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迷宮のナダ  作者: 乙黒
第五章 石の王

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第十九話 第一部隊Ⅳ

 ラプトルは、空中に大きく飛びあがった。足に生えた鋭いかぎ爪が、先頭にいたアスを狙う。

 アスは横にふわりと飛び上がる。風がアスに力を貸し、まるで木の葉のような動きだ。ラプトルの攻撃はアスの横を通り過ぎた。


 ラプトルは地面に着地すると、そのまま一番近くにいたナザレを噛み殺そう口を開いた。ナザレが戸惑いもせず後ろに下がると、ラプトルの口が宙で閉じた。ラプトルは距離を詰めて何度も口を伸ばすが、ナザレは歯を食いしばりながら必死になってそのどれもを避け続けた。

 ナザレが右前方で潜り込む。


「くたばれっ――!」


 ナザレは杖に、『光の鍛冶屋ルス・フェヘイロ』によって剣のように光の刃を宿した。そのまま渾身の一撃をラプトルの無防備な胴体へと振るう。


「ちっ――」


 だが、ナザレの攻撃は固い鱗に阻まれて、肉に浅く食い込んだだけだった。傷口ならまだしも、龍鱗を突破できるほどの攻撃力がナザレにはなく、唇を噛み締めた。

 そんなナザレへ、ラプトルは体を回して細くしなる尻尾を振るおうとする。


「それはゆるさねえぜ!!」


 ガスパロはラプトルの攻撃を止める為に何度も光の玉を打ち出した。

 龍麟によって守られたラプトルにはあまりダメージが通らないが、その衝撃は体に残る。ナザレへと振るおうとしていた体勢は崩れて、地面へと転がるが、すぐに起き上がった。

 ラプトルはすぐに跳ねるように起き上がった。

 ラプトルの視界の範囲には、マルチーザと――ナダがいた。


 そこへ誘導していたように『魔弾バラ・マジカ』を打ち出したガスパロは、苦虫を噛み潰したように銃を構えている。いつでも放てるように。


「――ナダへ、ラプトルを襲わせる。命は取りはしない。それは冒険者としての流儀に反する。襲わせるだけだ。だから誘導してくれ。どうせアスが助ける」


 先ほどガスパロの耳元で囁かれたナザレの言葉だ。アスには言っていないことだろう。ガスパロとしてはあまり気の進まない行動だったが、中層の危険性を教えるのには適した方法だとも思えた。

 きっと先ほどのナザレの一撃も、きっと手加減しているとガスパロは思っていた。


「さて、どうしやがる?」


 ガスパロはいつでも助けられるように引き金に人差し指をかけていた。


「――へえ、面白いじゃねえか?」


 ラプトルは強いモンスターと言われているが、上層に挑もうとしている冒険者たちが手こずるようなモンスターではないとナダは予想している。

 だからこれは、自分への一種の通過儀礼、もしくは試練なのだと勘づいていた。


「ひい!」


 ナダの隣にいたマルチーザはモンスターが近くに来たことにより、怯えた様に大きな背中に隠れる。


「動くなよ?」


 ナダはそんなマルチーザに忠告をした。

 ラプトルはそんなナダへ向かって、大きく飛び掛かった。

ナダは口角を上げた。ラプトルが来るタイミングに合わせて、体を突っ込む。横から頭部を狙った。速さ、タイミングは十分だった。斬る剣ではなく、殴る剣。愛用の武器である青龍偃月刀ではないため、一撃で殺しきるには攻撃力が足りない。ナダはそう考えていたが――


「危ないっ!」


 ナダよりも早い“一陣の風”が、ラプトルの胴体を深く貫いた。

 アスだ。彼はラプトルから距離を取った後、祝詞を唱えて風を集めて自身の速さを高め、貫通力の高い一撃を放ったのである。


「そうでもないんだけどな――」


 一対一の状況でなくなり、簡単に殺せる相手になったラプトルへ、ナダは途端につまらなそうな顔をした。そして重傷を負っているラプトルへ、一撃で首を切り取った。


「ラプトルのかぎ爪は気を付けた方がいいよ。あいつらのかぎ爪は、その辺の剣よりもよく切れるからね」


「……そうだな」


 ナダはアスの助言を聞き流して、黙々とカルヴァオンをはぎ取っていく。

 複雑な感情だった。

 冒険者として、パーティーとして、これでうまく行っているのか、『ソール』の完全攻略へこの状態で目指せるのか、ナダには不安が残る冒険だった。この状況を何とかしないと思いつつも、ナダにそんな力はない。

 とりあえず現状維持しかないのだろうか、と悩むほどだった。


「さあ、先へ進むぞ!」


 ナザレはどんな状況下であっても戦えるアスの実力に満足しながらも、新人の力不足を証明できないことに歯がゆい思いをしていた。


「そうだね! オレはもっと戦いたい。もっと強くなりたいんだ――」


 まだまだ戦い足りないアスは、飢えた獣のように銀風で獲物を探す。現状の冒険に不満を抱いていた。


 三者三様の思いが、アーザ第一部隊の間で渦巻く。



 ◆◆◆



 ヴェロシラプトルと蛇人を中心に狩ったアーザ第一部隊の冒険は、上々であった。大量のカルヴァオンを手にし、誰一人として重傷を負っていない。ナザレがラプトルのかぎ爪を手甲の上から防いだので、あざが出来ただけだった。

 迷宮を出て待ち構えていたのは、同じく冒険を終えたコルヴォであった。


「やあやあ、どうだった、新しいメンバーでの冒険は?」


「……まずまずだな。カルヴァオンはこの通りだ。前とそう変わらない」


 予想以上にナダが強く、彼の弱さが証明できなかったナザレはコルヴォへ不満そうに言った。


「そうかそうか。ナダはどうだった?」


「……ラプトルは楽しそうな敵だったぜ。もっと戦ってみたいところだ」


 ナダもつまらなそうに言った。

 結局のところ、ナダが一人でラプトルと戦う事はなかった。中層の入り口ではラプトルは一体しか出現せず、ガスパロとナザレの誘導が無くなればナダに近づく前に殺されるのだ。ナザレのアビリティはラプトルの鱗を斬り裂き、ガスパロが牽制し、アスが致命傷を与える。とどめを刺すのはナダ以外の三人ともに機会があった。


「アスはどうだった? 新しいパーティーの形は?」


「まだ分からないかな? ナダに関してだけど、ブルーノよりかは強いかも知れないけど、エデルの代わりにはならないかもしれない。でも、それはそれで新しいパーティーの形を探せ、ってことだろう?」


 アスは悩んだように言った。

 別のクランに移ったエデルは、アスに強烈な印象を与えていた。最終的には別の道を歩くことになったが、アスにとって一番の相棒がエデルだったのだ。アビリティの相性もよかったことを懐かしく思っている。


「まあ、上々といった感じかな。じゃあ、帰って休もうか。今日の冒険の振り返りをしよう」


 コルヴォが皆を引き連れて冒険者組合の出口を目指した時、入り口にたむろしている冒険者たちがいた。


「フォカオン様だ――!」


「ファカオン様、今日もよろしくお願いします!」


「本日も冒険頑張ってくださいね!」


 彼らは十人を超える数が集まっており、どうやら中心にいる人物へと心酔しているようだった。

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― 新着の感想 ―
光の鍛冶屋ってカテリーナとかロドリゲスの類似アビリティみたいなんかな。 光の~系は強いイメージがある。
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