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迷宮のナダ  作者: 乙黒
第五章 石の王

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第二十話 アルシャイン

力尽きましたので、毎日更新は一旦これで終わります。

「ありがとう。今日も頑張るよ――」


 人垣の中心をよく見てみると、中心にはひと際目立つ人物がいた。

 他の者よりも上質な布の鎧を着ており、目立つ茶髪をしている。年齢はナダよりも上だろう。二十代後半だろうか。細いように見えるが、がっしりとした体躯。美麗な容姿であるが、猛禽類のような鋭い茶色の目が特徴的で、遠くを射抜くような視線をもっていた。

 きっと人に囲まれて対応している彼が、フォカオンと呼ばれる人物なのだろう。


「優秀そうだな――」


 ナダはそんなフォカオンを見ながら、気楽に言った。


「優秀なんて、ものじゃないぞ。フォカオンは元々セウでトップのパーティーのリーダーだ。ここが開いた時から移住し、ずっとトップで走ってきた冒険者なんだ」


「へえ」


 隣で説明してくれるコルヴォに、ナダは興味なさげに応えた。


「やあやあ、そこにいるのはコルヴォじゃないか!」


 そんなフォカオンはアーザ第一部隊の先頭にいたコルヴォを見つけたようだ。人垣の中から逃れて、親し気な顔でコルヴォへと近づいてきた。


「ちっ、見つかってしまったか――」


 コルヴォは忌々しそうに小さな声で呟く。

 どうやらあまり会いたくない相手らしい。


「コルヴォ、そろそろオレのクランに入る気はなったか?」


「その話は以前に断った。覚えていないのか?」


「もちろん覚えているさ。でも、そろそろコルヴォも攻略を目指す気になってもいいと思うんだよ。オレの『アルシャイン』に入れば、この迷宮の最前で戦える。冒険者の誉れが手に入るぞ」


 甘い言葉でフォカオンはコルヴォを誘うが、コルヴォは口を不快に歪めていた。


「……あれだけの冒険者が揃っていて、オレの手なんかいらないんじゃないか?」


「君のような冒険者は幾らいても困らないさ。アメイシャ君も待っているぞ!」


「……別にアメイシャに未練はないさ」


 コルヴォは弱々しく言った。

 どうやらコルヴォが最も期待し、信頼していた学生時代の元パーティーメンバーであるアメイシャは、別のクランに入った事をナダは知る。そう言えば、コルヴォのクランであるアーザにはアメイシャはいなかったな、と思い出した。もしもいたなら知り合いであるアメイシャの事をコルヴォなら真っ先に紹介するだろうと思ったのだ。


「他の友達だっているんだ。いつまでもそんな小さなクランにしがみ付いているんだ? オレの元に来れば、全てが手に入るんだ! そろそろ心変わりする時だと思うんだがな――」


 フォカオンは困ったように笑う。

 ナダとしても、もしもコルヴォの立場なら、フォカオンの言う事に従うのが最も正しい道なのかもしれない、と思うだろう。


「オレこそ、何度も言った筈だ。自分のクランで攻略を目指す、と。例え間違っている道でも、オレはこの道を歩むつもりだ。オレにもこんなにも力強い仲間がいるからね――」


 後ろにいるアスやナザレ達を見ながら、コルヴォは強い意思で言った。

 どうやら彼にも譲れないものがあるらしい。

 変わったな、そんな感想がナダの口から漏れそうになった。

 かつてのコルヴォは飄々としていたからだ。学園屈指の実力者で、常に人よりも一歩先を見ていて、自らの目的を目指す。その姿は学園でも最強を関するに相応しい冒険者の一人だった筈だが、世間に出ると違ったようだ。最強の姿はなく、飄々としていた姿もなく、それでも己の目標へと縋りつく姿だけが、そこにはあった。


「やれやれ。まあ、別にいいけどさ。入る気になったらいつでも言ってくれよ? 君の席は開けておくから。ん? 見ない顔がいるな。オレの名前はフォカオンだ。君の名前は?」


 フォカオンは年下の弟を見るような目でコルヴォの事を諦めながらも、その隣にいる大男――ナダを見つけた。知らない、と評したのは、きっとコルヴォのアーザのクランメンバーを全て知っているからだろう。

 特にアスは、フォカオンへ羨望の眼差しを向けていた。


「ナダだ――」


 人懐っこい笑みを浮かべるフォカオンが差し出す右手を、ナダは力強く握り返した。

 なるほど、強いなとナダは内心思う。安定した重心、力を込めていないのに感じる力強さ、無防備に手を差し出しながらも周りを警戒している狡猾さ、その全てが実力者だという事が分かった。


