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暗殺少女は魔力人形の夢を見るか  作者: 鰯づくし
6章:暗殺少女の向かう先
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立ち向かう理由

「なるほど、そういうことだったんですね……」


 ガシュナート王都、ナディア王女の私室。

 再び舞い戻ってきたレティから話を聞いたエリーは、納得したように幾度も頷いた。

 彼女から見てもチグハグだったアマーティア教団の動きの原因が、これではっきりしたのだから。


「しかし、向こうはこのことに気付いていない、ということは、この仮説ってバランディア王家にしか伝わってないってことなんでしょうか」

「ん~……流石にそれは断言できないけれども。

 少なくとも、アマーティア側には無い知識ってことなのかも。

 『神託』持ちを倒すために真剣に取り組んだ側が、その情報を残せる立場になった、というのは希なことだろうし」

「確かに……そもそも、そこまで観察と論理的な思考で検討するということ自体が希なような。

 もしかして、昔の王を倒した人かその協力者って、バランディア王家の始祖なんじゃないです?

 すっごくリオハルト陛下っぽいんですけど」


 話を聞いていたエリーの問いかけに、レティは曖昧な表情で肩を竦める。


「わからない。そこは流石に触れてなかったからね」

「流石にそうですよねぇ……バランディア王家が、暗殺を後押しした後に成立した、なんて他の王家の人がいる前で言える訳もないですか」

「後ろ暗いことがある、だなんてわざわざ、だものね。

 あの二人だったら信頼はできるけど、同時に、色々考えつくだけの頭もあるし」


 レティの言葉に、エリーも頷いて返す。

 バトバヤルもナディアも、人間として信頼できるか否かで言えば、信頼できる。

 だが、それが国家を背負った時にどうなるか。それは、さすがに断言できないところがあった。

 当然リオハルトもそのことは計算に入れているのだろう。


「三国同盟の盟主、に近い位置をわざわざ危うくするわけもないですよねぇ」

「まあ、ね。ナディア殿下はともかく、バトバヤル陛下には取って代わられてもおかしくないわけだし」


 頭の良さ、というだけならナディアとて引けは取らないだろう。

 けれど、戦略を持った国の王としての振る舞いにおいては、どうしてもリオハルトやバトバヤルには適わない。

 むしろ、王となってから半年も経っていないのに、バトバヤルと渡り合っているリオハルトが異常なのだろう。


「とりあえずは、三国の力関係は変わらない、と。

 まあ、根本的には大きく変わりましたけど……一応、三国同盟ってことでいいんですよね?」

「うん、とりあえずは、ね。いずれジュラスティンも加わることになるんじゃないかな」


 元々、三者三様に南部諸国の動きがおかしいことは掴んでいたらしい。

 現状の様々な要素を鑑みるに、教団の影響力が国政に大きく及んでいない国は、バランディア、コルドール、ジュラスティン。

 それから、教団の影響から逃れ出たガシュナート。この四カ国のみ、という状況だ。

 国家元首が直接話し合えた三国が同盟を組むのは自然なことだし、ジュラスティンも同盟を断る理由などないだろう。

 

「それで四カ国が固まって、何とか防戦している間に……私達が何とかする、と」

「おおよその計画としてはその通りだね」


 頷いたレティに、エリーはしばし沈黙した。

 数秒ほど考えた後、おずおずと上目遣いに問いかける。


「……あの、実際のところ……私達二人で、何とかなりそうなんですか?」

「正直なところ……わからない、としか言いようがないかな……」


 問われたレティは、正直にそう答えるしかなかった。

 知らず、はふ、とため息が漏れる。


「標的ははっきりしてますけど……その『魔王』って確か、昔の教皇が率いた十万だかの軍勢でなんとか倒したって話ですよね……?」

「うん、まあそれはある程度事実に近いみたい。

 対物対魔兼用のとても強力な結界を張っていた上に強力な攻撃もあったとかで……。

 おまけにその結界が一日中どころか一週間も張れていたらしいし」

「……それ、むしろどうやって倒したんですかって聞きたくなるんですけど」

「それがまた困った話でね……」


 至極もっともな疑問に、レティはまたため息を吐く。

 倒したのに困る? とエリーは不思議そうになる。

 そんなエリーの視線を受けてためらうことしばし。

 ようやっとレティは口を開いた。


「教皇がね、結界除去の魔道具を持ってたらしい。

 古代遺跡から発掘されたとも、神から与えられたものとも言われてるらしいけれど」

「ああ、なるほどそれで結界を引っぺがして、と。

 ……あれ? でも、それって……」


 レティの説明に納得しかけたエリーが、はて、と小首を傾げる。

 その意味するところをよく吟味することしばし。

 ゆっくりゆっくりと、レティへ視線を向けた。


「……うん。その、対『魔王』の切り札である魔道具は、現教皇であり現『魔王』と思われる存在が所持してる」

「あ~、やっぱり、そうですよねぇ」


 申し訳なさそうに告げるレティへと、うんうんと和やかに頷いて見せるエリー。

 和やかな笑顔のまま、すぅ、はぁ、と深呼吸を一度して。


「どうしろっていうんですかそんなの~!!」


 思わず叫んでしまったのも、致し方あるまい。

 だが、そんなエリーの反応を予想していたのか、レティは人差し指を唇にあてて、しっ、と息を吐き出す。


「しっ、静かに。ジェニーが起きちゃう」

「はうっ、あ、す、すみませんっ!」


 レティの指摘に、慌ててエリーは口元を押さえながら声のボリュームを落とした。

 二人は今、王女の私室、その隠し部屋で会話をしているのだが、レティはベッドに腰掛け、エリーは横たわっている。

 しっかりとジェニーにしがみつかれながら。


「本当に、かなり懐かれてるね」

「ええ、ナディア様がかなり長い間いないから、不安も募っているみたいで。

 初めてですよ、一緒に寝てだなんて言ってきたの」

「そっか……そうだよね、ジェニーの心は、大人とは言い切れないものだし。

 大人でも、こんなに長い間離れてると……だし」


 そう言いながら、そっとエリーの手を取る。

 気付いたエリーは、ほんわりと表情を緩ませるのだが。


「んぅ……お姉ちゃん……?」


 不意に、ジェニーが寝ぼけたような声を出した。

 一瞬慌てるも、その表情を見やれば微笑みを見せて。


「はい、大丈夫、ここにいますよ」

「ん……良かった……」


 返事を聞いて、ぱたりとまた眠りに落ちるジェニー。

 その様子を、エリーはにこにこと眺めている。

 そして、それを見ていたレティの口を衝いてでる言葉があった。


「……やっぱり、やるしかないね。ジェニーのためにも」


 視線をジェニーへと向けたまま。

 なんとも、優しげな微笑みを浮かべながらレティは決意を新たにした。


神の目を持ってしても全てを見通せぬ浮世であれば、その片隅の藪の中など、なおのこと。

見えぬからこそ突き、知らぬからこそ牙を突き立てられる。

そこに居たのは、穏やかなる虎。


次回:藪をつついて虎を出す


雉も鳴かずば打たれまいに。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 子どもを寝かしつけている夫婦かな? [気になる点] 視点を変えたらリオハルト陛下って、単独で別作品の主人公になれそうなくらいの立場と活躍ですよね。 こんなに頑張っているのに、作中ヒロイン…
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