第十二話 一時的Ⅱ
「破竹の勢いだね。流石、ナダだ」
ナダが“わざと”斬りこぼした火人を自慢のアビリティで斬り倒すパウロ。
彼の持っているアビリティ名を、『伝染する霜』という。白い冷気を剣に纏い、斬った相手を凍らせるのだ。本来なら浅い切り傷から冷気によってモンスターを侵食し、動きを鈍くさせる。あるいはそのまま殺しきる。ギフトのような使い方をするのが学生時代のパウロだったが、ここソールでは火人相手に別の使い方をする。
火人の切り口を凍らせることで、傷口からマグマが溢れ出すことを止めるのだ。その為、パウロは安定して火人を殺すことが出来る。同じような事が出来る氷のギフト使いもこの町には多いが、彼らと比べてパウロは剣技も得意にしているので、火人はパウロにとって体のいい獲物だった。
「そうか?」
ナダは壁にぶつけて火人を倒すことを覚えてからは、目の前の敵を吹き飛ばしながら迷宮を進む。それでも無理な相手は後ろで待ち構えるパウロに任せるのだ。
「ああ、そうだよ! 君は、僕たちの中では有名なんだ! あのトーへでの冒険は、僕たちの間で語り継がれている! だって、当時、学園で最強だと言われている先輩たちに君は勝ったんだから!」
パウロはさも自分の事のように嬉しそうに語った。
隣では、コルヴォが恥ずかしそうに頬をかいていた。未だにコルヴォの出番は一度としてない。ナダがコルヴォにはモンスターはいかず、パウロの方へ行くように斬り方を変えていたからだ。
「そうでもねえよ――」
ナダの返事は淡泊だった。
ナダも、その時の冒険はよく覚えている。当時、学園の五年生だったナダは、コルヴォの口車に乗せられて、イリス、コロア、コルヴォの先輩たちに加えて、同級生であるレアオン、アメイシャ、オウロと共に誰が一番早くはぐれを倒せるか、という冒険を行った。紆余曲折があり、ナダが勝ったのであるが、今でもあの戦いでの本当の勝者をナダは自分自身だとは思っていない。成り行きで勝っただけだ。
「僕はね、憧れるしかなかった先輩たちと戦って勝ったナダの事は本当に凄い、と尊敬しているんだ。だって、学園の誰もが勝つと思っていなかったんだから。イリス先輩、コルヴォさん、コロア先輩の誰かが勝つと、皆話していたよ」
「そうなのかよ――」
ナダは意外そうに返しながら、また火人を切っていく。
何故ならナダは友達が殆どいなかったため、まさかそんな事を話していたとは知らなかったのである。唯一の友人であるダンからはあまり、あの戦いについて聞かれる事はなかった。一言、頑張ってね、と激励を言われたのである。
「そんな下馬評を覆して、ナダが勝った。それで、誰もがナダの評価を覆したよ。君が能無しなんて、あれからは殆ど聞かなくなったぐらいにね――」
「それは驚きだな――」
「知らなかったのかい? 僕がね、今回、ナダと冒険したかったのも、あの時の勝者と冒険がしたかったからなんだよ」
「結果はどうなんだ?」
「予想以上さ。君は強いよ。僕の理解が及ばない程にね」
パウロはさも当然のように言った。
「そうか? まだまだいけるぜ?」
どれだけナダは火人を切ったかは分からない。浅層のモンスターに手こずるような“英雄”ではないため、涼し気な顔で先を急ぐ。
またそんな風にモンスターを倒している時に、ルルドは時々ナダへと献身するようにギフトを使う。
「私の母よ。私の母なる大地よ。私が望むのは大地に開く深き穴。生者を守り、慈しむ母なる抱擁。全ての生者に永遠の安寧を――『土の穴』」
ルルドが発動させる土のギフトはモンスター達の足元へ開ける穴だった。それも体を全て埋めるような大きな穴ではなく、足だけをはめるような小さな穴だ。
だが、火人の動きを制限するだけで、ナダの動きは輝く。
