第十三話 一時的Ⅲ
「ただ、俺は突っ込むからお前たちが合わせろよ?」
「いや、いつも通りだったね――」
コルヴォは呆れたように言った。
「分かった!」
「分かっているし!」
ナダの言葉に強く賛同したのが、パウロとルルドだった。
パウロは早速ナダに合わせるように『伝染する霜』を自身の剣に纏わせた。浅いダメージでも大ダメージを狙えるアビリティなので、ナダの役に立てると意気込んでいた。
ルルドはすぐにギフトを唱えながら蛇人の足に注目する。ナダが斬りかかる瞬間に動きを止めるつもりだ。
「やれやれ、ならオレも準備をしようか。『鬼殺し(オーガ・スレイヤー)』」
コルヴォはいつものようにアビリティを使い、右腕を肥大させた。それは胴体ほどの太さになり、青い血管が浮き出ている。さらに皮膚は赤く硬質化しており、敵の攻撃を防ぐのにも使えそうだった。
「いい感じだな――」
ナダは仲間達の準備が終わった事を確認してから、のそのそと蛇人へ近づいて行く。
蛇人は既にナダ達に気づいていたが、いきなり襲い掛かるような真似はしない。知能があるのだろうか。蛇のように下をちろちろと出しながらナダ達を伺うように大鉈と盾を上下に動かしている。
ナダが蛇人との距離をゆっくりと詰めた。すると、先にしびれを切らした蛇人が、ナダへと大股を広げて走ろうとする。
「『土の穴』!」
その瞬間を狙っていたルルドが、蛇人を罠にかけた。足を土で作られた穴に落としたのだ。そのまま土は蛇人の足に纏わりつき、離れる事はなかった。
蛇人の動きが一瞬止まる。足がはまって抜け出せない。
「しっ――」
そこを狙ったのが、パウロだった。ナダが蛇人の目線を奪っている間に、右から大回りし、蛇人へと斬りかかる。だが、それは蛇人の盾によって簡単に防がれた。
だが、パウロの攻撃はそれだけでは終わらない。空中で剣を振るう。『伝染する霜』が蛇人の視界を防いだ。
蛇人は顔をきょろきょろとさせて冒険者を探すが、白い霜に包まれてよく見えないのだろう。その場で盾と剣を無造作に振る。大振りだが、スピードは確かであり、簡単に近づけるようではなかった。
「まあ、とどめは任せるよ――」
だが、そんな蛇人にコルヴォが一瞬で近づき、アビリティによって太く発達した腕を固める。蛇人の大鉈を受け止めた。大鉈の刃がコルヴォの腕に肌に食い込むが、血の一滴すらも流さない。
「助かる――」
蛇人は足を止められ、視界を塞がれ、また頼みの綱である剣すらもコルヴォに止められている。
ナダはそんな状態を作ってくれた仲間に感謝した。
ナダは無防備となった蛇人の首を、ブロードソードで楽々と切り離した。
「意外とこのパーティーいいかもしれない――」
ソールに挑戦することになった冒険者が、最初に苦戦すると言われるモンスターである蛇人。それを楽々と倒した事にしっかりとしたことに、確かな手ごたえを感じるパウロ。
「あれ、蛇人って、こんなに弱いの?」
ルルドもまた、初めて挑戦する中層のモンスターがこんなに弱いとは思わなかった。
「コルヴォのおかげだよ。あいつが最も厄介な剣を押さえてくれた。きっとあの攻撃力が本来なら厄介なんだろう――」
だが、ナダは蛇人の胸元を切り開いてカルヴァオンを取り出している間に、冷静に今回の戦闘を評価していた。
「ははっ、どうなんだろうね?」
「コルヴォ、お前見ない間にあんなアビリティの使い方が出来るようになるとは、順当に強くなっているじゃねえか――」
とぼけるコルヴォに対して、ナダはその戦闘力の高さに驚いていた。
ナダはアビリティを解いて腕が萎んだコルヴォの瞳の中に眠る静かな炎を感じ取っていた。
――下積みを積むのではなく、冒険の最前戦で戦いたい、と言ったコルヴォの気持ちは本物なのだと、ナダは分かった。そうでなければ、アビリティの開発など行わない。
クラン内で最も強いのがアスト言っていたが、彼に従順なのではなく、平気で喰らおうとしているのがきっとコルヴォなのだろう、とナダは思うのだ。
「少し考えを変えただけさ。それよりもここは中層だが、たった一個のカルヴァオンを手に入れただけで満足するようなナダではないだろう? どれだけ成果を集める?」
「剣が無くなるまでだな――」
「それは大変そうだ」
コルヴォはナダの返事に嬉しそうに嗤った。
「最後まで付き合うよ!」
「私だって当然だし!」
二人の意見に同意するパウロとルルド。だが、二人はその判断を後に後悔することとなる。
ナダ達はそれからも中層をあてもなく突き進んだ。道に関しては普段から中層を攻略しているコルヴォが殆ど指示を出すのだ。中層の中でも入り口に差し当たる場所を中心に周り、いかに多くの蛇人を倒すかをコルヴォは意識していた。
倒し方は何体現れようと変わらない。
