第八話 エースⅣ
今回は少し短くて申し訳ございません。
外は淀んだ夜空だった。
分厚い雲によって星々は見えず、今にも雨が降りそうだった。外には誰もいなかった。既に夜も遅い時間だ。店など一つもやっておらず、外は誰も出歩いていない。静寂だけが闇を支配する中、土を踏みしめるアスの風切り音だけが辺りに響く。
「ナザレ!」
街には明かりが殆どなく一旦外に出れば人を見失いそうなのに、薄い風を纏ったアスはすぐにナザレを追いついた。
ナザレはアスに声をかけられるとすぐに足を止め、いら立ちを隠せない程口を歪めながら振り向いた。
「ったく、厄介な事になった――」
「ナザレ、どうしたんだよ?」
「どうしたんだよ、じゃない! コルヴォ、私の意見も聞かず、クランリーダーと言う地位だけを悪用して、あんな男をクランに入れやがった。それだけならいいものの、あいつだけには裁量権を渡している。これではリーダーを渡したのも同意で、アス、お前が手にしていたエースも実質はあいつに渡したに近いんだぞ!」
「まだそう決まったわけじゃ……」
「甘えた事を言うな!」
アスの言葉を、ナザレは遮った。
「ご、ごめん……」
謝るアスに、ナザレは近づいた。
「アス、お前も覚悟しておけよ。あんな奴にエースの座は絶対に渡してはならない――」
「分かっているよ!」
アスは自信満々に言うが、どこかナザレは懐疑的であった。
「本当か? きっとあいつはお前の地位を狙っているぞ。エースの座だ」
「そうなのかな? そんな風には見えなかったけど――」
「そうか? ならアス、お前にはどのように見えた?」
「まるで覇気のない目だったね。観察しているだけかもしれないけど。もしかしたら実力はあるけど、既に一線を退いた冒険者なのかもしれない。コルヴォには手助けを頼まれただけなのかも?」
「何故そう思うんだ?」
「だって、“フォカオン”の方がもっと怖かった。ぎらついていた。餓えた獣のような目だった。それに比べて、あのナダとかいう男は図体はでかくて、オレよりも年上だから経験はあるようだけど、飢えているようには見えない。既にどこかで冒険の区切りはついたのかも?」
おどけたように言うアス。
彼自身としてはナダに興味を持っていたが、敵としては全く認識していなかった。もっと恐ろしい存在を知っているからだ。
その一人が――フォカオンだ。
フォカオンとは、アスが尊敬している冒険者の一人である。この街にいる冒険者の中で、“最強”と呼ばれている冒険者の一人だ。双色であるアスやクランリーダーであるコルヴォを遥かに凌ぐ実力を持つとされている。
「……見た目ではまだ若そうだが」
「前にナザレが言っていただろう? 冒険者はどこかで自分の限界を知る。それは肉体の限界だったり、アビリティの限界だったり、強さの限界だ。どこまでも成長するわけじゃないって――」
「確かにそうだが――」
それは間違いなく、ナザレ自身が言った言葉だった。その真の意味には、ナザレの心情も含まれているのかも知れない。
「それを知ったのかも? だから餓えた感がない。年齢は若いのかも知れないけど、コルヴォの後輩なら学園出身だ。あそこは魔の巣窟って言うだろう? どこかで限界を知るにはいい場所だ!」
「なるほど、一理あるな――」
ナザレは素直に頷いた。
「だから、怖くないよ。もしも“今のオレ”よりも強かったとしても、いつかはいずれ抜く。それぐらいの力を持っていることは、オレ自身がよく知っている。だって、この“力”さえあれば、オレは誰にも負けないんだ」
アビリティの風と、ギフトの風、二つの風がアスに力を与えるのだ。
冒険者の中でも優れた実力を持つ双色の中で、掛け合わせることでより強い力を生み出す存在は、アスしかいない。他はアビリティとギフトをそれぞれ使う器用貧乏か、どちらかに絞って鍛えて一流になる者が多いのだ。
「ふん、アスの才能はよく分かっているさ――」
「だろ?」
アスは子供のように表情を崩した。
「だが、油断するなよ。お前の座を狙っている者は、同じアーザ内にも数多くいるぞ。お前を蹴落としたい冒険者なんていくらでもいる――」
「それほどクランのトップの位置は美味しいもんね。でも、オレだって、ここを誰にも譲るつもりはない。いつかはコルヴォだって、フォカオンだって、オレが喰らうんだ――」
アスはぎらついた獣の目をしていた。
あたりが暗い夜空であってもアスの欲望が透けて見える程、彼の“風”は彼を中心にして渦巻いている。それはまるで彼の心と連動しているかのように、彼の“力”は強く辺りの砂ぼこりを吹き飛ばす。
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