ナダはそんな火人が爆発する暇を与える事無く、首を切り取った。動いているモンスター相手なら難しくても、動きが制限されているモンスターに爆発させることなく殺すなど、ナダにとっては赤子の手をひねる様なものであった。
だが、一方の仲間達は既に息が切れていた。
コルヴォだけはまだまだ余裕そうな顔をしていたが、ナダによって何体かの火人を倒すことになったパウロと、指示されていないがギフト使いとして最低限の仕事を果たすルルドは既に呼吸が乱れていた。
「はあはあ、ちょっとペースを落としてくれると嬉しいし――」
特にあまり動くことが得意ではないルルドは顔に脂汗を浮かべながら付いて行くだけで必死だった。
ここに来るまでに何度かギフトを使い、破竹の勢いで迷宮を攻略するナダに着いて行くだけで。
「そうだな。少しペースを落とすか――」
ナダはそんなルルドに配慮するように腰にぶら下げていた水筒を渡した。
「ナダ、凄いペースだね……いつもこんな感じで攻略しているの?」
喜んでついてきたパウロも、どうやらナダのペースには付いて来られていなかった。だが、顔はニヤついていた。どうやら久しぶりにちゃんとした“冒険”をしたことに満足しているようだ。
「いや、そうでもねえよ――」
「なるほど。今日は第一部隊の人たちに見せつけるためのハイペースという事だね」
パウロは喜ぶように頷くが、ナダの意図としては違った。
普段なら、もっと“過酷な冒険”をしているという意味だったのだ。マゴス攻略を終えて、インフェルノで暫くの間暮らしたのだが、その間に体の感覚を忘れないために一人で迷宮に何度も潜った。
その際には、もっとハイペースで休憩など挟まず、深層にまで行って暫くの間出会うモンスターを全て倒すのだ。そして大物だけのカルヴァオンを剥ぎ取り帰還する。
だが、それでもマゴスを攻略した時の冒険と比べると物足りなかった。どれも一度は殺した事のあるモンスターだからだ。
「……まあ、そんなところだな」
ナダはパウロが勘違いしていることに気づいても、特に訂正はしなかった。口で語る実力など、冒険者にとっては毛ほどの役にも立たないからだ。
それからナダ達は何度かの休憩を挟んで、全員が無傷のまま、浅層は終わりを迎えた。
蛇人あるいはエスカマが現れた。
火人よりも恐ろしいモンスターである。
まるで龍が人の形を取り、歩いているようなモンスターだったとナダは思った。人よりも大きな体躯であり、指は四本しか生えていなかった。
大きな目は蛇や蜥蜴のように瞳孔が縦に開いており、その目はナダが何度か倒した事がある龍とよく似た目をしていた。
彼らは人を見つけると、耳をつんざくような雄たけびを上げる。思わず両手で塞ぎたくなるほどだった。
現にナダ以外の仲間は耳を塞いでいた。
ナダは新しいモンスターと出会ったことに口角を少しだけ上げた。
「火人よりも、手ごたえがありそうだな――」
ナダは右手で持っているブロードソードを肩に担ぐように構えた。慣れている武器ではない。リーチのある武器ではない。戦うならば、本来なら愛用の武器を選ぶものだ。それも強敵なら尚更だ。
だが、ナダはそれでも問題はないとばかりに剣を右手で遊ばせたままま、力を抜いてぶらんと垂らし、獣のような前傾姿勢になった。いつでもモンスターへと剣を触れるようにだ。
「ナダ、一人でやるのか?」
そんなナダへコルヴォが訊ねた。
「いや、今回は手伝って貰おうか――」
「意外だな――」
想像していなかった反応に、コルヴォは驚いた。
いつものようにナダは一人で戦うと思っていたのだ。
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