第七話 エースⅢ
ナダはコルヴォに連れられるように宿屋へと向かう。
中では宴会が開かれていた。
どうやら迷宮探索から帰ってきた冒険者を出迎えているようだった。
「アスが、ここにいるぞー!」
どうやら宿屋の一階を貸し切っているようで、そこではアーザのクランメンバーたちが盛大に中心にいる者を祝っていた。
中心にはナダの見知らぬ男がいた。
「そうだ! ここにはオレがいる! オレがいるんだ!」
酒を飲んでいるのか、少しだけ赤くなっているその男はえらく機嫌がよさそうだった。
その男は、誰よりも冒険者なのだと言えるだろう。
細くもあるが、誰よりも引きしまった体躯。存在感のある茶色の目はまるで獲物を狙う狩猟生物のように鋭い。北方出身なのか肌は太陽を知らないかのように白く、髪は透き通る風のようんま銀髪だった。
だが、まだあどけない顔をしている。どうやらナダよりも下のように思える。
「名前をアス。若干、十八歳と、冒険者としてはまだまだ若いが、“天才”だよ――」
コルヴォはアスの事をこう評した。
「やあ! コルヴォ! やっと帰って来たんだろう? オレ達のリーダー!」
アスは帰ってきたコルヴォを見つけると、クランメンバーたちの人ごみから抜け出してコルヴォの目の前へ駆けだした。
「ああ、ただいま。アスこそ、冒険はどうだった?」
「いい冒険だったさ! まだ深層に挑戦は難しいかもしれないけど、オレ達ならいずれやれると思うんだ! そう実感させられる冒険だった!」
「そうか。それはよかった。アスには期待しているんだ。これからもよろしく頼むよ」
コルヴォは明日へと期待の眼差しを向けるように肩を叩いた。
「それより、そこの “大男”は新しいクランメンバーなのかい?」
「ああ、そうだ! 皆、こっちに注目してくれ!」
コルヴォが手を叩いて、全てのクランメンバーを注目させた。
「――これから、新しいクランメンバーを紹介する! ナダだ! 昨日付で、このアーザに入った! あまり有名じゃあないかもしれないが、実力は俺の思う限りピカ一だ! これからアーザを引っ張っていく存在の一人になると思う! 皆、仲良くしてくれ!」
コルヴォの紹介と共に、ナダへと向けられる視線は様々であった。興味、猜疑心、不安などだ。
「ナダ? 聞いた事ないな」
「誰だ? コルヴォの後輩か?」
だが、それらの中に好意的な印象を受ける冒険者はほとんどおらず、否定的な印象を浮かべる者が多かった。
その要因の一つとしては、やはりナダの知名度が無い事だろう。ナダは学園から離れて時が経っており、マゴスでの冒険で活躍しだしたのは最近の話である。それまではソロでの冒険を行っており、それなりに稼いでいたがパーティーでの冒険と比べるとどうしても劣るのでナダの名は殆ど浸透していなかった。
「皆、心配しているようだが、必要ない! この男は“オレの知る中で最も強い冒険者”さ!」
コルヴォは自信満々に言うが、その反応は殆どが懐疑的だった。
それは身近にアスという強い冒険者がいると共に、この町には“アスよりも確実に強い冒険者”が何人もいる事もその理由の一つだろう。
だからアーザでも古参の冒険者の一人――壮年の男がおそるおそる口を開いた。
「コルヴォ、そいつが今後のアーザの“エース”になるのか? エデルが抜けたからその穴を埋めようというのは分かるが――」
コルヴォの一時的な代わりとして第一部隊に入っている壮年の男――ブルーノが危惧したのは、今後のアーザの攻略であった。
現在のアーザはアスを中心とした攻略体制が整っている。アスの為にメンバーを集め、彼をサポートできる仲間を第一部隊に集めるのだ。そこからあぶれた者は第二部隊として、アスの冒険の為の情報を仕入れたり、事前に迷宮へと潜って道を確かめるのだ。
