第百二十八話 神に最も近い石ⅩⅩⅧ
「……初めて見たわ。これは幸運が訪れそうね――」
青い炎を操る火の鳥の姿が見えると、ナナカが残念そうな顔をしながら言った。
「『アズゥ・フェニックス』はポディエにしかいない筈ですけど、ここは本当にマゴスなのですか?」
ニレナは剣を抜かず、右腕に雪を纏わせる。ギフトは呼吸のように使う事が出来ていた。ニレナは以前よりも“力の行使が簡単”に成っていることに眉を顰めながらも、雪をフェニックスへと吹雪かせた。
「どうだろうな――」
「もしかしてここがポディエという可能性もあるのではないか?」
ニレナの問いに、オウロとカテリーナが答えながら横を通り過ぎてフェニックスへと突撃する。
「ここがポディエなら、迷宮が繋がっているという事になる。これは大発見だぞ――」
ハイスはオウロとカテリーナに遅れて、フェニックスへと駆けて行く。ハイスの何も持っていない左手をフェニックスへと向けた。そこからはヒードラの戦闘の時と同じように水を発射した。
フェニックスは前方から襲い来る水を避ける。そこにはオウロがいた。オウロの太刀が飛んでいるフェニックスへ向けて、真っすぐ剣を伸ばす。フェニックスはそれを上に避けるが、避けきれない。羽を浅く斬り裂いた。
そんなフェニックスへ、ニレナの雪が纏わりついた。白い粉雪はフェニックスの身体へつくと、集まって透明の氷へと変わる。そうなった瞬間、フェニックスは羽ばたけなくなり、地面へと自然落下した。
そこで待っていたのが、カテリーナだった。既に剣は光で包まれている。息を吐くと同時に光から剣を解放した。瞬きにも満たない間の一振り。フェニックスは首と胴体が斬り裂かれた。
「こんなに弱かったか?」
ナダは振り上げた青龍偃月刀をゆっくりと下ろしながら言った。もしもカテリーナの剣が空振り、もしくは致命傷を与える事が出来なかった時の為に二の矢を構えていたのだが、どうやら意味がなかったようだ。
「――違う。きっと私たちが強くなったのだ」
カテリーナは自分の剣を驚きの目で見ていた。
「そうか?」
ナダは疑うように聞き返す。
「そうだ。私は以前にフェニックスに出会ったことがある。それも通常のフェニックスだ。私の所属していたパーティーはそんなフェニックスと戦い、負けて、逃げた。そんな私が一刀で切り捨てたのだ。今回の冒険で確実に――強くなった」
しみじみと語るカテリーナは右手に持った剣を見つめる。
信じられなかったのだ。長らく停滞していた自分が、当の昔にピークは過ぎて、これから冒険者として斜陽に入ったと思っていた。どこかで区切りをつけて、冒険者を引退することも考えた事もあるのだ。
それなのに、殻を破って強くなった。冒険者として大きく成長した。それがまだ信じられないのである。
「……死線を超えたんだ。当然の結果だ」
オウロは強くなったことを実感しながらも、当たり前のように言う。
「確かにオウロの言う通りだな」
「それだけの冒険を私たちはしたという事か。強くなって当然か……」
ナダもオウロの意見に肯定し、カテリーナがはにかむように笑った。
「強くなったのは、カテリーナだけじゃないぞ。オウロは当然ながら、ナナカ、ハイス、シィナやニレナさんも強くなっている。一か月前と比べると全員見違えるように成長したさ」
ナダは全員を見渡しながら言った。
それは確信であった。マゴスに潜り、多数のガラグゴを倒し、ダーゴンを倒し、ヒードラを超えて、更には神にまで挑んだ。その全てを超えて、この場に『ラヴァ』は立っているのである。きっと一月前の『ラヴァ』のメンバーなら、誰かが死んでいてもおかしくはない冒険だったのだ。
「そう言われると急に照れくさくなるな」
カテリーナは真っすぐなナダの言葉に恥じるように顔を赤く染めた。
「あんた、そういう風に私たちの事を思っていたわけ? まあ、強くなったのはお礼を言いたいけど、あの無茶苦茶な冒険の指示は勘弁したいわね」
ナナカが言うのは一人での迷宮の挑戦の事であった。あの恨みは忘れていないようだ。
「そんな事より、カルヴァオンをはぎ取らないのか?」
ハイスはフェニックスの元に近づいて剣を立てる。カルヴァオンをはぎ取るためだ。
「ハイスさんに任せるようですわよ。この中で経験豊富でしょうから」
「分かっているよ……」
ニレナがフェニックスを解凍すると、ハイスが慣れた手つきでフェニックスを解体して体から青色の美しいカルヴァオンを取り出した。そのまま『秘密の庭園』の中にしまった。
「先は……どんなモンスターがいるのかな?」
シィナの期待に応えるように、『ラヴァ』のメンバーが先に進むと多数のモンスターと出会った。
まずは猪だ。イポポタモと呼ばれるモンスターである。だが、ナダ達がいる階層が深いのか、その体はとても大きい。ナダ達の身長を超えるほどの身体の大きさだったが、こんなにも大きな個体に出会ったのは初めてなのでもしかしたらはぐれかもしれないと思った。だが、ニレナが足元を凍らせてカテリーナの光による目つぶしと、オウロの大太刀の一撃により毒を体内に入れる。他の仲間で距離を取りながら時間を潰すと、大きなイポポタモはやがて絶命した。
次に現れたのは牡鹿のモンスターだ。よく『セルヴォ』と呼ばれており、頭に鋭い角を持っている。通常種とは違い、角には雷が纏っており、もしかしたらはぐれなのかも知れないが、ナナカの「『鉛の根』」によって作られた人形によって殴られて、壁に叩きつけられたところをハイスの『秘密の庭園』によって射出された剣に体を何本も貫かれ、動きが鈍くなったところでニレナにより氷の槍によって倒した。
三番目に出て来たのが、バフォムトだ。翼を持つ二足歩行の醜悪なモンスターだ。天井を這いまわりながらナダ達へと襲い掛かるが、リーチのあるナダの青龍偃月刀によって一太刀で斬り裂かれた。殺してから、カルヴァオンをはぎ取る時に通常種とは違い、バフォムトが剣を持っていることに気づいた。
そんなモンスターと次々に戦う事で、七人が抱いたのは疑問から“確信”へと変わっていく。
「やっぱり、ここは『ポディエ』じゃないのか?」
ナダ達の脳裏に、通い慣れた迷宮の光景と現在の光景が重なってしまう。何もかもが一緒なのだ。土で出来た壁と道も、明かりを放つ花も、わらわらと湧き出るモンスターも、その全てがここを『ポディエ』だと教えてくれているようであった。
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ちなみにナダだけではなく、イリスやニレナなどのイラストも見れますので是非見て頂けると幸いです!




