第百十三話 神に最も近い石ⅩⅢ
ポリアフと戦う事を決めた『ラヴァ』だが、天のように高い位置にいるポリアフと戦うには、神を地上まで引きずり下ろすか、天上の神の元まで辿り着くしかなかった。
神は、降りてくる気配がない。
ナダ達の遥か高みから見下ろして、手を振るだけだ。まるでそれが神と人の差と言わんばかりに。
そのまま生み出したのが、多数の氷の兵士である。先ほどと同じく歩兵、騎兵を数多く生み出す。もはや自らナダ達と交戦するのは避けるようだ。体を斬られるのは嫌だったのかも知れない。
「シィナ――」
ナダがまず試したのは、シィナによる氷解である。
ナダはハイスとナナカに目配せた。シィナの護衛である。シィナは二人に囲まれ雨間、遥か高みにポリアフがいる子ポリの柱に到着する。その間にも氷の兵士はナダ達、特にシィナに重点的に襲い掛かるので、彼女を中心にしながら退けていく。
特に大きな武器である青龍偃月刀を扱うナダと、いつの間にか大太刀に持ち替えているオウロは、楽に氷の兵士を破壊していった。それぞれが撫で斬りにしていく。
「駄目……全部は……解けない……」
シィナはポリアフが生み出した氷の塔に直に手を触れながら水のギフトを使って溶かそうとするが、あまりにもポリアフの力が強大で手を中心に少しだけ溶けるだけだった。
「なら、道は作れるか?」
すぐにナダは方針を変える。
「それなら……何とか……」
シィナはナダの要望通りに氷の塔に、水の柱を作った。塔の外側を登るための四角の単純な階段である。螺旋を描くようにとうに巻き付いている。シィナが生み出したのは水であるが、塔の冷気を吸って氷の階段となる。
ナダが真っ先にその階段を登っていく。オウロも後に続いた。
冷たい足場をナダはひたすらに上る。足場は狭かった。人一人が通れるのがやっと。特に体の大きなナダやオウロだと横から誰かが昇ってくるような空間はない。
階段は、ポリアフまで続いている。単調な階段である。それをナダは走るように登っていくが、上からは氷の騎士が現れる。ナダとほぼ同じサイズではあるが、細く扱いやすそうな剣と腕を隠すほどの盾を持っているのだ。
ナダはこの時ほど、自分の大きな武器を呪ったことはなかった。
「あまり得意ではないが――」
ナダは青龍偃月刀の使い方を変える。
これまでは青龍偃月刀の遠心力、重さを武器に大きく振り回す使い方をしてきた。その方法が最も強く、扱いやすいからだ。
上に振り上げる。まるで剣での上段の構えのように。そのまま青龍偃月刀の重さを活かして、自らの体重と共に振り下ろした。氷の騎士は盾で受けるが、ナダはあえて盾で受けさせた。氷の騎士の足場がぐらつく。そこを蹴って階段から退かせたのである。
すると氷の騎士は下へと落ちて行った。
だが、それだけで氷の騎士がいなくなるわけではなかった。
次から次に階段の上から襲って来る。ナダはそれらを扱いにくくなった青龍偃月刀で対処しようとする。
「下からも――」
一方のオウロは、ナダと背中合わせになりながら腰の太刀を抜いていた。既に大太刀は背中の鞘にしまってある。この狭い足場だと短い剣の方が有利だと判断したためである。
下から襲って来るのは氷の兵士。上から降りてくる氷の騎士と比べると弱そうだが、それでも狭い足場で、さらに下から襲って来るのは戦いずらかった。下段の攻撃はあまり経験していない。
彼らは下から突いてくるだけであるが、オウロは中腰になって神速の剣技で対処する。『蛮族の毒』は使わない。無駄な体力消費だと思ったからだ。
氷の兵士はオウロの脛目がけて剣を振るう。振るう。オウロは時としてそれを弾き、氷の兵士の脳天に剣を振り下ろす。氷の兵士は簡単に頭部を失って力なく倒れたが、その死体を踏むようにして新たな兵士が現れる。
オウロはそれらも一人ずつ潰すか、剣の力を使った外へと兵士を引き落とした。
「大丈夫かよ?」
背中越しに戦っているナダが余裕そうな笑みで言った。彼も満身創痍であるが、表情に出さない。
そう言いながらも、ナダは青龍偃月刀を力強く振るっていた。
「何がだ?」
オウロは脛ばかり狙って来る兵士を煩わしく思いながらも、剣を振り下ろしながら言った。
「モンスターだよ――」
「問題はないな――」
「それはよかった――」
ナダは楽しそうに笑った。
二人とも苦難を強いられながらも、重症は負わない。
肌に傷は負っても、骨まで断ち切られる気はなかった。
「だが――」
違和感があるのは、オウロであった。
「何だよ?」
ナダが不思議そうに言った。
「いや、なんでもない――」
オウロは自身の“変化”に戸惑いを覚えていた。
“心臓”を中心に“熱”が生まれるのである。それはオウロ自身がはっきりと自覚するほど、熱く、燃えるように熱く感じていた。
二人が階段を登りきると、壇上にはポリアフが憂鬱な表情で立っていた。
隣には氷の騎士を二体程侍らせているが、それ以外に新たな味方は生み出していない。
「……やはりここまで辿り着いたのだな」
ポリアフが見比べるのは、ナダとオウロの二人である。
「何が言いたい?」
ナダはいつでもポリアフに斬りかかれるよう青龍偃月刀を構えた。
ここなら、思いっきり武器を振り回すことが出来ると。
「ふむ。パーティーの中でも特に実力者の貴様らがここに辿り着くのは自明の理だと思っただけだ。片方は――」
ポリアフはナダを見た。
懐かしそうに眺める一方で、睨む目つきをしている。
「貴様らの言葉で……ああ、そうだ。英雄だ。そう呼ばれているのだったな? 貴様はそう呼ばれて久しいのだろう?」
「……」
ナダは答えなかった。
確かに英雄病になってから数年たっているが、未だに自分の事を英雄だと思ってはいない。過去に功績を遺した英雄たちと比べると、自分はまだまだ駆け出しだと思うからだ。
「そして、貴様――」
ポリアフはオウロを見た。
物珍しそうに眺めている。
「まだ――成ったばかりだな」
ポリアフは、断言した。
「なった? 私がか?」
オウロは首を捻った。
「そうだ。貴様は成ったのだ。貴様らの言う“英雄”に、これは貴様らの世界では喜ばしい事だったか。ならば、我も貴様を賞賛しよう。おめでとう。これで、貴様は冒険の“頂き”に成った」
ポリアフは、尊大に言った。
イリスやレアオンよりも、ニレナとオウロなどのラヴァのメンバーの方が期間も文字数も多く書いていることと、自分でも今回の登場人物に愛着が生まれたことに驚いていす。
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