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迷宮のナダ  作者: 乙黒
第五章 石の王
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第三話 再会Ⅲ

 食事が終わった後、ナダはコルヴォに連れられてアーザの本部へと連れられていた。どうやらカテリーナの知り合いもアーザに所属しているようだ。

 だが、コルヴォは恥ずかしそうに言う。


「ナダ、アーザに幻滅しても、すぐに離れるのだけはやめてくれよ――」


「……どういう事だ?」


「実は、この町にクランは三つあってね。アーザは弱小なんだ――」


 アーザの規模はまだ十数人ほど。パーティーを作ったとしても、三つほどが限界のようだ。他の二つのパーティーは有名なパーティーが創立したもので、どちらも数十人が所属しているようだ。

 ソールの攻略もその二つが競うように行っており、アーザは殆ど役に立っていないらしい。


「その二つには所属しなかったんだな。コルヴォは効率重視で、そういうところもうまく取り込むタイプだと俺は思っていたぞ」


「少し、夢を見たくなったんだ。学園を上位で卒業しても、自分でパーティーを作らない限りは誰かの下だ。もう一度下積みをする事も考えたが、二つのクランは層が厚くてね。オレの実力だと、どう考えても主力メンバーにはなれやしない――」


「……そうか」


 ナダは遠い目で言った。

 コルヴォは暗に、自分はその辺の冒険者と大差ない、と言いたかったのだろう。コルヴォの能力を当然ながらナダも知っている。彼のアビリティは単純な筋力を上げるものだ。冒険者としてはありふれたアビリティであった。その力は十分に強力であるが、コルヴォはむしろアビリティよりも冒険者としての総合力に優れていた。ただ学園内での話で、卒業するとそんなコルヴォですらも、並みの冒険者になるのかもしれない。


「だから、クランを作ったんだ。オレにはこっちの方が向いていると思ってね」


「運営が、か」


「ああ。交渉や人材の見極めは得意だ。それに……こんなオレでも、冒険に絡もうと思うと自分で作るしかないんだ。コネもあまりないからね――」


「そうか――」


「まあ、こんな事を言っても仕方ないけどな。着いたよ。ここがオレのクランだ――」


 コルヴォが案内してくれたのは、周りと似たような石造りの家だった。見た目はただの民家だ。立て札も何もかかっていない。町の郊外にある家とは違い屋根は付いているが、それすらも手作り感が否めなかった。後から聞くと、この屋根はどうやらコルヴォが主体になって作ったようだ。学園時代に稼いだお金はあるが、運営資金を考えると少しでも節約したかったらしい。


「……大丈夫か?」


 ナダはそんな家を見て、今後の冒険を不安に思った。


「ようこそ、ナダ。ここが――アーザだ。そして今日からナダのホームだよ」


 自信満々に案内するコルヴォ。

 ナダは開けるときいと甲高い音が鳴る扉の先へ入った。


「や、コルヴォ。お帰りー! その子がナダって子なの?」


 中にいたのは茶髪の元気そうな女性だった。彼女は真ん中に置かれた四角い机の上で、書類を見ながらペンを走らせていたのを止める。どうやらクランの財政管理を行っていたようだ。


「ああ、ただいま。そうだよ、彼がナダだ。オレの知り合いだよ」


「やっほー! 私はデシア! よろしくね! あなたの事はカテリーナからよく聞いているよー! なんでもとても優秀だって聞いたわ」


 デシアと名乗る女性は、どうやらコルヴォがその役目を奪う前は、カテリーナに言われてナダを案内するはずの人だったらしい。

 後に知ることだが、デシアとカテリーナは学園時代の同期のようだ。


「よろしく頼む」


 ナダはそんなデシアと握手すると、コルヴォに言われて椅子に座った。


「ゆっくりして言ってくれ。今は仲間が迷宮に出かけている。オレも本来は潜るつもりだったけど、勧誘があったからやめたんだ――」


 ナダが椅子に座って肩肘をついていると、デシアがコーヒーを出してくれた。それを一口飲んでから、ナダはコルヴォに今後の冒険について聞く。


「で、だ。冒険はいつから行けばいいんだ? 俺としては武器がここに着き次第、迷宮に挑戦したいんだが」


「……そうだな。明日は休みのつもりだったが、ナダがそう言うのならば潜ろうか。その為のメンバーも選出しておくよ。最初は見学程度の冒険でいいだろう?」


「ああ、そうだな」


「……一つ聞くが、ナダはどんな武器を持ってきたんだ?」


「青龍偃月刀だ。コルヴォも知っているだろう?」


「……それだと、少し冒険が大変かもしれんぞ」


 コルヴォは頭を抱えるように言った。



 ◆◆◆



 ソールの入り口は、冒険者組合の中にある。

 中には朝という事もあって、冒険者が多かったが、ナダの知っている姿はコルヴォと、昨日に紹介を受けた別のアーザのメンバーしかいなかった。


「今日はよろしくだし!」


 彼女の名前をルルドという。頬のそばかすが特徴的な女性だ。色褪せた金髪を纏めてフードの中に入れており、冒険者らしく身を守るための厚手のコートを着ているので体のラインは隠れていた。


「ああ、今日はわざわざ来てくれてありがとう」


 ナダは彼女と握手を交わす。

 ルルドと同じように厚手の外套を着ているナダは、組合の中ではよく目立っていた。他の冒険者よりも頭一つ大きいからだ。それなのに周りの冒険者はナダの事を殆ど知らないのか、「あれは誰だ?」などという声が溢れている。マゴスで活躍していたとはいえ、冒険者はあまり拠点を動かない。どうやらこの場にマゴスでのナダを知っている冒険者はいないようだ。


「ナダ、準備はいいかい?」


 同じような服を着たコルヴォは、ナダへと声をかけた。

 どうやら他の冒険者達が受付にいたようで、後回しにされていたコルヴォは時間がかかっていたらしい。小言でぼそっと「弱小は大変だよ」と嘆いたほどだった。

 どうやら冒険者組合からの扱いも、他の二つのクランの方が上らしい。


「ああ。いいぜ――」


 ナダはコルヴォと同じような持ち手が木で作られたショートソードを厚手の手袋をつけて抱え上げた。

 コルヴォが急遽用意してくれた武器である。


 そんな時、ナダはふと周りを見渡していた。

 クラーテルの冒険者組合は人が多かった。賑わっていると言ってもいい。それはマゴスの時よりも強く感じる事だった。四大迷宮の中で最も攻略が進んでいると言うのは嘘ではないのだろう。

 この人の数こそが、迷宮探索を進めている最大の要因なのだろう、とナダは考える。広い迷宮内で置いて、やはり攻略で最も必要なのは人海戦術だ。出来る限り多くの人を用いて、迷宮内をくまなく探し下へと通じる道を探す。


 その為にこの町の冒険者はクランを組み、攻略を進めて来た。

 そう考えると、人数が少ないコルヴォのクランはやはり弱小なのだろうというのが実感させられる。この冒険者組合の中に自分たちの他に、コルヴォのクランメンバーは一人としていないからだ。


「じゃあ、行こうか――」


 コルヴォの声と共に、三人は石がくりぬかれる様に作られた入口へと足を踏みこんだ。

いつも感想や評価などありがとうございます!

とても嬉しくて、全部読んでいます!


また現在、第1巻の発売記念としてXでプレゼント企画もやっていますので、是非参加いただけると嬉しいです!

詳しくは私のXのアカウント(@otogrostone)の固定ポストをご覧ください!

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