確認、そして、対処法
「は~……でも、ちょっとだけほっとしました。
ブラスターが撃てるだけでも、お役には立てますし」
「そうだね……私の苦手な相手をお願いできるわけだし」
一通り実験を終えたエリーは、ほっと安堵の息を吐いた。
正直なところ、マナ・ブラスターすら撃てない可能性があったのだが、それは杞憂に終わったのだから。
とはいえ、このままで良いわけでもなく。
さて、どうしたものか。
「マナ・ボルトが使えないまま、というのも不便ではありますし、何より、ブラスターも出力が不安定ですから……ちゃんと直しておきたいところではあるんですけど」
「……直せるの?」
「部品があれば、なんとか、なんですけど……」
「……どこに、あるの……」
「……昔、『ウィスケラフ』のとこにはあったはずなんですけどね~……」
あはははは~と乾いた笑いがこぼれる。
そこはつまり、先日吹き飛ばしてしまったところで。
まともな部品が残っているとは到底思えない。
「……バランディアの人たちが収集してる可能性は?」
「ないとは言えないですけど、あれが何かはわからないでしょうから、散逸してても不思議じゃないですね~……」
「最初に会ったあそこの遺跡は?」
「あそこは前線基地で、応急修理と簡単な調整がメインだったんで、多分ないですね~……」
「なるほど、つまり?」
考えられる可能性を上げていくも、確実とは言えないことばかり。
困ったように顔を見合わせて。
「バランディアになかったら……望み薄、ですねぇ……。
後は皇国首都の施設が残ってたらあるいは、くらいですけど」
「そっか……皇国首都ってどのあたり?」
「もっと南の方ですよ。後で部屋に戻ったら地図を見ましょう」
「ん、わかった。……わかってると思うけど、迷惑とか思ってないからね?」
「……わかってるから、困るんじゃないですか……」
縋るように腕にしがみつくと、ぽむぽむと慰めるように頭を撫でられる。
多分そうしてくれると、わかっていて甘えている自分の狡さに嫌気がさしつつ、でも離れるのも嫌で。
しばらく撫でられるままに撫でられていると。
「大体状況は整理できたし、人が来る前に行こうか。
……あれを見られると、ちょっと面倒」
そう言いながら、レティが倒れた木々へと目を向けた。
「あ、それもそうですね……。
……あれ?」
同じく倒れた木々へと目を向けた時だった。
何か、違和感を感じる。
じぃ、と一本の木を見つめて。
「……エリー? どうか、した?」
「あ、いえ、その……今、あの木が……あれ?」
「あの木?」
そう言いながら、レティも視線を向ける。
二人が、同時にその倒れた木を見た時に。
違和感が、確信に変わる
「レティさん、すみません。
しばらくその木を見ててもらえませんか?」
「え、それはいいけど……?」
一瞬エリーの方を不思議そうに見るも、真剣にお願いをしてくる空気に、わかったと頷くともう一度その木を見つめる。
エリーは、ゆっくり、ゆっくり、深呼吸をして。
「マナ・ボルト」
そう、宣言して。
小さな魔力の塊を、打ち出した。
……それは、紛うことなく見慣れた軌道をたどり、レティが見つめていた木に直撃した。
「……エリー? これは、一体……?」
「あの、レティさん、今度はあっちの木をっ」
「う、うん……」
よくわからないが、言われるがままに、別の木を見つめて。
そして、また魔力の弾丸が放たれて。
レティが見つめていた木に直撃した。
「……これって、つまり?」
「えっと……多分、『感覚共有』か、『共感覚補正』がかかってるんだと思います……。
マスターの把握している対象をマナ・ドールも感じ取ったり、マスターとマナ・ドールが同じものを見ることで捕捉能力が上がるとかの現象が起こることがあるんです」
「起こることが、ある……?
……多分、今まで、なかったよね?」
とまどったようなエリーに、事情が全くわからないレティはそれ以上に不思議そうに小首を傾げる。
「えっと、普通は魔力Aランク以上のアークマスター、最上位権限者でしか起こらないはずなんです。
でも、レティさんはBランクなのに……」
「なるほど、イレギュラーなことだ、ということはわかった」
よくわかっていないからこそ納得したレティと、よくわかっているからこそ納得できないエリー。
しかし、碌な測定環境もない状況で、確たる何かを掴めるわけもない、と諦めのため息。
まだしがみついていたままだった腕を解放し、木をもう一度見て。
「レティさんと同じ標的を見たら使える、とわかっただけでもいい、のかな……?
……あれ?」
数度、瞬き。
「レティさん、もう一回、あれ見てもらっていいですか?」
「え、うん」
そう声を掛けられて、不思議そうに首を傾げながら、指さされた木をもう一度見る。
エリーも同じように、見つめて。
「マナ・ボルト」
……そして、明後日の方に飛んでいく、魔力の弾丸。
「マナ・ボルト」
そっと腕を掴みながら唱えると、今度はしっかりと命中して。
「……エリー?」
「……どうも……レティさんにくっついてると、当たるみたい、です……?」
まだ半信半疑の中、そう結論せざるを得なかった。
「それは、使えないよりは、ましだけど……」
「いいじゃないですか、お手々繋いでラブラブバトルしましょう?!」
呆れたような声に、そう食い下がるけれども。
「……それ、現実的じゃないって、わかってるよね……?」
「……はい……」
力なく、そうこくりと頷いた。
そんなエリーを慰めるように、よしよし、と頭を撫でてあげるレティだった。
道具として作られたからには、欠けてはならぬ。
そうは思っても遠慮したくなるこの扱い。
この扱いは、なんなのだろう。
次回:彼女と彼女の選択
なんとなく、わかってはいるのだが。




