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迷宮のナダ  作者: 乙黒
第五章 石の王

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第八話 エースⅣ

今回は少し短くて申し訳ございません。

 外は淀んだ夜空だった。

 分厚い雲によって星々は見えず、今にも雨が降りそうだった。外には誰もいなかった。既に夜も遅い時間だ。店など一つもやっておらず、外は誰も出歩いていない。静寂だけが闇を支配する中、土を踏みしめるアスの風切り音だけが辺りに響く。


「ナザレ!」


 街には明かりが殆どなく一旦外に出れば人を見失いそうなのに、薄い風を纏ったアスはすぐにナザレを追いついた。

 ナザレはアスに声をかけられるとすぐに足を止め、いら立ちを隠せない程口を歪めながら振り向いた。


「ったく、厄介な事になった――」


「ナザレ、どうしたんだよ?」


「どうしたんだよ、じゃない! コルヴォ、私の意見も聞かず、クランリーダーと言う地位だけを悪用して、あんな男をクランに入れやがった。それだけならいいものの、あいつだけには裁量権を渡している。これではリーダーを渡したのも同意で、アス、お前が手にしていたエースも実質はあいつに渡したに近いんだぞ!」


「まだそう決まったわけじゃ……」


「甘えた事を言うな!」


 アスの言葉を、ナザレは遮った。


「ご、ごめん……」


 謝るアスに、ナザレは近づいた。


「アス、お前も覚悟しておけよ。あんな奴にエースの座は絶対に渡してはならない――」


「分かっているよ!」


 アスは自信満々に言うが、どこかナザレは懐疑的であった。


「本当か? きっとあいつはお前の地位を狙っているぞ。エースの座だ」


「そうなのかな? そんな風には見えなかったけど――」


「そうか? ならアス、お前にはどのように見えた?」


「まるで覇気のない目だったね。観察しているだけかもしれないけど。もしかしたら実力はあるけど、既に一線を退いた冒険者なのかもしれない。コルヴォには手助けを頼まれただけなのかも?」


「何故そう思うんだ?」


「だって、“フォカオン”の方がもっと怖かった。ぎらついていた。餓えた獣のような目だった。それに比べて、あのナダとかいう男は図体はでかくて、オレよりも年上だから経験はあるようだけど、飢えているようには見えない。既にどこかで冒険の区切りはついたのかも?」


 おどけたように言うアス。

 彼自身としてはナダに興味を持っていたが、敵としては全く認識していなかった。もっと恐ろしい存在を知っているからだ。


 その一人が――フォカオンだ。

 フォカオンとは、アスが尊敬している冒険者の一人である。この街にいる冒険者の中で、“最強”と呼ばれている冒険者の一人だ。双色ジェメオスであるアスやクランリーダーであるコルヴォを遥かに凌ぐ実力を持つとされている。


「……見た目ではまだ若そうだが」


「前にナザレが言っていただろう? 冒険者はどこかで自分の限界を知る。それは肉体の限界だったり、アビリティの限界だったり、強さの限界だ。どこまでも成長するわけじゃないって――」


「確かにそうだが――」


 それは間違いなく、ナザレ自身が言った言葉だった。その真の意味には、ナザレの心情も含まれているのかも知れない。


「それを知ったのかも? だから餓えた感がない。年齢は若いのかも知れないけど、コルヴォの後輩なら学園出身だ。あそこは魔の巣窟って言うだろう? どこかで限界を知るにはいい場所だ!」


「なるほど、一理あるな――」


 ナザレは素直に頷いた。


「だから、怖くないよ。もしも“今のオレ”よりも強かったとしても、いつかはいずれ抜く。それぐらいの力を持っていることは、オレ自身がよく知っている。だって、この“力”さえあれば、オレは誰にも負けないんだ」


 アビリティの風と、ギフトの風、二つの風がアスに力を与えるのだ。

冒険者の中でも優れた実力を持つ双色ジェメオスの中で、掛け合わせることでより強い力を生み出す存在は、アスしかいない。他はアビリティとギフトをそれぞれ使う器用貧乏か、どちらかに絞って鍛えて一流になる者が多いのだ。


「ふん、アスの才能はよく分かっているさ――」


「だろ?」


 アスは子供のように表情を崩した。


「だが、油断するなよ。お前の座を狙っている者は、同じアーザ内にも数多くいるぞ。お前を蹴落としたい冒険者なんていくらでもいる――」


「それほどクランのトップの位置は美味しいもんね。でも、オレだって、ここを誰にも譲るつもりはない。いつかはコルヴォだって、フォカオンだって、オレが喰らうんだ――」


 アスはぎらついた獣の目をしていた。

 あたりが暗い夜空であってもアスの欲望が透けて見える程、彼の“風”は彼を中心にして渦巻いている。それはまるで彼の心と連動しているかのように、彼の“力”は強く辺りの砂ぼこりを吹き飛ばす。

いつも感想や評価などありがとうございます!

よければ外伝の『美人な師匠の愛が重い』もよろしくお願い致します。

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― 新着の感想 ―
中身の詰まった樽は、音を立てない。 別の作品で見た表現ですが、的を射ていると思いました。
この子ナダがマゴス踏破の主力で英雄で何の能力も持ってない外れって知ったらどういう反応するんだろうか…素直に受け入れるのか認めずに突っ走るのか
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