトップパーティーだったオウロでさえ、フォカオンから見れば掃いて捨てる程いる、六等星の一つでしかなかったのだ。だが、いつかは一等星になるかもしれない、と多くの冒険者をクランに呼んだが、物になったのはやはり第二位のパーティーリーダーだったアメイシャだけだった。
「フォカオンは、ナダが気になりますか?」
「ああ、アメイシャ君の世代をもう一度調べる必要がある、とさえ考えているほどだ。他にも“特例”の学生はいたのか?」
「ナダの同級生で、私のパーティーメンバーだったレアオンも、同じ扱いですけど……」
「……なるほど。あの麒麟児と同じ世代か」
「麒麟児って、確かにレアオンの才能はありましたけど、アビリティも特殊でしたし……」
「イリス、今だから言うが、レアオンはまさしくアギヤの最高傑作だ。そうか。レアオンとのアギヤのいざこざを思い出したぞ。ナダの名前はその時に聞いたんだ。」
フォカオンはかつての記憶を思い出す。
アギヤが潰れ、ミラへと逃げ、セウでもう一度再起を図ったレアオンに助力したことを。
彼の――確かな輝きを。
「それが何か?」
「……大したことじゃないさ。出来れば彼をクランに誘いたいけど、オレの手には負えないかも知れないな――」
フォカオンは、やれやれ、と言う。
いつも感想や評価などをして頂きありがとうございます。
ちなみに、今回イリスの世代と比較に上がったナダの世代ですが、既に三人も英雄が出ている世代で、一人は英雄でもないのにマゴスでの完全攻略をした冒険者の一人です。