「……あまり聞いた事がないな。最近、ここに来たのかい?」


「そうだな。最近、来た――」


「ほう。それは興味深いな。それで、コルヴォのアーザに入ったのかい?」


「そうだぜ。よく覚えておいてくれ――」


 ナダは簡単に自己紹介を示した。

 フォカオンにあまり不快感を抱かなかったからである。優秀な冒険者として、他の冒険者を誘うのは当然だ。それがコルヴォのような優秀な冒険者なら引き抜こうとするのは当然だろう。それでいて、自分の思い通りにならなかったとしても、もしもの時の為の楔を打ち込みながら受け入れる懐を持っている。セウでトップの冒険者だったと言うのも、きっと嘘ではないのだろう、とナダは思った。


「え! ナダ!?」


 そんな時、ナダの存在に驚くように人垣から現れたのは、ナダがよく知る人物だった。

 服装はフォカオンと似た様に厚手の服を着ているが、何の模様もない他の冒険者として違い、赤い刺繍が施されている。ウェーブのかかった金髪は冒険の邪魔にならないように後ろで一つに結ばれており、まるで出会う場所を違えば女神かと思うほどの美形だ。その美貌は周りの冒険者の中でも異彩を放っており、まるで彼女の周りだけ花が咲いているようにも感じる。

 そんな彼女の聞き慣れた声を来て、ナダは平坦な声で言う。


「久しぶりだな、イリス――」


 彼女の名前はイリス。かつてナダが入っていたパーティーであるアギヤの元リーダーであり、ラルヴァ学園にいた頃はコルヴォと同じくトップの冒険者だった。さらにナダが所属していたころのアギヤは学園でも類を見ない成果を出していたので、彼女は学園でも憧れの的だった。

 ナダにとっても、苦楽を共にした仲間であり、最も信頼を寄せた先輩の一人でもある。


「あんた、どうしてここに――!?」


「冒険者として、ここに来る理由は一つじゃねえか。攻略に来たんだよ。イリスも一緒だろう?」


「そうだけど……!」


 かつてよく顔を見合していた時と同じような態度を取るナダに、イリスは戸惑ったような表情を浮かべていた。


「イリス、知り合いかい?」


「私の元パーティーメンバーです」


「なるほど。アギヤの仲間……か」


 フォカオンは納得するように頷いていた。

 学園でも伝統的なアギヤの名は、どうやらフォカオンはよく知っているようだ。その理由をナダは少し気になった。


「ああ、そうだぜ――」


 ナダは隠しもせず言った。

 だが、フォカオンの他のクランメンバー達は、ナダの事を当然ながら知らない様子である。


「ナダ、君はどうやら実力者のようだね」


「そう見えるか?」


「ああ、とても――」


 フォカオンは頷いた。


「だからといって、冒険を終えたばかりの君たちをこれ以上引き留めるのは申し訳ない。呼び止めて悪かったよ。今度、ソールについて丁寧に教えたいから、よかったらご飯でも食べよう――」


「ああ、そんな提案をしてくれるなんて、フォカオンは優しい先輩だな。よろしく頼む」


 フォカオンの提案を快く受け入れてから、ナダはコルヴォたちとこの場を去った。

 あまり興味を持てない相手だったが、親切を受ける事があまりないナダは、人がいいフォカオンにいい印象を受ける。


「ナダ――」


 そんな中、未だにフォカオンから“直々”にクランの誘いが来ないアスは、ナダを嫉妬の眼差しを向ける。

 アスは『アルシャイン』から勧誘された事はあるが、あくまで冒険者の一人として誘われただけであり、スカウトを主な仕事としているサポーターからだ。地位としては一般的な冒険者であり、アーザほどの地位は見込めないからアスは以前に断っている。

 自分は強い筈だ、と自認しているアスは、フォカオンが実力のある冒険者として認めるナダを初めて――激しく意識した。


久々にイリスを書きました。調べてみると最後に出現したのは五年以上も前なのですが、間に書籍化などで書いているので久々という感じがしませんでした。

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― 新着の感想 ―
コルヴォに続き、イリス、(名前だけならアメイシャも)出てきましたが、なんというか同じ学園組のオウロと比べると、冒険者としては小さくまとまった、もしくは折れちゃった感を感じますね。ここからどうなるか気に…
毎日更新お疲れ様でした。 年末年始、楽しい時間を過ごせました。本当にありがとうございました! イリスやアメイシャの学園ネームドの再登場嬉しいですが、二人とも何か、難きを避けて易きに就いてしまった感。…
なんかイリス学園時代からあんまり成長して無さそう。 毎日更新お疲れ様でした。
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