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迷宮のナダ  作者: 乙黒
第五章 石の王
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第一話 再会

「久しぶりに会うのにナダは変わらないね――」


「そうか? コルヴォは随分と過酷な冒険を送っているみたいだ――」


 ナダが見る限り、以前よりもコルヴォの身体には傷跡が増えているように見えた。顔だけではなく、服から見える腕には大きな傷跡が幾つも残っている。どれもナダが初めて見るものであった。また体も以前よりも分厚くなったように感じる。この三年間ほどの間、きっとただ冒険したのではなく、常に過酷な環境に身を置いていたのだろう、というのはナダには想像できた。


「君程じゃあないよ――」


「何がだ?」


 ナダはとぼけた様に言った。


「別に話す気がないならいいさ。ただ、オレも“少し”は情報を掴んでいるという事だ。ここに現れたのも含めてね――」


「……それはいい事だ」


 怪しげな笑みを浮かべるコルヴォに、ナダは全く動揺することなく嗤う。どこまで知っているのか、ナダにはこの時点で全く分からなかったが、別に知られたところで問題はなかった。

 ――ほとんどの情報を止めているのはナダではなく、英雄マナの意志だからである。


「ナダ、歩きながら話さないか? 街を案内するよ」


「それは助かる」


 コルヴォの提案に、ナダは首を縦に振った。



 ◆◆◆



 ナダとコルヴォが街を歩くのは、太陽が真上から過ぎた頃だった。

町の中は活気で満ち溢れていた。再開発されて、ここ数年で発展した街だからだろうか。様々な人で溢れかえっていた。冒険者、商人、旅行客、はたまた冒険者とゆかりの深い貴族など、一目では分からない者も多数行き交っている。出店はそれほど出ていないが、家の中に入れるようなお店は多い。迷宮都市であるから、普通の商業都市のように服や食料品などだけではなく、武器屋や装備屋、薬屋など様々な施設が並んでいた。


だが、家はまだまだそう新しくはない。石を積み重ねて作られた家であるが、現代の家とは違いどれも一階建てか二階建て、高くても三階建てほどしかない。王都には見上げる程大きな城や建物が多いので、それらと比べると随分と低い。それは過去の滅びる前に建てられた家を再利用しているのだから、仕方がないのかもしれないが。


「まず、オレが案内するのはここだ――」


 最初訪れたのは周りの石造りの建物とは違い、赤煉瓦で作られた建物だ。鮮やかな赤に陰りが無いのはきっとその建物が出来てまだ数年と経っていないからであろう。それは貴族の屋敷のように大きいが、れっきとした庁舎である。正式名称を冒険者組合役所と呼び、よく冒険者たちは組合や冒険者組合と呼ぶ。国が冒険者の為に作った施設であり、各々の冒険の報告や収集、また簡易的なカルヴァオン交換所、パーティーメンバー募集、パーティー斡旋所など、様々な役割を兼ね備えているが、最も重要なのはこの建物の中に――迷宮『ソール』の入り口があるということだ。


 だから冒険者組合役所の入り口は屈強な男が二人立っている。どちらも全身鎧にハルバードを持っている。いざという時に悪しき侵入者などから迷宮を守るためである。彼らは有事の際には国を守る騎士であり、国から任命されて庁舎を守っている。とはいえ、迷宮に真っ正面から入るような不審者は殆どいないとされている。何故なら騎士を超えた先には、鬼よりも恐ろしい冒険者たちがいるのだから。


「どこの組合も変わらねえな――」


 このような施設はインフェルノにも、インペラドルにも存在している。どこの建物も大きいのは、それだけ冒険者が儲かるという事だろう。特に国はカルヴァオンに重たい税を課している。

 とはいえ、冒険者は稼ぐことが出来れば、税以上に稼げる存在だ。単純な金額だけなら、数多の貴族よりも稼ぎがある。


「オレ達が払っている血税だ。あれだけ払っているのだから、これぐらい便利な物を作ってくれないと困る。ちなみにだが、中の内装もお金がかかっているぞ」


「それだけここの期待が多いんだろう?」


「……四大迷宮で、最もカルヴァオン産出量が多い町だ。それだけ国からの期待も大きいんだろう」


「なるほどな」


 ナダはコルヴォの話を最もだと思った。国や貴族たちは、冒険者をカルヴァオンを生み出してくれる炭鉱夫としか見ていない。多大な燃料となるカルヴァオンは誰もが求めているのだ。

 このような大きな建物は、そんな冒険者への投資とも取れるだろう。


「どうだ? ここが最も大切な場所だろう?」


「そうだな。今後、幾度となく訪れる場所だ」


 ナダは感慨深く言った。この建物に何年通うかは分からない。最低でも数年。もしかしたらそれ以上かもしれない、とナダは感じるのである。


「じゃあ、次の場所に行こうか。昔のここは港町の一つだったが、今は海が遠のいているから移動手段は基本的に列車か馬車だ。駅にでも行こうか。本来なら駅で会う用意だったがな」


「……そうだな。まさか列車のトラブルなんて、な」


 ナダはげんなりしたように言った。


「列車を何度も使っているとよくあることだ。どこのところも安全重視で、ちょっとのトラブルでも止まるんだ。その代わりに安全に長距離が短時間で移動できると思うと安いものだろう?」


「確かにな――」


 ナダはコルヴォに連れられて、駅へと向かおうとした時、五人の冒険者が冒険者組合から出てきた。

 男四人に女一人。見るからに誰もがナダやコルヴォより年上で、ベテランの冒険者の臭いを醸し出していた。特に先頭にいた男は中年に差し掛かる年だろうか。髭と皺に年季が出ており、それだけの長い期間冒険者として活動しているので、優れた冒険者と言っても問題はないだろう。


「今回の冒険はしんどかったな――」


「深層であんなはぐれが出ると逃げるしかないもんな――」


「はぐれが出ると攻略が滞るから本当に何とかしてほしいよ」


五人はどうやら迷宮探索の後らしく、本日の冒険について語っていた。彼らはナダとコルヴォがいる方向へと歩みを進めていく。

 彼らはコルヴォへと逡巡した。

コルヴォは彼らから目を逸らすと、ナダの腕を引っ張って彼らに道を開けた。ナダも抵抗することなく、コルヴォに連れられるように道を開ける。

彼らが通り過ぎた後で、ナダは口を開いた。


「あいつらは?」


「この町でも有名な冒険者達だよ。特に先頭にいたダビドはオレが生まれた時から冒険者をしているような化け物だよ――」


 そう語るコルヴォは彼らに敬意を表しながらも、どこか悔しそうな顔をしていた。

 ナダが見る限りも、彼らは優秀そうな冒険者なのは間違いなかった。


「じゃあ気を取り直して行こうか」


 コルヴォは優し気に言った。

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― 新着の感想 ―
コルヴォ先輩ってオウロの話だとはぐれガーゴイル挑みまくってたとかで話題に出たような。 結局諦めたとか言ってたけど、この様子だとまだ英雄にはなってないように見えるがどうなるんかな。
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