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迷宮のナダ  作者: 乙黒
第五章 石の王
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第零話 プロローグ

本日から新章開始です。


 空には灼熱の太陽が燦々と輝いている。うだるような日差しは容赦なく頭に降り注ぎ、体力を奪い、水分を乾かせる。

 数人の旅行者と一緒に男が歩いていたのは、何もない石畳の、街へと続く街道だった。本当なら男の隣にある線路が町へと続いているので、列車で向かう予定だったのだが、途中で列車にトラブルがあり数日待たされると言う事で、歩いてここまで来たのだ。


 男の名前を――ナダという。

 白い外套を被りながら、フードでも頭を包むことによって強い日差しから体を守っている。既に荷物は列車の荷物運搬サービスによって運んでいるので、背負っている革の鞄は、ナダの大きな体には不釣り合いなほど小さかった。旅行に必要な物しか入っていない。そんなリュックの横に入れてある革の水筒を取り出し、ナダは体の渇きを癒すように水を飲んだ。

 体に水分が染み渡る。項垂れていたが、少しだけ体に活力が戻ってきた。

 街まではもう少しだ。

 ナダの目には蜃気楼のように、煉瓦を積むように作られた高い建物たちがうっすらと見える。その後ろには遥かに大きな山が見えた。過去には噴火したことも火山であり、現代も活動していると聞く。時々噴火し、街に灰が降ることもあるらしい。と言っても、そんな事はもう数十年訪れていないようだが。


「あれが『クラーテル』か――」


 ナダは目的地を見つけると、睨むように言った。

 あれこそが四大迷宮の一つ――ソールを抱える迷宮都市『クラーテル』であった。


「おにいさん、クラーテルに行くのは初めてなのか?」


 そんな時、ナダが田舎者のように町を眺めていると、隣の旅行者が話しかけてきた。かっぷくのいい男であり、腹には贅肉がついているようにも見える。冒険者には見えなかったので、単なる観光で来たのだとナダは思った。


「よく分かったな」


「そんな風に周りをきょろきょろしていると、すぐに分かるよ。慣れている人間は目的地しか見ないからね。ほら、周りの人たちは一心に町を見ている。彼らは商人だろうね」


「なるほど。それは一理あるな」


 男の言う通り、周りの人間達は目の前の町に向かって真っすぐ無合っている。中には大きな鞄を背負っている男さえいた。

 鞄を背負っているが、親子三人組は旅行客だろうか。『クラーテル』は火山の麓に作られた都市であるので、地下には国内有数の温泉水が眠っている。その温泉には病や傷を癒す効果があるとされ、国内の様々な者がそれらを求めて訪れるようだ。


「で、君は冒険者だろう?」


「見て分かるのか?」


「君のように屈強な体の持ち主は大体が冒険者か軍人さ。だけれど、君はわざわざクラーテルに来るほどの怪我を負っているようには見えない。まだまだ顔も若そうだしね。学園を卒業したばかりの冒険者かな?」


「……似たようなものだ」


 ナダは困ったように苦笑した。

 年齢は学生を卒業した歳に限りなく近いが、もう学園を離れて三年半ほども経つ。卒業したばかりというのはいささか厳しいのが、冒険者としての状況だった。


「でも、そんな君から私はビビッと感じているよ。君、とても優秀な冒険者だね?」


 男は表情を崩しながら言った。


「……どうだろうな?」


 ナダは頷きもしなかった。


「いいや、私は感じているね。君の事はあまり知らないけど、これまで出会ったどの冒険者よりも強い気がしているよ。そう! 迂闊に障ったらすぐに食い殺されてしまいそうな怖さをね!」


「よくそう思っていて話しかけたな」


 ナダは呆れたように嗤う。


「そういう人の方が商売チャンスがあるんだよ。私の名前はコメルと言うんだ。クラーテルではしがない商いをしていてね、もしも他の都市にあるもので、私が仕入れられない物はない、と思っている。もしも必要だったらよろしく頼むよ」


「そうだな。その時はよろしく頼む」


 ナダはコメルの差し出した右手を握った。

 それからナダはコメルと共に、クラーテルを目指す。その際にはナダの知らないクラーテルの知識を学んだ。


 そんな風にして辿り着いたクラーテルは大きな町であった。だが、その殆どが廃墟である。ナダが出会ったのは広い廃墟だ。それらは白い石で作られており、屋根がない。人が住んでいる気配がなかった。


