第九話 エースⅤ
仲間達が去った後、部屋に残ったコルヴォはいなくなった仲間達の背中を思い出し、深いため息を吐いた。
その様子を見ていたナダが、重たい口を開いた。
「コルヴォ、よかったのか?」
「何がだ?」
「こうまでして俺を入れて――」
ナダはぶっきらぼうに言った。
この部屋にはナダとコルヴォしかいないので、コルヴォは肩を落としながらおどけた様に言った。
「いいさ。別に――」
「本当か?」
ナダは再三確認をする。
「ああ。前にも言ったかも知れないが、オレはそうまでする価値がナダにはあると思っている。ナダの強さは本物だ。仲間達はあまり分かっていないが、オレはよく知っている――」
コルヴォはかつてのナダとの冒険を思い出す。
強く記憶に残っているナダとの冒険は三度ある。
一度目は龍の体内からの脱出である。別々に冒険を送っていた冒険者たちが龍に喰われた事で集まり、生き残るために協力することになった冒険だ。あの時のナダも強かった。
二度目は学園内で、“最強”を決める戦いのときだ。結局は協力することになったが、そのきっかけになったのがナダで、なし崩し的にナダが最強になった冒険である。
そして三度目がナダに誘われた事によって始まった冒険だ。ナダの強さをあの時に本当の意味で思い知った。
短い間に、彼にどんな変化があったのかは知らない。だが、あの時のナダは、自分よりも遥かに高い場所にいた。
確かに、ナダは強かったのだ。
多数のモンスターを簡単に切り殺し、返り血を大量に浴びながらも自身は致命傷一つ負わず、モンスターを殺しきった後には解体するまでのスタミナすらも持ち得ていた。
全てコルヴォが持っていなかった強さである。
「コルヴォにそう言ってもらえると俺も鼻が高いな――」
「本当の事さ。それに今のナダはあの時よりも強い。そうだな?」
「俺はそう思っている――」
ナダは誇るように言った。
マゴスでの完全攻略は、ナダに自信と次の冒険の活力を与えていた。きっと今の自分は昔の自分よりも強い、との自信があるのだ。
「だから、だ。だからオレはナダをクランに入れた。是が非でも、他のクランには渡したくなかった。ナダの実力は本物だ。卒業してから数多くの冒険者を見た。それこそオレよりも強い冒険者なんて山ほどいた。それでも、ナダよりも上の冒険者はいないと今でも思っている――」
コルヴォはクラーテルに来る以前は、学園を卒業してから一時期にミラ、それに王都でも少しの間だけ活動していた。
その間に様々なパーティーにフリーの冒険者として入り、学んだのだ。時にはトップパーティーに呼ばれる事すらあった身だ。
それでも、コルヴォはナダが最強だと思った。彼にも足りていない事は多数あるとはいえ、単純なモンスターを倒す強さなら、他の冒険者では持ちえないものを持っていると思ったのだ。
「そこまで評価していてくれるとは嬉しいぜ――」
ナダは照れたように笑った。
「だからオレはお前に賭けるんだ。ナダが入れば、クランのレベルが上がる。一人の冒険者が入った事によって、強くなったパーティーをオレは幾つも知っている」
「……それはあるかもしれねえな。だが、成長するのは他の誰の力でもなく、自己努力だぜ?」
ナダはマゴスでの経験を思い出す。
あの時、“英雄”は自分しかいなかった。
実力のある冒険者としてニレナやオウロはいたが、どちらも“まだ”英雄ではなく、マゴスを攻略しているうちになったのだ。他の仲間達も冒険を経て大きく成長した。もしかしたら自分にそんな力があるのでは、と錯覚するほどだった。
だが、違うのだとナダは思っている。
仲間達が頑張ってくれたからこそ、彼らは強くなったのだ。パーティーに所属したからではなく、彼らが本気で“底”を目指したからこそ、英雄になり、他の仲間も冒険者では類まれな実力になったのだ。
「それは分かっている。だからアーザももう少し活気が欲しいんだ。粒ぞろいだとは思うんだけどね――」
「その中で最も大きい粒がアスなのか?」
ナダは皆の中心にいた男の事を思い出す。
若い男だった。まだ若かったが、顔に自信が満ち溢れていた。冒険者としてこれから脂がのる時期だと思うのだ。
「ああ、そうだ。皆があいつに期待している。それぐらいの“箔”がアスにはあるんだ――」
「そうか――」
「あいつは強くなるよ、もっと、もっと――」
コルヴォは拳を強く握りしめながら言った。
「コルヴォはどうなんだよ?」
だが、ナダはそんなアスよりも、コルヴォを見ていた。
「何がだ?」
「コルヴォも、強くなるんだろう?」
ナダは微かに嗤った。
「いや、オレはもう頭打ちだよ。だからこうしてクランリーダーをしている。オレ一人では無理だと思ったんだ――」
「そうか――」
ナダはつまらなそうに頷いた。
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