第十七話 第一部隊Ⅱ
お正月なので新作として、「現代に残る聖杯伝説について」というホラー小説を書きましたので読んでいただけると嬉しいです!
十万文字程でさくっと終わる予定です!
「本当か?」
未だにモンスターの気配を感じていないナダは、疑うように言葉を出してしまった。
ナダの知覚する範囲に、モンスターはまだいない。
「まだ迷宮にも慣れていない見習いは黙っていろ! アスが見つけたと言ったら、そこにモンスターはいるんだ――」
仲間の事を信じないナダに、ナザレの檄が飛んだ。
ナダはそんな言葉を言われても未だに信じられなかったが、やがてこちらへと近づいて来る獣臭とのっぺりとした足音が聞こえる。“四体の蛇人”の姿がぼんやりと現れたので、目を凝らす。
「本当に来やがったぜ――」
「嘘はつかないさ。これがオレのアビリティだからね――」
驚きの声が出るナダに、アスは顎を上げながら得意げに語る。
どうやらアスの風による探知能力は、ナダの素の感知能力よりも遥かに高いようだ。
「それは凄いな――」
ナダは思わず感嘆の声が口から漏れた。
これまでモンスターを見つける事が役目の一つだったナダは、自分よりもモンスターを見つけるのが得意な冒険者がいることに感心していた。多少の自信は持っていたのだが、このパーティーではどうもその能力は役に立たないらしい。
「まず、先陣を切るのがアスだ。後は流れ通りに! ナダは……最低限の仕事は果たせ」
「はいよ――」
ナダはナザレの命令に頷いた。
ここで言う最低限の仕事とは、ギフト使いであるマルチーザの護衛である。攻撃の要でありながら、自身を守ることがあまりできないギフト使いが多い。ギフトに集中すると剣がおざなりになるからだ。マルチーザもそういうギフト使いだった。
「来たねっ!」
蛇人達が近づいてきたので、アスがいつものように加速した。
「オレの事も忘れるなよ!」
そんなアスの横を通り過ぎるように、ガスパロが『魔弾』で射出した光の玉で蛇人の肩や膝を狙撃する。どれも必殺の動きではないが、蛇人達は痛みのあまり絶叫し、動きが阻害される。
そんな蛇人をアスが襲った。光の風を纏った剣。その剣はとても早く、蛇人の盾をすり抜けて攻撃する。首を斬り裂いて、腹部を切り刻むのだ。
「後ろががら空きだぞ――」
そんなアスを狙う蛇人を殺したのがナザレだ。光の槍で、遠い位置から蛇人の剣を持っている肩を穿った。その蛇人の勢いは止まったが、まだ死んではいない。すぐにナザレへと、槍が刺さったままナザレへと盾で自身を固めながら突撃する。ナザレはそれを避け切れない。
「そこはオレの範囲だぞ!」
ガスパロのアビリティは連射できるので、ナザレに到達する前に蛇人の膝を打って体制を崩し、その間に追いついて剣で首を跳ねた。
「しっ――」
二人がかりで対処している間に、アスはもう一体の蛇人を倒していた。剣にまるで竜巻のような風を巻き付けて、敵を乱雑に切り刻むのだ。
アーザ第一部隊の主力のメンバーたちは瞬く間に三体の蛇人を倒した。
だが――まだ、一体残っている。その蛇人は無防備な状態のマルチーザへと真っすぐ向かって行った。
「そろそろか――」
ナダはようやく自分の番が来たか、とロングソードを雑に構えながらマルチーザの前に立った。こちらに来る蛇人を相手に戦う気満々だったが、その前にガスパロが動いた。
「あぶねえな!!」
蛇人へ何発もの光の玉を発射する。膝や肩を打ち抜いて、蛇人の進行を阻害する。膝が落ちる。蛇人は前へと倒れて、体を支えるように両手を前に出した。頭が垂れて、ナダの前に無防備になった。
ナダはそんな蛇人を殺そうと大股で距離を詰めて、剣を振りかぶった。
「オレの前からは逃げられないよ――」
だが、アスはその蛇人に気づいていたので、ナダより早く空中へと躍り出た。
「やるな――」
剣の振りを止めてそんな感想が漏れるナダの目の前で――風が舞った。銀色の風だ。酷く優しい風であったが、それが急に向きを変えて蛇人へと降り注ぐ。風の中からはアスが現れて上から下に、美しい軌跡で蛇人の首を落とした。
ナダ達はそれから手分けしてカルヴァオンを取り出す。冒険者として最低限であり、最も重要な仕事である。ナダはナザレから命じられた仕事に愚直に従っていた。
カルヴァオンを取りもせずに剣を持ちながら虚空を見つめていたアスを、ナダは観察する。どうやら風を使った偵察が彼の仕事らしい。いつでも戦えるように準備していた。
あれが、コルヴォの言っていた英雄の原石、なのかと深く観察する。
素直に素晴らしい冒険者だと思った。
これまでナダが出会ってきた多くの冒険者はアビリティを究めようとしている者が多い。彼らは自身の武器であるアビリティの使い方や威力を愚直に鍛え、時に武技を磨く。そして武技とアビリティの相乗効果を狙い、冒険者としての力量を上げるのだ。
そんな中、アビリティとギフトを持っている双色でありながら、どちらが中途半端になることなく、二つが重なるように鍛え上げている。
どちらかだけなら、まだまだ未熟な冒険者と言えるだろう。アビリティは出力が弱く、ギフトは技が少ない。だが、そんな足りない実力を“二つある”という才能で補っている。
さらに恐ろしい事に、アスはまだ成長の余地が限りなくあるということだ。他のベテランたちを才能で置き去りにし、努力によってより高みを目指している。
いずれ英雄に至る人材、と言われてもおかしくはない冒険者だった。
「おい、手が遅いぞ!」
そんな風にアスを観察していたナダは手が止まっていたらしく、ガスパロに注意された。
ナダは手の動きを再開させて、黙々とカルヴァオンをはぎ取っていく。
「さて、次に行くぞ――」
それからナザレの言葉と共に、第一部達はより深く潜っていく。
蛇人は時折出現するが、先ほどのように四体も出現することはなく、多くても三体、殆どが二体出現するのだ。
それらの蛇人はアスを中心にして、ガスパロ、ナザレが牽制するため、ナダはギフト使いのマルチーザの横に待機するしかないのであくびを噛み締めていた。
気が抜けているナダにナザレは舌打ちをするが、何も言えないのが現状だった。「気を引き締めろ」と一度だけ声をかけたのだが、ナダは「モンスターが来たら戦うさ。それとも俺が前線に立とうか?」と提案されたので、それ以上深く言う事が出来なかったのである。
これはコルヴォやナダがいない所で決まった事なのだが、第一部隊の仲間の中で一つだけナザレが決めた事がある。
「――ナダは、飼い殺しにする」
ナダが中層に潜るのに十分な力があることは分かっているが、あくまで相手は人の形をした“蛇人”である。それ以上の敵は腕っぷしという“単純な武力”では、そもそもが中層が限界であり、ナザレ達が普段潜っている中層の奥や上層では戦う事自体が辛いだろう、という判断だった。
徐々に中層でも深い所に潜りながら、いずれ自分の実力を分かってもらい、ナダには自らの口から第一部隊から抜けるのを誘導させる。
冒険者なら誰しもが命は惜しいだろう、との考えから、そんな風にナダの使い道を決めた。
だから蛇人が二体、あるいは一体の時にはナダに戦わせる。
後ろにわざと傷ついた蛇人を送って、ナダが殆ど戦わないようにするのだ。
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