「最初に来た人は、この町に驚くよね。だって、クラーテルは一度滅びた町なのだから――」


 コメルは悲壮感を込めながら語った。

 クラーテルは過去には港は近くにあり、ウェスウィオ山と呼ばれる大きな活火山がある街だ。太古には商業が盛んであり、海洋都市でもあった。碁盤の目状に通りが発展しており、街の道は今でも残るような石によって塗装されている。国内でもかなりの大都市であった。

 だが、千年ほど前の話だろうか。ウェスウィオ山が噴火し、多くの火山灰が積もった事によって多くの人が死に、クラーテルは滅んだ。その頃には既に迷宮『ソール』は閉じており、街としての魅力も殆どなかったのである。

 

 それから数年前に、『ソール』が再度目覚めた事により、パライゾ王国主体で再開発が行われ、今日では迷宮都市として、また火山が近くにあることによる温泉地として最近になって発展したのである。


 街にある家の多くは過去の滅んだ家を再利用しているが、未だにに郊外には開発が追いついておらず、廃墟として残っている家が多いようだ。


「あまり覗かない方がいいよ。もしかしたらまだ“遺体”が残っているかもしれないからね」


 コメルはナダへと忠告するように言った。

 クラーテルにかつて住んでいた人々は、多くが火山灰の熱や窒息によって死亡したと考えられている。その為、多くの死体が火山灰に包まれることにより、腐ることなく現代まで残ったのだ。それらの撤去作業や供養などは現在も続いているが、新たな遺体が見つかることはそう珍しくないようだ。


「あれは?」


 ナダがそんな話を聞いてから近くを見渡すと、ヘルメットを着けた作業員が遠くにいる事に気づいた。


「あれは考古学者だねー。ここは歴史的価値も高い町だから。色々な人がいるよ」


 コメルは目を細めながら言った。

 それから他の人たちと一緒にナダは石畳の道を歩くと、街の姿が段々と綺麗になっていく。草木だけが生えた無機質な石の家から、屋根があり扉があって人の足跡や温かみがある家がある町の入り口に差し掛かったのだ。

そこでコメルとは別れる事となった。


「私の商会だ。よかったらまた尋ねに来てくれ。ナダ君、君ならいつでも歓迎するよ」


 コメルから渡された名刺にはカナゥ商会と書かれてあった。どうやらこれがコメルの会社のようだ。

 ナダはそれを興味深そうに見つめていると、街の入り口に立っていた男に話しかけられる。


「ナダ、久しぶりだね――」


 それは懐かしい声だった。過去に何度も聞いた声である。

 ナダは声の持ち主に目を向けると、見知った顔があった。

 切れ長の目が特徴で、右頬には目から顎にかけて、頬が裂けているようにも見える大きな傷跡が残っている。また以前とは違い、それ以外にも目の上にも傷跡が増えていた。だが、それを隠すような真似はせずにむしろ誇りにしているかのように、くすんだ黒髪はざっくばらんと切って傷を目立たせるようにしていた。冒険者らしく非常にスマートな体つきをしており、今日は冒険をしないのか大きめのズボンとシャツを着ている。


「コルヴォか――」


 コルヴォ、であった。

 かつて共に迷宮に潜った事もあり、彼が最上級生の頃は学園で“最強”の名を冠するようになった冒険者の一人であり、ナダの頭の中にもその名と存在は強く刻まれている。

 確かに彼は、当時の学園において最強の名にふさわしい冒険者の一人であった。

いつも感想や評価などありがとうございます!

「@otogrostone」というXのアカウントで情報の発信もしています。現在ですと第1巻の発売記念で、抽選ではなく、Xでの感想ポストをした方全員へのプレゼント企画もやっていますので、是非参加いただけると嬉しいです!

詳しくはXで私の固定ポストにしていますのでご覧ください!

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― 新着の感想 ―
いつも楽しく読ませていただいてます! キャラそれぞれの熱量が凄くて引き込まれてしまってます! キャラ紹介とか公開できる設定とかあれば、読んでみたいです!
五章!更新ありがとうございます! 早速コルヴォに遭遇、火山の迷宮という事はアメイシャとかに期待して良いんでしょうか。 今章も楽しく読ませて頂きます…!
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