第六話 エースⅡ
皆様へのクリスマスプレゼントで、暫く毎日更新を頑張ろうと思います。
「そうだ。気を引き締めろ。何度か戦ったからか知っていると思うが、蛇人共は強いぞ――」
ナザレは持っている杖に、光の粒子を纏わせるとやがてそれは槍のように先が鋭い刃となる。
ナザレのアビリティを、『光の鍛冶屋』と言う。その力は持っている武器に光の刃を纏わすと共に、やがては武器の形を彩るのだ。ナザレはその力を使ってモンスターを殺すのである。
「分かっているよ」
「なら、アス――」
ナザレの命令に従うようにアスは口を開いた。
「風の女神様。嗚呼、我が愛する女神様、あなたの優しい声と共に、私を安らぎの風で包みたまえ」
口上が終わると、風が彼方より吹いてアスの身体を包み込む。
風の神――ニンニルの加護だ。それは銀色の風であり、目を凝らせば見えるほど薄く光っていた。
その力は例えるならば、アスにとっては鎧であり剣だ。
この『風のギフト』を纏うことで、アスは常人離れした動きをすることができ、剣にも風を纏う事で殺傷能力を上げられる。さらには風の鎧を着ているのも同意なので、敵の攻撃ですら粗方防ぐことができるほどだ。
アスはそんなギフトの銀風と、というアビリティの光る風の粒子が混じり、輝く銀風となる。
ギフトとアビリティの風が共に混ざって、より激しい“嵐”となったのだ。
アスの周りで、風が荒れ狂う。まるでそれは風神の姿であり、アスは風の化身となった。
「行くぞっ!」
「アス、勝手に突っ走るな!」
ナザレの静止を受け入れる事はなかったアスは、そのまま蛇人へと駆け出した。その速度は仲間の誰よりも早く、彼の後を追うように仲間達が追うが誰もアスには追いつけない。
「大丈夫! 蛇人には負けないから!」
何度も蛇人は倒している。それがアスの自信に繋がっていた。
蛇人は優れた感知器官によって素早く近づいてくるアスに気付いた。盾を構えながらアスを待ち構えるように剣を振り上げる。彼らの得意技だ。
アスにとってそんな蛇人の姿は何度も見た。力は強い。反応速度もいい。感知能力も高いから、基本的には不意打ちは通用しないモンスターだ。だから冒険者の自力で突破するしかない相手である。
不意打ちを好み、モンスターの隙をついて一瞬でモンスターを倒すことを常習化している冒険者にとってはやりづらいモンスターだった。
だが、アスにはそんなこと関係がなかった。
アスは蛇人の前に姿を現して無防備にその身を晒した。蛇人の剣が空を斬ろうと動く。それを肌で感じたアスは、ぬるっと体を動かした。蛇人の剣を避け、盾をかいくぐる。
アスの風を纏った剣が、蛇人の腹部を簡単に斬り裂いた。例え鱗で守られていようと、アスの剣の前には柔肌に等しかった。
しかし、その一撃はぎりぎり蛇人の命には届いていなかった。剣が浅かったのである。すぐに剣を切り替えそうとしたアスだったが、蛇人の反撃を受ける。大きな足による前蹴りである。
アスは避けようとはしなかった。風の鎧が、アスの身体を守ったからだ。
アスはその蹴りを受けたまま、蛇人の心臓へ剣を突き刺した。風の通り道がアスの剣を加速し、アスの背中を嵐が押してくれる。
こうして、蛇人は動かなくなった。
「勝ったぞ!」
アスは声高らかに言った。
これこそが、アスの“才能”だった。
アビリティとギフトを持つ『双色』でありながら、そのどちらもが風であり、二つの力は相乗効果で新たな化学変化を起こし、それは冒険者にとって二つとない大きな武器となる。
まだまだ若いアスが、熟練の冒険者と渡り合える“理由”でもあった。
他の冒険者は言う。アスの力がもしもアビリティだけなら、もしくはギフトだけなら、一般的な冒険者で終わっただろうと。
風の力を持つアビリティはパワーがなく器用貧乏で、風のギフトはサポートに優れているが似たようなことはどのギフト使いも出来る。どちらもそれらを鍛えた上で、唯一無二の力とするのが冒険者なのだが、二つを重ねる事自体がアスの唯一無二であり、他の誰にも真似できない力であった。
「アス! 強いのは分かった! 少しセーブしろ!」
「分かっているさ。だから、皆にもこうやって手伝ってもらってるんだ!」
ナザレの声はあまりアスには届いておらず、それからもアスは簡単に蛇人を攻略していく。
蛇人の攻撃は避けることも受ける事も簡単に行えるアスは、自身の嵐へと変えながら一瞬のモンスターの隙をついてかまいたちのように斬っていく。
その切れ味は鋭く、攻撃力だけを見てもトップクラスの力を持つ冒険者だった。
また時には味方にモンスターを頼むこともある。出現するモンスターが三体、あるいは四体の時、殺し損ねたモンスターを仲間に殺してもらうのだ。その際にはナザレが光の斧と化した棒で、蛇人を殺していた。
「アス――」
冒険はうまく行っている筈なのに、ナザレの顔は暗かった。
アスには一つだけ――弱点があるのだ。
「はあはあ――」
蛇人を何体も殺したアスの呼吸が乱れていた。その場で膝に手を付き、体に纏っていた風がやむのである。
「だから言っただろう? 先走るなと――」
ナザレはそんなアスへ厳しい言葉をかけた。
アスは強力な力を持つが、――スタミナがまだ足りなかった。冒険者になってから日が浅いため、まだアビリティもギフトも体に馴染んでおらず、何度か戦闘を行えば力が尽きてしまうのだ。
もっとセーブして戦えるようになればいいのだが、アスはその辺りの細かい調整が苦手だった。
それらをサポートするのが他のメンバーだが、アスの能力が突出しすぎているがゆえに、誰もついていけなかったのである。
「ごめん、皆――」
アスは申し訳なさそうに顔を俯いた。
「まあ、いい。今回の目標は深層へとたどり着くことではなく、中層の攻略だからな。十分なカルヴァオンも得たし、仲間には傷一つない。アス、これもお前の力だ。しっかりと誇れ――」
そんなアスをあまり叱らず、ナザレは励ますように言った。
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