迷宮内はしばしば“内部変動”が起こる。それを無視すれば道に迷い、より深い場所に潜る為の冒険ではなく、深い場所に潜るための道を探す冒険になる為、それらを行うための仲間が第二部隊や第三部隊であった。
そんな体制が整っているのにかかわらず、新たなメンバーを第一部隊に入れる事で、やっと“エデル”が抜けた穴がなんとか埋まってきそうな時期にもう一度パーティーをやり直すことになって攻略が遅れるのを避けたかった。
「確かにブルーノの意見も一理ある。だが、オレは例えエデルがいたとしても、ナダをクランに入れていたし、攻略の最前線のメンバーにもナダは入れるつもりだった。それほどの実力が、ナダにはあるとオレは思っている! 以上だ! 皆新しいメンバーであるナダを快く受けて入れてくれ! それがアーザの為だ!」
コルヴォはそうして話を終わらせた。
一部のナダと迷宮に潜った冒険者のみがナダに好意的な目線を送るが、それ以外のアーザの冒険者達はナダをより見定めるようも見ていた。
今後、同じクランメンバーとしてやっていけるのか、本当に第一部隊で戦っていく実力があるのか、そもそものナダの人間性など、他のクランメンバーは疑うように見ながらこの部屋から出て行こうとする。
そんな中、第一部隊のリーダーであり、アーザでも誰もが認める実力者であるナザレがコルヴォに近づいた。
「コルヴォ、ちょっといいか?」
「ああ、もちろんだとも――」
二人は部屋の隅へ移動した。その場面をアーザのメンバーは期待するように見つめ、ナダは部屋の隅で仏頂面になりながら今後の行く末を見守っていた。
「本当にあいつを私のパーティーに入れるつもりか? エデルと言う重要な冒険者が抜けたのは分かるが」
最初にナザレが確認したのは、ナダが今後第一部隊に入るかどうかの確認だった。
このクランリーダーはコルヴォであり、大まかな判断は全てコルヴォが下すことになっている。
「そうかもしれないし、そうじゃないかもしれない――」
「どういうことだ?」
ナザレは苛立つように舌打ちをした。
「第一部隊にナダを入れるつもりだが、最終的にそこに所属するのかどうかを決めるのは――ナダだよ」
コルヴォはナダを指差しながら言った。
「……決定権はコルヴォにあるから、決めるのはお前だろう?」
「そうだが、残念ながらナダに関しては、ナダに裁量権を渡している。あいつが嫌と言えば抜けるさ。オレはそれを止めない――」
コルヴォに指差されたナダは頷いた。
「お前がリーダーじゃなかったのか!」
そんな無責任なコルヴォの発言に、ナザレは詰め寄った。
「そうだが?」
「なら、どうしてそんな“無名”の言う通りにするんだ! お前がリーダーだから、私たちは他のクランではなく、ここに所属することを決めたんだぞ!」
ナザレの叫びに、部屋から出て行こうとしていた他のアーザの冒険者達は思わず立ち止まってしまった。魂の叫びだったからだ。ナザレの顔は真剣で、答え方を間違えれば今にもコルヴォに手を挙げそうな程だった。
「……それぐらいの価値が、ナダにはある」
「私たちにそれを信じろと?」
「信じなくていい。ナザレ達にはオレの先入観などなく、ナダを判断してもらいたいからな。直にオレの言いたいことが分かるだろう――」
その言葉を聞いたナザレは軽くコルヴォを肩で押してから、ナダを睨み、大股で歩くように部屋を出て行った。
ナダはそんなナザレ達を冷静な目で観察しており、そんなナダへ最も注目していたのが――アスである。彼はナダをどういう目で見つめていいか分からず、そこでどんな感情を抱けばいいか分からず、困惑するようにナダを見定めるのだ。そして部屋を出て行ったナザレを追いかけるように走り去った。
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