まず、ルルドによって相手の足の動きを止めて、次にパウロが近づいて相手の視界を塞ぐ、または攻撃がうまく行けば浅く斬りつける事によって凍傷を負わせて上半身の動きを阻害する。コルヴォは相手の剣を受け止めるか、ナダがより敵の近くにいて剣を押さえている間にとどめを刺していた。
二体や三体同時に現れた際には、パウロが一体の注意を惹いている間に、ナダやコルヴォが他の蛇人と戦って倒す。
「コルヴォ――」
「ナダ――」
ナダとコルヴォの連携は神がかっていた。
お互いの名前を呼ぶだけで互いのしたいことが分かり、簡単に位置を入れ替わる。どちらが攻撃して、どちらが牽制に回るか、まるで長年連れ添った相棒のように戦うのだ。
「やるな――」
その事に一番驚いていたのがコルヴォだった。
様々な冒険者と共に冒険していたコルヴォだったが、ここまでうまくいくメンバーはあまりいなかった。いるとすれば、学園時代のパーティーである『アヴェリエント』だろうか。アメイシャが所属していた時のパーティーだ。
目だけで会話をし、多くを語らなくても仲間に自分の意思が伝わる。今のアーザには、そのような仲間はコルヴォにとっては一人としていなかった。いつも指示を飛ばし、それでも足りない部分はコルヴォ自身の努力によって補っている。
コルヴォはナダと数えるほどしか冒険をしていないのに、意思疎通できていることの要因の一つが、ナダの感受性の高さだろう、と思っていた。自分だけの力ではここまでうまくいかないのは、他の仲間との冒険でよく分かっていたからだ。
(ナダ、お前はどこまで強くなった――?)
コルヴォはナダの実力をもう一度見定めようとして、うまくはいかなかった。仲間の実力は見定める事ができるのに、ナダにはできない。
きっと、それはナダが自分の想像を超えているからだろう、とコルヴォは思った。だからコルヴォは誰にも気づかれないように唇を噛み締めた。
「さあ、どんどん行こうぜ――」
冒険がうまく行っているからこそ、ナダは次々と蛇人を倒していく。カナダが一本剣を使い潰すたびに、数個のカルヴァオンが手に入り、やがては十分集まった。成果としては、アーザにしては十分すぎる量だ。まだ時間も短いため、第一部隊の普段の稼いでいるカルヴァオンの量に比べれば足りないかもしれないが、あまり中層には行かない第二部隊と考えたら破格の量だ。
そして今も四体の蛇人を倒しきった。ルルドがそれぞれの蛇人を順番に動きを止めて、コルヴォが一体の蛇人と戦っている間に、ナダはパウロの牽制によって一体ずつ順番に殺して行った。
剣は途中で折れたため、最後の剣で四体目の蛇人の胴体を一刀両断して殺したのである。
「まさか僕がここまでやれるなんて……!」
「まさか私もこんなにも貢献できるなんて!」
そんな結果に、パウロとルルドは目を輝かしていた。
ソールに挑戦して以来、二人ともうだつの上がらない冒険を行っていた。二人にとってはこれでも快挙に等しい冒険の結果であった。
「二人の評価も変えないといけないけど……それよりもナダだな」
先ほどから底無しの体力で残っている一本の剣でカルヴァオンの取り出し作業をしているナダへ、コルヴォは神妙な面持ちでクランリーダーとして思案する。
他の浮かれている仲間とは違って、ナダは淡々としていた。今回の結果は上々である。それこそ初めて組むパーティーでは快挙とも言えるかもしれない稼ぎなのに、ナダに喜びは全くなかった。
そんなナダは四体目のカルヴァオンをはぎ取ろうと手にかけたとき、ふと迷宮の先を見つめた。
「逃げた方がいいかもな――」
ナダはまだ慣れていない粗末な木剣を見ながら、小さな舌打ちをしてから言った。
浮かれている仲間へと指示を出すように後ろへと徐々に下がらせようとした。
「急にどうしたのよ?」
「こっちのカルヴァオンはいいのかい?」
仲間達もナダの急な変わりように戸惑いながらも全く動こうとはしなかった。それどころか、ルルドは残った四体目のカルヴァオンをはぎ取ろうとさえする。
説明しているような悠長な暇はないのかナダは焦ったように叫んだ。
「さっさと後ろに逃げやがれ!」
だが、ナダの焦りも無駄に終わるまま――闇の中から大きな顎が現れた。人を一口で飲み込めるほどの大きな顎で、ナイフのような歯が生えている。一目で見れば蜥蜴と見間違うかもしれないが、その姿は太い足に支えられており、手はとても小さい。長く太い尾が生えており、振られたそれにあたるだけでも、冒険者は重傷を負いそうだ。
「ティラノサウルス――」
コルヴォはそのモンスターの名前を呟いた。
読者の皆様には、本年も今作品にお付き合い頂きありがとうございました!
皆様のご応援のおかげで、ここまで書けたと思っております。
来年も変わらず『迷宮のナダ』の更新などを頑張りたいと思いますので、変わらず読んで頂けると幸いです。
ちなみにですが、もう少しだけ毎日更新を頑張りますので明日も読んで頂けると幸いです。




