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迷宮のナダ  作者: 乙黒
第四章 神に最も近い石
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第八十八話 底XIII

 オウロが思うに、『ラヴァ』のメンバーを選んだナダのリーダーとしての目は確かだった。

 冒険している時のリーダーとしての指示は、ナダの実力ありきのごり押しが多く最善解であるとは到底思えないが、それでもうまく成り立ってここまでこられたのはナダの実力に加えて、他のリーダーとしての素質のある者の力が重なったからだと言える。


 オウロ、ハイス、ナナカ、カテリーナのヒードラに果敢に挑む四人も、カテリーナ以外は全員リーダーとして活躍していた過去を持つ。

 それも誰もがトップパーティーのリーダーになれる逸材だ。

 多くの指示を出さず、それぞれに任せるのはナダにリーダーとしての欲がいい意味で無く、オウロとしてはそんな判断が出せるナダの事もリーダーとして評価していた。リーダーの素質がないパーティーメンバーばかりだと、ナダの指示が全く異なる事も考えられるからである。


 オウロはオケアヌスでの『ラヴァ』の事前の会議を思い出す。

 全員が迷宮攻略に向けて発言をしていた実りのある会議だった、と思う。

 オウロ自身は『ラヴァ』に拾ってもらった身であるが、マゴスの攻略に人生をかけているため、会議でも口をはさむ機会が多かった。その中で他のメンバーの意見も聞くことは多かった。それぞれの考えや経験をすり合わせて『ラヴァ』の攻略に向けてシミュレーションを行ったのだが、それぞれに考え方の違いはあれど、大きく思考がずれた者はいなかったと言える。

 『ラヴァ』のメンバーは誰もが自我が強く、それでいて仲間を思いやれる懐の大きさも併せ持つのだ。時には意見の食い違いでぶつかることもあったが、そこは各々の能力や経験から来る考えのすれ違いで短い会議でそれらはほぼ解消された。


 オウロもこのメンバーを深く信頼している。

 これまでオウロが所属してきたパーティーの中で平均的な実力が最も高く、学園時代のパーティーとは違い庇護するようなメンバーがいない為か、必要以上に神経を使う必要がなく平等な状態で接することができるのも、信頼の理由の一つなのかもしれない。


 だから――シィナがダーゴンに集中した今でも、仲間に不信感を抱くことはなかった。

 それは他のメンバーも一緒だろう、と思える。

 また多くのモンスターを凍らせて、その上で自分たちの足場まで作るニレナの実力は誰も疑っていない。オウロにとってニレナはこれまで出会ったギフト使いの中で、最も実力があって人格的にも信用できる者の一人である。


 ニレナのギフトによって氷の壁が作られるが、それはヒードラの水流を突破できるような道ではないあくまでシィナの代替えである。だから四人がヒードラの作り出す水に翻弄される状況なのに変わりはない。


 四人のアビリティに差異はあれど、移動に関するアビリティは持っていない。ヒードラの水流を突破するためには、ギフト使いに頼るしかない。

 そんな中、ニレナは氷の壁を新しい形にした。それは氷の道である。足場にして、強く反発することによって移動するシィナの形ではなく、ニレナ独自の工夫によって地面のように蹴って進むための氷の道。それは薄く長く透き通るような道だ。だが、見た目以上にしっかりとしており、踏んでも壊れる印象はない。


 それをニレナは四人の道だけではなくヒードラの周りに無数に作った。

 オウロにはその道の意図がすぐに分かった。ニレナは水流によって塞がれていた道を、その全てを凍らせて道を作ることで解決したのだ。よく見てみると氷の道は動いている。それがきっとヒードラの作り出す水流の動きなのだろう。


 ニレナが生み出した氷の道は、ヒードラを囲むようにできていた。視覚化された水流はそれ自体がヒードラを守るように円状に作られており、やはり先ほどの予想通りヒードラへと続く道はない。

 だが、その氷の道さえ超えれば、無防備なヒードラとたどり着く。


 だから、オウロはその道が出来た瞬間に一歩前へと踏み出し氷の道を駆けあがる。それは他の三人の冒険者も変わりはしない。だが、氷の道の通りに進んでも決してヒードラには辿り着かないから、オウロは道から道へ飛ぶように移動する。途中無数の渦がオウロの行く手を阻むが、別に道に移動したり屈んだり飛んだりして避けている。


 時にはヒードラが作り出す渦が、ニレナの氷の道を破壊することもあったが、それでもオウロは氷の道から別の道へと飛び移り、ヒードラへと近づこうとする。

 目指すはヒードラの首。それしかなかった。

 そしてオウロは道の先まで辿り着いた。そこからヒードラに向かって飛んだ。手に持つ大太刀に力を込めながら。


 オウロはヒードラに近づいて大太刀を振るった。だが、それは残念ながら空を切る。オウロを阻むかのように水が一瞬玉のように吸い込み、それらを吐き出すような水の爆発がオウロを襲う。ヒードラが水の使い方を変えたのである。


 ニレナの氷の道を破壊するように、もしくは自身に襲い掛かる冒険者を攻撃するように、大きな水の破裂を次々と自分の周りに起こしたのだ。

 ぼん、ぼん、とヒードラの周りで次々と爆発が起こる。

 最初はその余波に巻き込まれたオウロ。だが、あくまで爆発の中心にはいなかったので、背中の服が浅く破けただけだ。皮膚は少し焼ける感触があるが、まだまだ体には力が入る。


 他の仲間は大丈夫かと、視線をやった。

 どうやら誰もオウロ程近づいていなかったようで、誰も爆発には巻き込まれていなかった。


 爆発によって飛ばされた事で水中を漂うオウロ。

 これしきの事で諦める彼ではなかった。

 体勢を変えて下にある氷の道を踏みしめる。ヒードラが水の爆発によって氷に道を壊した事によって、夜空に煌めく星のように氷の足場が無造作に広がっている。これまではニレナの足場がヒードラの水流を凍らせて作られていたため、ヒードラが冒険者の軌跡を予測するのは簡単だったろうが、これならば、より自由に動ける、とオウロは思った。


 オウロは様々な足場を蹴ることによって、瞬く間にヒードラに近づいて行く。その姿はまるで、雷がじぐざぐに動くかのように。水の爆発はもう当たらない。事前の吸い込むような動作が読みやすいのである。

 もうオウロを阻むものは何もなかった。

 大太刀を強く握る。

 仲間達もオウロの動きを学習し、四方向からヒードラへと武器を振り上げる。


 だが――オウロの武器は届かない。

 ヒードラの周りには滝のように流れる水のカーテンが敷かれていたからだ。

 ナナカやカテリーナもオウロと同じように攻撃するが、同じく水のカーテンに阻まれて地面へと落ちる。


 オウロも地面に叩きつけられてから、抵抗を試みるが立ち上がる事すら叶わない。絶えることなく注がれる水は、オウロの指の一本から髪の毛まで全てに水圧をかけ続ける。もしもシィナのようにヒードラの水へと対抗出来たのなら話は違うが、ニレナはあくまで氷のギフトである。水のギフトではない為、シィナのように直接ヒードラの水へ作用できない。


 オウロは自身の力のみでは、全くヒードラの水へ敵わなかった。それは他のメンバーも一緒である。

 そんな時、ニレナは氷をまた別の形へと変える。絶え間なく降り注ぐ水のカーテンを防ぐかのように、オウロの頭上へドーム状の氷を作ったのだ。それはみしりと音を立てながらオウロの体にかかる圧力を軽減する。

オウロが両手を地面について立ち上がろうとした時、信じられないものを目にした。


 ヒードラに一筋の流星のように突撃する冒険者がいたのだ。

 その者は右手に青龍偃月刀を持ち、左手に陸黒龍之顎を持っており、氷の星を足場にして、水のカーテンをもぶちぬいて、両手に持った二つの武器でヒードラを斬り裂いていた。


「待ったかよ?」


 そんなナダは、ニヒルに嗤いながら言う。


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― 新着の感想 ―
かっけえー!!
待ってたぜ
執筆お疲れ様です! ナダが合流して一気にマゴス辺もクライマックスですかね 冒険者としてのナダは頼もしいですね ちょっと早いですがラヴァのこれからと残りの3つの迷宮も楽しみにしております
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